12 / 25
12 雨ごろも ※
しおりを挟む自分はどちらを望むのか。
考えたことがない、と答えはしたものの、律の頭の中で──いや、かつて実朝だったときの頭の中でも──ずっと想起されていたのは同じ状態だった。
──抱かれたい。
この男に。
ずっとずっと、心の奥底でそう思い焦がれてきた。
叶わぬ願いと諦めつつも、それを夢想することをやめることもできなかった。
逆に自分の方がこの男を抱くところなど、空想してみたことすらない。
「わ、わたし……は。わたしは──」
そう思ったからといって、その単語がすらりと口から出てくるはずもなかった。恥ずかしすぎて、全身が消し飛んでしまいそうだ。
(もうっ……いっそ殺してくれ)
こんなのはもう、耐えられない。
呼気がかかるほど間近から、当の想い人に見つめられて「どちらがお望みか」と訊ねられるという、この信じられないシチュエーション。こんなのは勘弁してほしかった。
嬉しさと恥ずかしさと、いまだに「夢ではないのか」と疑う自分が同居している。
いつまでたっても体を縮こまらせたままウンともスンとも言わなくなってしまった律を、海斗はもう一度優しく抱き寄せて、耳に口を寄せてきた。
「では、こういたしましょう。自分をお抱きになりたいなら目を開けたまま。その逆ならば……目を閉じて」
低い声とともに彼の吐息が流し込まれて、ぞくぞくっと全身に震えが走った。
「両方、ということでしたら瞬きを。……いかがでしょうか」
律は黙したまま、茶色みの強い彼の瞳をしばらく見返した。
息のつまるような数瞬。
それから静かに、ゆっくりと目を閉じた。
「んっ……!」
次の瞬間、飲み込まれるような口づけが降ってきた。今までよりさらに深く、さらに熱い。
(い、息が……!)
うまく呼吸することもできない。しかし、絡めとられる自分の舌を彼のそれから離したいとも思わなかった。
律は夢中で彼の背中に腕を回した。
海斗の唇が先ほどとはまた違う道をたどって、律の体のあちこちをさぐり、味わい、暴いていく。
「あ……あ!」
胸の小さな飾りをぺろりと舐められて、またもやびくんと腰が跳ねた。
優しい動きで口に含まれ、舌先で転がされると、くすぐったくて腰が勝手によじられてしまう。
「あ、や、やだ……っ」
「これはお嫌ですか」
「っじゃなくて、く、くすぐったいっ……!」
目尻を不意に吸い取られて、涙が溜まっていたことに気づく。海斗の指先が、もう片方の胸の突起をくりくりと弄んでいる。やがて軽く爪を立てられかりっとひっかかれた。
「あうっ……!」
恐る恐る見下ろすと、はだけたパジャマの隙間から覗いた自分のそれが赤らんで濡れ光っているのが見えた。ひどく物欲しげに海斗に向かって突き立っている。
それはひどく淫猥で、とても後ろ暗いことをしているような、奇妙な罪悪感をもたらした。だが、それでやめたいとは思わなかった。
「ふうっ……」
「もう、お嫌ですか。本当においやなら──」
「やっ、じゃ……ないっ」
「……左様ですか」
「あ……っ!」
彼の手が布ごしに、きゅっと足の間のものの形を確かめて、思わず律は両足を閉じてしまった。
「ずいぶん固くおなりですね。……お辛いでしょう」
「やっ……やっ! あ、さ、触んない、で……っ」
布の上から先端を軽く摩られているだけで、昇天しそうなほどに気持ちよかった。
雨ごろも 田蓑の島に 鳴く鶴の 声聞きしより 忘れかねつも
『金槐和歌集』428
0
あなたにおすすめの小説
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
--------------------
※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる