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こんな偶然あるんだな……
車に乗り込むとすぐにロベールさんはさっきの電話のことを聞いてきた。
『それでお姉さんとの電話は何を話したんだ?』
『あの、実は、昨日からの出来事を姉に全て話したんです。ロベールさんが俺の婚約者になったのなら、ちゃんと姉に話しておかないとと思って……。そうしたら、今日から新婚旅行に行くはずだったのをキャンセルしてロベールさんに挨拶したいって言い出しちゃって……姉は言い出したら聞かない性格だからすみません……。それでこれから実家で会うことになったんです』
『そうか……せっかくのハネムーンなのにお姉さんたちには申し訳ないことになったが、私としてはヒロのお姉さんに挨拶できるのは嬉しいよ。しっかりと話して一緒に暮らすのを認めていただかないとな』
なんだか俄然やる気になったロベールさんに少し不安を覚えながらも、車はどんどん家へと近づいていく。
本当に大丈夫かな……。
姉さん……俺のことにはかなり過保護だからな。
『着いたようだな』
悩んでいるうちにあっという間に家に着いてしまった。
うちの小さな家の前に似つかわしくない白い大きなリムジンが突然やってきてご近所さんたちも驚いているようだ。
運転手さんが扉を開けてくれて、俺が外に出ると
「まぁ、比呂くんじゃないのっ!! どうしたの、こんな凄い車で!! あんた、お姉さんの結婚式に行ったんじゃなかったのかい?」
とお隣さんのおばちゃんが興奮しまくった様子で声をかけてきた。
「いやー、なんというか……ちょっといろいろあって……」
「いろいろってなに――」
『ヒロ、どうしたんだ?』
おばちゃんの言葉を遮るようにロベールさんが車の中から声をかけてきた。
慌てて手を差し伸べると、ロベールさんは病院で用意してもらった松葉杖をつき、器用に車の外へと出てきた。
「あらーっ、なんていい男っ!! この男前、比呂くんの知り合いなのかい?」
「ええ、まぁ……はい」
「あんたにこんな男前の外国人の知り合いがいるなんて知らなかったよ。それでどう――」
「坂田さん、すみません。彼、怪我してるので家で休ませたいんです」
悪い人ではないけれど、いつも無駄に長話になってしまうこのおばちゃん。
いつもなら黙って相槌打ちながら話を聞いているけれど、怪我をしているロベールさんを巻き込むわけにはいかない。
すみませんと頭を下げながらロベールさんを支えて家へと入ろうとすると、坂田さんは僕の腕をとって
「ちょっと待ちなよ。ちょっとくらい話聞かせてくれてもいいじゃない」
といつも以上にしつこく食い下がってきた。
かっこいいロベールさんが気になって仕方がないのだろう。
『Hey bitch! 私のハニーに勝手に触れないで頂こうか』
俺の腕を掴んだおばちゃんの手をさっと払い除け、ロベールさんの口から出たとは思えない言葉を、にっこりと紳士的な極上の笑みを見せながら早口の英語で言い放つとおばちゃんは真っ赤な顔でロベールさんをうっとりと見上げながらフラフラと俺たちのそばから離れていった。
英語が得意な俺がやっと聞き取れたくらいの早口だ。
悪いけどおばちゃんには内容はわかっていないだろう。
ロベールさん、ものすごい笑顔だったしおばちゃんが『My honey』だけ聞き取れたとしたらまさか罵られたとは思っていないだろうな。
でも、ロベールさんでもあんなスラングいうんだ……。
ちょっとびっくりした。
面倒臭い人がいなくなったのにホッとしながら、ロベールさんを部屋の中に案内した。
『散らかってますけど、ここに座ってください』
『畳の部屋にソファーとはまた不思議な感じがするが落ち着くものだな』
『よかったです。冷たい飲み物でも入れてきますね』
『あっ、ちょっと待ってくれ。ヒロ』
台所に向かおうとしたのを止められて何かあったかと慌ててロベールさんの元に向かうと、
「――っ!」
当然のようにチュッとキスをされて驚いてしまった。
『なっ――、突然っ』
『ただいまのキスはフィアンセとして当然だろう?』
驚く俺にロベールさんは悪びれもなくそんなことを言ってくる。
婚約者になったら当然?
アメリカにはそんな決まりあったっけ?
でも友人同士でもキスやハグをするくらいだ。
そんなものかもしれない。
そう思いつつも、子どもの時から慣れ親しんだ自宅でキスしてるなんてなんか変な感じしかしない。
ロベールさんと一緒にここで暮らすっていうことはこういうことにも慣れていくってことなのかな……。
なんかちょっと心配になってきた。
ガチャガチャ
突然玄関の鍵が開く音が聞こえてビクッとしてしまったのは、さっきのキスの余韻に浸ってロベールさんの身体に身を預けてしまっていたからだ。
『姉さんだっ!』
咄嗟に身体を起こして、急いで玄関へと駆けていくとそこには姉さんと佑さんが揃って立っていた。
「比呂っ! 無事に帰ってたのね!」
「あー、うん。さっき帰った。ってか、家の前に車なかった?」
「車? なかったけど」
そっか。あまりにも大きな車だから邪魔になると思ってどこかの駐車場にでも止めてくれているんだろう。
「それで、あんたの婚約者っていうのはどこにいるの?」
「今、リビングのソファーで待っててもらってる」
「そっか。怪我してるんだっけ」
「うん、そう」
返事をしながら、一緒に玄関にいた佑さんに
「今日はすみません。こんなことになってしまって……」
と謝ると
「比呂くんが謝ることじゃないだろう? いいから、中に入ろう」
と優しく返してくれた。
こんなに優しい佑さんなのに、口移しで薬を飲ませるなんて絶対無理とか思ってごめんなさいと心の中で謝りながら、姉さんと佑さんと一緒にロベールさんの待つリビングへと向かうと、
『タスクっ!!』
佑さんと目を合わせた瞬間、ロベールさんが笑顔で名前を叫んだ。
『ああ、やっぱりロベールだったんだな!』
「えっ? 佑さん……ロベールさんと、し、知り合い……ですか?」
「ああ。ロベールとはもう10年以上の仲だよ」
佑さんは満面の笑みを見せながら、そんな事実をサラッと教えてきた。
「えーっ!!」
驚く俺を横目に2人は久しぶりの再会を喜んでいるようだ。
『あ、あの……2人はどういう知り合いなんですか?』
『タスクが高校生の時に3ヶ月間、うちにホームステイしてたことがあるんだ。
年も同じだったから気が合ってね。それ以来ずっと仲良くしてるんだよ』
まさか、ロベールさんと佑さんが知り合いだったなんて……。
こんな偶然、本当にあるんだな。
『それでお姉さんとの電話は何を話したんだ?』
『あの、実は、昨日からの出来事を姉に全て話したんです。ロベールさんが俺の婚約者になったのなら、ちゃんと姉に話しておかないとと思って……。そうしたら、今日から新婚旅行に行くはずだったのをキャンセルしてロベールさんに挨拶したいって言い出しちゃって……姉は言い出したら聞かない性格だからすみません……。それでこれから実家で会うことになったんです』
『そうか……せっかくのハネムーンなのにお姉さんたちには申し訳ないことになったが、私としてはヒロのお姉さんに挨拶できるのは嬉しいよ。しっかりと話して一緒に暮らすのを認めていただかないとな』
なんだか俄然やる気になったロベールさんに少し不安を覚えながらも、車はどんどん家へと近づいていく。
本当に大丈夫かな……。
姉さん……俺のことにはかなり過保護だからな。
『着いたようだな』
悩んでいるうちにあっという間に家に着いてしまった。
うちの小さな家の前に似つかわしくない白い大きなリムジンが突然やってきてご近所さんたちも驚いているようだ。
運転手さんが扉を開けてくれて、俺が外に出ると
「まぁ、比呂くんじゃないのっ!! どうしたの、こんな凄い車で!! あんた、お姉さんの結婚式に行ったんじゃなかったのかい?」
とお隣さんのおばちゃんが興奮しまくった様子で声をかけてきた。
「いやー、なんというか……ちょっといろいろあって……」
「いろいろってなに――」
『ヒロ、どうしたんだ?』
おばちゃんの言葉を遮るようにロベールさんが車の中から声をかけてきた。
慌てて手を差し伸べると、ロベールさんは病院で用意してもらった松葉杖をつき、器用に車の外へと出てきた。
「あらーっ、なんていい男っ!! この男前、比呂くんの知り合いなのかい?」
「ええ、まぁ……はい」
「あんたにこんな男前の外国人の知り合いがいるなんて知らなかったよ。それでどう――」
「坂田さん、すみません。彼、怪我してるので家で休ませたいんです」
悪い人ではないけれど、いつも無駄に長話になってしまうこのおばちゃん。
いつもなら黙って相槌打ちながら話を聞いているけれど、怪我をしているロベールさんを巻き込むわけにはいかない。
すみませんと頭を下げながらロベールさんを支えて家へと入ろうとすると、坂田さんは僕の腕をとって
「ちょっと待ちなよ。ちょっとくらい話聞かせてくれてもいいじゃない」
といつも以上にしつこく食い下がってきた。
かっこいいロベールさんが気になって仕方がないのだろう。
『Hey bitch! 私のハニーに勝手に触れないで頂こうか』
俺の腕を掴んだおばちゃんの手をさっと払い除け、ロベールさんの口から出たとは思えない言葉を、にっこりと紳士的な極上の笑みを見せながら早口の英語で言い放つとおばちゃんは真っ赤な顔でロベールさんをうっとりと見上げながらフラフラと俺たちのそばから離れていった。
英語が得意な俺がやっと聞き取れたくらいの早口だ。
悪いけどおばちゃんには内容はわかっていないだろう。
ロベールさん、ものすごい笑顔だったしおばちゃんが『My honey』だけ聞き取れたとしたらまさか罵られたとは思っていないだろうな。
でも、ロベールさんでもあんなスラングいうんだ……。
ちょっとびっくりした。
面倒臭い人がいなくなったのにホッとしながら、ロベールさんを部屋の中に案内した。
『散らかってますけど、ここに座ってください』
『畳の部屋にソファーとはまた不思議な感じがするが落ち着くものだな』
『よかったです。冷たい飲み物でも入れてきますね』
『あっ、ちょっと待ってくれ。ヒロ』
台所に向かおうとしたのを止められて何かあったかと慌ててロベールさんの元に向かうと、
「――っ!」
当然のようにチュッとキスをされて驚いてしまった。
『なっ――、突然っ』
『ただいまのキスはフィアンセとして当然だろう?』
驚く俺にロベールさんは悪びれもなくそんなことを言ってくる。
婚約者になったら当然?
アメリカにはそんな決まりあったっけ?
でも友人同士でもキスやハグをするくらいだ。
そんなものかもしれない。
そう思いつつも、子どもの時から慣れ親しんだ自宅でキスしてるなんてなんか変な感じしかしない。
ロベールさんと一緒にここで暮らすっていうことはこういうことにも慣れていくってことなのかな……。
なんかちょっと心配になってきた。
ガチャガチャ
突然玄関の鍵が開く音が聞こえてビクッとしてしまったのは、さっきのキスの余韻に浸ってロベールさんの身体に身を預けてしまっていたからだ。
『姉さんだっ!』
咄嗟に身体を起こして、急いで玄関へと駆けていくとそこには姉さんと佑さんが揃って立っていた。
「比呂っ! 無事に帰ってたのね!」
「あー、うん。さっき帰った。ってか、家の前に車なかった?」
「車? なかったけど」
そっか。あまりにも大きな車だから邪魔になると思ってどこかの駐車場にでも止めてくれているんだろう。
「それで、あんたの婚約者っていうのはどこにいるの?」
「今、リビングのソファーで待っててもらってる」
「そっか。怪我してるんだっけ」
「うん、そう」
返事をしながら、一緒に玄関にいた佑さんに
「今日はすみません。こんなことになってしまって……」
と謝ると
「比呂くんが謝ることじゃないだろう? いいから、中に入ろう」
と優しく返してくれた。
こんなに優しい佑さんなのに、口移しで薬を飲ませるなんて絶対無理とか思ってごめんなさいと心の中で謝りながら、姉さんと佑さんと一緒にロベールさんの待つリビングへと向かうと、
『タスクっ!!』
佑さんと目を合わせた瞬間、ロベールさんが笑顔で名前を叫んだ。
『ああ、やっぱりロベールだったんだな!』
「えっ? 佑さん……ロベールさんと、し、知り合い……ですか?」
「ああ。ロベールとはもう10年以上の仲だよ」
佑さんは満面の笑みを見せながら、そんな事実をサラッと教えてきた。
「えーっ!!」
驚く俺を横目に2人は久しぶりの再会を喜んでいるようだ。
『あ、あの……2人はどういう知り合いなんですか?』
『タスクが高校生の時に3ヶ月間、うちにホームステイしてたことがあるんだ。
年も同じだったから気が合ってね。それ以来ずっと仲良くしてるんだよ』
まさか、ロベールさんと佑さんが知り合いだったなんて……。
こんな偶然、本当にあるんだな。
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