金槐の君へ《外伝》~恋(こひ)はむつかし~

るなかふぇ

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11 唐衣 ※

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「は、うん……っふうっ」

 唇と手による愛撫で、もう立つのは無理だった。座った状態でよかったと思うその思考すら、快感に薄められてぼんやりしている。
 海斗は口づけを深くしながらも手慣れた様子で律のパジャマのボタンをはずし、そうして現れた場所の肌に、ひとつひとつ丁寧にキスを落とした。

「んっ……ん」

 我慢したいと思っているのに、声が漏れるのを止められない。無意識に手でふさいでいたらしく、海斗の手がその手をそっとどけ、手の甲にまたキスを落とした。

「どうか我慢なさらずに。聞かせていただきたく」
「なっ……なにを!」

 かっとなったところをまた抱きすくめられ、ベッドに沈められた。
 肌のあちこちに触れていく海斗の手が、やがてそろそろと臍のまわりに触れ、その下へとずらされていく。

「あっ……ん、そ、そこは──ふあっ!」

 するっとその手が、今もっとも律の体の中で熱く固くなった部分に触れたとたん、腰が激しくはねた。

「反応されていますね。無用の心配だったようです」
「そっ……そういうそなたはどうなんだよっ」
「確かめてごらんになりますか?」
「えっ……わ!」

 ぐいと手首を握られて、彼のその場所へと導かれる。布地の上からでも、そこが激しく体積を増して欲望を主張しているのが明瞭にわかった。

「こ……こんな」

 こんな風にまっすぐ、彼が自分を求めてくれるなんて。そんなことは、つねづね夢想はしていても、現実に起こるだなんて露ほども考えていなかったというのに。
 自分の体にこうして触れて、見ているうちに「やっぱり男なんてつまらない」と、高まった気持ちもしぼんでしまい、むしろ嫌悪感が残るのではないかと。そんな風に、想像されるのは悪いことばかりで、ずっと尻込みしていたというのに。

「や、……やすとき……。ほんとう、に?」

 本当に自分に触れて、そなたの体がこんな風になっているのか?
 信じられない。こうして触れさせてもらってさえ、まだ夢にちがいないと思っている自分がいる。
 だが、海斗はこくりとうなずいた。

「左様にございますよ。……大丈夫。ご安心ください」
「あん、しん……」

 まだぼうっとしている律の額に、海斗はまた口づけを落とした。

「それよりも。ひとつ、お訊ねしてもよろしいでしょうか」
「え?」
「あなたはをお望みでしょう」
「ど、どちら……? とは」
「そうですね……」

 いいながら、海斗は覆いかぶさる恰好から、律の隣へ横になる姿勢に変わった。そのまま律を抱き寄せてくれる。

「男女間ならともかく、男性同士となればいろいろな関係が想定されます」
「いろいろな──」
「はい。下世話な話になってしまいますが、要するに……」

 海斗が言葉を選びながら丁寧に教えてくれるのを聞いて、律も「ああ」と合点がいった。要するに、どちらがどちらの側になるのか、という問題だ。

「つまり、律くんが特にどちらになりたい、というご希望をお持ちかということですね」
「……でも。そんなこと、私ひとりで決められないんじゃ? 海斗さんはどっちになりたいんですか」
「自分ですか? 自分は正直、どちらでも構いませぬ」
「どっちでも? 本当に?」

 かなりびっくりしてしまった。

「はい。律くんがそうお望みになるのであれば。とはいえ前世も今も『抱かれる側』になった経験はございませんので、そちらになると少し、お手数やご迷惑を掛けてしまうかもしれませぬが」
「いっ、いやいやいや!」

 律は慌てて首をふった。
 まさかここへきて、いきなりそんな話題になるとは。
 しかしよく考えてみれば、それはやはり事前に話し合っておくべきことなんだと理解した。というか、今の今までそのことについてはちっとも考えてすらいなかった自分に驚いた。
 自分はその、ずっとずっと手前のところで逡巡し、悲しんでいたばかりだったからだ。

「え……と。すみません。正直、なんにも考えていなかった……」
「左様ですか」
「か、考えもせずに、その……ごめんなさい。当然、だと思っていたからかも……しれません」
「いえ。謝っていただくには及びません」

 それで? と海斗がにこりと笑って、律を抱く手に力をこめた。

殿は、自分にどちらをお望みなのでしょう」

 聞かせてください、とまた、今度は律の頬に口づけが降りてきた。



 唐衣からころも すそあはぬつまに 吹く風の 目にこそ見えね 身にはしみけり
                     『金槐和歌集』(実朝歌拾遺)696
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