5 / 32
第一章 親友の正体は
5 匂い
しおりを挟む
「ちげえ! そうじゃねえ!」
それからしばらくは、これが俺の定番セリフになってしまった。
「だってよ。俺が好きなんだろ?」
「ちげえ! だから俺が好きなのはもっふもふの方だって!」
「だから俺がそのもっふもふなんだろーがよ」
「ちっ、ちげ……くねえけど、ちげえ! それとこれとは別なんだっつの」
「どこがどう『ちげえ』んだ。俺にも分かるように説明してみろ」
「ふぐううっ」
なんだかんだ言いながら、凌牙はそばに人がいないと見るやいなや、どこでも俺を抱き寄せてキスしてくるようになっちまった。ここんとこ、ずっとだ。
みんなが着替え終わっていなくなったサッカー部の部室で。放課後の教室で。教室移動時間中の空き教室で。たまには学校の図書館の隅っこで。
今日は校舎のはしっこにある階段の、一番上の踊り場だ。
凌牙の腕は、優しいのに力強い。決して俺を傷つけることはないのに、どうしても逃げられなかった。
「俺が嫌え、ってことでもねえんだろ?」
「うぐっ……だ、だからそれはっ」
そんな文句をつけるうちにも、凌牙の唇は俺を決して逃がさない。額に、頬に、首筋に。耳も時々、かぷっと噛まれる。その途端、背筋から腹の下のほうへ、ジインと痺れたみたいな感覚が走って、腕から力が抜けてしまう。
……ズルイ。
こんなのぜってえ、俺の方が分が悪いじゃん。
「やめっ……凌牙! 俺、汗……かいてるしっ。臭いしっ」
「お前が臭いわけあるか。めっちゃくちゃいい匂いだ。ずーっと気になってたんだかんな。入学する前から」
「へ? そうなのかよ」
でも、入学する前って? どういうことだ。
耳の中に鼻の先をつっこまれて、「あうん」みたいな変な声が出る。慌てて両手で口をおさえたら、凌牙はますます嬉しそうになった。
「俺らは人間の数百倍の嗅覚を持ってる。単に鼻が利くってだけじゃねえ。匂いだけで相手の人格までわかっちまうぐらいのもんなんだ」
「へ、へえ……?」
「お前の匂いは特別だ。たぶん数百億分の一の確率でしか出てこねえ匂いのはずだぜ。『激レア』ってやつだ。SSRのさらに上よ」
「え、えええ?」
そんなこといきなり言われても、まったく実感が湧かない。
それにしてもSSRって。俺はゲームのレアキャラか! 課金しねえと出ねえやつかい!
「ほんとだって。数千年に一度しか出てこねえ、本物もんの稀少種だ。こんなの、他の奴らに嗅ぎ当てられたらたまんねえわ」
「いや、嘘だろ。マジで……?」
「実はこの世には、俺ら以外にも人外……つまり、人間じゃねえ奴らがいる。そいつらに目をつけられてたらと思うと今でもゾッとするわ」
「え、ええ……?」
「お前にとって分かりやすい例でいうと、吸血鬼とかな。あいつらもかーなーり、エグいからよ」
「え、えええ……」
なんかぞっとした。
吸血鬼って、あれだろ? 夜の闇にまぎれて人の生き血を啜る怖い化け物だろ?
そんなのに狙われた日にゃ、俺なんてあっというまに狩られるに決まってるし。
「あいつら、いまは日本に拠点を置いてねえからな。もしそうだったらヤバかったわ。異種間抗争まったなしだったぜ、マジで」
「そ、そーなのか……」
「そーなんだぜ」
ひええ。俺をめぐって人狼族と吸血鬼が抗争するって? なんかエグそう。ってか、「俺をめぐって」って自分で言っちゃったけどかなり引くわー。
「俺みたいな優しいウェアウルフに捕まったんだ。これは感謝してもらわねーと」
「はあ? なんかそれも違うくね?」
「ふっはは! ま、そうとも言う」
なんだかんだ言いながら、凌牙はずっと俺を抱きしめたまま、耳やら頬やら首筋やらにキスを落とし続けている。なんか、犬に舐められてるみてえ。時々首元に鼻先を突っ込まれてスンスン嗅がれるし、恥ずかしくってしょうがねえ。
「く、くすぐってえって……凌牙」
「お。ここ、性感帯か?」
「って、バカ! なに言ってんだ」
俺は思わず凌牙の胸をゲンコツで叩く。
「放せ、どアホ! もうそんな、クンクン嗅いでくんなっ。ぺろぺろ舐めんな、キスすんなっ」
「嫌だね」
凌牙が腕にさらに力を籠めてきて、本気で身動きがとれなくなる。
気づいたらシャツのボタンを外されていて、鎖骨のあたりから下へそろそろと唇がおりていくのがわかった。
「あうっ……ん!」
乳首をちゅっとやられてしまって、思わず変な声が出た。
「お。可愛い声」
「ばっ……ばっきゃろ!」
全身がかあっと熱くなる。
俺は無我夢中で、思いきり凌牙の鳩尾に膝蹴りを叩きこんだ。ゲスッとにぶい音がする。
「うっ」
さすがの凌牙も動きが止まる。
俺はすかさずその腕から逃れ出て、脱兎のごとく階段を駆け下りた。
ぱっと振り向き、舌を出して「いーっ」っていう顔をしてやる。
「バーカ、バーカ! この変態エロ狼! そこでちったあ反省しろやあ!」
「てンめ……勇太!」
「おえっ!?」
バッと飛び上がった凌牙のジャンプ力が半端なかった。
ここなら絶対追いつかれねえと思ったから止まったのに、凌牙は本当にモンスター級の跳躍力でひと跳びし、次の瞬間にはもう俺の目の前にいた。
「だーから。人狼を舐めんな、っつったぜ?」
「う……」
にやりと笑う顔がちょっと意地悪だ。
「いい蹴りくれたじゃねえか。ちょうどいい。こりゃ、お仕置き確定だな」
「はあ!?」
ああ。
俺の受難は、どうやらまだまだ続くらしい。
それからしばらくは、これが俺の定番セリフになってしまった。
「だってよ。俺が好きなんだろ?」
「ちげえ! だから俺が好きなのはもっふもふの方だって!」
「だから俺がそのもっふもふなんだろーがよ」
「ちっ、ちげ……くねえけど、ちげえ! それとこれとは別なんだっつの」
「どこがどう『ちげえ』んだ。俺にも分かるように説明してみろ」
「ふぐううっ」
なんだかんだ言いながら、凌牙はそばに人がいないと見るやいなや、どこでも俺を抱き寄せてキスしてくるようになっちまった。ここんとこ、ずっとだ。
みんなが着替え終わっていなくなったサッカー部の部室で。放課後の教室で。教室移動時間中の空き教室で。たまには学校の図書館の隅っこで。
今日は校舎のはしっこにある階段の、一番上の踊り場だ。
凌牙の腕は、優しいのに力強い。決して俺を傷つけることはないのに、どうしても逃げられなかった。
「俺が嫌え、ってことでもねえんだろ?」
「うぐっ……だ、だからそれはっ」
そんな文句をつけるうちにも、凌牙の唇は俺を決して逃がさない。額に、頬に、首筋に。耳も時々、かぷっと噛まれる。その途端、背筋から腹の下のほうへ、ジインと痺れたみたいな感覚が走って、腕から力が抜けてしまう。
……ズルイ。
こんなのぜってえ、俺の方が分が悪いじゃん。
「やめっ……凌牙! 俺、汗……かいてるしっ。臭いしっ」
「お前が臭いわけあるか。めっちゃくちゃいい匂いだ。ずーっと気になってたんだかんな。入学する前から」
「へ? そうなのかよ」
でも、入学する前って? どういうことだ。
耳の中に鼻の先をつっこまれて、「あうん」みたいな変な声が出る。慌てて両手で口をおさえたら、凌牙はますます嬉しそうになった。
「俺らは人間の数百倍の嗅覚を持ってる。単に鼻が利くってだけじゃねえ。匂いだけで相手の人格までわかっちまうぐらいのもんなんだ」
「へ、へえ……?」
「お前の匂いは特別だ。たぶん数百億分の一の確率でしか出てこねえ匂いのはずだぜ。『激レア』ってやつだ。SSRのさらに上よ」
「え、えええ?」
そんなこといきなり言われても、まったく実感が湧かない。
それにしてもSSRって。俺はゲームのレアキャラか! 課金しねえと出ねえやつかい!
「ほんとだって。数千年に一度しか出てこねえ、本物もんの稀少種だ。こんなの、他の奴らに嗅ぎ当てられたらたまんねえわ」
「いや、嘘だろ。マジで……?」
「実はこの世には、俺ら以外にも人外……つまり、人間じゃねえ奴らがいる。そいつらに目をつけられてたらと思うと今でもゾッとするわ」
「え、ええ……?」
「お前にとって分かりやすい例でいうと、吸血鬼とかな。あいつらもかーなーり、エグいからよ」
「え、えええ……」
なんかぞっとした。
吸血鬼って、あれだろ? 夜の闇にまぎれて人の生き血を啜る怖い化け物だろ?
そんなのに狙われた日にゃ、俺なんてあっというまに狩られるに決まってるし。
「あいつら、いまは日本に拠点を置いてねえからな。もしそうだったらヤバかったわ。異種間抗争まったなしだったぜ、マジで」
「そ、そーなのか……」
「そーなんだぜ」
ひええ。俺をめぐって人狼族と吸血鬼が抗争するって? なんかエグそう。ってか、「俺をめぐって」って自分で言っちゃったけどかなり引くわー。
「俺みたいな優しいウェアウルフに捕まったんだ。これは感謝してもらわねーと」
「はあ? なんかそれも違うくね?」
「ふっはは! ま、そうとも言う」
なんだかんだ言いながら、凌牙はずっと俺を抱きしめたまま、耳やら頬やら首筋やらにキスを落とし続けている。なんか、犬に舐められてるみてえ。時々首元に鼻先を突っ込まれてスンスン嗅がれるし、恥ずかしくってしょうがねえ。
「く、くすぐってえって……凌牙」
「お。ここ、性感帯か?」
「って、バカ! なに言ってんだ」
俺は思わず凌牙の胸をゲンコツで叩く。
「放せ、どアホ! もうそんな、クンクン嗅いでくんなっ。ぺろぺろ舐めんな、キスすんなっ」
「嫌だね」
凌牙が腕にさらに力を籠めてきて、本気で身動きがとれなくなる。
気づいたらシャツのボタンを外されていて、鎖骨のあたりから下へそろそろと唇がおりていくのがわかった。
「あうっ……ん!」
乳首をちゅっとやられてしまって、思わず変な声が出た。
「お。可愛い声」
「ばっ……ばっきゃろ!」
全身がかあっと熱くなる。
俺は無我夢中で、思いきり凌牙の鳩尾に膝蹴りを叩きこんだ。ゲスッとにぶい音がする。
「うっ」
さすがの凌牙も動きが止まる。
俺はすかさずその腕から逃れ出て、脱兎のごとく階段を駆け下りた。
ぱっと振り向き、舌を出して「いーっ」っていう顔をしてやる。
「バーカ、バーカ! この変態エロ狼! そこでちったあ反省しろやあ!」
「てンめ……勇太!」
「おえっ!?」
バッと飛び上がった凌牙のジャンプ力が半端なかった。
ここなら絶対追いつかれねえと思ったから止まったのに、凌牙は本当にモンスター級の跳躍力でひと跳びし、次の瞬間にはもう俺の目の前にいた。
「だーから。人狼を舐めんな、っつったぜ?」
「う……」
にやりと笑う顔がちょっと意地悪だ。
「いい蹴りくれたじゃねえか。ちょうどいい。こりゃ、お仕置き確定だな」
「はあ!?」
ああ。
俺の受難は、どうやらまだまだ続くらしい。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
人気作家は売り専男子を抱き枕として独占したい
白妙スイ@1/9新刊発売
BL
八架 深都は好奇心から売り専のバイトをしている大学生。
ある日、不眠症の小説家・秋木 晴士から指名が入る。
秋木の家で深都はもこもこの部屋着を着せられて、抱きもせず添い寝させられる。
戸惑った深都だったが、秋木は気に入ったと何度も指名してくるようになって……。
●八架 深都(はちか みと)
20歳、大学2年生
好奇心旺盛な性格
●秋木 晴士(あきぎ せいじ)
26歳、小説家
重度の不眠症らしいが……?
※性的描写が含まれます
完結いたしました!
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる