ベビーシッター先でラブラブな家族生活はじまりました

波木真帆

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西条さんと初対面

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それから僕は琳を自分の子どもとして引き取り、夜勤業務のある看護師の仕事を辞め、ルラシオンで働き始めた。
家庭の事情をよく理解してくれている上司のおかげで、琳を育てながらも働く事ができて本当に助かっている。

「琳。本当にいいの?」

「いいよ! だって、そのこ……はるかちゃんがいないと、ひとりになっちゃうんでしょう? りんはほいくえんに、おともだちもいーっぱいいるからだいじょうぶだよ!」

本当は寂しいに決まっている。
でも琳がここまで言ってくれるなら、今はそれに甘えよう。

「ありがとう、琳。じゃあ、お礼に今日は琳の好きなオムライスにしよう!」

「わぁーい! りん、はるかちゃんのおむらいす、だぁーいすき!! りんもおてつだいするー!」

目を輝かせてぴょんぴょんとその場でジャンプする琳がたまらなく可愛い。

「卵割るのと混ぜ混ぜするの、どっちがいい?」

「りん、まぜまぜするー!!」

「よーし! じゃあお願いするねー!」

笑顔の琳を見ながら、僕はうっすらと涙を浮かべた。

  ◇◇◇


そうして、あっという間に初日の朝がきた。

いつもより早い時間に琳を保育園に送ることになったのは、西条さんとの初日の打ち合わせが入っているからだ。
今日から延長保育もお願いしているから、琳はいつもよりかなり長い時間保育園に預かってもらうことになる。

「遅くなるけど必ず迎えに来るからね」

少し寂しげな琳に約束だよと小指を絡めて笑顔で別れた。

「はるかちゃん! がんばってきてねー!」

琳の精一杯の応援に手を振って、僕は一度アパートに帰り、車で西条さんの自宅に向かった。

西条さんのご自宅は、七階建ての厳かな雰囲気が漂うマンション。その最上階の全てが西条さんのご自宅らしい。

今まで派遣されたことがあるご自宅の中でもおそらく群を抜いて豪華そうなマンションに一気に緊張感が高まるけれど、僕は仕事を全うするだけだ。

前もって教えられていた来客用の駐車場に車を止め、マンションのロビーに入るとすぐに黒服のコンシェルジュさんが近づいてくる。この辺りは派遣されているマンションでも同様のことがあるから慣れている。

「家事代行サービス『ルラシオン』から参りました、友利と申します。本日は西条さんのご依頼で伺いました」

「『ルラシオン』の友利様でございますね。西条様よりお伺いしております。西条様にご到着のご連絡をいたしますので、そちらでしばらくお待ちくださいませ」

丁寧な挨拶をされて、少し驚いてしまう。
西条さん、僕のことをすでにコンシェルジュさんに話を通してくれていたんだ。
たまに連絡の行き違いがあって時間をロスすることがあるから、こういうのって本当に助かる。

「友利様。エレベーターホールまでご案内いたします」

どうやらちゃんと確認が取れたらしい。
コンシェルジュさんに案内されて、エレベーターホールの先まで連れて行かれる。
そこにはエレベーターの類は見えないけれど、どこになるんだろう?

「こちらからお入りください」

コンシェルジュさんがさっと手をかざすと壁と思っていた場所がスーッと開き、その奥に新たなエレベーターホールが現れた。

「うわっ! すごいっ!」

いろんな高級マンションに入っているけれど、さすがにこれほどのところはなかった。
本当にここのマンションはすごい。

ドキドキしながら案内されるがままにエレベータに乗り込んだ。

「扉が閉まりましたら自動で西条様のご自宅前に止まりますので、ボタンにはお手を触れないようにお願いいたします」

「は、はい。わかりました」

笑顔のコンシェルジュさんに見送られながら扉が閉まる。
スーッと音もなく上がっていくと、あっという間に最上階に到着したようだ。

静かに扉が開き、目の前に木目調のアンティークな印象漂う大きな扉が現れた。
まるでどこぞの高級レストランのような重厚な扉に思わず身構えてしまう。

本当にすごいな、ここ。

震える指を必死に抑えながらチャイムを鳴らすと、すぐに扉が開いた。
現れたのは僕よりは十五センチ以上差がありそうな長身で逞しい体躯にオーダーメイドのスリーピースのグレーのスーツを着こなした格好いい男性。彼が西条さんだ。想像以上のイケメンっぷりにただただ驚いてしまう。これは女性たちから好意を持たれるのも無理はない。とはいえ、彼女たちがしたことを正当化する気は毛頭ないけれど。

僕は気を引き締めて、彼に向き合った。

「初めまして。『ルラシオン』から参りました友利遥と申します。今日からよろしくお願いします」

「よろしく頼む。説明をするから中に入ってくれ」

「はい。失礼します」

とりあえず第一印象では合格したようでホッとする。
中に入ると、広々とした玄関ホールに迎えられる。
ここだけで僕と琳が住んでいる部屋のリビングくらいありそうだ。

玄関ホールから扉を開けて中に入ると、今度は百畳近い広々としたリビングに迎えられる。
大きな窓からは明るい光が差し込んで実に気持ちがいい。

テラスもあるけど、ここは外に洗濯物干していいのかなー? 干せるんだったらそのほうが気持ちいいけどな。

なんて、つい仕事のことを考えてしまう。

あ、そうだ。お子さんはどこかな?
辺りを見回すとリビングの奥の方にある広々としたサークルの中で、大きなぬいぐるみの影から僕の姿を覗き見している小さな子の姿が見える。こっそり覗いているようだけど僕にはバレバレだ。そんなところも可愛い。
三歳と聞いていたけれど、琳より少し大きく見える。もしかしたらもうすぐ四歳なのかもしれない。

「友利くん、だったね。早速だがこれは私が作っておいた契約書だ。目を通してくれ」

笑顔でこっそりと息子くんに手を振っていると、西条さんから数枚の書類を目の前に差し出された。
大まかな仕事内容は教えられていたものの、依頼主の個人情報を遵守するためにうちの会社では前もって仕事先の個人的な情報は与えられない。そのため、僕たちスタッフは初日に依頼主と契約内容を確認するのが常識となっていて、少しでも意に沿わない場合はきちんと断る権利を持っているし、要望を擦り合わせてお互いが納得する契約を行うことになっている。
手渡された契約書に目を通していると、西条さんからの説明が入る。

「うちでの仕事は息子の世話がメインになる。家事はやってくれればありがたいが、息子の世話が疎かになるようならしなくていい。一応洗濯機はあるが、最近は全てコンシェルジュに頼んでいるから無理してする必要はない。掃除もロボット掃除機を数台置いているからそれだけでも構わない。食事は……これまでのことを聞いているかわからないが、前任のスタッフに薬を盛られたからその際に調理道具の類は全て処分した。だから全てデリバリーで構わない。とにかく、息子の面倒だけ見てくれたら文句は言わない。何かわからないことがあれば言ってくれ」

確かに契約書にもメインは託児だと大きく書かれている。
もちろん保育士としての資格は持っているから問題はないけれど、仕事の時間も長いのにたったそれだけの仕事量で二百万なんてもらえない。ここははっきりと言っておこう。
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