SAND PLANET《外伝》 ~はじまりの兄弟~

るなかふぇ

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第二章 来訪者たち

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「なあ、フラン。今日はあの、北側の川へ釣りに行きてえんだが。いいかな」
「ああ。構わないよ、ダミアン」
「お前も一緒に来るだろ? フラン」
「え? えーと、僕は……」
 
 近頃では、互いにこんな気安い会話も増えてきた。ほかの男たちの中にもこんな風に、次第にフランに対して馴れなれしい態度をとる者も出てきている。
 一緒に食料を運んだり、宇宙船の修理にあたったり、病人の看病をしたり。そうする中で「あんた」呼びがやがて「お前」呼びに変わり、「フラン」と皆から気さくに話しかけられることが増えていった。

 理由のひとつは明らかだ。
 あれからかなり努力して、フランは彼らの言語をなんとか操れるようになった。そうして作業をする中で、フランは自分の出自についても少しずつ彼らに話したのである。
 恐らくは彼らの遠い先祖にあたるところに、自分たちと同じ存在があったはずだということも。

 そうするうち、彼らの中ではそうしたいわゆる「始祖たちの物語」が語り継がれていないらしいことが分かった。
 彼らの歴史の冒頭部分、どこかの時点で何か情報を分断する事態が起こり、最初の「アジュールとフラン」に関する記憶を失ったという経緯のようだった。

 男たちは、心底不思議そうな顔でフランの昔語りを聞いた。
 やがてその話の流れで、フランは自分が本物の人間ではなく、彼らの遠い祖先がつくりだした「人形ドール」であることも語ることになった。
 つまり、自分が人と交わって子供を為すことのできる体をしていること。
 その相手は、男性でも女性でも構わないということをだ。

 今にして思えば、それがいけなかったのだ。
 そんなに簡単にこちらの重要な情報を開示するべきではなかった。
 なによりその時、男たちの中の幾人かが不思議に暗く熱のこもった目をしてフランの体を舐めるように眺め回している様子だったのを「なんだか変な感じだな」と思っただけで軽く流してしまったのもいけなかった。
 あの比較的冷静なダミアンですら、獰猛そうな瞳の奥に一瞬だけ、ぎらりと暗い炎を宿らせたように見えた。一同の隅っこにいるロバートが、やや心配げな顔でフランとみんなの顔色をちらちらと窺うようにしていたが、フラン自身は大して気にせず、なんとなく流してしまった。

 その後、なぜかますます男たちとフランの距離が縮まったように思われた。
 ときに彼らは作業の合い間にフランの肩を抱きよせ、金色の髪を愛おしげに撫でてきた。そしてときにはこちらの足に足を絡め、膨らんだ股間を押し付けてくる者まで現れだしたのである。





「おい、てめえ! そこで何をやってんだ!」

 男たちの間でふたたび些細なことから衝突が起きるようになったのは、それから間もなくのことだった。
 理由は簡単だ。以前のような食料や水の奪い合いに代わり、今度はフラン自身が彼らの争いのもとになってしまったのである。

「フランにべたべたするんじゃねえや。ちょっと目を離した隙にさぼりやがって。さっき言った仕事、終わったのかよ」
「そうだそうだ。ったく、油断も隙もあったもんじゃねえな!」
「何をっ! お前らこそ、いつもフランの尻にぺったりへばりつきやがってよ。そこらの魚のフンのほうがなんぼかマシってもんだぜ!」
「なんだとっ、こいつ!」
「おう、やるかあ!?」

 そんな言い争いが、しばしば殴り合いに発展する。
 ダミアンは一応この乗組員クルーのまとめ役という立場だったが、この争いをどうもうまくおさめることができないらしかった。

「てめえら、やめろ。フランはみんなのフランだぞ」

 せいぜいが、そんな戯言ざれごとみたいな仲裁に入るぐらい。言ったところでなんの説得力もないのは明らかだった。
 いや、彼にり成しなどできるはずもなかったのだ。なんと言っても彼自身が、すでに相当にフランに入れ上げてしまっていたのだから。
 その頃にはもう、誰よりもダミアン自身が他の者の目を盗んではフランを抱きしめたり、頬にキスをしたり、時にはそれ以上のことを仕掛けてきたりしていた。

 当然、他の男たちは納得しなかった。
 しまいにはダミアンが何を言ったところで「どうせてめえが独り占めしてえだけだろ」と白い眼を向けるばかりになっていた。
 日を追うごとに男たちはギラギラと血走った目で互いの動向を窺いあうようになり、フランと誰かを二人きりにしないような決まり事まで、いつのまにやら成立していた。そしてフランに要らぬちょっかいを掛ける者がいれば、容赦なく制裁を下すという「私刑の許可」すらまかり通っていたのである。

(どうしよう。なんか、すっごくまずい気がする)

 そんな風には思いながらも、フランにもどうにもできなかった。
 何がまずいといって、今までフラン自身がこうした複数の人々の間でうまく立ち回る経験を一切したことがなかったのがいけなかった。
 今まではあの兄とコミュニケートできていさえすれば何の問題もない人生を送ってきた。それがいきなりこんな高度なコミュニケーション能力を求めらる状況に放り込まれることになったのだ。対処が困難なのは当然だった。

 それに、自分には大切な「使命」がある。
 いずれ彼らのうちの誰かから、いやできれば全員から、その遺伝物質を含んだ精液の提供を受けなくてはならない。そのためには、彼らみんなと満遍まんべんなく仲良くしている必要がある。まして無下に接触を忌避したり、あからさまに嫌な顔をするわけにもいかなかった。

 だから。
 フランの対応は、一歩も二歩も遅れてしまった。
 困惑してあれこれと手をこまねいているうちに、事態はあれよあれよと取り返しのつかない局面へと転がり落ちていったのである。

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