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しおりを挟む「ん、んあっ……あ、あ……」
もう何度目かになるその行為で、アルファはすでに相当にだるい腰を動かしている。体位を変え、何度も貫かれたそこの感覚も、もはやあまりない。
部屋にはずっと、二人の体がたてる淫らな水音と、汗ばんだ肉のぶつかりあう音が響いている。
「あ、も……だめぇ……ベータ」
片足を持ち上げられて限界まで開かれ、また激しく揺すり上げられてとうとう音をあげた。その声だって、散々に啼かされて掠れ切っている。股間の関節がぎしぎしと悲鳴をあげる。体は柔らかいほうだと思うけれど、さすがにもうこれ以上は無理だろう。
すでにすっかり絞りとられきり、透明なものをわずかに吐き出すだけになったそこが、またぶるりと震えて欲望の残りを放つ。
「あ、……あ……ん」
もう眠い。休ませて欲しい……。
「限界か? ……まあ、無理もないな」
男はどこにそんなスタミナがあったのかと思うぐらいにまだ元気だ。放ってしまったものですっかり汚れたこの体を嬉しそうに抱きしめて、耳と言わず目と言わず、あらゆる場所にキスを落とす。
すべて男の手にされるままになりながら、アルファはどうしても落ちてきてしまう自分の瞼をどうしようもなかった。
眠い。ただ眠い。
もう、眠らせて欲しい……。
「悪かった。せっかくの休みでもあるのにな。『体を休ませる』という主旨からは大いに外れた真似だな、これは」
苦笑して耳に囁かれるその声も、ふわふわと遠くから聞こえ始める。
「いい……んだ、それは──」
確かに七日間ずっとこれでは参るけれども、最初の数日ぐらいはもう、何もかも忘れて彼だけのものでいたかった。それは心底、アルファにとって嘘いつわりない気持ちだった。
明日立てなくなっても、寝床から起き上がれなくても構わない。「これ以上はもう本当に無理」という限界まで、彼に愛し尽くして欲しかった。
そして恐らく、彼もそう思ってくれている。それが分かるからこそ、アルファは何も彼の求めを拒むつもりがなかったのだ。
「すまな……い。体力が……なくて」
もう完全に目を閉じてしまっていながらもそう言ったら、唇を柔らかく吸い上げられた。
「構わんさ。寝ていろ。あとはやっておく」
「……ん。すまな……」
最後まで、ちゃんと言えたかどうかすら定かではなかった。アルファはその言葉を最後に、あっという間に眠りの底に落ちて行った。
◇
(……眠ったか)
ぴたりと目を閉じて、自分の腕の中でもうぴくりとも動かなくなった青年を、ベータはじっと見つめて口元を緩めた。汗に濡れた黒髪を撫で、その額にそっと口づける。
なんの不安もない顔で、この腕の中で眠る皇太子。すやすや眠るその顔は、まるで子供のようにも見える。
数年前であったなら、だれがこんなことを予想しただろう。
まだスメラギに大いなる恨みを抱き、いつか復讐してやるのだと心に誓っていたあの頃の自分。あの時の「ムラクモ」だったら、今の自分のこの状況をどんな言葉で罵倒しただろうか。
(それが今では、このザマだ。……まったく、参る。お前にはな──)
つん、と軽く彼の額を指先で小突く。
長くなった彼の髪の乱れを直し、その頬と首にまたキスをする。皇子の体にはすでに、自分がつけた所有の証が花弁のように散っている。文字通り体じゅうにつけてあるが、それでもまだつけ足りない。
イヤと言うほど抱いたはずなのに、それでもまだ、抱き足りない。
このしばしの休日が終わってしまえば、またもとの多忙な日々が待っている。彼のそばで仕事をサポートするのは心楽しいしやりがいもある。だが、夜の自由が利かないのは何とも不便だ。
正直なことを言えば、このまま彼を掠め取ってどこか外宇宙の果てへでも連れ去ってしまいたい。勿論、理性がそれを凌駕してしまうのはいつものことだが。
脱ぎ捨てていた自分の夜着を拾い上げ、素早くそれを身に着けてから、ベータはアルファの体を彼の夜着で包み、抱き上げた。そのまままた、湯殿に向かう。今回は後々のことを考えて彼の中に放つことはしていないが、彼をこのまま汗と白濁にまみれたままにしておくわけには行かないからだ。
廊下に出たところで、すうっと音もなく例のアンドロイドたちがやってきた。汚れて乱れきったベッドのことは、かれらががきれいにしてくれるのだろう。かれらに「よろしくな」と声を掛けて、ベータは歩き出した。
湯殿でアルファの体を清め、ベータは眠ったままの彼を抱いて湯舟に入った。
目を上げれば、今にも襲い掛かってくるのではないかと思うほどの見事な星空。ぼんやりしていると、ついそこに吸い込まれそうな気持ちになる。
ここにこうしていると、何となく彼と二人、ただ宇宙空間に浮かんでいるような気になった。
相変わらず眠ったままのアルファを膝の上に横抱きにし、ベータは星空を見上げて息をついた。
……平和だ。
そして多分、幸せだ。
誰かと一緒にいながらも、こんな穏やかな気持ちでいるのは恐らく、自分の人生では初めてだろう。
もちろん、母のことは別にしてだが。
「……ん」
眠ったまま、皇子がこちらの体に腕を回して抱きついてくる。長く美しい睫毛が時おり、ぴくりと震えるのすら愛おしい。と、何となくその表情がうっすらと微笑みを浮かべたようだった。
何か、楽しい夢でも見ているのだろうか。
ベータは彼の体を抱き寄せると、その唇をまた静かに吸った。
楽しい夢を見るがいい。
どうせ、つらいことが何ひとつない人生などない以上は。
ほんの僅かでも、一瞬でも。
お前と二人、
幸せだと思えるこの瞬間、この時間を、
ただ淡々と積み重ねよう。
「……愛してる」
男の小さな囁きが、湯の面をすべって散っていく。
夜空に瞬く星ばかりが、微かなその声を聞いていた。
了
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