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第一章 ひめごと
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それからも、兄弟は何度もつながった。
最初のうちは戸惑うことも多かったフランだが、やがてこの行為にも慣れ、今では毎夜のように兄に体を明け渡すのが、もはや習慣のようになっていた。
兄は最初のころこそバタバタしたが、そのうちすぐにフランの快感をいかに手際よく引き出すかをすっかり習得してしまったようだった。
フランは夜ごと、彼の手管で甘い声で啼かされた。
慣れてしまえばこの行為そのものは気持ちよさを伴うものだったし、少々度を過ぎてしまって翌日ちょっと体がだるかったり腰が痛かったりすることを除けば、大きな問題も起こらなかった。
なにしろ、これは自分たちの大事な「使命」なのだ。
この行為を通じて自分の方が体に宿った子供をこの世界に生み出す。
子供たちは大抵、男女一対として生まれてくるのだと教わってきた。自分たちはどちらも人類の男性側とよく似た体を持っていたけれども、人類は基本的には両性生殖をする生き物なのだという。子供が生まれてくる過程そのものも、だいぶ違うという話だった。
女性は男性よりも小柄で体のつくりが脆いものらしい。骨格も男性よりは線が細めで筋肉も少ない個体が多いのだという。「知育訓練室」での教育プログラムの中には人類の女性の写真や映像なども多くあったから、フランたちも知っていた。とはいえ、ごく基本的な知識としてだけだけれども。
はじめのうちは、フランもあれこれと色んなことを想像してわくわくしていた。
自分たちを親代わりとして生まれてくる子供たちは、「第一世代」と呼ばれることになる。人類としてこの新天地の土をはじめて踏む世代という意味だそうだ。
彼らの成長速度は、一般的な人類よりもかなり早いらしい。理由は簡単。すぐに第二世代、第三世代と、次々と子供たちを生み出せるようにするためだ。第二世代からはすぐに、一般的な人類と同じ成長速度に戻るのだという。
まあ、ともかくも。最初はみんな赤ん坊から始まるわけだ。
まだ見ぬ赤子の顔をちょっと想像してみるだけで、フランの胸はどうしようもなく躍った。
小さなその子の体を抱いたら、いったいどんな気持ちがするだろう。
自分とアジュールの本当の子供というわけではなくても、やっぱり気持ちとしてはそういう風にしか思えないだろうな。
赤ちゃんって、どんな声を立てて笑うんだろう。そして泣くんだろう。どんな目をして、僕たちを見上げてくれるんだろう。どんなわがままを言って、どんな癇癪を起すのだろう。
そして最初は、どんな言葉をしゃべるんだろう──。
だが、そんな幸せな夢ばかりがどんどん膨らんでいく日々は呆気なく終わりを告げた。
なにしろ、何度その行為をおこなっても、フランの体に異変が起こらなかったのだ。本来であればたった一回の行為でも、新たな「第一世代」がフランの体内に生まれてくるという話だったというのにだ。
やがてAIが無感情なあの声で『お二人とも、一度《胎》へお戻りください』と命じて来たのだ。
勘のいいアジュールはすぐさま眉間に皺を立て、ひどく暗い顔になった。一方のフランはあまりよく意味がわからず、しばらくきょとんとすることになった。
《胎》というのは、自分たちが卵から幼児の姿に成長するまで入れられていた、緑の羊水が満たされた「誕生装置」のことである。ドームの地下一階、中央部分に設置された巨大な筒型のそれは、この施設の──いや、言ってしまえばもはやこの惑星全体の要だった。
それは自分たちを育てるだけでなく、ひどい怪我や病気をした時などにも大いに威力を発揮する。ふつうの人類だったら呆気なく命を奪われるような傷や疾病に襲われても、この《胎》さえあれば自分たちは大抵のことは切り抜けられるのだ。
そればかりではない。《胎》は直接AIにつながっていて、「人形」と呼ばれる自分たちの健康チェックにも利用される。普通の人間よりもはるかに頑健だとは言え、未知の環境に置かれてどんな病原菌に冒されないとも限らないのだから、当然必要な機能だった。
二人で何度か《胎》の羊水の中に沈んでから、結果が出るには数日を要した。
フランは不安に思いつつも比較的のんきに構えていたのだったが、アジュールの表情はその間じゅうずっと硬いものだった。今にして思えば、彼はとっくに勘づいていたのだろう。つまり、自分たちの体の根本的な問題点について。
AIの下した結論は、ごく事務的、かつひどく残酷なものだった。
『アジュール様とフラン様のお身体に、決定的な不具合を発見』──。
無機的な声が耳に届いてしばらくは、フランはぽかんと空中に浮かんだ画面を見つめて立ち尽くしていた。
そこには自分たちの体のシルエットと、細かなデータが羅列されていた。
「え……? あの」
どういうこと、と訊こうとした時にはもう、隣に立っていたアジュールは素早く踵を返して部屋から出て行ってしまった後だった。
ひとり取り残されて、また呆然とする。
その後時間をかけて調べてみたが、不具合の原因そのものは不明だった。でも、それではっきりしたのである。
この先どんなにアジュールとあの行為を繰り返しても、自分たちには今後決して子供たちは生まれてこないのだということが。
最初のうちは戸惑うことも多かったフランだが、やがてこの行為にも慣れ、今では毎夜のように兄に体を明け渡すのが、もはや習慣のようになっていた。
兄は最初のころこそバタバタしたが、そのうちすぐにフランの快感をいかに手際よく引き出すかをすっかり習得してしまったようだった。
フランは夜ごと、彼の手管で甘い声で啼かされた。
慣れてしまえばこの行為そのものは気持ちよさを伴うものだったし、少々度を過ぎてしまって翌日ちょっと体がだるかったり腰が痛かったりすることを除けば、大きな問題も起こらなかった。
なにしろ、これは自分たちの大事な「使命」なのだ。
この行為を通じて自分の方が体に宿った子供をこの世界に生み出す。
子供たちは大抵、男女一対として生まれてくるのだと教わってきた。自分たちはどちらも人類の男性側とよく似た体を持っていたけれども、人類は基本的には両性生殖をする生き物なのだという。子供が生まれてくる過程そのものも、だいぶ違うという話だった。
女性は男性よりも小柄で体のつくりが脆いものらしい。骨格も男性よりは線が細めで筋肉も少ない個体が多いのだという。「知育訓練室」での教育プログラムの中には人類の女性の写真や映像なども多くあったから、フランたちも知っていた。とはいえ、ごく基本的な知識としてだけだけれども。
はじめのうちは、フランもあれこれと色んなことを想像してわくわくしていた。
自分たちを親代わりとして生まれてくる子供たちは、「第一世代」と呼ばれることになる。人類としてこの新天地の土をはじめて踏む世代という意味だそうだ。
彼らの成長速度は、一般的な人類よりもかなり早いらしい。理由は簡単。すぐに第二世代、第三世代と、次々と子供たちを生み出せるようにするためだ。第二世代からはすぐに、一般的な人類と同じ成長速度に戻るのだという。
まあ、ともかくも。最初はみんな赤ん坊から始まるわけだ。
まだ見ぬ赤子の顔をちょっと想像してみるだけで、フランの胸はどうしようもなく躍った。
小さなその子の体を抱いたら、いったいどんな気持ちがするだろう。
自分とアジュールの本当の子供というわけではなくても、やっぱり気持ちとしてはそういう風にしか思えないだろうな。
赤ちゃんって、どんな声を立てて笑うんだろう。そして泣くんだろう。どんな目をして、僕たちを見上げてくれるんだろう。どんなわがままを言って、どんな癇癪を起すのだろう。
そして最初は、どんな言葉をしゃべるんだろう──。
だが、そんな幸せな夢ばかりがどんどん膨らんでいく日々は呆気なく終わりを告げた。
なにしろ、何度その行為をおこなっても、フランの体に異変が起こらなかったのだ。本来であればたった一回の行為でも、新たな「第一世代」がフランの体内に生まれてくるという話だったというのにだ。
やがてAIが無感情なあの声で『お二人とも、一度《胎》へお戻りください』と命じて来たのだ。
勘のいいアジュールはすぐさま眉間に皺を立て、ひどく暗い顔になった。一方のフランはあまりよく意味がわからず、しばらくきょとんとすることになった。
《胎》というのは、自分たちが卵から幼児の姿に成長するまで入れられていた、緑の羊水が満たされた「誕生装置」のことである。ドームの地下一階、中央部分に設置された巨大な筒型のそれは、この施設の──いや、言ってしまえばもはやこの惑星全体の要だった。
それは自分たちを育てるだけでなく、ひどい怪我や病気をした時などにも大いに威力を発揮する。ふつうの人類だったら呆気なく命を奪われるような傷や疾病に襲われても、この《胎》さえあれば自分たちは大抵のことは切り抜けられるのだ。
そればかりではない。《胎》は直接AIにつながっていて、「人形」と呼ばれる自分たちの健康チェックにも利用される。普通の人間よりもはるかに頑健だとは言え、未知の環境に置かれてどんな病原菌に冒されないとも限らないのだから、当然必要な機能だった。
二人で何度か《胎》の羊水の中に沈んでから、結果が出るには数日を要した。
フランは不安に思いつつも比較的のんきに構えていたのだったが、アジュールの表情はその間じゅうずっと硬いものだった。今にして思えば、彼はとっくに勘づいていたのだろう。つまり、自分たちの体の根本的な問題点について。
AIの下した結論は、ごく事務的、かつひどく残酷なものだった。
『アジュール様とフラン様のお身体に、決定的な不具合を発見』──。
無機的な声が耳に届いてしばらくは、フランはぽかんと空中に浮かんだ画面を見つめて立ち尽くしていた。
そこには自分たちの体のシルエットと、細かなデータが羅列されていた。
「え……? あの」
どういうこと、と訊こうとした時にはもう、隣に立っていたアジュールは素早く踵を返して部屋から出て行ってしまった後だった。
ひとり取り残されて、また呆然とする。
その後時間をかけて調べてみたが、不具合の原因そのものは不明だった。でも、それではっきりしたのである。
この先どんなにアジュールとあの行為を繰り返しても、自分たちには今後決して子供たちは生まれてこないのだということが。
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