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13 惜しみこし ※
しおりを挟む「や……あ、んんっ」
身を捩らせて、足の間にある海斗の手を上から握るが、その手に力は入らなかった。
すでに熱く熾りたっているそれは、明らかに布越しにしか触れてもらえないことに不満を訴えている。
海斗は手の動きを止めないまま、律の耳に、頬に、項に、首筋にと口づけを落としつづけている。彼の唇はひどく優しくて、とても拒むことはできなかった。
その唇が、やがて鎖骨に、胸の尖りに、そして脇腹に、さらには臍のあたりにと移動していく。
「ああっ……あ!」
やめてほしい。
頭が変になる。
いや、やめないで。
やめちゃイヤだ。
矛盾だらけの欲望が血流の音に乗って脳内をかき回す。
やがて遂に、彼の手が布の下へと侵入してきた。期待と恐ろしさが綯い交ぜになり、ぎゅっと目をつぶると、握りしめていた手をそっと取られた。
「もし、よろしければ……自分も触れていただくわけには、参りませんか」
普段から落ち着いたよい声が、今は少し掠れている。それが、体が発する欲望が押し上げてくる独特の圧力によるものであることは明白だった。
律は彼の少し赤く染まった頬をぼんやりと見上げた。
(なんという色香か──)
寝床で共寝をするとき、この男はこんな表情と、声になるのか。
それを初めて味わうのが自分ではなかったことに、つきりと胸の痛みを覚えた。
これまで彼が抱いてきた女性たちは、彼のこの顔を知っている。そう思うと息が余計に苦しくなった。くだらない逡巡を振り払うように、律は思い切って彼の方へと手を伸ばした。
「あ……」
布越しでもわかる。海斗のそれは硬度と熱と脈動を激しく訴えかけてきている。
愛おしさなのか嬉しさなのか、なんだかもうよくわからない熱いものがこみあげてきて、律の目尻から少し零れた。
律の手が触れるのにあわせて、海斗が自分の腰を少し上下させる。ひどく淫靡だ。けれどもそれが、決して下品には堕ちない。
手のひらに彼のものが擦りつけられるのと同時に、自分のものも扱かれて律の腰も揺れた。
「あはっ……あ、ん……っ」
海斗がみずから着ているものを下着ごと下げ、律の手が直接触れることを促してくる。戸惑いつつも、律は逆らわなかった。指先に触れる、彼の脈動を伝える膨らみを指先でなぞり、確かめる。
「ふ……っ」
海斗の眉が苦しげに顰められた。それですら愛おしくて、律は少し身を起こし、眉根のあたりに口づけた。
海斗が目を開き、ほんのわずかに口角をあげて深い口づけを寄越す。それになんとか応えながら、手の動きは止めないように頑張った。
お互いの手がお互いのものを愛撫するうち、そこに密やかな水音が混ざりはじめた。
「は……あっ。も、う……っ」
訴えて見上げると、海斗もつらそうに唇を噛んでいるのが見えた。
「……ともに」
「う、ん……っ」
うなずいたのと、彼の手が自分の手と自分自身ごと、律のものを握りしめたのは同時だった。
「は……あっ?」
聞いているだけでもはじけ飛びそうな恥ずかしい水音とともに、海斗の手の動きが早くなる。海斗が腰も同時に動かしながら、自分のものと律のものを同時に絶頂へと導いていく。
律にはもう、なにもできはしなかった。
「やっ……あ、あ! そん……だめえっ」
言い終えたのと、ぷしゅっと音がして体を快楽の電撃が走ったのは一緒だった。
気を遣ったのだ、と理解するのに数瞬を要した。
惜しみこし 花の袂も 脱ぎかへつ 人の心ぞ 夏にはありけるごろも
『金槐和歌集』117
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