金槐の君へ《外伝》~恋(こひ)はむつかし~

るなかふぇ

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12 雨ごろも ※

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 自分はどちらを望むのか。
 考えたことがない、と答えはしたものの、律の頭の中で──いや、かつて実朝だったときの頭の中でも──ずっと想起されていたのは同じ状態だった。

 ──抱かれたい。

 この男に。
 ずっとずっと、心の奥底でそう思いがれてきた。
 叶わぬ願いと諦めつつも、それを夢想することをやめることもできなかった。
 逆に自分の方がこの男を抱くところなど、空想してみたことすらない。

「わ、わたし……は。わたしは──」

 そう思ったからといって、その単語がすらりと口から出てくるはずもなかった。恥ずかしすぎて、全身が消し飛んでしまいそうだ。

(もうっ……いっそ殺してくれ)

 こんなのはもう、耐えられない。
 呼気がかかるほど間近から、当の想い人に見つめられて「どちらがお望みか」とたずねられるという、この信じられないシチュエーション。こんなのは勘弁してほしかった。
 嬉しさと恥ずかしさと、いまだに「夢ではないのか」と疑う自分が同居している。

 いつまでたっても体を縮こまらせたままウンともスンとも言わなくなってしまった律を、海斗はもう一度優しく抱き寄せて、耳に口を寄せてきた。

「では、こういたしましょう。自分をお抱きになりたいなら目を開けたまま。その逆ならば……目を閉じて」

 低い声とともに彼の吐息が流し込まれて、ぞくぞくっと全身に震えが走った。

「両方、ということでしたらまばたきを。……いかがでしょうか」

 律は黙したまま、茶色みの強い彼の瞳をしばらく見返した。
 息のつまるような数瞬。
 それから静かに、ゆっくりと目を閉じた。

「んっ……!」

 次の瞬間、飲み込まれるような口づけが降ってきた。今までよりさらに深く、さらに熱い。

(い、息が……!)

 うまく呼吸することもできない。しかし、絡めとられる自分の舌を彼のそれから離したいとも思わなかった。
 律は夢中で彼の背中に腕を回した。
 海斗の唇が先ほどとはまた違う道をたどって、律の体のあちこちをさぐり、味わい、暴いていく。

「あ……あ!」

 胸の小さな飾りをぺろりと舐められて、またもやびくんと腰が跳ねた。
 優しい動きで口に含まれ、舌先で転がされると、くすぐったくて腰が勝手によじられてしまう。

「あ、や、やだ……っ」
「これはお嫌ですか」
「っじゃなくて、く、くすぐったいっ……!」

 目尻を不意に吸い取られて、涙が溜まっていたことに気づく。海斗の指先が、もう片方の胸の突起をくりくりともてあそんでいる。やがて軽く爪を立てられかりっとひっかかれた。

「あうっ……!」

 恐る恐る見下ろすと、はだけたパジャマの隙間から覗いた自分のそれが赤らんで濡れ光っているのが見えた。ひどく物欲しげに海斗に向かって突き立っている。
 それはひどく淫猥で、とても後ろ暗いことをしているような、奇妙な罪悪感をもたらした。だが、それでやめたいとは思わなかった。

「ふうっ……」
「もう、お嫌ですか。本当においやなら──」
「やっ、じゃ……ないっ」
「……左様ですか」
「あ……っ!」

 彼の手が布ごしに、きゅっと足の間のものの形を確かめて、思わず律は両足を閉じてしまった。

「ずいぶん固くおなりですね。……お辛いでしょう」
「やっ……やっ! あ、さ、触んない、で……っ」

 布の上から先端を軽くさすられているだけで、昇天しそうなほどに気持ちよかった。



 あまごろも 田蓑たみのの島に 鳴くたづの 声聞きしより 忘れかねつも
                     『金槐和歌集』428
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