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2. 行商人生活の始まり
出発
しおりを挟む町を出る時にもひと手続きあったが、なんの問題もないはずの俺は、勿論プレートが青く光り、追加料金を払う事もなく無事開放される。
「よし。行っていいぞ。また来てくれよ」
なんて野郎に言われても嬉しくないが、お決まりのこのやり取り、嘘発見器に掛けられてるような感覚もあり、やましい事はないはずなのにドキドキしてしまうのは俺だけではないはずだ。
と思いたい。聞ける人も居ないから仕方ない。赤く光ったらとっても面倒な事になって行くので、皆同じ様な気持ちだと思う。
目の前でずかずかと平気な顔して、何でもない様な態度で出て行った冒険者達。俺も慣れればああ成れるのだろうか。あれは人種が違う。そう思わないとやってられない。
とっとと次の町を目指したい。少し離れてから身体強化と補助魔法を掛ける。これで普通に歩くよりはかなりマシになる。て言うか別人になれる。超人。調子に乗らないように注意か必要だ。
馬車を出してもいいのだが、行商人だと狙われるのも嫌なので止めておく。こんなおっさん1人を狙うような盗賊は居ないと願いたい。お願いします! 何処かで見てるなら見逃して!
なんて心の中で思いつつ、目の前を歩く冒険者パーティの後を付いて行く。
これは偶々だ。向かってる方向が一緒だっただけの事。皆玉々付いてるからじゃない。あんな厳ついパーティの関係者だと思われたら嫌だ。
盗賊に襲われる事はないかもしれないが、別の組織に狙われる事になったりして。なんて不謹慎な妄想しつつ、森の中へ入って行ってしまった野郎共を横目に真っ直ぐ歩く。
ちっ。使えない。もう少し同じ方向に行ってくれればいいものを。なんて思っちゃダメ。抗争に巻き込まれる確率がぐんと減ったと考えよう。
朝一で出たとは言え、こっちの世界の本当の朝一は、日が昇り始めた時。それから考えれば、もう朝三くらい?
宿でゆっくり朝食を摂り、取り引き先で仕入れもし、ゆっくり町を出たのだから。
商団に参加しなかった理由の1つでもあったから。方向か違ったのもそうだが、野郎共の集団と暫く行動を共にするとかもだが、そんな朝一で出発とかしたくない。
俺の体内時計は、まだ夜行性の名残があるようだ。既に花街が恋しい。
それに、大概当てはまる事だが、1番には良い事も、良くない事もある。1番風呂と同じ。湯は綺麗なのかもしれないが、肌に加わる抵抗も大きい。
要は、目に見えない不確定要素も多いって事。出来れば最初の出発くらい、慎重過ぎる位の安全性を確保して進みたい。
もう既に何人かの人達が進んだ道だろうから、金を拾ったりは出来ないだろうが、魔物と遭遇する確率も減るはず。
そんなやましい気持ちがあったから、プレートが赤く光らないかドキドキしてたのかもしれない。
それなら護衛を雇うとかすればいいのに、それも勿体無い。
ユニークスキルの『孤高のチャレンジャー』は、独りで新しい事を始めると経験値が溜まりやすいって事でもあるから、初めての行商は独りで出てみた。
どうだ、この言い訳。なかなかだろう。
なんて思いながらも、ちゃっかり装備を整えていたりする。歩きながらの変身術。これも夜の花街のお陰。
新たなスキルは生えてなかったが、今回は既に防具類は着込んであるし、鋼のショートソードは腰に差してある。盾を左腕に、黒鋼の魔戦棍を右手で肩に担ぐだけ。
冒険者と間違えられそうな装備かもしれないが、そこは気にしちゃいけない。防具類と言っても、棒狂いじゃない。今気付いた。
魔力を流すと攻撃力が増加。属性に合わせた追加ダメージも可能な棒は頼りになる。魔戦棍だった。
魔物と戦った事もないくせに、何処か心を落ち着けてくれる頼もしさ。息子もこれ位の存在になって欲しい。頑張ろうな。
独りで只歩いててもつまらない。危険がないかの確認は必要だが、スキルもあるのでそれなりに警戒しながら進めているはず。
気配察知術:LV3
危険察知術:LV3
それに、不穏な気配を感じると赤く変色してじんわり温かくなる『護り石のペンダント』もある。
だからと言って油断はしていない。何か小さな反応はある様だが、危機って程のものでもないから放置。これぞ本当の放置ゲー。2度と触れ合う機会はないと思うが。
恐らく、スライム辺りの魔物。こちらから攻撃しなければ害はない。だが、誤って踏んで謝っても許してくれない奴。言葉は通じないから、そうなったら倒すか逃げる事になる。
逃げると言っても子供の歩くスピードよりも遅いから、それこそ無視と言ってもいいのかもしれない。だから無視。
ごめんよ。実は無視されるのが1番辛いよな。認識されてからならそうだろうけど、まだ認識すらしてないからセーフだ。許せ。
RPGなら真っ先に戦う事になる魔物だろうけど、この世界では違うし、俺の初戦闘相手としては役不足だ。
いや。そんな事もないけど、実験するにしても戦うにしても、もう少し町から離れてから。検証と言う名の実験は、この後すぐ?
いや。もう少し行ってから。周りの安全を慎重に確かめてから。
この世界の街道には、あっちの世界のように、良心的な道路標識なるものはないし、明かりもない。
所々に、主要な分岐路にだけ、看板が立ててある位だ。それも、○○の町と書いてあるだけ。無いよりな有り難いが、簡単に悪戯されそうな作りだから、本当に信用していいのか迷う。
だから、経験と、町での情報収集は大事。大凡の距離と注意点、中継地点の確認なんかは必須となる。
で。
既に退屈だからひと昔前のRPG風に進めると、
分岐路が現れた。どちらに進みますか?
俺は、西にある町『セカンデンシステンの町』に向かっているのだから、当然そちらに足を向ける。
ドノバンから聞いてた迷いの森には興味はあるけど、森を突っ切って一直線に進むつもりはない。遠回りにはなるけど、村を経由してから通るつもりだ。
いくら尾も白い『面白い狼』が出ようとも、到着前に死んでしまっては意味がない。俺は安全思考派。より近い安全な場所から向かう方がいい。そういう男だ。
昼食は歩きながらの、必殺アイテムボックスからの温か料理を感動しながら食べる攻撃。
知ってるからか、何度も読んで来たからか、それ程の感動はなかった。大人になるって、大事な何かを失くして行くんだろう。大事なナニかは失くしたくない。
で。
そろそろいいかなと思う辺りで実験開始。いよいよです。
ちなみに、ひと昔前のRPG風に進めるのは既に止めている。特に面白くもなかったし、気を紛らわすつもりが、一々何かある度に選択肢を考えるのが面倒だったから。
これだけ町から離れてれば、多少の異音がしても大丈夫だろう。いきなり馬車でもやって来なければ。
さ。急ごう。時間は有限。明るいうちになるべく進んでおきたいし、実験もしておきたい。
はい。
火炎瓶は、燃える瓶。起爆装置なんて無いから、栓の代わりに布を詰めて生活魔法のファイアで火を着ける。そして投擲術:LV4に頼って目標を定めて投げるだけ。
小さめのコップに入れてあったけど、ぶっちゃけ、勿体無いから瓶なんて使えません。投げて割っちゃうなんて何てバチ当たりな。
やはり瓶は平和的に有効活用すべき物。ワインやビールを入れてこそ。その代わり、雑貨屋で買ったぼろぼろの水袋に詰めておきました。もしもの時の為。使わない事を祈る。
そして今更気付く凄い俺。そう、起爆装置なんて無い。火炎瓶ならぬ、火炎袋は布に着火してやればいいけど、爆弾もナパームも、着けた途端に爆発する仕様?
物は製造出来たけど、それが思い通りの性能を発揮してくれるかどうかは別問題。火薬はあっても、それを安全に使える信管、起爆装置が無い。自らに大ダメージをもたらす武器とはこれ如何に。
要はよく燃える液体。爆発もしちゃうかもしれない液体。粘着性が高くてより対象を燃やし続ける凶悪な液体。って事で終了です。お疲れ様でした。
投げ付けてやってから火魔法で着火するのなら、最初から火魔法で攻撃するわな。ひと手間掛かるだけ。
罠とかならいいけど、こういう移動中には使えないだろう。野営時に仕込むのもいいけど、寝てたら着火出来ないし、寝惚けて踏んでしまうのも嫌だ。
結局俺は何を作って興奮していたのだろうか。ナニで作るのは興奮した結果だが、エリクサービールが出来たのだからよしとしよう。一応、威嚇用の武器としては合格点だと思うし。
よしよし。落ち込むな。俺。
「ねおりゃあぁっ! ファイヤー!
ファイヤーニードル!
ファイヤーバレット!
ファイヤーアロー!」
ボワッ ズザザザザンッ バシュ バシュン
初級火魔法:LV4で使える魔法の連続使用。
思った通りの結果。ちょいと威力が弱い気がするのは、きっと初級火魔法だから。俺の適性がないという事ではない。はずだ。
『炎の精霊の加護』があるから、『火魔法の効果・耐性超向上』なんて説明があるから、実は初級でも上級並みの威力が出るのかと思いきや。そんなに甘いものではないみたい?
そこは流石にこの世界の『一般教養・一般常識』でも教えてくれない特殊事案。流石、加護?
もっと凄いのを期待してたけど、それはチートな野郎の映像ばかり観てたから。初級は初級。こういうものだと思って諦めよう。
レベルに応じて魔法を覚えられるのだから、まだまだやる気を失くす訳にはいかない。でも俺は行商人。何のレベルを上げるべきかは必然的に分かる。ナニのレベルを上げるべき!
上がるかな。
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