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2. 行商人生活の始まり
移動と魔物と加護と
しおりを挟むレッツ・ゴー!
なんて張り切って出発しようとしたのに、やはり朝一番は危険が多いのだろうか。
そもそもこんな中途半端な所で野営してたのがいけなかったのか、偶々だったのか。遠くの方で何かが動いているのを見付けてしまった。
いや。見付ける事が出来たと言った方がいいのだろう。気配察知ではまだ捉えられない離れた場所に高速で動く物体あり。
よく発見出来たと思うが、風もない長閑な景色の大自然の中では似つかわしくないスピードの物体が視界に入ったのだろう。本当に玉々だったのだろう。あれは野郎かな?
偶々か。
結界石をリセットした途端にこれかよって思ってしまったが、どうやらこちらに気付いて向かって来ているでもない様子。流石に詳細は掴めないが、四足歩行の何物か、続けて高速で動く物体もあるようだ。
狩りでもしてるのか、何かから逃げているのか。向かってる先には、俺がこれから進む街道が伸びている。そう、俺の進行方向って事だ。こんちくしょう。
こんな所に居ても仕方ないので、どうせ行く事にもなるのだから、最大限の警戒をしながら近付いてみる事にした。勿論、装備も魔法も整えて、相棒も担いで。下の相棒はやる気なさそうに項垂れてるが。
危機察知や護り石のペンダントが反応しなければ大丈夫。自分にそう言い聞かせてなるべく速く、なるべく気配を殺して移動を開始する。
……
なんて事はなかった。事もない。
魔物が魔物を狩っていた。飼ってる訳じゃないはず。角の生えた1匹の野兎を、同じく角の生えた2匹の犬が挟み込んで動きを封じていた。
それを木の陰に隠れて観察する。これから戦闘が始まる所のようだった。一方的な虐殺か?
別に可哀想とも思えないが、旨そうとも思えない。旨かったけど、それは串に刺されて焼かれた状態だったから。犬の方は筋張ってて固くてまた食べたいとは思わないけど。
魔物同士でも争う世界。弱肉強食はここでも変わらない。補食の為なのか、縄張り争いの結果かどうかは知らないが、ホーンヘアーが追い詰められてるのは見れば分かる。
そこで俺が思った事。
ちゃ~んす。
漁夫の利とは正にこの事。漁夫ではないから、この場合は行商人の利。何処の世界でも同じ様な事はある。
昨夜の反省を活かすべく、今後の動きを何パターンかシミュレートしつつ、意を決して魔法を放つ。
全く気付かれてない今こそ最大のチャンス。動き出してしまう前に1撃。これだ。まずは足止めをして、後は1つ1つに止めを刺させばいい。
ざっ
「ファイヤーニードル!」
ズザザザザンッ
ズババババンッ!!!
ブワッ ボワッ ボワッ
「……」
緊張のせいか、ちょっと気合いが入り過ぎてしまった。そこまで大声出さなくても発動するのに。昨日の反省が活かされてない件。今日もまた反省か。
同じ事を繰り返す。やはり人間とは愚かな生き物。そんな愚か者の俺。
これ如何に。
牽制の意味も込めて、避けられてもいいように取り敢えず1撃って事で広範囲にファイヤーニードルを放った訳だけど。
燃えちゃった。3匹共燃え尽きた。魔石だけを残して。
でも森には大した被害無し。スゲーな。ほっそいファイヤーニードルでこれかよ。針だぞ。針。
それでこんな火力があれば、普通なら木にも燃え広がって大惨事な展開になろうものを。少し傷は付いてるけど、燃えてまではない。明らかに違いが見て取れる。
可笑しいぞ。昨日の検証の時には大した威力じゃなかったし、ここまでではなかったはず。だから広範囲でも構わず撃てたのに。
レベルは上がってないし、考えられるとすれば、俺に攻撃の意思がなかった事と、試し撃ちだから殺意もなかった事。勿論、燃やす気なんて更々なかった。
虫に試し撃ちした時は勿論殺意はあったが、跡形もなく燃やし尽くしてやろうとも思ったが、個体が小さいから分からなかったのか? 直ぐに燃えちゃったし。
これがファンタジー? 自然に優しい魔法の世界? それとも、対象を魔物にしてたから、それ以外には被害が抑えられたのか?
殺意はそれなりにあったし、出来ればこれで急所にでも当たって死んでくれると有り難いとも思って放った。これなら、フレンドリーファイヤーも怖くない? 火魔法だけに?
こういう説明がないから解り難い。これも自分で検証して行くしかないのか。俺は独りだから、そもそもそんな無謀な検証は出来ないし、必要もないかもしれないけど。
いつかテンプレ展開で盗賊に襲われてる姫君を助ける場面で役に立つだろう。恐らくこの炎の精霊の加護のお陰であることは間違いないだろう。消費魔力は昨日の試し撃ちの時と変わってない。
これは、このままレベルを上げて行けば、チートな野郎の映像のようなもの凄い威力の魔法を撃てるようになるのかもしれない。頑張りたくなる俺。
行商人とはこれ如何に。
だが、獲物を追い詰めた時も要注意。俺も気を付けよう。
更に俺は獲物を仕留めた後も要注意。更に先に進む事も出来るのが人間。うん。大丈夫そうだ。
ホーンヘアーの魔石 ×1
ホーンドッグの魔石 ×2
ゲットだぜ。
肉は残ってないけど、それはそれで良かった事にしよう。何でもかんでも求めちゃいけない。何でも噛んでもいけないし、強欲は身を滅ぼす。優しく甘噛みする位が丁度いい?
何処をとは言わない。ナニをとも言えない。それは願望だから。
うん。勿体無い事をした罪悪感。これで何とか鎮まっておくれ。
馬なら駆け続ければ1日、馬車ならゆっくり進めて2日で到着出来る距離にあるはずの村、『ファウステンウエステンの村』が見えて来た。
やはりある意味では超人になってるようだ。ちょいと本気で急いだら馬並みって事だ。息子よ。頑張ろうな。
分かり易そうで分かり難くもある町や村のネーミング。地図で眺めれば理解出来るけど、少し考えれば誰でも分かるけど、統一されてるならこれに慣れるしかない。
町の周囲にある村の名前は、その町を起点とした名付けになっている。ファウステンシステンの町の西に位置するから、ファウステンウエステン。うん。分かり易い。
魔石を回収した後は、出来るだけ周囲を気にせずに爆走した。虫なんて、視界に入らなければどうと言う事はない。当たる事もなかったし。だから昨日の遅れを大幅に取り戻せた。
やはり、例え走ってても、気配遮断術もそうだが、結界石もそれなりに有用だという事が分かった。
意識して注意を向けられてなければ、気付かれ難いという事なのだろう。通り過ぎて行った馬車はあったが、やはり胴と言われる事も、どうと言う事もなかった。轢かれなくて良かった。
身体強化にしても、補助魔法にしても、魔力を気にせず使えるのが有り難い。ユニークスキル様々です。
これも乾杯事案。宿屋で寝るなら飲んでも問題ないだろう。
ファウステンウエステンの村。到着です。
勿論、出迎えはない。
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