43 / 44
2. 行商人生活の始まり
野営
しおりを挟む野営の準備は簡単だ。ひと言で言うなら、アイテムボックス万歳。ありがとう。
街道沿いの要所要所には、簡易的に野営出来るように整備された広場があったりするのだが、残念ながらそこまで到達する事は出来なかった。
だから、まずは場所選びから。
適当な広さのある、なるべく平らな場所を見付ける。
認識阻害機能(中)効果のある『結界石』を朝までもつように調整して魔力を流して起動させる。
荷馬車を出して不意に動かないように車輪止めを置いてやる。
以上。
なんて簡単なんでございましょう。テントを張ったり、竈や焚き火を用意する必要もない。旨くもない保存食に手を出す必要もなく、それなりに快適空間で温かご飯にありつける。
それなりに整備された荷馬車だけに、魔道具も搭載されてるだけに、暮らそうと思えばここでも暮らせると思う。
屋根もあるし周囲も丈夫な厚手の布で囲われているし、ちょっとやそっとじゃ開けられないようにロックも掛かる。
そもそも布自体に特殊なコーティングがされていて、弓矢くらいは刺さらない強度で耐火仕様にもなっている。
中は中で魔力は必要だが、荷物の保存の為に一定の温度に保ってくれる機能も付いている。言わば動力が魔力のエアコン完備。
だから雨が降っても大丈夫だし、多少の風でもびくともしないし、人が暮らしても大丈夫。
そこまで大きくないのが難点だが、これ何点?
大人1人なら全く問題ない。流石に悠々自適とまではいかないが、風呂やトイレは無いが、恐らく大人2、3人くらい迄なら何とかなる広さ。
野郎はごめんだが、可愛い女の子とならより良い快適空間となるだろう。居ればだが。
ああ。これがこっちの世界での初野営。キャンプとは違った活動だけど、ちっちゃい家とか収納して移動したい。これも男のロマン。
それに、どうせならやっぱり風呂やトイレも完備させて快適に過ごしたい。トイレの度に周りを警戒しながら外に出て大自然の中で用を足すなんて、なんて原始的。
クリーンでも我慢は出来るが、やっぱり男はお風呂でしょ。男はじゃないか、元日本人はか。露天風呂もいいけど、先ずは内風呂から。
水回りの充実は、行商を続けるなら本気で考えたい装備。そんな事したら完全に1人用居住空間になるだろうけど。アイテムボックスを使えばそれも夢じゃない。
普段は入り切らない積み荷を置いて、食事や眠る時だけ家具と入れ替える。うん。出来そう。て言うか、まだまだ入りそうだから、入れ替える必要もないかも。それもやってみないとだな。
辺りが暗くなって来て、静寂が訪れる。俺が動かなければ基本は音はしない世界。自然に包まれてるから無音という事はない。
寂しくはあるけど、緊張感もある。独りの気楽さと怖さがここにはある。結界石に期待したい所だ。
よし。問題は無さそうだ。
中にランタンを置いてみたけど、外に光が漏れる事はなさそうだ。匂いも、中でバーベキューとかしなければ大丈夫だろう。多分。
それでも、なるべく音は出さないようにしながら適当に夕食を済ませる。テレビもないしスマホもない。こんな時により独りの寂しさを感じてしまう。周りには人間は居ないから。
酒でも飲んで眠ってしまいたい所だが、流石にそれは止めておく。酔っ払ってそのまま逝ってしまうっていうのも幸せかもしれないが、その前に痛い思いをする事になるだろうから、いつでも対処出来るようにはしておきたい。
その気になれば、こんなおっさん直ぐに狩られる自信があるけど、最後まで抵抗はしたいとも思う。でも、狙わないでね。善良なおっさんは無害です。これ本当。
妄想の中でくらいは無双させて欲しい。
食事はゆっくり摂りたい派だが、大して時間も掛からないのも事実。警戒しながらだったからか、あっという間に食べ終わってしまった感覚だ。
出来れば緊張感なんてない所でもっとゆっくり食べたいが、これは仕方ない。野営中だし1人だし。そこは我慢。
でも、もう1度きっちりクリーンは掛けてから、どさっとベッドなんかも出しちゃったりして。快適な睡眠の為には労は惜しまない。
地面に寝るなんてナンセンス以外のなにものでもないから、やっぱりアイテムボックス万歳。ありがとう。
ダブルベッドは無理だけど、セミダブルくらいならなんとか置けそうな広さがある。他には何も置けなくなるが。ナニも置けなくなる事はない。付属物だけに。
そして布団を出してやれば、はい。快適な寝床の出来上がり。圧迫感があるのは仕方ない。目を瞑ればいいだけの事。
可愛い女の子との違う圧迫感を味わいたくなるが、今は無理。これからも? ……
後は、眠る前にステータスを確認しながら今日の反省を少しばかり。
主にホーンラットとの戦闘の件。あれを戦闘と言っていいかどうかは別として、魔物を倒したのだから、あれでも戦闘と言ってもいいだろう。一方的な虐殺なんて表現がよくないだけだ。
レベルは上がらなかったのは残念だったが、そんなに甘いものでもないのだろう。
そうそう。反省の件だった。
あの戦闘では咄嗟の事で思いも付かなかったけど、気付かれた場合の対策として、光魔法のフラッシュを使ってやるって選択肢もあったはず。
宿屋への無傷無血帰還クエストでは思い付いてたのに。やはり実戦と実践は違う。当然だ。漢字が違うから。戦いのプロではないのだから仕方ない。これも経験。
こっそり近付いて、気付かれる前に重たい1撃。
気付かれた場合には、速攻目眩まし。怯んだ隙に重たい1撃。
それでも避けられてしまったら、速攻火魔法の熱いのをぶち込む。ファイヤーニードルかな。数も多くて当たり易いから。
この3段構えでどうだろう。
うん。我ながら卑怯過ぎる。これも戦闘。俺が少しでも傷付かない方法を模索して行くのみ。これが戦略。俺なんてこんなもの。明日からはこんな心の準備をして移動しよう。
それでも避けられたら、それこそ速攻で逃げの一択。そうしよう。
逃げながらでも時折魔法は打てるようにしないとな。うん。フラッシュも入れつつ、牽制の火魔法も撃てるように訓練もしようかな。
ノー・ルックでも後ろに撃てるようにとか。ダミー人形なんてあったらいいけど、それより違う意味の人形の方が欲しい。適度な大きさの穴が空いた1部分だけの物でも可だが。
益々姑息な手段のレベルが上がりそうだが、生存率を上げる為でもある。生き残ってこそ。うん。俺は挫けない。
さあ。そんな戦略妄想も済んだ所で、そろそろ眠りましょうかね。異常は無さそうだし、このまま朝を迎えさせて欲しい。
独りでこんな人気の無い大自然の中で大人しく眠れるかどうかが問題だが、そこは瞑想術:LV5となってるだけあって、ちょいと目を瞑って意識を集中して呼吸を整え、漸くしてから暗闇に意識を放ってやれば、ほらこの通り。
目が覚めた時には朝かトイレに行きたくなった時。大体こんなもの。
今回は水分摂取を少な目にしてたから、クロックのアラームで起こされるまでは目が覚める事はなかった。
そして体の無事を確認してから周りの気配を探ってみたが、特に問題無し。やはり昨日の害虫退治が功を奏したか、偶々か。
これからはそういう殲滅作戦は、野営ポイントに近付いてからにしようとは思う。時間の問題で。
荷馬車から出ると、朝日が眩しく、空気が清んでて鼻がつんとなった。ここでデレればツンデレ。そんな気分でもないからデレる事はない?
息子も元気にツンとしてくれている。嬉しい朝だ。
ああ。無事生きて朝を迎えられた。良かった良かった。これが生きているって感覚。大事にしないとな。なあ、息子よ。
なんて感慨に耽りつつ、トイレを済ませ、デレてしまった息子も含めてクリーンで周辺を綺麗にし、体もさっぱりさせてベッドを収納。そして朝食を。
図らずしもそんなツンデレをしてしまった朝だった。朝立っただけに。
すると既に馬車が通り過ぎて行った。どんだけ早いねん。突っ込む間もなく行ってしまった。気配に気付くより、音のが速かった。そりゃそうか。
結界石の認識阻害の効果は十分に発揮されているようだった。こちらからはよく見えたのだが、御者の男とは目も合わなかった。俺はガン見してたけど、誤解されなくて良かった。
これって、上手い事やれば覗きにも使えるな。なんて良からぬ事を考えつつ、どうやったら最善の体勢を整えられるのか、見付かってしまった場合にはどんな言い訳なら見逃がしてもらえるか。
そんな事も考えながら、出発する事にした。見たいはずなのに、見逃してもらえる策を考える。これ如何に。
言っても荷馬車を収納するだけの簡単作業です。車輪止めも忘れずに。
ちなみに、結界石は、もう1度同じ者が魔力を流してやると効果が無くなる。リセットされる仕様になっている。とっても便利だと思います。
では。レッツ・ゴー!
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる