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2. 行商人生活の始まり
野営
しおりを挟む野営の準備は簡単だ。ひと言で言うなら、アイテムボックス万歳。ありがとう。
街道沿いの要所要所には、簡易的に野営出来るように整備された広場があったりするのだが、残念ながらそこまで到達する事は出来なかった。
だから、まずは場所選びから。
適当な広さのある、なるべく平らな場所を見付ける。
認識阻害機能(中)効果のある『結界石』を朝までもつように調整して魔力を流して起動させる。
荷馬車を出して不意に動かないように車輪止めを置いてやる。
以上。
なんて簡単なんでございましょう。テントを張ったり、竈や焚き火を用意する必要もない。旨くもない保存食に手を出す必要もなく、それなりに快適空間で温かご飯にありつける。
それなりに整備された荷馬車だけに、魔道具も搭載されてるだけに、暮らそうと思えばここでも暮らせると思う。
屋根もあるし周囲も丈夫な厚手の布で囲われているし、ちょっとやそっとじゃ開けられないようにロックも掛かる。
そもそも布自体に特殊なコーティングがされていて、弓矢くらいは刺さらない強度で耐火仕様にもなっている。
中は中で魔力は必要だが、荷物の保存の為に一定の温度に保ってくれる機能も付いている。言わば動力が魔力のエアコン完備。
だから雨が降っても大丈夫だし、多少の風でもびくともしないし、人が暮らしても大丈夫。
そこまで大きくないのが難点だが、これ何点?
大人1人なら全く問題ない。流石に悠々自適とまではいかないが、風呂やトイレは無いが、恐らく大人2、3人くらい迄なら何とかなる広さ。
野郎はごめんだが、可愛い女の子とならより良い快適空間となるだろう。居ればだが。
ああ。これがこっちの世界での初野営。キャンプとは違った活動だけど、ちっちゃい家とか収納して移動したい。これも男のロマン。
それに、どうせならやっぱり風呂やトイレも完備させて快適に過ごしたい。トイレの度に周りを警戒しながら外に出て大自然の中で用を足すなんて、なんて原始的。
クリーンでも我慢は出来るが、やっぱり男はお風呂でしょ。男はじゃないか、元日本人はか。露天風呂もいいけど、先ずは内風呂から。
水回りの充実は、行商を続けるなら本気で考えたい装備。そんな事したら完全に1人用居住空間になるだろうけど。アイテムボックスを使えばそれも夢じゃない。
普段は入り切らない積み荷を置いて、食事や眠る時だけ家具と入れ替える。うん。出来そう。て言うか、まだまだ入りそうだから、入れ替える必要もないかも。それもやってみないとだな。
辺りが暗くなって来て、静寂が訪れる。俺が動かなければ基本は音はしない世界。自然に包まれてるから無音という事はない。
寂しくはあるけど、緊張感もある。独りの気楽さと怖さがここにはある。結界石に期待したい所だ。
よし。問題は無さそうだ。
中にランタンを置いてみたけど、外に光が漏れる事はなさそうだ。匂いも、中でバーベキューとかしなければ大丈夫だろう。多分。
それでも、なるべく音は出さないようにしながら適当に夕食を済ませる。テレビもないしスマホもない。こんな時により独りの寂しさを感じてしまう。周りには人間は居ないから。
酒でも飲んで眠ってしまいたい所だが、流石にそれは止めておく。酔っ払ってそのまま逝ってしまうっていうのも幸せかもしれないが、その前に痛い思いをする事になるだろうから、いつでも対処出来るようにはしておきたい。
その気になれば、こんなおっさん直ぐに狩られる自信があるけど、最後まで抵抗はしたいとも思う。でも、狙わないでね。善良なおっさんは無害です。これ本当。
妄想の中でくらいは無双させて欲しい。
食事はゆっくり摂りたい派だが、大して時間も掛からないのも事実。警戒しながらだったからか、あっという間に食べ終わってしまった感覚だ。
出来れば緊張感なんてない所でもっとゆっくり食べたいが、これは仕方ない。野営中だし1人だし。そこは我慢。
でも、もう1度きっちりクリーンは掛けてから、どさっとベッドなんかも出しちゃったりして。快適な睡眠の為には労は惜しまない。
地面に寝るなんてナンセンス以外のなにものでもないから、やっぱりアイテムボックス万歳。ありがとう。
ダブルベッドは無理だけど、セミダブルくらいならなんとか置けそうな広さがある。他には何も置けなくなるが。ナニも置けなくなる事はない。付属物だけに。
そして布団を出してやれば、はい。快適な寝床の出来上がり。圧迫感があるのは仕方ない。目を瞑ればいいだけの事。
可愛い女の子との違う圧迫感を味わいたくなるが、今は無理。これからも? ……
後は、眠る前にステータスを確認しながら今日の反省を少しばかり。
主にホーンラットとの戦闘の件。あれを戦闘と言っていいかどうかは別として、魔物を倒したのだから、あれでも戦闘と言ってもいいだろう。一方的な虐殺なんて表現がよくないだけだ。
レベルは上がらなかったのは残念だったが、そんなに甘いものでもないのだろう。
そうそう。反省の件だった。
あの戦闘では咄嗟の事で思いも付かなかったけど、気付かれた場合の対策として、光魔法のフラッシュを使ってやるって選択肢もあったはず。
宿屋への無傷無血帰還クエストでは思い付いてたのに。やはり実戦と実践は違う。当然だ。漢字が違うから。戦いのプロではないのだから仕方ない。これも経験。
こっそり近付いて、気付かれる前に重たい1撃。
気付かれた場合には、速攻目眩まし。怯んだ隙に重たい1撃。
それでも避けられてしまったら、速攻火魔法の熱いのをぶち込む。ファイヤーニードルかな。数も多くて当たり易いから。
この3段構えでどうだろう。
うん。我ながら卑怯過ぎる。これも戦闘。俺が少しでも傷付かない方法を模索して行くのみ。これが戦略。俺なんてこんなもの。明日からはこんな心の準備をして移動しよう。
それでも避けられたら、それこそ速攻で逃げの一択。そうしよう。
逃げながらでも時折魔法は打てるようにしないとな。うん。フラッシュも入れつつ、牽制の火魔法も撃てるように訓練もしようかな。
ノー・ルックでも後ろに撃てるようにとか。ダミー人形なんてあったらいいけど、それより違う意味の人形の方が欲しい。適度な大きさの穴が空いた1部分だけの物でも可だが。
益々姑息な手段のレベルが上がりそうだが、生存率を上げる為でもある。生き残ってこそ。うん。俺は挫けない。
さあ。そんな戦略妄想も済んだ所で、そろそろ眠りましょうかね。異常は無さそうだし、このまま朝を迎えさせて欲しい。
独りでこんな人気の無い大自然の中で大人しく眠れるかどうかが問題だが、そこは瞑想術:LV5となってるだけあって、ちょいと目を瞑って意識を集中して呼吸を整え、漸くしてから暗闇に意識を放ってやれば、ほらこの通り。
目が覚めた時には朝かトイレに行きたくなった時。大体こんなもの。
今回は水分摂取を少な目にしてたから、クロックのアラームで起こされるまでは目が覚める事はなかった。
そして体の無事を確認してから周りの気配を探ってみたが、特に問題無し。やはり昨日の害虫退治が功を奏したか、偶々か。
これからはそういう殲滅作戦は、野営ポイントに近付いてからにしようとは思う。時間の問題で。
荷馬車から出ると、朝日が眩しく、空気が清んでて鼻がつんとなった。ここでデレればツンデレ。そんな気分でもないからデレる事はない?
息子も元気にツンとしてくれている。嬉しい朝だ。
ああ。無事生きて朝を迎えられた。良かった良かった。これが生きているって感覚。大事にしないとな。なあ、息子よ。
なんて感慨に耽りつつ、トイレを済ませ、デレてしまった息子も含めてクリーンで周辺を綺麗にし、体もさっぱりさせてベッドを収納。そして朝食を。
図らずしもそんなツンデレをしてしまった朝だった。朝立っただけに。
すると既に馬車が通り過ぎて行った。どんだけ早いねん。突っ込む間もなく行ってしまった。気配に気付くより、音のが速かった。そりゃそうか。
結界石の認識阻害の効果は十分に発揮されているようだった。こちらからはよく見えたのだが、御者の男とは目も合わなかった。俺はガン見してたけど、誤解されなくて良かった。
これって、上手い事やれば覗きにも使えるな。なんて良からぬ事を考えつつ、どうやったら最善の体勢を整えられるのか、見付かってしまった場合にはどんな言い訳なら見逃がしてもらえるか。
そんな事も考えながら、出発する事にした。見たいはずなのに、見逃してもらえる策を考える。これ如何に。
言っても荷馬車を収納するだけの簡単作業です。車輪止めも忘れずに。
ちなみに、結界石は、もう1度同じ者が魔力を流してやると効果が無くなる。リセットされる仕様になっている。とっても便利だと思います。
では。レッツ・ゴー!
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