ウブで真面目な理学療法士の初恋のお相手はセレブなイケメン敏腕秘書でした

波木真帆

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唯人さんが言ってくれるのなら……

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こちらは『歩けなくなったお荷物な僕がセレブなイケメン社長に甘々なお世話されています』の第161話
<驚きの姿>の尚孝視点のお話です。

これから『ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました』の直純と尚孝の出会いまでほぼ同時進行で進んでいく予定です。

  *   *   *

「今日も頑張ってみようか」

「はい」

ここ最近、いつものリハビリに加わったものがある。
それは一花くんが一人で立ち上がること。

車椅子に乗った一花くんの前に歩行器を置き、自分で立ち上がる。
健常者なら日に何度も同じような特に考えることもなく行う動作だけど、大腿骨を骨折した一花くんにはかなり厳しい動作だ。
なんせ、体重をかけるととんでもない痛みを伴うのだから。

骨折自体は治っているけれど、骨がまだ立つことに慣れていない。
その上、元々栄養状態の悪かった一花くんは骨がくっつくのもかなり時間がかかった。
だからこそ、余計に無理をしないようにかなり慎重にリハビリを組み立ててきたんだ。

一花くんが僕の計画したリハビリを毎日必死に頑張ってくれたおかげで最初とは比べ物にならないほどの筋力をつけてくれた。

だからこそ、ようやく立ち上がるところまでやってきたんだ。

一花くんのために数日かけて慎重に歩行器を選び、届いてからは毎日リハビリの締めには立ち上がる練習をしている。

少しずつ立っていられる時間も増えてきているのがわかるから、一花くんも楽しいのだろう。

――歩けるようになったら、征哉さんに見せて驚かせたいんです! 征哉さんはずっと僕が歩けるようになるのを待っていてくれているので……。

汗を流しながら必死に立ち上がる姿を見ては、嬉しそうにそう話をしていたことを思い出す。

この調子なら、歩けるようになるのももう少しだろう。

「いいよ。その調子!」

時間はかかっても自分で立ち上がれるようになったことが何よりもすごいんだ。

「一花くん、今日は一歩足を踏み出してみようか」

「はい! くっ――! うぅ――っ!!」

「いいよ、できてる!! よし、今日はこれくらいにしておこう」

「はぁーっ、はぁーっ!」

「ふふっ。お疲れさま。今日も頑張ったね」

「はい! 尚孝さんが応援してくれるおかげです」

「この調子で頑張ったら歩けるようになるのも近いよ」

「はい、頑張ります!」

乾いたタオルで汗を拭い、一花くんの顔の赤みも引いたところで、貴船さんが唯人さんと共に部屋に入ってきた。

よかった。
今日も貴船会長には秘密のリハビリは知られずに済んだようだ。

そう思っていたのに、

「一花、ここで志摩くんと待っていてもらえるか? 私は少し谷垣くんと今後のことで話があるからな」

と声をかけられてしまった。
もしかして、何か気づかれてしまったのだろうか……。

私と同じく一花くんも心配になったようで気になって貴船会長にどんな話か尋ねていたけれど、これからのリハビリに必要なものがあれば準備したいということでホッとした。

貴船会長は医師免許をお持ちだから回復状態によってどんな器具を使うのかも大体お分かりだろう。
それなら安心だ。

とはいえ、貴船会長と二人きりで話すのは緊張感が半端ない。

以前ほどの威圧はないが、やはり緊張はしてしまうものだ。

「そこのソファーに座ってくれ」

「は、はい」

何か不手際でもなかったならいい。
唯人さんに迷惑をかけてなければいい。

そんなことを心の中で願いながら、様子を窺っていると

「いきなり二人で話をと言い出したから、緊張をさせてしまったな。申し訳ない」

と優しい言葉をかけられてびっくりしてしまった。

しかも、一花くんのリハビリに関することは何も聞かない、必要なものは唯人さんにとまで仰ってくださった。

それはとても嬉しかったけれど、じゃあなぜここに呼ばれたのだろうと不思議に思っていると、

「今日、ここに来てもらったのはリハビリのこととは関係ないんだ。君に一つ頼みたいことがあって声をかけたんだよ」

と仰った。

貴船会長が、私に頼み事なんて……。
一体なんだろう?

「谷垣くんに会ってもらいたい人がいる。彼と話をして、私にその様子を教えて欲しいんだ」

私に会って欲しい人?

ますますわからない。

「あの、その私に会って欲しい人とは、いったい誰でしょうか?」

「一花を誘拐した女に協力していた看護師・迫田美代の息子。直純だ」

「えっ……」

想像もできない相手に、私はただただ驚くしかなかった。

どうして私が?

そう問いかけるも、貴船会長は自分からは情報は与えられないと仰る。
だから、唯人さんに聞いて欲しいのだと……。

もしかして、私に、その子と会うように提案したのは唯人さんじゃないか?
そんな考えが頭に浮かんだ。

唯人さんが私のためにならないことを言うはずがない。
私が必要だと思ったからこそ、私の名前を出してくれたのだ。

「私に彼と会うことを勧めたのは、志摩さんですか?」

「ああ、よくわかったな。そうだ。志摩くんの方から提案してくれた」

「そうですか、わかりました」

それなら悩む必要などどこにもない。
私の唯人さんが言ってくれることなら喜んで受け入れる。

私の目にその意思が現れたことに気づいてくださったのか、そこで貴船会長とのお話は終わった。

一花くんがいる部屋に戻ると心配そうな唯人さんが私を見つめる。
だから私は大丈夫という意味を込めて笑顔を見せた。これで、唯人さんにも伝わるはずだ。

だって、私たちは一心同体なのだから……。
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