血と渇望のルフラン 外伝《人狼の恋》

るなかふぇ

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第一章 親友の正体は

5 匂い

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「ちげえ! そうじゃねえ!」

 それからしばらくは、これが俺の定番セリフになってしまった。

「だってよ。俺が好きなんだろ?」
「ちげえ! だから俺が好きなのはもっふもふの方だって!」
「だから俺がそのもっふもふなんだろーがよ」
「ちっ、ちげ……くねえけど、ちげえ! それとこれとは別なんだっつの」
「どこがどう『ちげえ』んだ。俺にも分かるように説明してみろ」
「ふぐううっ」

 なんだかんだ言いながら、凌牙はそばに人がいないと見るやいなや、どこでも俺を抱き寄せてキスしてくるようになっちまった。ここんとこ、ずっとだ。
 みんなが着替え終わっていなくなったサッカー部の部室で。放課後の教室で。教室移動時間中の空き教室で。たまには学校の図書館の隅っこで。
 今日は校舎のはしっこにある階段の、一番上の踊り場だ。
 凌牙の腕は、優しいのに力強い。決して俺を傷つけることはないのに、どうしても逃げられなかった。

「俺がきれえ、ってことでもねえんだろ?」
「うぐっ……だ、だからそれはっ」

 そんな文句をつけるうちにも、凌牙の唇は俺を決して逃がさない。額に、頬に、首筋に。耳も時々、かぷっと噛まれる。その途端、背筋から腹の下のほうへ、ジインと痺れたみたいな感覚が走って、腕から力が抜けてしまう。
 ……ズルイ。
 こんなのぜってえ、俺の方がが悪いじゃん。

「やめっ……凌牙! 俺、汗……かいてるしっ。くさいしっ」
「お前が臭いわけあるか。めっちゃくちゃいい匂いだ。ずーっと気になってたんだかんな。入学する前から」
「へ? そうなのかよ」

 でも、入学する前って? どういうことだ。
 耳の中に鼻の先をつっこまれて、「あうん」みたいな変な声が出る。慌てて両手で口をおさえたら、凌牙はますます嬉しそうになった。

「俺らは人間の数百倍の嗅覚を持ってる。単に鼻が利くってだけじゃねえ。匂いだけで相手の人格までわかっちまうぐらいのもんなんだ」
「へ、へえ……?」
「お前の匂いは特別だ。たぶん数百億分の一の確率でしか出てこねえ匂いのはずだぜ。『激レア』ってやつだ。SSRのさらに上よ」
「え、えええ?」

 そんなこといきなり言われても、まったく実感が湧かない。
 それにしてもSSRって。俺はゲームのレアキャラか! 課金しねえと出ねえやつかい!

「ほんとだって。数千年に一度しか出てこねえ、本物マジもんの稀少種だ。こんなの、他の奴らに嗅ぎ当てられたらたまんねえわ」
「いや、嘘だろ。マジで……?」
「実はこの世には、俺ら以外にも人外……つまり、人間じゃねえ奴らがいる。そいつらに目をつけられてたらと思うと今でもゾッとするわ」
「え、ええ……?」
「お前にとって分かりやすい例でいうと、吸血鬼とかな。あいつらもかーなーり、エグいからよ」
「え、えええ……」

 なんかぞっとした。
 吸血鬼って、あれだろ? 夜の闇にまぎれて人の生き血を啜る怖い化け物だろ?
 そんなのに狙われた日にゃ、俺なんてあっというまに狩られるに決まってるし。

「あいつら、いまは日本に拠点を置いてねえからな。もしそうだったらヤバかったわ。異種間抗争まったなしだったぜ、マジで」
「そ、そーなのか……」
「そーなんだぜ」

 ひええ。俺をめぐって人狼族と吸血鬼が抗争するって? なんかエグそう。ってか、「俺をめぐって」って自分で言っちゃったけどかなり引くわー。

「俺みたいな優しいウェアウルフに捕まったんだ。これは感謝してもらわねーと」
「はあ? なんかそれも違うくね?」
「ふっはは! ま、そうとも言う」

 なんだかんだ言いながら、凌牙はずっと俺を抱きしめたまま、耳やら頬やら首筋やらにキスを落とし続けている。なんか、犬に舐められてるみてえ。時々首元に鼻先を突っ込まれてスンスン嗅がれるし、恥ずかしくってしょうがねえ。

「く、くすぐってえって……凌牙」
「お。ここ、性感帯か?」
「って、バカ! なに言ってんだ」
 俺は思わず凌牙の胸をゲンコツで叩く。
「放せ、どアホ! もうそんな、クンクン嗅いでくんなっ。ぺろぺろ舐めんな、キスすんなっ」
「嫌だね」

 凌牙が腕にさらに力を籠めてきて、本気で身動きがとれなくなる。
 気づいたらシャツのボタンを外されていて、鎖骨のあたりから下へそろそろと唇がおりていくのがわかった。

「あうっ……ん!」

 乳首をちゅっとやられてしまって、思わず変な声が出た。

「お。可愛い声」
「ばっ……ばっきゃろ!」

 全身がかあっと熱くなる。
 俺は無我夢中で、思いきり凌牙の鳩尾に膝蹴りを叩きこんだ。ゲスッとにぶい音がする。

「うっ」

 さすがの凌牙も動きが止まる。
 俺はすかさずその腕から逃れ出て、脱兎のごとく階段を駆け下りた。
 ぱっと振り向き、舌を出して「いーっ」っていう顔をしてやる。

「バーカ、バーカ! この変態エロ狼! そこでちったあ反省しろやあ!」
「てンめ……勇太!」
「おえっ!?」

 バッと飛び上がった凌牙のジャンプ力が半端なかった。
 ここなら絶対追いつかれねえと思ったから止まったのに、凌牙は本当にモンスター級の跳躍力でひと跳びし、次の瞬間にはもう俺の目の前にいた。

「だーから。人狼を舐めんな、っつったぜ?」
「う……」

 にやりと笑う顔がちょっと意地悪だ。

「いい蹴りくれたじゃねえか。ちょうどいい。こりゃ、お仕置き確定だな」
「はあ!?」

 ああ。
 俺の受難は、どうやらまだまだ続くらしい。
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