墜落レッド ~戦隊レッドは魔王さまに愛でられる~

るなかふぇ

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第十三章 次の世代を

1 揺籃の間

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 遂に《次世代誕生センター》から正式な通達が来たのは、さらにひと月ほど後のことだった。
 長らく待ちわびていた連絡にリョウマは飛び上がって喜び、そのまま魔王の部屋へすっとんで行った。許されるものなら《鎧装》をして空を飛んでいきたかったほどである。
 そして翌日、ふたり揃ってセンターへ出向くことになった。

「お待ち申し上げておりました。さ、こちらへどうぞ」

 センター長は前回同様、非常に慇懃な様子でふたりを出迎え、《揺籃ようらんの間》と称する部屋へと案内してくれた。
 一般市民の卵たちは大きな部屋でまとめて世話がなされているとのことだったが、こと魔王の卵ということで、自分たちの卵は非常にセキュリティの厳重な別の個室で保護されていた。
 全体に温かく感じる設えの部屋に、世話係らしき職員が数名配置されている。部屋には音を落とした安らかなメロディがそっと流れている。まさに赤ん坊のいる場所という感じのする部屋だった。

「こちらです。どうぞ」

 部屋の真ん中に、透明な半球状のカバーのついた台が据え付けられており、卵はその中に置かれていた。下部を柔らかな布地でくるんで支えてある。

「うわあ……めっちゃでっかくなってる!」
「はい。非常に順調にご成長なさっております。これまでのところ、健康上なんの問題も見受けられておりません」
「左様か。なによりだ」

 カバーの外側から、魔王とリョウマはじっと自分たちの卵を見つめた。
 前は小さな真珠のような大きさだった卵は、見違えるほど大きくなっている。今では直径十センチほどになるだろうか。表面もつるりとはしているが、真っ白な状態から淡い乳白色に変わっているようだ。ごくうっすらと、黄金色の斑点が浮かんでいるようにも見える。
 と、職員が台に載せた小さな鞄のようなものを運んできて、センター長が簡単な説明を始めた。

「しばらくは、こちらでお子様を温めていただきます。常に、肌身離さずにお世話をお願いいたします。魔王陛下、配殿下ともにです。できれば時間は半分ずつで、どちらかに偏ることがないようにお願いいたします。これはすべての両親に、毎回センターからお願いしていることにございます」
「へえ。なんで?」
「ひとつには、親になるための自覚と申しますか、責任を、お二人ともにしっかりと心に刻んでいただきたいからということがございますね」

 金色の毛並みをした品のよい犬の顔をしたセンター長がゆったりと微笑んだ。

「ふーん」
「なるほど。して、もうひとつは」
「お子様をお育てする過程を通じて、今よりもさらにお二人の絆を強くしていただくこと。これから長い年月をお二人が協力しながら育ててゆかれるわけですから、その心構えをしていただくこと。これが何より肝要にございます。だれよりも、お子様のお幸せのためにございます」

 センター長の声は優しいながらも確固とした信念に裏打ちされたものに聞こえた。これまで、様々なことがこのセンターにもあったのかもしれないな、とリョウマはふっと考えた。

「わかった。んで、このカバン? ケース? はどうやって使うんですか」
「はい。今からご説明いたします」

 そこから二人はセンター長と所員たちから丁寧な子育てのレクチャーを受け、ようやく卵を抱えてセンターを後にした。まずはケースに卵を入れて魔王が肩から斜め掛けにしている。
 このケースはこれそのものが揺籃──つまり、「ゆりかご」のようなものだという。さらに、卵を一定の温度に保つ保温器にもなっているとのことだ。中はやわらかい素材で包まれており、卵がぶつかって割れてしまうことを防ぐ。
 今回はさらに、魔王がそこに強力な《保護》と《警報》の魔法をかけてくれた。万が一、卵になにかの危険があった場合、この魔法がその危険をはねのけ、かつ魔王やリョウマにその危険を知らせてくれる。
 つねにどちらかが卵を抱いて生活しているわけだから、リョウマが抱いているときには魔王が、魔王が抱いているときにはリョウマが駆けつけることになるわけだ。

「思ったより、軽いなあ……」

 飛行艇の中で魔王からケースを受け取ってみて、驚いた。もっと重いものだと思っていたのだ。

「ついでに《重力軽減》の魔法もかけておいた。卵そのものには影響のない形でな。それと、これもだ」
「うん?」

 差し出されたのは、大きめの赤いマントだった。卵のケースが腹のあたりにある状態でも、体全体をすっぽりと覆えるほどの大きさだ。フードもついていて、全体に金色の、凝った刺繍の縁飾りがしてある。

「こちらのマントにも、《保護》と《重力軽減》さらに《硬化》の魔法をかけてある。そなたに危険が迫ったとき、このマントがそなたと卵を守ってくれよう」
「あ……ありがと」

 なるほど、マントも非常に軽くて体に負担にならないものだった。

「そなたの活動に支障があるようなら言ってくれ。いくらでもデザインは変更できるゆえな」
「わかった。ありがと」

 うなずきながら、リョウマは膝の上にあるケースをそっと撫でた。ケースそのものが、なんとなくほんわかと温かいのは気のせいではないだろう。無意識のうちに、うっとりと目を細めてしまう。

「……ほんとに、俺らの卵なんだなあ……」
「ああ」
「いつごろ生まれるとか、わかるんだっけ」
「さあな。さすがに何年もかかるわけではないと思うが……基本的に、魔族と人間の子はやや長くかかるそうだから、心配は要らぬ。だが気長に待つしかないな」
「そーなんか。……うん。気長に待とう。生まれてくるまでヨロシクな」

 リョウマはケースをまたそっと撫で、隣の魔王の肩にもたれかかった。

「……なあ。名前どーする?」
「そうだな。まあゆっくり考えよう。私も考えるが、そなたもたくさんの案を考えておいてくれると嬉しい」
「そーだな。男の子バージョンと女の子バージョンと、どっちでもイケるバージョンも必要だもんな。じゃあ、いっぱい考えよっ」
「ああ、頼む」
「はあ……どんな子なんだろなあ。生まれるの超たのしみー!」
「はは。そうだな」

 幸せな帰路だった。
 ふたりはいつまでも、そんななごやかな会話を交わし、時折り触れるだけの口づけを挟みつつ、穏やかな気分で魔王城へと帰っていった。

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