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第四章 相棒(バディ)
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しおりを挟むその、約二時間後。
とある郊外の一軒家。
「イヤアアアア! いやよ! あたくしは、彼と一緒に生きていくの! 親の言いなりになんてならないの。彼と一緒に幸せになるんだもの! そう決めたんだものおお!」
ひょろっとした体型の、顔だけは妙に綺麗な青年にしがみついて、今回の自分たちの目標である富豪の娘が泣き叫んでいた。
とはいえ、どちらももちろん人間型ではない。青年は耳や尻尾にコヨーテを思わせる形質が強く出ていたし、娘はいかにも生意気でプライドの高そうな長毛種の白猫だった。建物の外には、叫んでいる当の彼女に雇われた町のごろつき連中が、すでに気を失って倒れている。
対するこちらはといえば、頭部以外、二人ともまったく同じ出で立ちだ。黒く細身のミリタリージャケットに黒のパンツ、さらにミリタリーブーツ姿である。潜入する場所によってはスーツにネクタイ、それに革靴を履くらしいが、今回はベータの指示でこういう服を選んでいた。
ベータは今回、そこに名前そのままの鷹のマスクをつけており、彼に勧められてアルファのほうも黒豹のマスクをつけている。互いに背丈があまり違わないので、並ぶといかにも相棒という感じがした。いや、まだ正式にそう決まったわけではないが、アルファは密かに、今の自分の状況が嬉しかった。
ちなみにこのマスク、もともとアルファのつけていたものと比べても格段に性能がいいらしい。通常のコンピュータによる精査なら、相手に干渉して渡す情報に細工をするなどということも可能なのだという。
そんなアルファの思考にはお構いなしに、状況はさっさと進行している。
「ハイハイ、お嬢さん。別に私どもは、貴女のご要望や人生のご計画を聞きにうかがったわけではありませんので。『時は金なり』と申すとおり、さほど暇でもありませんしね」
そう言うベータの声ときたら、これ以上この世の誰にもそこまでの声は出せまいと思うほど面倒くさそうなものだった。そうして無造作にジャケットの懐へと手を入れる。
猫の娘が「ヒッ」と喉を引きつらせた。銃で撃たれると思ったのだろう。が、出てきたベータの手に握られていたのは別のものだった。
形だけは銃とよく似たそれのトリガーが引かれると、目の前の二人の瞳に一瞬だけ紫の光が照射された。次の瞬間、二人はもう気を失ってその場にのびてしまっていた。外の連中に関しても、大体似たような感じで「撃退」したのだ。幸い彼らはベータの言った「面倒な」手練の連中などではなしに、そこいらの街のチンピラだった。
「……さて。あとは『配送』だ。商品に傷をつけるなよ」
ひたすら面倒くさそうな声はそのままに、ベータが指示する。言われたとおりに淡々と、アルファも女性の方の体を抱き上げて小型艇へととって返した。もちろん、コヨーテ男はベータの肩の上だ。
ベータはベータで、猫の女を花嫁よろしく抱いているアルファをちらりと見ると「さすが、『姫だっこ』などはお手のものだな」と訳のわからないコメントを投げてよこした。
獲物の二人は気を失ったまま、道中、昏々と眠り続けた。目を覚ましたころにはとっくに、かれらは元の富豪の邸宅の寝室にいることだろう。
その後のことは、こちらの知った話ではないのだ。
◇
そして、数日後。
無事に報酬を受け取ったというベータからの知らせが、ユーフェイマスの兵舎に戻ったアルファの元に届いた。
彼からの連絡はそのときどきで違っている。いったい何をどうしているのかまでは分からないが、ユーフェイマス軍とミミスリ、ザンギの監視をかいくぐって確実に、ごく安全に送られてくるのは驚きだった。
一度など、ザンギも同道して兵舎の外へ気晴らしに出たところ、近隣の商店街の界隈で小さな子供がぶつかってきて、その後気がついたら軍服のポケットにごく小さな紙片が押し込まれていたなんていうこともある。
そんな調子でしばらくは、彼といくつかの仕事をこなすことが続いた。
それは、最初に彼と仕事をしてから三月ほど経ったころだった。
送られてきた連絡には、二人で取り決めた暗号で、以下のようなことが記されていた。
『前回の報酬を受け取った。万事、問題なし。報酬は次回に渡す』
ごく短く、素っ気無いほどの文章。
しかし、アルファの目は最後の一文に吸い寄せられた。
その連絡の最後には、遂にこうあったのだ。
『次もよろしくな。相棒』と。
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