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彼は一体誰?
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しんと静まり返った電話口で彼も何かに気づいたのか、落ち着いた声で問いかけてきた。
「もしかして何か悪いことでも?」
「……はい。実は、今日……母が、亡くなりました……」
「アマネが……亡くなった?」
「……はい。事故で……僕もついさっき病院から帰ってきたところで……」
「そう、だったのか……辛かったな。今すぐ君に会いにいく」
「えっ? ここに、来てくれるんですか? でも、ここは田舎、あ、日本で……」
「大丈夫、私も日本にいる。今いる場所を教えてくれないか? 詳しい話はその時にするから」
彼が今どこにいるのかも、ここに来るまでにどれくらい時間がかかるのかもわからないけれど、この家に一人でいるのがたまらなく辛かった僕は、なんの躊躇いもなく来てくれると言ってくれた彼の言葉が嬉しくて自分の居場所を必死に彼に告げていた。
「わかった。そこなら2時間以内には着けるだろう。一旦電話を切るが、何かあればいつでも電話をしてきてくれ」
頼り甲斐のある声にさっきまでの心細さがほんの少し和らいでいく。
僕はしばらくの間、切れたままのスマホをじっと見つめていた。
ああ、そうだ。
彼を待っている間に散らかった部屋を片付けておくべきか……。
いや、それよりも先に制服を着替えなきゃ。
そういえば、今日は外から帰ってきて手も洗ってない。
いつもなら……手を洗って、着替えて、母さんが干して行った洗濯物を取り込んで、ご飯を炊いて、明日の予習をして……やるべきことんはたくさんあるのに、身体がちっとも動かない。
ポッカリと空いた心の穴は急に癒えることは無く、僕はなにをしたらいいのかもわからずにソファーに座っていた。
玄関のチャイムがなり、ドンドンと扉を叩くような音が聞こえて僕は飛び起きた。
どうやらいつの間にか眠ってしまっていたらしい。
時計を見るとまだ1時間半も経っていない。
さっきの電話の彼だろうか?
ドキドキしながら玄関へと向かい、鍵を開けると僕と同じような髪色の長身の男性が立っていた。
「君が……ユヅル?」
「は、はい。そうです――わわっ!!」
はいと言った途端、彼の大きな身体で抱きしめられた。
「ああ、ユヅル。寂しかっただろう。でも心配はいらないよ。これからは私が君の家族だ」
えっ? 家族ってなに?
突然抱きしめられてそんなことを言われてわけがわからないけれど、母さんがいなくなってたった一人になった日に家族だと言ってくれる人が現れて嬉しく思う自分がいる。
ぎゅっと強く抱きしめられるとふわりと爽やかな匂いが僕の鼻腔をくすぐる。
これは香水?
それとも彼の匂い?
いずれにしても母さんとはまた違う安心する匂いがする。
彼の温もりに包まれて、僕が気づいたら彼の腕の中で子どものように泣きじゃくっていた。
彼に抱きしめられたまま玄関でしばらく立っていると、
「エヴァンさま。そろそろ中にお入りになられた方がよろしいかと。隣人の方々が騒いでいらっしゃいます」
とピシッとしたスーツを着たかっこいいというよりは綺麗なという方が正しそうな男性が声をかけてきた。
「お前はせっかくの出会いを……。まぁいい。ユヅル、中に入っても?」
抱きしめられたままそう尋ねられて僕は慌てて頷いた。
あ、外国の人だから土足で? と心配したけれど、彼は綺麗に靴を脱ぎ、後ろの男性が靴を揃えて中に入った。
考えてみれば日本に住んでいるんだもん。
土足じゃないことくらいわかってるか。
僕がさっきまでいたリビングのソファーに、彼は僕を抱きしめたまま座った。
「あ、あの……何かお茶でも」
「いや、なにも気を遣わないでいい。それよりも私から離れないでくれ」
まるで手を離したら僕がどこかへ行ってしまうんじゃないかと心配しているようだ。
この人と母さんの関係は一体なんなんだろう?
もしかして父親じゃないかと思ったけれど、どう見ても僕の父親にしては若すぎる。
けれど、母さんが残してくれた携帯番号は彼のものだったし、それに母さんを知っていた。
彼は一体何者なんだろう?
僕が黙って彼を見つめていると、彼はスーツの男性に声をかけ差し出された鞄からなにやら紙を取り出した。
「ユヅル、これから話すことをよく聞いてくれ。君の母親・アマネの話だ」
「母さんの?」
「ああ。アマネがヴァイオリンを弾いていたのは知っているかな?」
「あ、はい。今も音楽教室でヴァイオリンを教えていて……」
「そうか……今でもずっと続けていたのだな」
懐かしそうな、それでいて少し寂しげな彼の表情が母さんへの想いの強さを垣間見たような気がして、僕はなんとなく心の奥がもやっとする感情を覚えた。
「あの、ヴァイオリンが何か関係あるのですか?」
「アマネは幼い頃からヴァイオリンの才能に秀で、将来を期待されていた素晴らしいヴァイオリニストだったんだ。彼女は高校2年生の時にパリで行われた国際コンクールで優勝しフランス最高峰の音楽大学で学ぶ権利を手に入れた。そこでアマネの指導にあたったのが世界で比類なき超絶技巧の持ち主だと言われたヴァイオリニスト、ニコラ・ロレーヌだった。彼は私の伯父で……そして、君の父親だよ」
「えっ? 僕の……父親?」
突然彼から知らされた思いがけない事実に僕は聞き返すことしかできなかった。
「もしかして何か悪いことでも?」
「……はい。実は、今日……母が、亡くなりました……」
「アマネが……亡くなった?」
「……はい。事故で……僕もついさっき病院から帰ってきたところで……」
「そう、だったのか……辛かったな。今すぐ君に会いにいく」
「えっ? ここに、来てくれるんですか? でも、ここは田舎、あ、日本で……」
「大丈夫、私も日本にいる。今いる場所を教えてくれないか? 詳しい話はその時にするから」
彼が今どこにいるのかも、ここに来るまでにどれくらい時間がかかるのかもわからないけれど、この家に一人でいるのがたまらなく辛かった僕は、なんの躊躇いもなく来てくれると言ってくれた彼の言葉が嬉しくて自分の居場所を必死に彼に告げていた。
「わかった。そこなら2時間以内には着けるだろう。一旦電話を切るが、何かあればいつでも電話をしてきてくれ」
頼り甲斐のある声にさっきまでの心細さがほんの少し和らいでいく。
僕はしばらくの間、切れたままのスマホをじっと見つめていた。
ああ、そうだ。
彼を待っている間に散らかった部屋を片付けておくべきか……。
いや、それよりも先に制服を着替えなきゃ。
そういえば、今日は外から帰ってきて手も洗ってない。
いつもなら……手を洗って、着替えて、母さんが干して行った洗濯物を取り込んで、ご飯を炊いて、明日の予習をして……やるべきことんはたくさんあるのに、身体がちっとも動かない。
ポッカリと空いた心の穴は急に癒えることは無く、僕はなにをしたらいいのかもわからずにソファーに座っていた。
玄関のチャイムがなり、ドンドンと扉を叩くような音が聞こえて僕は飛び起きた。
どうやらいつの間にか眠ってしまっていたらしい。
時計を見るとまだ1時間半も経っていない。
さっきの電話の彼だろうか?
ドキドキしながら玄関へと向かい、鍵を開けると僕と同じような髪色の長身の男性が立っていた。
「君が……ユヅル?」
「は、はい。そうです――わわっ!!」
はいと言った途端、彼の大きな身体で抱きしめられた。
「ああ、ユヅル。寂しかっただろう。でも心配はいらないよ。これからは私が君の家族だ」
えっ? 家族ってなに?
突然抱きしめられてそんなことを言われてわけがわからないけれど、母さんがいなくなってたった一人になった日に家族だと言ってくれる人が現れて嬉しく思う自分がいる。
ぎゅっと強く抱きしめられるとふわりと爽やかな匂いが僕の鼻腔をくすぐる。
これは香水?
それとも彼の匂い?
いずれにしても母さんとはまた違う安心する匂いがする。
彼の温もりに包まれて、僕が気づいたら彼の腕の中で子どものように泣きじゃくっていた。
彼に抱きしめられたまま玄関でしばらく立っていると、
「エヴァンさま。そろそろ中にお入りになられた方がよろしいかと。隣人の方々が騒いでいらっしゃいます」
とピシッとしたスーツを着たかっこいいというよりは綺麗なという方が正しそうな男性が声をかけてきた。
「お前はせっかくの出会いを……。まぁいい。ユヅル、中に入っても?」
抱きしめられたままそう尋ねられて僕は慌てて頷いた。
あ、外国の人だから土足で? と心配したけれど、彼は綺麗に靴を脱ぎ、後ろの男性が靴を揃えて中に入った。
考えてみれば日本に住んでいるんだもん。
土足じゃないことくらいわかってるか。
僕がさっきまでいたリビングのソファーに、彼は僕を抱きしめたまま座った。
「あ、あの……何かお茶でも」
「いや、なにも気を遣わないでいい。それよりも私から離れないでくれ」
まるで手を離したら僕がどこかへ行ってしまうんじゃないかと心配しているようだ。
この人と母さんの関係は一体なんなんだろう?
もしかして父親じゃないかと思ったけれど、どう見ても僕の父親にしては若すぎる。
けれど、母さんが残してくれた携帯番号は彼のものだったし、それに母さんを知っていた。
彼は一体何者なんだろう?
僕が黙って彼を見つめていると、彼はスーツの男性に声をかけ差し出された鞄からなにやら紙を取り出した。
「ユヅル、これから話すことをよく聞いてくれ。君の母親・アマネの話だ」
「母さんの?」
「ああ。アマネがヴァイオリンを弾いていたのは知っているかな?」
「あ、はい。今も音楽教室でヴァイオリンを教えていて……」
「そうか……今でもずっと続けていたのだな」
懐かしそうな、それでいて少し寂しげな彼の表情が母さんへの想いの強さを垣間見たような気がして、僕はなんとなく心の奥がもやっとする感情を覚えた。
「あの、ヴァイオリンが何か関係あるのですか?」
「アマネは幼い頃からヴァイオリンの才能に秀で、将来を期待されていた素晴らしいヴァイオリニストだったんだ。彼女は高校2年生の時にパリで行われた国際コンクールで優勝しフランス最高峰の音楽大学で学ぶ権利を手に入れた。そこでアマネの指導にあたったのが世界で比類なき超絶技巧の持ち主だと言われたヴァイオリニスト、ニコラ・ロレーヌだった。彼は私の伯父で……そして、君の父親だよ」
「えっ? 僕の……父親?」
突然彼から知らされた思いがけない事実に僕は聞き返すことしかできなかった。
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