SAND PLANET《外伝》~忘れられた惑星(ほし)~

るなかふぇ

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第四章 この宇宙の片隅で

6 告白

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 そのまま男に肩を貸し、青年はゆっくりとベッドルームに戻った。そうやっているわずか数分の間にも、男の足取りは次第にしっかりしてきているようだった。回復するとなれば異様な速さを示すのが、かれら「人形ドール」の特質でもあるのだろう。
 寝台に座らせてその隣に腰かけると、男は低い声でぼそっと言った。

「元気だったか。あいつは」
「え? あ、うん……」

 急に言葉に元気のなくなったこの男を前に、どうしたらいいか分からない。
 この際、言いたいことは全部言ってしまえと思っていたのに。こんなこの人を前にしたら、半分も言えなくなってしまった。ちょっと歯がゆい思いがする。

「うーんと……。上の弟はセディっていってね。いま大体、このぐらいの背丈」
 座ったまま、手を持ち上げて高さを示す。
「黒髪の、とっても元気で優しい子だったよ。どっちかと言うとヴォルフパパ似かな? 下の弟はテディ。こっちはまだ赤ちゃんだった。フランパパによく似てて、めちゃくちゃ可愛かったよ」
「…………」
「宇宙連邦の辺境の星域でね。田舎の村でみんなで仲良く暮らしてた。まだまだ子供も生みたいんだって」
 そこでちょっと言葉を切った。
「みんな、とっても幸せそうだったよ」
 男はふいと顔を上げ、青年を見た。
「……そうか」

 そこから、不思議な沈黙があった。男が何を思っているのか皆目わからず、青年は戸惑いながら綺麗な横顔を見つめるしかできなかった。
 やがて男はぽつりと言った。

「別に、構わないんだぞ」
「え?」
「フランに会ったのなら、もう聞いたんだろう。お前が本当はだれの子か」
「え? あの……」
 青年は一瞬、返答に詰まった。が、それでも一度こくりと頷き、小さく「うん」と返す。
「それなら話は早い。お前が望むなら、無理にここにいる必要はない。あっちで本当の親兄弟と暮らしたって構わないんだぞ。そう言ってるんだ」
「え、パパ……」
 青年は困惑して男を見返した。男はこちらを見ようともせず、じっと部屋の隅の床あたりを見つめたままだ。
「聞いたんだろう? そもそもは、俺が無理やりあいつらからお前の『卵』を奪ったことが始まりだ。……すべて、俺の身勝手な望みから生じたことだった──」
「…………」
「だから、すべての意思決定権はお前にある。あいつらだって、お前を受け入れてくれるはずだ。そう言ってくれたんじゃないのか?」
「ちょっと、パパ……待ってよ」
「これからどこで生きたいかは自分で選べ。お前自身の自由な意思でな。どんな選択をしたとしても文句は言わん。約束する」
「待ってってば!」

 とうとう我慢できずに、青年は立ち上がった。男に向き直る。

「なに勝手に話を進めてるの? 僕、いまひと言でも『あっちに帰りたい』なんて言った?」
「しかし──」
「ああっ、もう!」

 青年はそこにかがみこむと、真正面から男の顔をぱっと両手で挟み込んだ。そうして鼻先が触れるほどに顔を近づける。

「パパ。ちゃんと聞いて。お願いだから。……僕、とっても大事なことを伝えようと思って帰ってきたんだから」

 男は沈黙したまま、ゆらゆらと揺れる視線を上げた。透明な澄んだ氷みたいな瞳の奥で、明らかに寂しげな光が揺れている。

(まったくもう。この人は!)

 青年はひとつ大きく息をつき、それから一気に言った。

「パパ。……僕、パパが好きだよ」
「…………」

 男の両目が大きく見開かれ、二、三度またたいた。
 なにがそんなに意外なのだろう。そう思ったら、青年の腹の底でちろちろと赤い炎がゆらめきだした。その名はきっと「苛立ち」だ。

「パパが起きたら、ちゃんと言おうと思ってたんだ。それなのに、いつまでも目を覚ましてくれないんだから。もう、すっごく不安だったのに!」

 男は絶句して、ただただ青年を見返しているばかりだ。

「パパが大好き。……パパとしてもそうだけど、それ以上の意味でもね」
「え……?」
「『それ以上』って、意味わかるよね?」

 男はひたすら、目をみはったまま沈黙している。

「フランパパが、あのヴォルフパパを大好きでいるみたいに。この宇宙でたった一人の、あなたの特別なだれかになりたい」
「…………」
「僕、パパにとってのそんな人になりたいんだっ……!」

 男は絶句したまま、口元を片手で覆った。その視線は相変わらず、戸惑ったようにそこいらをうろついている。
 青年は次第に心がざわつきだした。胸の鼓動がどんどん早くなり、血流が耳の奥でうるさいぐらいにその音をがなり立たせている。

「……ダメ、かな? やっぱり、僕なんかじゃ」

 小さな声でそっと訊いたら、男はやっとこちらに目を合わせてくれた。

「すまん。……いや、ちょっと待ってくれ。混乱してる」

 男は肩を落として大きく息を吐くと、片手で目元を覆ってうなだれた。

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