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一花の要望に応えよう
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<side一眞>
「一花のマフラーをつけて行ったら、社員たちみんなに似合ってるって褒められたよ」
家での食事の最中にこうして話ができるなんて、本当に幸せだな。
一花と征哉くんの笑顔を見ながら食べると、いつもの食事がさらに美味しく感じられる。
特に一花が美味しそうに食べてくれるのを真正面で見るのは最高だ。
「わぁ、嬉しいです! 初めて作ったからドキドキしてたんです」
「いやいや、史紀が初心者とは思えないって感心していたよ。あいつも器用で編み物をよくするらしい」
「へぇ、史紀さんが編み物がお得意とは知りませんでしたよ」
「ははっ。そうだろうな」
征哉くんが驚くのも無理はない。
普段の史紀からは編み物をしそうな雰囲気はないからな。
だが、仕事が忙しくてストレスが溜まっている時ほど、何かを作りたくなると話していたから史紀にとっては編み物がいい気分転換になっているようだ。
実のところ、史紀のいる社長室にはいつでも編み物ができるように専用の棚を作り、毛糸や編み棒や編み針といった必需品が揃えられている。
会社の上に立つ人間が仕事中に編み物なんて……と批判もあるかもしれないが、私としては編み物をすることで集中力が高まり、冷静に物事を判断して史紀の仕事が捗るなら問題はない。
一花と麻友子を失って仕事が手につかなくなった私からこの会社を引き継いで、今もなお頑張ってくれているのだから史紀のいいようにさせてやろうと思っている。
「史紀さんって、お父さんとどういう関係ですか?」
「史紀は私の祖父の兄弟の孫だよ、だから一花とはだいぶ遠いけれど親戚ということになるな」
「親戚?」
「わかりやすくいえば、大きな家族ってことかな」
「大きな家族! 僕、親戚の人がいるって知って嬉しいです!」
「――っ、そうか。そうだな」
征哉くんと出会うまではずっと一人だったんだ。
親戚どころか両親もいないと思って生きてきたのだから、自分にも親戚がいると思って嬉しくなるのも無理はないな。
「今日は会社も休みだから、食事が終わったら史紀に連絡をしてみようか。何も予定がないようなら来てもらうのもいいだろう」
「えっ? でも、急になんていいんですか?」
「ああ、まぁ史紀が休日に恋人と出かけているのなら仕方がないが、あいつに恋人がいる話は聞いていないからな」
「会えたら嬉しいです」
初めての親戚に嬉しそうな表情を見せる一花とは対照的に、征哉くんは少し複雑そうな表情だな。
きっと史紀のことを心配しているのだろう。
何度か顔も合わせたことがあるのだから、史紀が一花にそのような思いを持つことはないとわかりそうなものだが、これが恋する男の盲目というものだろうか。
一花と一緒にいる時の征哉くんは、今まで見ていた貴船コンツェルンの会長としての姿とは全く違うな。
それもまた面白いものだ。
食事を終えて、史紀に連絡を入れてみる。
数回のコールの後に電話がつながった。
ー会長。何かありましたか?
ーいや、今日はプライベートでの電話だ。
ープライベート? ますます珍しいですね。
ーははっ。実はな、今日は一花が我が家に泊まりにきてくれているんだよ。
ーえっ? 一花さんが? それは……大変喜ばしいことで何よりです。
史紀の声が電話越しにも震えているのがわかる。
私が一花と麻友子を亡くし、辛く苦しんでいた間のことをよく知っているからな。
一花とこうして家族の時間を過ごしているとわかって喜んでくれているのだろう。
ーありがとう。それでだ、さっきお前の話になってな……
ーえっ? 私の話、ですか?
ーああ、そうだ。それで一花が親戚のお前に会ってみたいというのでな、連絡してみたんだよ。今日、もし予定が空いてるなら、一花に少し会いにこないか?
ー私が? いいんですか?
ーああ。どうだ?
ー今日は何も予定はありませんし、せっかくのお誘いですからぜひ伺わせていただきます。
ーおお、そうか。なら、楽しみにしている。どれくらいで来られる?
ーそうですね、一時間以内には伺えると思います。
ーわかった。
そういって、電話を切ったがそういえば、征哉くんのことは史紀には話していなかったな。
ここにきて征哉くんに会ったらきっと驚くだろうが、まぁいいか。
「一花。史紀はすぐに来てくれるそうだよ」
「わぁ、楽しみですね。征哉さんは史紀さんと会ったことあるんですか?」
「ああ、貴船コンツェルンと櫻葉グループは互いに重要な取引先の一つだからね。年に数回は会う機会があるかな」
「そうなんですね」
緊張もありつつも嬉しそうな表情を浮かべる一花と話をしながら待っていると40分ほどで史紀がやってきた。
「二階堂、すぐにここに案内してくれ」
「承知しました」
その言葉に征哉くんは隣に座っていた一花にさらにピッタリと寄り添った。
ふふっ。史紀に牽制のつもりだろうか。
こういう征哉くんをみられるのも楽しいものだな。
「一花のマフラーをつけて行ったら、社員たちみんなに似合ってるって褒められたよ」
家での食事の最中にこうして話ができるなんて、本当に幸せだな。
一花と征哉くんの笑顔を見ながら食べると、いつもの食事がさらに美味しく感じられる。
特に一花が美味しそうに食べてくれるのを真正面で見るのは最高だ。
「わぁ、嬉しいです! 初めて作ったからドキドキしてたんです」
「いやいや、史紀が初心者とは思えないって感心していたよ。あいつも器用で編み物をよくするらしい」
「へぇ、史紀さんが編み物がお得意とは知りませんでしたよ」
「ははっ。そうだろうな」
征哉くんが驚くのも無理はない。
普段の史紀からは編み物をしそうな雰囲気はないからな。
だが、仕事が忙しくてストレスが溜まっている時ほど、何かを作りたくなると話していたから史紀にとっては編み物がいい気分転換になっているようだ。
実のところ、史紀のいる社長室にはいつでも編み物ができるように専用の棚を作り、毛糸や編み棒や編み針といった必需品が揃えられている。
会社の上に立つ人間が仕事中に編み物なんて……と批判もあるかもしれないが、私としては編み物をすることで集中力が高まり、冷静に物事を判断して史紀の仕事が捗るなら問題はない。
一花と麻友子を失って仕事が手につかなくなった私からこの会社を引き継いで、今もなお頑張ってくれているのだから史紀のいいようにさせてやろうと思っている。
「史紀さんって、お父さんとどういう関係ですか?」
「史紀は私の祖父の兄弟の孫だよ、だから一花とはだいぶ遠いけれど親戚ということになるな」
「親戚?」
「わかりやすくいえば、大きな家族ってことかな」
「大きな家族! 僕、親戚の人がいるって知って嬉しいです!」
「――っ、そうか。そうだな」
征哉くんと出会うまではずっと一人だったんだ。
親戚どころか両親もいないと思って生きてきたのだから、自分にも親戚がいると思って嬉しくなるのも無理はないな。
「今日は会社も休みだから、食事が終わったら史紀に連絡をしてみようか。何も予定がないようなら来てもらうのもいいだろう」
「えっ? でも、急になんていいんですか?」
「ああ、まぁ史紀が休日に恋人と出かけているのなら仕方がないが、あいつに恋人がいる話は聞いていないからな」
「会えたら嬉しいです」
初めての親戚に嬉しそうな表情を見せる一花とは対照的に、征哉くんは少し複雑そうな表情だな。
きっと史紀のことを心配しているのだろう。
何度か顔も合わせたことがあるのだから、史紀が一花にそのような思いを持つことはないとわかりそうなものだが、これが恋する男の盲目というものだろうか。
一花と一緒にいる時の征哉くんは、今まで見ていた貴船コンツェルンの会長としての姿とは全く違うな。
それもまた面白いものだ。
食事を終えて、史紀に連絡を入れてみる。
数回のコールの後に電話がつながった。
ー会長。何かありましたか?
ーいや、今日はプライベートでの電話だ。
ープライベート? ますます珍しいですね。
ーははっ。実はな、今日は一花が我が家に泊まりにきてくれているんだよ。
ーえっ? 一花さんが? それは……大変喜ばしいことで何よりです。
史紀の声が電話越しにも震えているのがわかる。
私が一花と麻友子を亡くし、辛く苦しんでいた間のことをよく知っているからな。
一花とこうして家族の時間を過ごしているとわかって喜んでくれているのだろう。
ーありがとう。それでだ、さっきお前の話になってな……
ーえっ? 私の話、ですか?
ーああ、そうだ。それで一花が親戚のお前に会ってみたいというのでな、連絡してみたんだよ。今日、もし予定が空いてるなら、一花に少し会いにこないか?
ー私が? いいんですか?
ーああ。どうだ?
ー今日は何も予定はありませんし、せっかくのお誘いですからぜひ伺わせていただきます。
ーおお、そうか。なら、楽しみにしている。どれくらいで来られる?
ーそうですね、一時間以内には伺えると思います。
ーわかった。
そういって、電話を切ったがそういえば、征哉くんのことは史紀には話していなかったな。
ここにきて征哉くんに会ったらきっと驚くだろうが、まぁいいか。
「一花。史紀はすぐに来てくれるそうだよ」
「わぁ、楽しみですね。征哉さんは史紀さんと会ったことあるんですか?」
「ああ、貴船コンツェルンと櫻葉グループは互いに重要な取引先の一つだからね。年に数回は会う機会があるかな」
「そうなんですね」
緊張もありつつも嬉しそうな表情を浮かべる一花と話をしながら待っていると40分ほどで史紀がやってきた。
「二階堂、すぐにここに案内してくれ」
「承知しました」
その言葉に征哉くんは隣に座っていた一花にさらにピッタリと寄り添った。
ふふっ。史紀に牽制のつもりだろうか。
こういう征哉くんをみられるのも楽しいものだな。
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