ベビーシッター先でラブラブな家族生活はじまりました

波木真帆

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保育園からの連絡

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「ぱぱー。りんくんがはるかちゃんといっしょに、あおとのおうちにくるのー?」

驚きすぎて僕が声を出せない間に、碧斗くんが嬉しそうに西条さんに尋ねる。

「そうだ。琳くんは怪我をしているから、碧斗が手伝ってあげられるか?」

「うん! だいじょーぶ!! あおと、りんくんのおててになるー!!」

無邪気な碧斗くんの言葉におじいちゃん先生も笑顔を見せて、碧斗くんの頭を優しく撫でる。

「ははっ。碧斗くんはいいお兄ちゃんになったな。琳くんが無理しないようにいっぱいお世話してあげるんだよ」

「うん! まかせてー! りんくん、だいじょーぶだからね!」

「ありがとー、あおとくん!」

なんだか僕が何も言えない間に話がどんどん進んでしまっている。
驚きすぎて全然頭が回らないし、このまま受け入れてしまっていいのかな?

「あの……」

なんて言えばいいのか悩んで何も言えずにいるうちに、先生から一週間後にまた診せにくるようにと言われて診察が終わってしまった。

診察室から出る時も琳の手を碧斗くんがしっかりと握っていて、僕はその後ろを西条さんといっしょに歩いた。

「あの、西条さん……さっきの話なんですけど……本当に、琳を連れて行ってもいいんですか?」

「構わない。契約書でも碧斗の世話をメインに家事は遥くんに任せるとなっているし、それが守れるのなら子どもが一緒でも契約違反にはならない。これは私が認めていることだから、『ルラシオン』にもわざわざ報告はいらない」

「ありがとうございます、西条さん」

子連れで出勤なんて会社に言えば絶対に怒られるに決まってる。それをわかっているから報告はいらないなんて……お礼を言われることではないと言われたけれど、僕はお礼を言わずにはいられなかった。

義務教育までの子どもは診察も薬代も無料のため会計はなく、併設している薬局で薬をもらって病院を出た。
広々とした駐車場を見渡したけれど、乗ってきたタクシーの姿が見えない。

「あれ? タクシー、どこだろう?」

「タクシーなら返した。車にあった荷物は全て私の車に運ばせておいたよ。車はこっちだ」

西条さんはそういうが早いか、スタスタと歩いて行く。
その先にはものすごく高級そうな車が止まっているのが見える。

「西条さんの車って、もしかしてあれ……?」

「うん! あれ、ぱぱのくるまー!」

碧斗くんはなんでもないように教えてくれるけれど、あのエンブレムって……とんでもない高級車なんじゃないの?
今から、あの車に乗るの?

「あおとくんのぱぱのくるま、かっこいーね!」

「そうだね……」

目を輝かせている琳とは対照的に、僕は緊張しかない。

車に近づくとさらに高級そうなのがよくわかる。
西条さんは後部座席の扉を開けて待ってくれていて、中を見て驚いた。

「あ、チャイルドシート……」

碧斗くんと琳の分の二つがこの高級車の後ろにちゃんと取り付けられている。
豪華な車と相まってなんとも不思議な感じがする。

「遥くん、琳くんをここから座らせてくれ。碧斗は反対側から乗るぞ」

西条さんはそれだけ言うと、碧斗くんの手を引いて車の反対側に回った。
後部座席に並んで座る琳と碧斗くんはすごく楽しそうだ。

「碧斗、家に着くまで琳くんと仲良くするんだぞ」

「はーい!」

すっかり仲良しになった二人はすぐにおしゃべりを始めた。
まるで以前からの友だちのようだ。

「遥くんは助手席に乗ってくれ」

後部座席の扉を閉めながらそう言われて僕は慌てて返事をした。

扉を閉め、助手席に向かうと西条さんは颯爽と運転席に乗り込んだ。
そしてモニターを操作すると、後部座席の様子がパッと映った。

「わっ、琳と碧斗くんが映ってる!」

「これなら後ろに座らせていても安心だろう? このボタンを押せば会話もできるよ。碧斗と琳くんが座っている場所にもボタンがあるからお互いに何かあれば声がかけられるんだ」

すごい仕掛けに驚きしかない。
僕がモニターに釘付けになっている間に、車はゆっくりと進み始めた。
滑らかな運転に、安心感しかない。

「運転、お上手なんですね」

「そんなことを言われたのは初めてだ」

「そうなんですか? でも、モニターを見ても琳も碧斗くんも安心し切った顔をしてますから、お上手だと思いますよ。車の振動とか急ブレーキとかって子どもは敏感に反応しますから」

ここが車内だと思えないくらいにリラックスをしているのが、琳の表情からよくわかる。

「あの、今日はわざわざお仕事まで切り上げてきてくださってありがとうございました。本当にご迷惑をおかけしてしまって……」

「気にしないでいい。私も碧斗を連れて行ってほしいと無理を言って遥くんの余計な手間を増やしてしまったのだからおあいこだ。それより保育園には連絡しなくていいのか?」

「あ、そうでした。すみません、少し失礼します」

慌ててポケットからスマホを取り出そうとした瞬間、突然スマホが鳴り始めた。
あまりにも同じタイミングに驚きつつも画面を見ると、保育園の表示。
琳のことを気にしてあちらからかけてきてくれたのかもしれない。

「保育園からでした。電話、失礼します」

西条さんに断りを入れて電話をとった。

ーもしもし、友利です。

ー園長の斉藤さいとうです。この度はこちらの不注意でお子さまにお怪我をさせてしまい申し訳ありません。病院はいかがでしたか?

ーはい。幸い、捻挫で済みました。ただ、かなりひどく捻ったらしくて先生からは一週間はお休みしたほうがいいと言われました。

ーえっ? ああ、そうですか! それならお休みさせてください!

まるで休んでくれてよかったとでも言うような園長先生の態度が気になった。

ー琳が休むことになったのがそんなによかったですか?

琳が痛い思いをしたと言うのに。
だからつい、そんな口調になってしまった。

ーあ、いえ。そうではないんです。実は、さっきお父さまが琳くんを連れて帰られた後で、琳くんに会わせろと保育園に乗り込んでこられた方がいらっしゃって……。

ーえっ?

琳に会わせろ?
まさか、その人って……。
考えたくない想像に、僕の身体は震えが止まらなかった。
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