歩けなくなったお荷物な僕がセレブなイケメン社長に甘々なお世話されています

波木真帆

文字の大きさ
46 / 311

名前をつけよう

しおりを挟む
<side征哉>

車の中でもずっとひかるはゾウのぬいぐるみを抱きしめては嬉しそうに微笑み、背中や長い鼻を撫でては蕩けるような眼差しを向ける。

そんなひかるの姿に可愛いと思う反面、ゾウが羨ましくも思ってしまう。
泣く子も黙る貴船コンツェルンの会長ともあろう者がぬいぐるみに嫉妬をするなんて恥ずかしいことだし、考えられないことだが、どうもひかるに対しては狭量になってしまうようだ。

それなのに、ひかるは

「征哉さん、本当にありがとうございます。僕……このゾウさん、大切にしますね。征哉さんにプレゼントしてもらったから、僕の宝物です」

と目を輝かせ満面の笑みでお礼を言ってくれる。
ああ、私は本当に恥ずかしい。

「ひかるくん、このゾウさんに名前をつけてあげましょうか」

「名前……そっか。ゾウさんじゃ可哀想ですもんね。うーん、どんな名前がいいですか?」

「ふふっ。ひかるくんのゾウさんだから好きな名前をつけてあげたらいいのよ。ゾウさんもひかるくんにつけてもらえたら喜ぶわ」

「えー、どうしよう……困っちゃうな」

そう言いながらもひかるは楽しそうだ。
今までにこんな経験がないんだろうな。

「あ、そういえばあのウサギさん。グリちゃんって名前でしたけど、どうしてグリなんだろう?」

「ああ。あの子は綺麗な灰色の毛色をしていただろう? フランス語で灰色のことをグリっていうんだ。だからきっとそこからつけたんだろうな」

「フランス語……かっこいいですね。そっか、そんな付け方もあるんだ……うーん、何にしようかな」

「ふふっ。ゆっくり考えてあげたらいいわ。人間の赤ちゃんも生まれてから届を出すまでに二週間猶予があるのよ。みんなその間にその子にピッタリ合う名前を考えてあげるの」

「そっか、そうなんですね。僕は……ピッタリ合ってますか?」

「えっ……?」

先ほどまでに嬉しそうな表情から、少し不安げな顔を見せたひかるに母が戸惑いの表情を見せる。

「ええ。ひかるくんはよく似合っているわ。可愛らしいひかるくんの笑顔は私たちをいつも明るくしてくれるもの。ひかるくんはこの名前がきらいなのかしら?」

「あの……嫌い、というわけではないんです。でも……僕の名前、施設長の奥さんがつけてくれた名前なんですけど、捨てられていた僕の顔を見て、女の子だと思い込んでひかるという名前で届出を出してしまったそうなんです」

「…………」

「奥さんは子どもを産むことができない体質だったそうで、施設に生まれたばかりの女の子が来たら、『ひかる』と名付けて自分の子どもにしたかったそうです。だから、僕を見て女の子だと思い込んで、『ひかる』って届出を出してから僕が男だと気づいたらしくて……それで何度も怒られました。紛らわしい顔してるから、つけたかった名前を男につけてしまったって。あんたが女だったら、私は女の子のママになれたのに……私の幸せを返せって――ゔっ……っ」

「ひかるっ!」

きっと今話してくれた以上の暴言を幼い時から吐かれていたんだろう。
自分の名前にこんなにトラウマを植え付けられるほどに。

くそっ! 許せないな。

母は申し訳ないことを言ってしまったと自分を責めているようだ。
顔色が悪い。
だが今はひかるの気持ちに寄り添いたい。
ごめん、母さん。

涙で頬を濡らすひかるを私は咄嗟に抱きしめた。

「嫌なことを思い出させて悪い。辛かったな」

「せ、いやさん……っ」

「母さんもひかるを傷つけるつもりじゃなかったんだ。許してほしい」

「そんな……っ、お母さんは何も悪くないです。僕が勝手に……」

「ひかるくんっ! ああ、なんて優しい子なの。ごめんなさいね」

母もひかるに抱きついて、何度も謝罪の言葉を告げる。

「お母さん……僕、本当に何も思ってないです。だから泣かないで……」

「ひかるくん……ありがとう」

ひかるの優しい言葉にようやく母から笑みが溢れた。

「ひかる……もし、ひかるが名前を嫌だというのなら改名することもできるんだよ」

「えっ……かい、めい? 名前を変えるってことですか?」

「ああ。新しい名前で新しい人生を送ることもできるんだ。私はひかるという名前は好きだが、ひかるがその名前で嫌なことを思い出すのは本意ではない。だから、家族でひかるの新しい名前を考えてもいいかもしれないな」

「僕の……新しい名前……」

「すぐに決めなくてはいけないことじゃない。ゆっくりでいいんだ。みんなにとって一番いい方法を考えよう」

そういうとひかるは小さく頷き、目に溜まっていた涙をポロッと溢した。

そんな話をしている間に、車は我が家の玄関前に停まった。

さっと運転席から出てきた志摩くんが後部座席の扉を開ける。
優秀な彼は一瞬で何か起こったことに気づいたようだが、そのことには一切触れずに車椅子と荷物を下ろし、何事もなかったように週明けのことについて説明をした。

「今日は来てくれて助かったよ」

「いいえ、それではまた週明けよろしくお願いします」

「谷垣くんも今日はありがとう」

「はい。僕も楽しかったです。ひかるくん、また週明けからリハビリ頑張ろうね」

「はい。ありがとうございます」

谷垣くんと志摩くんはひかるに手を振りながら、志摩くんの車で二人で帰って行った。
しおりを挟む
感想 545

あなたにおすすめの小説

若頭の溺愛は、今日も平常運転です

なの
BL
『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』続編! 過保護すぎる若頭・鷹臣との同棲生活にツッコミが追いつかない毎日を送る幼なじみの相良悠真。 ホットミルクに外出禁止、舎弟たちのニヤニヤ見守り付き(?)ラブコメ生活はいつだって騒がしく、でもどこかあったかい。 だけどそんな日常の中で、鷹臣の覚悟に触れ、悠真は気づく。 ……俺も、ちゃんと応えたい。 笑って泣けて、めいっぱい甘い! 騒がしくて幸せすぎる、ヤクザとツッコミ男子の結婚一直線ラブストーリー! ※前作『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』を読んでからの方が、より深く楽しめます。

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

同性愛者であると言った兄の為(?)の家族会議

海林檎
BL
兄が同性愛者だと家族の前でカミングアウトした。 家族会議の内容がおかしい

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

αからΩになった俺が幸せを掴むまで

なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。 10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。 義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。 アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。 義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が… 義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。 そんな海里が本当の幸せを掴むまで…

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

病弱の花

雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。

処理中です...