16 / 227
第二章 魔王エルケニヒ
6 食事
しおりを挟む
「てめえ、もう一回言ってみろや! なんで俺らの《BLレンジャー》の名前が言いたくねえって? 下品だってか! 許さねえぞこの野郎っ」
「……うん。なぜなのかは正直よくわからぬ。わからぬが、無性にまた本能的に、その隊名は『口にしてはならぬ』と、私の根源がそう叫ぶのだ」
「はあああ? 意味わかんねー」
小難しく言ってみたところで、意味は変わらない。「下品だから言いたくない」と、つまりそういうことなのだ。まったく腹が立つ。
(このやろ、このやろ、このやろ……!)
今回はみずからなった紺色の「ミノムシ状態」のまま、リョウマは歯をむき出して憤慨し続けている。顔を真っ赤にしてプンスカ怒っているうちに、気がついたら魔王はすぐそばにやってきていた。ベッドの縁に、まるで当然のような顔で座っている。
思わずリョウマはうしろへずり下がった。
「……あ? な、なんだよっ。来んなよっ」
「ずっとまともな食事もしていなかったのだ。なにか食べねば身がもつまい。そなたが目を覚ましたと聞いて、適当に見つくろわせたのだ。まずは食すがよい。話はそれからだ」
「う……」
途端、またもや腹の虫が盛大に鳴いてしまった。
魔王が満足げににこにこ笑う。
「そら見よ。そなたの腹はまことに正直だな」
「くっそう!」
今日ばかりは、「食事」とか「食べる」とかいう単語にすぐに反応する、真っ正直な自分の腹の虫を恨む。
「まあ、気にするな。魔都に招待したのは私自身なのだから。遠慮せず、なんでも食すがよいぞ」
魔王が手のひらを上にして指し示す先には、侍従らしき魔族の男女がずらりと並んでいる。普通の人間からすると、耳が尖っていたり牙が生えていたりと異形ではあるものの、身なりや身ごなしは品がよくて、きちんと教育されているように見えた。
彼らはそれぞれ、大小の皿やポットなどをワゴンに乗せたり手で捧げ持ったりして、静かに入口のところに控えている。
そちらからなんともいい匂いがしてきて、リョウマは思わずごくりと喉を鳴らしてしまう。まともな食事なんて、ずいぶん久しぶりな気がした。そんなリョウマの表情をじっと観察するような目で見ていた魔王が、穏やかに言った。
「まずは粥などからの方がよいか? そなたの好みと、食せるものがわからぬゆえ、いろいろと揃えさせてはみたのだが」
「なっ、なんでもいいよ! 早く、早く食わせろっ!」
もう我慢できずに、リョウマは巻いていた掛け布をはね飛ばした。魔王がなぜかふっと微笑んで、自分のマントをさらりと夜着の肩に掛けてくれる。手つきが妙に優しい。
「そう慌てるな」
言って指をわずかに動かして見せただけで、侍従や侍女と呼ばれるらしい人々がすすすす、と音もなく動き始めた。ほとんど幽霊のようだ。
ベッドの上に座ったままでも食事ができるよう、小さなテーブルが運び込まれ、リョウマの目の前に据えられる。膝の上に食事用の布が広げられ、まずは水と粥が供された。
リョウマはほとんどものも言わず、まずは水をゴッゴッゴ、と喉を鳴らして飲んだかと思うと、今度はガッとスプーンを握りしめ、ががががが、と粥をほとんど一瞬で口の中にかき込んだ。
「そらそら。もう少し落ち着いて食せ。だれも盗らぬゆえ」
「むごっ、ふぐ、ふがうううっ」
侍従が再び入れてくれた水をまた喉を鳴らして飲み、次の料理をと要求する。
空の皿が素早く引かれ、つぎには柔らかく煮た肉と野菜のスープが供された。ずいぶん熱くて、これはそんなに早くは食べられなかったが、これまたリョウマは非常な速さで胃におさめた。
最後のスープまで漏れなく腹に収めてしまってから、ようやくリョウマはひと言いった。
「うっ……うっま」
「今ごろ感想か?」
ぷっと魔王がふき出した。嬉しそうににこにこ笑っている。
そのとたん、なぜかぴきっと侍従らが凍り付いた。
「……うん。なぜなのかは正直よくわからぬ。わからぬが、無性にまた本能的に、その隊名は『口にしてはならぬ』と、私の根源がそう叫ぶのだ」
「はあああ? 意味わかんねー」
小難しく言ってみたところで、意味は変わらない。「下品だから言いたくない」と、つまりそういうことなのだ。まったく腹が立つ。
(このやろ、このやろ、このやろ……!)
今回はみずからなった紺色の「ミノムシ状態」のまま、リョウマは歯をむき出して憤慨し続けている。顔を真っ赤にしてプンスカ怒っているうちに、気がついたら魔王はすぐそばにやってきていた。ベッドの縁に、まるで当然のような顔で座っている。
思わずリョウマはうしろへずり下がった。
「……あ? な、なんだよっ。来んなよっ」
「ずっとまともな食事もしていなかったのだ。なにか食べねば身がもつまい。そなたが目を覚ましたと聞いて、適当に見つくろわせたのだ。まずは食すがよい。話はそれからだ」
「う……」
途端、またもや腹の虫が盛大に鳴いてしまった。
魔王が満足げににこにこ笑う。
「そら見よ。そなたの腹はまことに正直だな」
「くっそう!」
今日ばかりは、「食事」とか「食べる」とかいう単語にすぐに反応する、真っ正直な自分の腹の虫を恨む。
「まあ、気にするな。魔都に招待したのは私自身なのだから。遠慮せず、なんでも食すがよいぞ」
魔王が手のひらを上にして指し示す先には、侍従らしき魔族の男女がずらりと並んでいる。普通の人間からすると、耳が尖っていたり牙が生えていたりと異形ではあるものの、身なりや身ごなしは品がよくて、きちんと教育されているように見えた。
彼らはそれぞれ、大小の皿やポットなどをワゴンに乗せたり手で捧げ持ったりして、静かに入口のところに控えている。
そちらからなんともいい匂いがしてきて、リョウマは思わずごくりと喉を鳴らしてしまう。まともな食事なんて、ずいぶん久しぶりな気がした。そんなリョウマの表情をじっと観察するような目で見ていた魔王が、穏やかに言った。
「まずは粥などからの方がよいか? そなたの好みと、食せるものがわからぬゆえ、いろいろと揃えさせてはみたのだが」
「なっ、なんでもいいよ! 早く、早く食わせろっ!」
もう我慢できずに、リョウマは巻いていた掛け布をはね飛ばした。魔王がなぜかふっと微笑んで、自分のマントをさらりと夜着の肩に掛けてくれる。手つきが妙に優しい。
「そう慌てるな」
言って指をわずかに動かして見せただけで、侍従や侍女と呼ばれるらしい人々がすすすす、と音もなく動き始めた。ほとんど幽霊のようだ。
ベッドの上に座ったままでも食事ができるよう、小さなテーブルが運び込まれ、リョウマの目の前に据えられる。膝の上に食事用の布が広げられ、まずは水と粥が供された。
リョウマはほとんどものも言わず、まずは水をゴッゴッゴ、と喉を鳴らして飲んだかと思うと、今度はガッとスプーンを握りしめ、ががががが、と粥をほとんど一瞬で口の中にかき込んだ。
「そらそら。もう少し落ち着いて食せ。だれも盗らぬゆえ」
「むごっ、ふぐ、ふがうううっ」
侍従が再び入れてくれた水をまた喉を鳴らして飲み、次の料理をと要求する。
空の皿が素早く引かれ、つぎには柔らかく煮た肉と野菜のスープが供された。ずいぶん熱くて、これはそんなに早くは食べられなかったが、これまたリョウマは非常な速さで胃におさめた。
最後のスープまで漏れなく腹に収めてしまってから、ようやくリョウマはひと言いった。
「うっ……うっま」
「今ごろ感想か?」
ぷっと魔王がふき出した。嬉しそうににこにこ笑っている。
そのとたん、なぜかぴきっと侍従らが凍り付いた。
35
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
あなたの隣で初めての恋を知る
彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
ふたなり治験棟 企画12月31公開
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
神官、触手育成の神託を受ける
彩月野生
BL
神官ルネリクスはある時、神託を受け、密かに触手と交わり快楽を貪るようになるが、傭兵上がりの屈強な将軍アロルフに見つかり、弱味を握られてしまい、彼と肉体関係を持つようになり、苦悩と悦楽の日々を過ごすようになる。
(誤字脱字報告不要)
目が覚めたら宿敵の伴侶になっていた
木村木下
BL
日本の大学に通う俺はある日突然異世界で目覚め、思い出した。
自分が本来、この世界で生きていた妖精、フォランだということを。
しかし目覚めたフォランはなぜか自分の肉体ではなく、シルヴァ・サリオンという青年の体に入っていた。その上、シルヴァはフォランの宿敵である大英雄ユエ・オーレルの『望まれない伴侶』だった。
ユエ×フォラン
(ムーンライトノベルズ/全年齢版をカクヨムでも投稿しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる