ウブで真面目な理学療法士の初恋のお相手はセレブなイケメン敏腕秘書でした

波木真帆

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頼もしい存在

<side唯人>

「尚孝さん、少しいいですか?」

自宅に戻り、夕食を食べて落ち着いてからリビングのソファーに並んで腰を下ろしてそう切り出した。

「はい。僕の気持ちはもう固まっていますから大丈夫ですよ」

「本当にいいんですか?」

「はい。だって、僕のことをよく知ってくださっている唯人さんが提案してくださったことに間違いなんてないでしょう?」

「――っ!!」

私にこれほどの信頼を寄せてくれるなんて……。
私はなんて幸せ者なのだろう。

「だから、心配しないでください。僕は大丈夫です」

私の目をまっすぐに見てそう言ってくれる、尚孝さんの強さに改めて惚れ直しながら、

「わかりました。これから全てを話しますね」

と尚孝さんを抱きしめながら告げた。

「会長からも名前は伺ったと思いますが、尚孝さんに会っていただきたいのは……迫田さこた直純なおずみくんという14歳の男の子です」

「14歳……思っていたよりも子どもですね」

「ええ。彼の母親は独身時代に勤めていた病院で、実行犯の女性に声をかけられ、一花さんを誘拐する手引き役を担い、その見返りに一億もの大金を手に入れました。その後、知り合った男性と結婚し、生まれたのが彼・直純くんです。彼は母親が重大犯罪に手を染めていることを知らずに成長しましたが、自分の母親が一花さんを誘拐し、人生を狂わせたことを知って、今ひどい罪悪感に苛まれています」

「でも、彼自身は何も悪くないですよ?」

「ええ。でも彼は素直でいい子なんです。だからこそ、自分の母親がしたことを許せないし、それを知らずに生きてきた自分も許せないのだと思います」

「はい。彼の気持ちはよくわかります。僕の場合は自分が犯した罪なので、彼と同じというわけではありませんが、一花くんに許してもらった今でも、彼を怪我させて歩けなくさせてしまったという罪悪感は一生ついて回るでしょうし、一生忘れることはないです。きっと、彼もたとえ自分が手を出していなくても、自分の母親が一花くんを傷つけたという事実を一生忘れることはないでしょうし、たとえ許されることがなくても謝罪したいと思っているはずです。あの時の僕がそうでしたから……」

「尚孝さん……」

身体を震わせる彼をギュッと抱きしめながら、

「辛いことを思い出させてすみません」

と謝ると、彼は私の手の甲に手を重ねて強く握ってくれた。

「いいえ、僕は唯人さんが支えてくださるから、自分からこうして口に出すことができるんです。唯人さんがそばにいてくださること、本当に嬉しいと思っているんですよ」

彼の微笑みにホッとする。
ああ、やはり私の尚孝さんは素晴らしい。

「あの、それでその子は……直純くんは、父親と暮らしているんですか?」

「いいえ。実は父親は貴船コンツェルンの子会社に勤めていたんです」

「えっ?」

「知らなかったとはいえ、一花さん誘拐に関与した身内をそのままその会社で勤務させることはできないという判断になったんです。そして、父親は直純くんの将来を考えて、妻との全ての縁を断ち切った上で、一花さんへの償いを申し出ました。櫻葉会長はその意思を受け入れて、父親を中東での新しい事業に参加させることにしたんです。そして、父親は単身で日本を発ち、直純くんは今、我が貴船コンツェルンの顧問弁護士である磯山先生の家に引き取られて生活をしています」

「両親と離れてしまったんですね」

「ええ、でも磯山先生の家で生活するようになってから、直純くんにある特徴が出始めました」

「特徴?」

「はい。彼は……実の母親に虐待を受けていたんです」

「えっ……ぎゃく、たい? まさか、そんな……」

「信じがたいことですが、本当のことなんです。母親にいわば洗脳のような生活をさせられていたことに、磯山先生とご家族が気付き、今はたくさんの愛情をかけて彼の洗脳を解いているような状態です」

尚孝さんはあまりのことに顔を青ざめさせている。
まさか実の母親がそんなことをするとは夢にも思わないだろうから、その反応も当然だ。

「今回、尚孝さんと会わせて話をするというのも、彼の心の枷を一つでも軽くしてあげたいというのが目的なんです」

「そう、だったんですね……よくわかりました」

「尚孝さん……大丈夫ですか?」

「ええ、ものすごく衝撃でしたが、それなら尚更早く話をしにいってあげたいです。僕、身体だけでなく心のリハビリも専門なんですよ。僕と話すことで彼の気持ちが少しでも上向きになるのなら、喜んでお受けします」

「尚孝さん……」

「大丈夫です。私に任せてください!」

そう言い切った尚孝さんは実に頼もしく見えた。
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