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第一部 トロイヤード編 第三章 王都ヨルムガルド
4 変貌(1)
しおりを挟むヴォダリウスの案内で、シュウは客人用の湯殿に通された。そこは王宮のかなり奥まった場所で、日の光の差し具合からどうやら南向きのようだった。
入り口に絹の長衣をつけた女たちが五、六人、ずらりと居並んで跪いている。手に手に入浴用と思しき桶や布、香油壷などを携えているところから、湯殿付きの女官たちであるらしい。
国内外の各地から選りすぐられた者なのだろう。肌の色も髪の色もさまざまだが、田舎者のシュウの目にはどの女もいずれ劣らぬ絶世の美女とみえた。それぞれが、豊かな胸にさりげなく宝石のきらめく首飾りを下げている。
ヴォダリウスが彼女らの前で立ち止まり、シュウを紹介した。
「陛下の大切なお客人であるゆえな。僅かの粗相もなきよう、くれぐれも申し付けるぞ」
「畏まりましてございまする」
女たちの長らしき女官が、鈴を振るような声で答えた。黒髪のきりりとしたエキゾティックな美女である。
(まさか……)
シュウはまた、どきどきし始めた。
(まさか、これって──)
そのまさかだった。まごまごしているうちにも、女たちはしずしずとシュウを湯殿の中に案内してから周りに跪き、流れるようにシュウの衣に手を掛けたのだ。すべてが「まったく当然」という態度だった。
(うわっ……!)
優しくたおやかな細い腕が何本も伸びてきて、明らかに衣服を脱がせようとしている。シュウは堪らず、女たちから飛びのいた。
「ま、ままま、待ってくださいっ!」
女たちの手が止まる。
「え、えっとえっと……そのっ! じ、自分でできますから! 一人で入れますから──!」
自分の衣服を必死で抱きしめるようにしながら、女たちに懇願する。
と、女たちの中の誰かがくすりと忍び笑いを漏らしたのが聞こえた。途端、傍の女が彼女を小突いて黙らせる。
長の女が一瞬だけ厳しく鋭い視線でそちらを見やってから、シュウに目を戻した。跪いた姿勢で下からシュウを見上げている。胸元のあらわな薄絹であるため、シュウは目のやり場にも困ってしまう。
「お言葉ですが、シュウさま」優しげな中にも、きっぱりとした声音だった。「これが、わたくしどもの仕事なのでございます」
「そ、それは……分かります。でも──」
シュウはもうしどろもどろだ。女官の長は言いつのる。
「ここにいる者はみな、あなた様のお世話をするためにここにいるのでございます。このお城では、お勤めを怠る者は、すぐさまお暇をだされます」
「う……」
いや、それはそうだろう。そうだろうけれども。
「どうか、この者たちのお勤めを取り上げないでやってくださいまし」
「…………」
彼女に深々と頭を下げられてしまい、シュウはもはや何も言えなくなる。ただただ、涙目で立っているばかりだ。もちろん、例の長すぎる前髪のせいで、そんな表情は女たちにはほとんど見えていないのだろうが。
わが体を抱きしめたまま小刻みに震えながら沈黙してしまったシュウを見上げて、長をはじめとする女官たちもしばし困ったように顔を見合わせていたが。
「では……」ようやく、女官長が口を開いた。「このようにしてはいかがでしょう? お体のほうが左様にお恥ずかしいのでしたら、せめて御髪だけでも、わたくしどもにお世話させていただくというのは……?」
なるほど、いい折衷案だ。女たちはそれで一応「働かなかった」ことにはならないし、こちらの羞恥心もずっと和らぐ。
一も二もなく、シュウはその《藁》に飛びついた。
「そっ、それでお願いします!」
女官が微笑みで返事をかえして、ようやく場の空気がなごんだ。
女たちは一旦湯殿の外に引き下がり、シュウが体を洗うあいだ、湯殿の前室で待つことになった。
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