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2. 行商人生活の始まり
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しおりを挟む「とりゃあっ!」
どごん!
ベチャッ
「ふう~」
俺は虫が嫌いだ。
何でもじゃないが、ほぼ嫌いと言ってもいい。益虫なる言葉も知っている。害が無ければ放っておいてもいいのだが、グロいのとか、襲って来るのとか、こちらに迷惑を掛けるような個体には容赦しない。
昔、田舎で刺されたとか、噛まれたとか、嫌な思いをした経験からか、本能からか、体が叫ぶ。誅すべし! と。決してちゅうはしない。
大ムカデ、大カメムシ、大クモ、毒ヘビ、大ノネズミ、大ゴキブリ、大シロアリ、大ヒル。
こっちの世界にも居ます。こういうの。『大』が付いてるから分かりやすい。でかい。どれも俺の記憶にある個体より2回りはでかい。毒ヘビも、色彩がより気持ち悪い。
何が言いたいかと言うと、田舎道を歩いてれば、そういう個体に出会す事があるという事。うざい。キモい。ちゅうしたくなる。誅だった。
そんな事でも考えてないとやってられない。
見付けた時も、殺った後も。
魔物でもないし、有用な素材をドロップするでもない。毒ヘビ辺りは使い道があるかと思うが、出来れば触りたくない。
襲って来るって訳ではないのかもしれないが、ただここで平穏に暮らしているだけかもしれないが、そんな事が分かるでもなく、意思の疎通が出来るでもなく、俺に出会ってしまったのが運の尽き。
やられる前に殺る。これ基本。
余裕のある時は魔法の試し撃ちとかもやってたけど、いきなり現れるもんだから、誤射しそうになったりもして。キモいし。
感情の起伏は魔法の精度に影響する。よく分かった。俺もまだまだのようだ。
そこで頼りになるのが、やっぱり相棒。マイン・サンじゃない方の棒。黒鋼の魔戦棍。頼りになるぜ。過剰防衛? オーバーキル?
そんなの関係ない。一撃で殺れればいいのだ。一撃で。当たれば一撃必殺。『大』が付いていようと所詮は虫。当たらないなんて事もない。俺の相棒の方がでかい。相棒の方が。
当たらなければ胴と言う事でもない。
効果音は『どごん』だ。
それに、レベル10は伊達じゃない。富澤でもない?
地面と相棒によるサンドウィッチ虫。
……
鋼のショートソードじゃ上手く斬れないかもしれないし、力が入り過ぎて地面を斬る事になる未来しか見えない。
それに、そんものを斬りたくはない。だから相棒。本当に頼りになる棒です。男なら誰でもそう思われたい言葉ランキングトップ30には入るであろう。俺だけか?
時折、こんな大きい音を立ててたからか、俺を餌だと思ってるのか、只の警戒の為なのか、釣られて魔物がやって来た。
勿論、最初はびびったさ。ああ。びびったよ。串に刺さってるのとは大違い。街道沿いにはあまり強い個体は出て来ないらしいけど、それは絶対ではない。だから一応警戒はしていた。
魔力は使うけど、そんなの関係ない。減って来たらエリクサービールを飲むだけ。勿論ノンアル。直接口に含む簡単回復術。だから遠慮は要らない。常に出来る警戒体勢は崩さない。
音がしてからのタイムラグがあるからか、そこまでの魔物でもないからか、俺の事を認識出来ずに頭をきょろきょろさせてる奴が多かった。
気配遮断術:LV3も富澤じゃない。伊達だった。
匂い問題も経験済みだから、魔力を気にする必要もないから、定期的にクリーンを掛けて綺麗にしている。無味無臭は無理かもしれないけど、認識も出来ていないのだから、やはり効果はあると思う。
まあ、冒険者に成り立ての初心者でも対応出来る位の個体だから過信は禁物だが。
それでも、有り難い事に、そっちから出て来てくれたのだから敢えて見逃すつもりはない。追って来られても嫌だし、夜眠ってる時に襲われるのはもっと嫌だから。
こういうやっちまってる個体なんだから、そこまで強くないはずだとの慢心がないとも言えないが、それでもこれまで1度しか問題を起こさず倒せているのだから間違ってなかったって事だ。
学んだ事。
不意打ちで大声出しちゃダメだった。
倒せたからいいけど、そりゃ気付かれる。びびらせる効果はあっても、そこまでの硬貨はない。価値がない事もないけど、お値段以上ではないと思うから掛けてみた。効果と硬貨。今一だった。
折角気配を殺して近付いたのに、気付かれないようにゆっくりと相棒を持ち上げで振り下ろすタイミングで、『おりゃあっ』とか言っちゃいけない。
言っても、出ちゃった感じで『ふっ』位のひと息だろう。対峙してからなら気合いを入れる意味でなら有りかもしれないが。やはり戦闘に関しては素人だと思い知らされた。
でも、経験値も入るし、魔石も手に入る。それはそれで悪くなかった。
でもでも、角は小さくても怖かった。あれがグサッと刺さったら。なんて妄想力豊かに想像してしまうからいけなかった。
想像力豊かに妄想? まあいいか。血が出ちゃうのは間違いないだろう。痛いのは嫌だし遺体になるのも嫌だ。血も見たくないのに。
残念ながら、ベチャッと潰れてしまうから、串焼きにはならない。魔石は砕けずに残ってるのは不思議だったが、そういう仕様なのか、まだまだ俺の力が弱いのか、そう思って有り難く回収させてもらった。
解体なんかはしたくないけど、いい感じで潰れてくれてるから回収し易かった。そこだけは良かった。肉を取るか魔石を取るか。そこが問題だ。
血は見ていない事にして、速攻でクリーンを掛けまくって綺麗にしまくった。クリーンの精度はかなり上がったと思う。
角は砕けてしまったけど、皮は売れるかもしれないから、一応丸ごと収納してある。
勿体無いし。半ミンチ肉として売れるかもしれないし。ハンバーグの材料にはなるだろう。俺は加工済み肉しか触りたくない派。
ちなみに、俺の簡易鑑定君は、これがどの魔物の魔石かまでは教えてくれなかった。間違いなく倒したはずの魔物の魔石なのに、これ如何に。
ホーンラットを6匹屠ってやった。
ちゅうしたいって思ってたからか、チュウチュウ煩かった。
そこまで屠ってやっと気が付いた。頭を狙うか、魔物には鋼のショートソードを使えば良かったと。
でも、使ってると楽しくなっちゃって。頼もしいだけに、この破壊力に魅入られたのもあるかもしれないが、剣術よりは棒術を極めたいと思ってしまった。息子も一緒に?
一緒にレベルが上がってくれると嬉しいが、多分そんな事はない。それは夜の花街で鍛えるしかない。だが、使えば使う程に手に馴染む相棒が手放せなくなっていた。それは息子も同じ。頑張ろうな。
呪われた武器じゃないと思うけど、俺にこんな性癖があったとは。これもまた発見だった。戦闘癖?
で。そんな事しながらゆっくり進んでたからか、次の村までの中間地点にあるはずの看板まで辿り着けなかった。
途中で何度か馬車が行き交って行ったけど、特にどうという事も、胴と言われる事もなく行ってしまった。
こんなおっさん1人の為に止まるのも面倒だし、態々馬車を止めてまで話す事などない。俺でもそうするだろう。
逆に警戒されてたかもしれない。黒光りする鋼の魔戦棍なんか担いだおっさんが居たら怪しいし、どごんどごん言わせて虫や魔物を叩き潰してるのを見れば近付きたくはないだろう。
それでスピードを上げられたのかもしれない。轢かれなくて良かった。
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