イケメンスパダリ医師は天涯孤独な彼を放っておけない

波木真帆

文字の大きさ
18 / 63

空良と一緒にいたい

しおりを挟む
「佳都っ! 支度が終わったのか?」

「はい。ちょうど今終わって、悠木先生たちが来られてるって聞いたから」

「そうか、すごくよく似合ってる」

「ふふっ。ありがとうございます」

突然現れた佳都くんの登場に興奮していた理央くんも泣いていた空良もキョトンと見つめている。
それくらい今日の佳都くんはいつもよりもずっとずっと綺麗だった。

「綾城……」

俺たちの目の前でいちゃつき始めた綾城に声をかけると、佳都くんと2人でハッとこっちを見て

「ああ、悪い。つい……佳都の可愛さにお前らの存在忘れてたわ」

と悪びれもなく言い出した。

「あの……良かったら君たち、僕の控え室でちょっと話をしない? ねっ」

佳都くんはスッと空良と理央くんに近づき、笑顔で2人の手をとって

「じゃあ、直己さん。そっちはよろしくね」

とあっという間に連れ出してしまった。

新郎控え室には俺たち3人だけが取り残され、一気にむさ苦しさだけが残った。

「あの子がお前の大切な子なんだろう?」

綾城にそう聞かれて俺は『ああ』と頷いた。

「じゃあ、なんですぐに言ってやらなかったんだ?」

「まさか空良が俺と結婚したいとまで考えてくれてるとは思わなかったんだ! 俺だってゆくゆくはお前と佳都くんのようにみんなの前で……って思ってたが、空良にとって俺はようやく唯一信頼できる大人くらいの存在になったくらいと思ってたから……だから空良の言葉が嬉しすぎて言葉に詰まっただけなんだよ」

「そうだったのか。ははっ。そりゃあ驚くよな。でも、空良くんだっけ? あの子、俺と佳都が男同士で結婚式挙げるって言っても驚いただけで全然嫌そうな顔もしなかったし、お前と結婚できるって知ってものすごく嬉しそうな顔してただろ? だから、お前のこともっと深く思ってるんじゃないのか? なぁ観月」

「ああ。俺もそう思うよ。空良くん、お前のこと絶対的に信頼しているのは間違いないが、その中には愛情がふんだんに入ってるぞ。あの子の目を見ればわかる」

空良が俺のことを好きだと思ってくれているのはわかっていた。
だが、結婚したいと思うほどの気持ちを持ってくれているとは思いもしなかったんだ。

「言っとくけど観月……俺から言わせればお前もだぞ。理央くんがあれだけ悠木に怒ったのはどうしてだと思う?」

「それは……悠木がはっきり言わなかったからだろう?」

「ふふっ。まだまだだな。あの子は自分が言われた気になったんだよ。理央くんもお前との結婚を考えてたはずだからな」

「理央が……?」

「ああ」

綾城の言葉に観月は今にも部屋を飛び出していきそうだったが、

「観月、ちょっと待て。俺は今日せっかくお前たちが同伴者を連れてくるって言ってたから、ちゃんと用意しといたんだ」

と綾城は意味深な目で俺たちを見つめた。

「用意って……何をだ?」

「ふふっ。ここはホテルだぞ。俺たちの結婚式を見てムードが盛り上がるだろ?」

「「あっ――!」」

「ふふっ。お前たちの部屋、とっておいたから好きに使え」

綾城はそう言って俺たちにカードキーを手渡した。

ゴールドのカードはこのホテルのスイートルーム専用キー。

「これ……いいのか?」

「ああ。お前たちにはたくさん借りがあるからな。部屋には必要なものも全部用意してあるから、使ってもらわないと困るんだよ。もちろん、泊まりの支度も全部新品で揃えてるから気にしないで泊まってくれたらいい」

「ありがとう。綾城、ぜひ泊まらせてもらうよ」

笑顔でそう返す観月を見ながら、俺は少し考えていた。

「悠木は? どうする?」

「いや、こんなすごいホテルに泊まるのは空良も初めてだろうし、俺もぜひ泊まりたいとは思ってるが、あんなふうに泣かせた後で空良が俺と泊まってくれるかどうか……」

「ははっ。それはもう大丈夫だろう」

「えっ?」

「佳都がうまく話してくれてるはずだから心配しないでいい。ただ、こっちに戻ってきた時が肝心だぞ。ちゃんとお前の気持ちを伝えないと!!」

前に綾城に同じようなことを言った覚えがある。
まさかこうやって返されるとはな。

「ああ、わかってるよ。ありがとう。佳都くんにもあとでお礼を言っておかないとな」

「ちなみにお前たちの大切な子のお泊まりセットを選んだのは佳都だから。俺が選んだわけじゃないからな」

「佳都くんが選んだなら、空良も喜びそうだ」

「ああ、理央もだよ」

『ははっ』と3人で声を上げて笑っていると、トントントンと扉を叩く音が聞こえた。

「直己さん、入ってもいいかな?」

佳都くんの声に綾城は俺たちを払い除けるように急いで扉へと駆け寄った。

「佳都っ!」

「ふふっ。直己さん、待たせちゃいましたか?」

「いや、大丈夫だ。佳都たちはどうだった?」

「それが……空良くんも理央くんも2人にお話があるみたいで……。ねっ」

佳都くんの背後に隠れるようにいた空良と理央くんがさっと顔を出してきた。

「それで、僕と直己さんは式のことで担当さんと少しお話があるので、僕たちの控え室使ってもらっていいですよ。ねぇ、直己さん」

「んっ? ああ、そうか。じゃあ、佳都。行こうか」

そういうと綾城は佳都くんの腰を抱くように2人で寄り添って出ていった。

しんと静まり返った部屋で観月が

「じゃあ、俺……理央を連れてあっちに行くよ」

というとすぐに理央くんを連れて部屋を出ていった。

俺と空良だけが部屋に残され、なんと言って話しかけようかと思ったその時突然空良が

「ごめんなさい!」

と頭を下げてきた。

「空良っ! なんで空良が謝るんだ? 悪いのは俺の方だろう」

「だって、僕……寛人さんの話聞かずに勝手に泣き出したりしたから……」

「違うんだ。空良は何にも悪くない。誤解させた俺が悪いんだ」

「佳都さんに言われたんです……言葉って聞こえたままの意味だとは限らないんだ……って」

「えっ?」

「お互いに言葉が足りないだけだ……って、そう言われたんです」

それは……佳都くんが勘違いして綾城の家から出ていってしまった時に俺が佳都くんに伝えた言葉だ。
ふふっ。まさか自分の言葉に教えられるとはな。

「僕、ちゃんと自分の気持ちを伝えてなかったって思い出したんです。あの時、寛人さんに好きだって言ってもらえた時、僕は寛人さんと一緒にいる時間が幸せだって言いましたけど、好きだとは返してなかったですよね。あれから寛人さんと一緒に過ごす時間が増えていって、寛人さんのこと好きだなって……ずっと一緒にいたいなって思うようになったんです。だから、さっき佳都さんと直己さんが結婚するって聞いて、僕たちもできるんだと思ったら嬉しくなって……それで――っ!!」
「ああ、わかった。空良の気持ちはちゃんと伝わったよ!! 俺……嬉しすぎておかしくなりそうだ」

「寛人さん……」

「いつかちゃんとした場所でプロポーズするけど、これは予約ってことで聞いてほしい。
空良……結婚しよう。俺はずっと空良と一緒にいたい」

そういうと空良は俺にギュッと抱きついて

「はい。僕も寛人さんとずっと一緒にいたいです」

と涙を流して答えてくれた。
さっきの涙とは全然違う、満面の笑みを見せながら……。
しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

病弱の花

雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

αが離してくれない

雪兎
BL
運命の番じゃないのに、αの彼は僕を離さない――。 Ωとして生まれた僕は、発情期を抑える薬を使いながら、普通の生活を目指していた。 でもある日、隣の席の無口なαが、僕の香りに気づいてしまって……。 これは、番じゃないふたりの、近すぎる距離で始まる、運命から少しはずれた恋の話。

処理中です...