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終章 柔らかな未来へ
6 蒼き月夜 ※
しおりを挟む「ひ……っ」
踏み込んできたものの質量に、瑠璃は全身を強張らせた。
あまりに大きい。そして、熱い。まるでそこに火が付いて、腹の中が燃え上がってしまいそうだ。
先端を少し突き入れたままの状態で藍鉄が止まる。
「どうか、息を止めぬよう。ゆっくりと吐いて、なるべく力をお抜きください」
「そっ……、あ、ううっ……」
言われた通りに頑張ってみたけれど、これは相当大変だった。
そこがめりめりと音を立てそうだ。
無理だ、と今にも白旗をあげたくなったが、瑠璃は堪えた。
自分がそう望んだのだ。無理をしてでも抱けと、この男に命じたのだ。
熱棒がじわじわと瑠璃のそこを犯している。それと同時に、体全体から脳までを真っ白な光が犯していく。
瑠璃は喘いだ。腰が勝手に引けていき、藍鉄の腰から逃げようとする。
と、男が瑠璃の腰を両手でつかんだ。
「うあ……っ!」
ずぐぐっとまた腰を進められる。
最初の大きな部分を飲み込んだのか、ほんの少し楽になった。
藍鉄が止まって、じっとこちらを窺っている。
「ご無理すぎます。ここまでといたしましょう」
「バカッ! だめに、きまってる、だろ……」
言葉はどうしても泣いているように歪んで途切れてしまう。
そんなものは見せたくないのに、涙が勝手にあふれて目尻から落ちていく。藍鉄がそれをぺろりと舐めて吸い取った。
「しかし。おつらそうです」
「いい、からっ……!」
体じゅうがみしみしと音を立てそうだ。だがそれでも、瑠璃は強情に藍鉄の身体にしがみつき、彼を放そうとしなかった。
やがてとうとう、藍鉄の腰が自分の尻にぴたりとついた感触がした。
「はい、った……?」
「はい」
藍鉄の声もさすがに少し苦しげだった。男はそれでも、そのまましばらく動かずに瑠璃の様子を見ているようだった。
瑠璃は浅い呼吸を小刻みに繰り返しながら藍鉄を見上げ、必死に両頬をひきあげた。
「ん……、きもち、いいか……? あいてつ」
途端、ぐっと腹の中のものの硬さと体積が増した。
「ふあっ……! あ」
凄まじい圧迫感。
はい、と男が掠れる声で返事をした。
ああ、いっぱいだ。
私の中が、お前でいっぱいになっている。
もう、はち切れてしまいそうだ。
瑠璃が遂に「もういい、動けよ」と言うまで、男の鉄壁の自制心はやっぱり崩れなかった。
それでもゆっくりと突き上げられて、あの場所を刺激されるに及んで、瑠璃は何度目かに気を遣ると、あっさりと意識を手放した。
◆
次に目を開けたら、瑠璃は硬い男の胸に頬をあて、抱きしめられるようにして寝台に横になっていた。
衣服こそ着ていなかったが、体はすっかり綺麗にされている。
瑠璃はそのまま、しばらく目の前の精悍な男の顔をじっと見ていた。
月の明るい夜のようで、部屋は窓からさしこむ月光で青く照らされている。ここでは海底都市の偽物の月ではなく、本物の月が輝いている。
瑠璃は息を殺して男の寝顔を見つめ続けた。
わずかでも身じろぎすれば、男はすぐにも目を覚ますだろう。この男の寝顔を見るのは初めてだ。これからはもっともっと見られるようになるだろうけれど、これはせっかくの「はじめて」だ。やっぱり大事にしたかった。
結局、行為はそんなに「ちゃんと」はできなかった。
いや、本当はよくわからないが、多分できていない。途中で意識を飛ばしてしまったから、最後にどうなったかはよく覚えていないのだ。
だがこの藍鉄のことだ、瑠璃の身体を心配しすぎて、ろくに動けなかったはずである。生まれて初めて男を受け入れたその場所は、とっくの昔に限界だった。
──お身体が慣れてこられれば、またいずれ。
そう言って最後に優しく口づけをしてくれたから、遂に瑠璃も折れたのである。
(ちぇっ)
少し残念だ。でも、別に失望はしていない。まだまだこの先があると、この男が約束してくれたから。ほかならぬこの男の言うことだから。
だから安心していられる。
この先、もっともっと慣れれば男をもっと悦ばせてやれるだろう。いや、必ずそうなって見せる。まだまだ羞恥が先に立つけれど、もっと甘い声だって聞かせてやれるはずだと思う。
「お目覚めですか」
低く囁かれて、男が目を開けているのに気がついた。
「あ。……うん」
男の手がひどく優しく瑠璃の髪を撫でている。
「水を持って参りましょう」
言われて初めて、ひどく喉が乾いていることに気づいた。
無理もない。あれだけ汗をかいて、嬌声をあげ続けたのだ。
藍鉄はそっと瑠璃の身体を起こしてくれてから立ち上がり、壁に造り付けの給水装置からコップに冷水を注いで、すぐにベッドに戻って来た。
瑠璃は素直に受け取ると、喉を鳴らして飲んだ。体じゅうの細胞に染みわたるようだ。ひどくうまかった。
「はあ……。おいしい。ありがとう、藍鉄」
「いえ」
隣に座った男の肩に、こてんと頭を凭れさせる。
「お前も飲めよ。喉が渇いているだろう」
「は。有難う存じます」
そう言いながらも男は動かず、瑠璃の背中に腕を回して抱きよせてきた。
瑠璃は顎を上げ、黙ってキスをねだる。
欲しいものは、すぐにおりてきた。
「あいてつ……」
「それなのですが」
そして、男はそっと教えてくれた。
親からもらった本当の自分の名前を。
「藍鉄」は飽くまでも忍びとしてのコードネームであり、本名は別にある。
今この島では「かもめ園」の園長だけが知っている、その名前を。
瑠璃は男の目をじっと見た。
それから、ふわりと微笑んだ。
それは自然に湧きあがってきた笑みだった。
藍鉄の目が、驚いた色を浮かべてこちらを見ていた。
瑠璃はその瞳をじっと見つめてもう一度言った。
──すきだよ、……。あいしてる。
今度は彼の名をちゃんと呼んで。
藍鉄の腕が、前からさらに強く抱きしめてきた。
瑠璃も負けじと抱きしめ返した。
蒼い月がただ静かに、抱き合うふたつの影を見下ろしていた。
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