自家焙煎珈琲店で出会ったのは自分好みのコーヒーと運命の相手でした

波木真帆

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救いを求めて

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その日から数日後、

「――っ、良かったぁ……」

ずっと待ち侘びていた生理がきて、涙を流して喜んだ。

あの男の子どもがお腹にいない。
それが唯一の救いだった気がする。

それからも部屋からは出られない日々が続いた。
そんなある日、安田から連絡が来た。
あんな男からの連絡をすぐに断ちたかったけれど、

――俺からの連絡を無視してみろ! すぐにあの写真をばら撒くぞ!!

と脅されていたからできずにいた。

あんな奴の声も聞くのも嫌だったけれど、なんの目的の電話か知っておいた方がいい。
そう自分に言い聞かせて恐怖に怯えながら、

ーはい。

と電話をとると、

ーああ、千鶴か。すぐにお前と結婚してやるから、準備しとけよ。

と悪魔のような言葉が聞こえてきた。

ーえっ、結婚? どうしていきなり……

ーお前は馬鹿か? いきなりも何もないだろう! この俺様がお前と結婚してやるって言ってんだよ。断ったらどうなるかわかってるんだろうな? あの写真、ばら撒くぞ。

ーそれは……っ。

ーふふっ。いい子だ。余計なことは何も言わずに、俺と結婚するってさっさと親父に話しとけ! いいな!!

安田は言いたいだけ言い終わると、ブツリと電話を切った。

あの男と結婚する?
嫌だ! そんなの耐えられない!!

けれど、あの写真をばら撒かれたら、私だけじゃなく、お父さんもお兄ちゃんもショックを受けるはずだ。
でも結婚なんてしたくない!

どうしよう……どうしたらいい?

どれだけ自問自答を繰り返しても答えは出てこない。
もう自分の力ではどうすることもできなくて、ついに私はお兄ちゃんに救いを求めてしまった。

誰にも知られたくなかった。
もちろんお兄ちゃんにも。

でも、

――いつだって、俺が千鶴を守るから! 困ったことがあったらいつでもいうんだぞ!

そう言ってくれていたお兄ちゃんの言葉に縋り付きたかった。

震える手でL.Aにいるお兄ちゃんに電話をかけると、

ーもしもし、千鶴? どうした、何かあったのか?

いつもと同じ優しくも心配してくれる声に、一気に涙腺が緩んだ。

ーお、にい、ちゃん……っ、わたし――っ。

気づけば、涙を流しながら助けを求めていた。

ー泣いてたらわからないだろう、千鶴、どうしたんだ? 父さんに何かあったのか?

お兄ちゃんの優しい声に少し冷静さを取り戻しながら、これまでの出来事を包み隠さず全て伝えた。

ーおにい、ちゃん……私、どうしたらいい? このまま、あんな人と、結婚するなんて……っ。

ー大丈夫だ! 俺に任せろ! 千鶴は絶対に俺が守るから!

怒りに満ちた、頼り甲斐のある言葉に安心する。

ーあとは全部任せてくれ。また連絡するから。

ーありがとう。お兄ちゃん。

自分の辛かった胸の内を吐き出せたのは良かったけれど、L.Aにいるお兄ちゃんに迷惑をかけてしまったのは申し訳なかったな。

それでも、任せろと言ってくれたその言葉を信じて、私は久しぶりに数時間寝ることができた。

それからほんの数日後、事態は急展開を迎えた。
家に突然、安田の務める笹川コーポレーションの社長と、弁護士さんが二人もやってきたのだ。

――千鶴。大智に話したことで弁護士さんたちがきている。頼む、出てきてくれないか?

お父さんが部屋の外から、私に呼びかけてきた。
弁護士さんたちはお父さんに安田が私にしたことを打ち明け、全てはお父さんの知るところとなったみたいだ。
お父さんに心配をかけたくなかったのに、知られてしまったことはショックだったけれど、

――脅されて結婚などしてはあなたが不幸になるだけです。私たちはあなたがもう二度と安田に会わないで済むようにします。そして、罰も受けてもらいますから安心して全てを我々に話してください。このことはあなたのお兄さんも望んでいることなんですよ

と来てくれた弁護士さんに言われて、私は自分の口から全てを打ち明けることにした。

私の言葉を全て聞き取り、その言葉を元に、弁護士さんは安田への告訴状を作ってくれて、その日の夜には安田は逮捕されたらしい。
実は私以外にもたくさん安田の被害者がいたそうだ。
今回、私が声を上げたことで、安田が捕まったと言われて、少しは他の被害者さんたちの役に立てたのかなと思うと嬉しかった。

安田が逮捕された際に、私が撮られた画像も全て証拠として押収されたけれど、決して外部には出回らないと約束してくれてホッとした。

もう二度と安田には会いたくない。
それが私の何よりの望みだった。
それ以外にも、途轍もない額の慰謝料も振り込まれ、安田も逮捕されたことで一応事件は終わった。

けれど、だからと言ってすぐに今まで通りの生活を送れるかと言われればそうじゃない。
誰かに知られているのではという恐怖もあるし、何より誰かと会うのが怖い。

どうしても部屋から出られず、結局大好きだった仕事も辞めた。
お父さんに迷惑かけるのも嫌で、私は自分からおばあちゃんちに行きたいと言った。

――千鶴の思うようにしたらいい。

わがままを言ってしまったと思ったけれど、お父さんは何も言わず、おばあちゃんの家まで夜中に車で送ってくれた。
環境が変われば外に出られるかもしれないと思っていたけれど、私はまだ一歩を踏み出せず、それからも引きこもりの生活を続けていた。

部屋を出て、おばあちゃんと一緒にご飯は食べられるようになったけれど、外に出ることはまたできていない。
おばあちゃんに申し訳なくて、ごめんと謝ったけれど、

――おばあちゃんはね、千鶴がいてくれるだけでいいの

といつも言ってくれる。
そんなおばあちゃんの優しさに私は甘えたままだ。
そんな時、お兄ちゃんから久しぶりの電話が来た。
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