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佐竹と内藤の場合
1 ※
しおりを挟むこんなに気持ちいいなんて、知らなかった。
男同士で、こんなことをするのがだ。
「あ……んっ、んう……っああっ……」
あいつの下で、思い切り足を広げられて。あいつのものを、とんでもないところに受け入れて、まるで女みたいな声を上げて。
薄暗くはしてもらっているけど、体の全部、恥ずかしい場所までみんなこいつの目の前に晒して、腰を振って。
「や、……あ、あ……さた、けええっ……!」
こいつとこうするのにも、随分慣れた。
大学に入って、二十歳になって。やっと一緒に暮らせるなあと思ったら、こいつが一年海外に留学して。だから、俺とこいつが落ち着いて暮らせるようになってからの日数は、まだ大したものじゃない。
でもその短い間にも、俺の体はずいぶん慣れた。
初めのうちは、「男同士ってこんな風にするんだ」とか、「まさかほんとにここに入れるの?」とか、「こんなので気持ちよくなるんだろうか」とか、とにかく恐怖心や不安の方が大きくて、なかなか慣れなかったんだけど。
いや、もちろんちょっとの好奇心もあった。それは本当。
佐竹のものが、俺の中を激しく出入りして敏感な場所を刺激してくる。はじめのうちは、どこが「イイところ」なんだかあまりはっきりしなかったもんだけど、今ではそれも明瞭にわかる。
こいつはその場所をとても的確に把握していて、でもそこを敢えて外して攻めてみたり、急に激しく突いてみたり、とにかく俺を……というか、俺の体を翻弄し、悦ばせることに余念がない。
「あっ……あ、ああ……んっ! も、だ……だめっ……!」
ぎゅっと佐竹の肩にしがみついて背中を丸める。腰の中から、いつもの堪らない衝動が湧きあがってくる。だけどこの頃、こいつはあまり簡単に俺をイかせてくれない。
その瞬間をちゃんと見計らっていて、きゅっと片手で根元を握りこまれてしまう。
「ひあっ……っ! や、さた……それっ、やあっ……!」
腰の中の欲望が暴れまわり、下腹を焼き尽くすみたいだ。出口を失くしたその衝動が、ずうんと腰の奥から脳天までを突き上げてくる。その状態で、また激しく佐竹が腰を進めてきて、俺はいつも悲鳴をあげる。
「やっ……あっ、あっ……あんっ、あんんっ……!」
気持ちいい。
ヘンになる。
時々、本当に変になっちゃうんじゃないかって思うくらい、こいつはこの行為が上手くなりすぎてしまってる。俺の欲望のありかも、そのゲージもちゃんと見極めいて、ギリギリのところで我慢させ、そのさらに先を見せようとしてくれる。
そこを、存分に攻め立てられる。
こうなってしまうと、俺はもうされるがままだ。子猫みたいなよがり声をあげまくって、口もあけっぱなしでよだれまで垂らして、必死で佐竹にしがみつくしかできない。
涙を流して、濡れた舌をだらしなく見せて。
啼いて、啼いて、啼きまくる。
それでも、まだ終わらない。
大事なところを握りこまれたまま、ぐるっと体位を入れ替えられて、今度は座った佐竹の腰の上で、幼児が小便をさせられるときみたいな格好で突き上げられる。
また、散々に啼かされる。
「やはっ……ああん、あっあ、あああっ……!」
後ろから首に吸いつかれ、歯を立てられ。それでも後で服を着たら、ちゃんと隠れるようになっているんだから驚いてしまう。
さっきから舐められたり噛まれたりし続けている胸の先っぽは、ずっとぴんぴんに立ったまま、ぬらぬらとあいつの唾液で光っている。
こんな場所が気持ちいいだなんて、それまで俺は知らなかった。今ではちょっとこいつにいじられたり舐められたりするだけで、すぐに変な声が出てしまう。前はそんなこと絶対になかったのに、普段、シャツを着ている上からでもその形がはっきり分かるようになってしまった。
いつももの欲しげにツンと立っているそれを、こいつはあまり喜ばない。人に見せるのが嫌みたいだ。ときどき「もう一枚、上に着たらどうだ」と、やんわりと言ってくるのはそのためだ。
きっと俺、いまめちゃくちゃいやらしい格好だ。
後ろにあいつのものを咥えこんで、「ダメ、ダメ」なんて言いながら、それでもめちゃくちゃに腰を振って。
どこかのAVなんて、そこのけなんじゃないだろうか。
佐竹とつながってるその部分も、上の口とは裏腹に、しっかり佐竹のものを咥えこんで放さない。まだまだ佐竹を欲しがって、あいつのそれに吸いつき、それ自体が生き物みたいに締め上げている。
「ふあ、ああっ……あっあっ、ああああーっ……」
やがてぶわっと、腰の奥の欲望が違う形で昇華する。その場所で爆発し、腰から全身を貫いて、脳が真っ白になり、自分と外界との区別がつかなくなる。
体じゅうにびりびりと濃厚な余韻が走り、尻がひくひくと痙攣する。
それでやっと、佐竹の手は俺のものを解放してくれる。
普通ならそこで勢いよく飛び出るはずのものは、一度堰き止められてしまったためにそこまでの強さは持たない。そこからだらだらと、いつまでも俺の腰に白く濁った雫を落とす。
「ひっ……ひいっ……ひうんっ」
快楽の振れ幅があまりに大きすぎて、俺はしばらく放心する。ただ出すだけの時よりも、どう考えても大きすぎる。
なんか、麻薬みたい。
……戻れない。
俺、絶対に戻れない……と、思う。
こんなに気持ちいいことを知ってしまったら、とてもじゃないけど、後ろを誰かに愛されない、普通の男女のセックスには戻れなくなってしまうと思う。
「すまん。もう少し、付き合ってくれ」
「ん……」
背後から、聞き慣れた低音のいい声がする。
それが耳朶に滑り込んできただけで、多分俺の足の間のものはまた、ぴくんと反応しちゃってる。
「ふ……う」
俺はくずおれそうになる体をどうにか起こして、次にくる刺激を待つ。佐竹はしっかり俺の腰と胸を抱いてくれて、下からの激しい抽挿がまた始まる。
俺はもはや、全部あいつのなすがままだ。
ぐちゅぐちゅと下から聞こえてくる水音が、俺の耳をまた犯す。
「あっ……あひっ、ひ、ひいっ……」
やがてどくりと俺の中であいつのものが震えてはじけるのを感じて、俺は大きく息をつく。
胸が弾んで、しばらくはゆっくりと息ができない。
「は……はあ……」
佐竹の肩に頭をもたれさせて、しばらく荒い息をつく。
汗がひやりと肌を冷まして、急に周囲の気温を感じる。
(ああ……ダメだよ)
これじゃほんと、俺、いつかヘンになっちゃう。
こんな風に抱かれてばかりいたら、気持ち良すぎて、ちゃんと真面目な事とか、勉強して覚えておかなくちゃなんないこととか、きれいに抜けていっちゃうよ……。
「ひっ……う」
ずるりと俺の中から佐竹が出て行く。それだけでもびくりと感じて、俺は全身を震わせてしまう。
……ああ。やだ。
行かないで。……もっと、欲しい。
(……でも)
俺はこのところずっと、本当は気になっていることがある。
ほんとに、こんなんでいいのかなって。
だってこれ……なんか俺ばっかり、気持ちよくなってるような気がするから。
いつもみたいに風呂の準備をして、佐竹がバスルームから戻って来る。激しく何度もしてしまった後は特に、俺はろくに立ち上がれなくなる。だからこいつはいつも肩を貸してくれるのだ。
本当は姫だっこがしたいみたいなんだけど、それは俺が必死で拒否した。それでも、あんまり意識が朦朧としてるときはやっぱり抱き上げられちゃってるみたいだけど。
佐竹の足の間に挟まれるようにして、二人して湯舟に沈むと、いつものように優しい手つきで佐竹が俺の体を綺麗にしてくれる。俺はついうとうとと、その手に甘えて舟を漕ぐ。
「眠っていていいぞ」
ちゅ、と音を立てて項のあたりにキスされる。
ほら、またそうやって俺を甘やかすんだから。
声なんて、めちゃめちゃ優しいし。
みんなが知ってる「硬派で朴念仁の剣道野郎」の顔は、一体どこへ行っちゃってんの?
みんながこんなお前を見たら、全員卒倒するんだろうな。
……俺だけの手。
俺だけの、佐竹。
(でもさ……)
俺、やっぱりこのままじゃダメだよなって思うんだ。
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