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運命の人
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<side智琉>
フランスにあるパブリックスクールから同窓会の招待状が届き、嬉しそうに出かけて行った伯父からフランスの友人を連れて帰ると連絡があったのは一昨日のことだった。
きっと学生時代の友人と意気投合したのだろう。
けれど、わざわざアメリカにまできてくれるとは珍しい。
よほど離れがたかったのかもしれない。
しかも家族も一緒に同行するという。
他人とあまり深い付き合いを好まない伯父にしてはその点だけでも珍しいなと思ったが、この家は十分に広く数人の家族なら泊まれる部屋もある。
とりあえず、通いのお手伝いさん数名と一緒に部屋を片付け、伯父たちの到着を待った。
本当なら空港まで出迎えに行こうと思ったけれど伯父から絶対にダメだと反対され、伯父の専属運転手だけが迎えに行くことになった。
空港に到着したというメッセージが届いたけれど、なぜか落ち着かない。
人に会うくらいであまり緊張するタイプではないのだけどな。
不思議な感情を抱きながら、私は伯父たちの到着を待っていた。
玄関のベルが鳴り、出迎えた私の目に飛び込んできたのは、ピッタリと隙間なく寄り添ってこちらに近づいてくる伯父とロマンスグレーが似合う、手足が長く長身の紳士の姿。
えっ?
これは、一体どういうことだ?
伯父はたとえ親しい友人であってもパーソナルスペースを広く取るタイプで、こんなにも近しい人を今まで見たことがない。
けれど、無理やりされているようでもなさそうだ。
『サトル? どうした? お客さまに挨拶をしないか』
初めて見る伯父の姿に驚きすぎて、つい挨拶を忘れてしまった。
『ああ、ごめんなさい。伯父さん。いらっしゃいませ。甥のサトルと申します』
驚きを抑え、なんとか笑顔でそう告げると、突然伯父さんたちの後ろから
『 C’est incroyable !』
という大きな声が聞こえてきた。
えっ、何事?
そう思った瞬間には私は大きな身体に抱きしめられていた。
『わぁっ!!』
『Tu es ma destinée』
驚く私をよそに甘い言葉を囁きながら、強く抱きしめられる。
運命って、どういうこと?
何が何だかわからなくてされるがままになっていると、
『おい、マーカス! やめろ! 驚いているだろう!』
と声がかかり、私はその声の主の手によって、目の前の彼から引き離された。
『あ、あの……』
『サトル、大丈夫か?』
『え、ええ。伯父さん。私はなんとも……』
『悪い。私の愚息が突然おかしな真似をしてしまって……』
『いえ、本当に大丈夫ですから』
きっと何かの勘違いだったのだろう。
なんとか冷静を装いながら
『あの、とりあえず中にお入りください』
といってリビングに向かったけれど、その間もずっと背中にさっき抱きしめてくれた彼の強い視線を感じる。
ソファーに案内して、
『コーヒーを淹れてきますね』
といい、私はすぐにキッチンに向かった。
通いのお手伝いさんにはもう帰ってもらった後だったから、何か飲み物でも淹れようと思ったのだ。
キッチンに入り一人になると、ふぅと大きなため息を吐いた。
さっきのは一体なんだったのだろう。
私を運命だとか言っていたけれど、なんのことだかわからない。
でも一番訳がわからないのは、身も知らない初対面の男性に抱きしめられて、私の運命などと耳元で言われて、全く嫌だと思わなかった自分自身だ。
私だって、伯父さん並みにパーソナルスペースは広い方なのに。
なぜ彼に抱きしめられても嫌だと感じなかったのだろう。
『ああー、もう訳がわからないよ』
頭を抱えてキッチンにしゃがみ込んでいると、
『サトル……』
と声が聞こえた。
慌ててその声のする方向に振り向くと、さっきの彼だった。
『あ、あの……すぐにコーヒーを……』
『困らせてしまってすまない。けれど、どうすることもできなかったんだ』
『それは、どういう意味ですか?』
必死に謝ってくれようとする気持ちは伝わってくる。
けれど、どうにも理解ができない。
彼は私に何を言おうとしているのだろう。
『君をひとめ見た瞬間、身体中にビリビリとした刺激、まるで雷でも受けたような衝撃を受けたんだ』
『雷……?』
『ああ、運命の相手に出会ったんだとすぐにわかったよ。今までずっと父から聞いていたからね』
「お父さまに?』
『そうだ。学生時代に君の伯父さん、エルドさんのことがずっと忘れられなかったと聞いていた。学生時代彼をひとめ見て今の私と同じような衝撃を感じたらしい。でもまだ未成年だった父はその衝撃の意味をよく理解していなかった。そのまま学校を卒業し、エルドさんと離れ離れになって……エルドさんへの思いを頭の片隅に残しながらも母と結婚した。父は母をそれは大切にしていたし、私と弟のヴィルも愛してくれていた。その気持ちに嘘はない。だけど、父からは幼い時から今までもずっとエルドさんのことを聞かされていたんだ。父にとって本当に大事な人なのだと私たち家族はずっと思っていたよ。もしかしたら今回の同窓会でエルドさんと出会えば、拗らせていた想いが浄化できるのではと思ったんだ。だからそれを見届けるために私と弟も同窓会に参加した。だけど、今回エルドさんと再会して、封印していた想いが父の中に甦ったのだと思う。母はすでに亡くなっているし、私たちもとっくに成人している。父の第二の人生を応援しようと思って、アメリカについてきたんだ。だけど、まさかサトル……君こそが私の運命だとは思わなかった』
『そんな……っ、運命だなんて……』
『私は父のように自分の思いに蓋なんかする気はない。もうとっくに成人しているし、ようやく現れた運命を手放すつもりも一切ない。君が私を運命だと感じていなくても絶対に私に振り向かせて見せる。父ともども諦めが悪いんだ、君がうんと言ってくれるまで絶対に離れないよ』
これが冗談でないことは彼の目を見れば明らかだった。
でも、まだ出会ってすぐに運命だと言われてもなんと言っていいのかもわからない。
『あの、私……今までお付き合いしたこともなくて……それで、あなたをどう思っているのかも自分でわからないんです』
だからゆっくりと考える時間が欲しい……そうお願いしようとしたのに、
『悩む時点で私への想いがあるということだ。私への想いは一緒に過ごしながら認識してくれたらいい。そのためには同じ時間を過ごす必要があるな。これからここにいる間、24時間常に私と共に過ごそう。それで私への想いを認識してくれるはずだ。それがいい。そうしよう。決定だ』
えっ、えっ……
そう戸惑っている間に、なぜか一緒に過ごすことが決まってしまった。
彼は嬉しそうにコーヒーの準備を整えると、私の腰を抱きながら、片手で大きなトレイにコーヒーをのせ、リビングへと向かった。
フランスにあるパブリックスクールから同窓会の招待状が届き、嬉しそうに出かけて行った伯父からフランスの友人を連れて帰ると連絡があったのは一昨日のことだった。
きっと学生時代の友人と意気投合したのだろう。
けれど、わざわざアメリカにまできてくれるとは珍しい。
よほど離れがたかったのかもしれない。
しかも家族も一緒に同行するという。
他人とあまり深い付き合いを好まない伯父にしてはその点だけでも珍しいなと思ったが、この家は十分に広く数人の家族なら泊まれる部屋もある。
とりあえず、通いのお手伝いさん数名と一緒に部屋を片付け、伯父たちの到着を待った。
本当なら空港まで出迎えに行こうと思ったけれど伯父から絶対にダメだと反対され、伯父の専属運転手だけが迎えに行くことになった。
空港に到着したというメッセージが届いたけれど、なぜか落ち着かない。
人に会うくらいであまり緊張するタイプではないのだけどな。
不思議な感情を抱きながら、私は伯父たちの到着を待っていた。
玄関のベルが鳴り、出迎えた私の目に飛び込んできたのは、ピッタリと隙間なく寄り添ってこちらに近づいてくる伯父とロマンスグレーが似合う、手足が長く長身の紳士の姿。
えっ?
これは、一体どういうことだ?
伯父はたとえ親しい友人であってもパーソナルスペースを広く取るタイプで、こんなにも近しい人を今まで見たことがない。
けれど、無理やりされているようでもなさそうだ。
『サトル? どうした? お客さまに挨拶をしないか』
初めて見る伯父の姿に驚きすぎて、つい挨拶を忘れてしまった。
『ああ、ごめんなさい。伯父さん。いらっしゃいませ。甥のサトルと申します』
驚きを抑え、なんとか笑顔でそう告げると、突然伯父さんたちの後ろから
『 C’est incroyable !』
という大きな声が聞こえてきた。
えっ、何事?
そう思った瞬間には私は大きな身体に抱きしめられていた。
『わぁっ!!』
『Tu es ma destinée』
驚く私をよそに甘い言葉を囁きながら、強く抱きしめられる。
運命って、どういうこと?
何が何だかわからなくてされるがままになっていると、
『おい、マーカス! やめろ! 驚いているだろう!』
と声がかかり、私はその声の主の手によって、目の前の彼から引き離された。
『あ、あの……』
『サトル、大丈夫か?』
『え、ええ。伯父さん。私はなんとも……』
『悪い。私の愚息が突然おかしな真似をしてしまって……』
『いえ、本当に大丈夫ですから』
きっと何かの勘違いだったのだろう。
なんとか冷静を装いながら
『あの、とりあえず中にお入りください』
といってリビングに向かったけれど、その間もずっと背中にさっき抱きしめてくれた彼の強い視線を感じる。
ソファーに案内して、
『コーヒーを淹れてきますね』
といい、私はすぐにキッチンに向かった。
通いのお手伝いさんにはもう帰ってもらった後だったから、何か飲み物でも淹れようと思ったのだ。
キッチンに入り一人になると、ふぅと大きなため息を吐いた。
さっきのは一体なんだったのだろう。
私を運命だとか言っていたけれど、なんのことだかわからない。
でも一番訳がわからないのは、身も知らない初対面の男性に抱きしめられて、私の運命などと耳元で言われて、全く嫌だと思わなかった自分自身だ。
私だって、伯父さん並みにパーソナルスペースは広い方なのに。
なぜ彼に抱きしめられても嫌だと感じなかったのだろう。
『ああー、もう訳がわからないよ』
頭を抱えてキッチンにしゃがみ込んでいると、
『サトル……』
と声が聞こえた。
慌ててその声のする方向に振り向くと、さっきの彼だった。
『あ、あの……すぐにコーヒーを……』
『困らせてしまってすまない。けれど、どうすることもできなかったんだ』
『それは、どういう意味ですか?』
必死に謝ってくれようとする気持ちは伝わってくる。
けれど、どうにも理解ができない。
彼は私に何を言おうとしているのだろう。
『君をひとめ見た瞬間、身体中にビリビリとした刺激、まるで雷でも受けたような衝撃を受けたんだ』
『雷……?』
『ああ、運命の相手に出会ったんだとすぐにわかったよ。今までずっと父から聞いていたからね』
「お父さまに?』
『そうだ。学生時代に君の伯父さん、エルドさんのことがずっと忘れられなかったと聞いていた。学生時代彼をひとめ見て今の私と同じような衝撃を感じたらしい。でもまだ未成年だった父はその衝撃の意味をよく理解していなかった。そのまま学校を卒業し、エルドさんと離れ離れになって……エルドさんへの思いを頭の片隅に残しながらも母と結婚した。父は母をそれは大切にしていたし、私と弟のヴィルも愛してくれていた。その気持ちに嘘はない。だけど、父からは幼い時から今までもずっとエルドさんのことを聞かされていたんだ。父にとって本当に大事な人なのだと私たち家族はずっと思っていたよ。もしかしたら今回の同窓会でエルドさんと出会えば、拗らせていた想いが浄化できるのではと思ったんだ。だからそれを見届けるために私と弟も同窓会に参加した。だけど、今回エルドさんと再会して、封印していた想いが父の中に甦ったのだと思う。母はすでに亡くなっているし、私たちもとっくに成人している。父の第二の人生を応援しようと思って、アメリカについてきたんだ。だけど、まさかサトル……君こそが私の運命だとは思わなかった』
『そんな……っ、運命だなんて……』
『私は父のように自分の思いに蓋なんかする気はない。もうとっくに成人しているし、ようやく現れた運命を手放すつもりも一切ない。君が私を運命だと感じていなくても絶対に私に振り向かせて見せる。父ともども諦めが悪いんだ、君がうんと言ってくれるまで絶対に離れないよ』
これが冗談でないことは彼の目を見れば明らかだった。
でも、まだ出会ってすぐに運命だと言われてもなんと言っていいのかもわからない。
『あの、私……今までお付き合いしたこともなくて……それで、あなたをどう思っているのかも自分でわからないんです』
だからゆっくりと考える時間が欲しい……そうお願いしようとしたのに、
『悩む時点で私への想いがあるということだ。私への想いは一緒に過ごしながら認識してくれたらいい。そのためには同じ時間を過ごす必要があるな。これからここにいる間、24時間常に私と共に過ごそう。それで私への想いを認識してくれるはずだ。それがいい。そうしよう。決定だ』
えっ、えっ……
そう戸惑っている間に、なぜか一緒に過ごすことが決まってしまった。
彼は嬉しそうにコーヒーの準備を整えると、私の腰を抱きながら、片手で大きなトレイにコーヒーをのせ、リビングへと向かった。
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