エリート医師は偶然出会った可愛い子猫を囲い込んで離さない

波木真帆

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二人きりの自宅

「えっ……ここが、先生のお家、ですか?」

店を出て、ひかりくんとともに帰ってきた自宅は、病院から車で十分ほどの場所にある一軒家。ここは私が生まれ育った実家でもある。

ただし、両親はここには住んでいない。
私が帰国したタイミングで、今度は両親のほうが海外移住を決めた。

定年まで勤め上げた会社を退職後、子会社の役員として数年勤めていたが、ずっと支え続けてくれた母とのんびり過ごすと言ってギリシャに移り住んだ。

ギリシャの魅力といえば美しい海はもちろんのことだが、医療制度もしっかりと整っている。
物価もヨーロッパ諸国と比べると安く、住むには最高の場所なのだそうだ。

というわけで、私は両親が残していった実家に一人暮らし。
料理は海外にいた時から自炊していたし、特に問題はなかったが、家が広すぎて掃除の手が行き届かないことが悩みだった。とはいえ、自宅に他人を入れるのもなんとなく憚られて住み始めた当初、忙しくて掃除に時間をかけられないと真壁と呑んだ際に愚痴った。すると、トイレや風呂場といった水回りをスイッチ一つで綺麗にしてくれるものを教えてくれてすぐにそれを自宅に取り入れた。床は掃除ロボットが綺麗にしてくれるし、掃除の手間がかからなくなって格段に住みやすくなった。

それ以外にも気になるところは随時手を入れているから、気楽な一人暮らしを続けている。

その家に到着した途端、車の中から家をみたひかりくんは驚きの表情で見つめていた。

「ああ。元々実家だが、今は一人で暮らしているよ」

「え、あっ、そうなんですか?」

その表情に安堵の色が見えてわかった。
家族が住んでいると思ったから心配になったのだろう。
確かに誰かがいる家で今から愛し合うとなれば緊張するのも無理はない。

「この家には私たちだけだ。気楽にして寛いでくれたらいいよ」

地下の駐車場に車を止め、助手席の扉を開ける。
手を差し出しながら告げると頬を赤らめながら手を取ってくれた。

後部座席に置いていた荷物を取り、肩を抱いて地下からエレベーターでそのまま二階に上がった。

二階には私の寝室がある。

「どうする? 先にシャワーを浴びようか? それともそのまま寝室がいい?」

「えっ、えっと……普通はどうするのがいいんですか? 初めてだからわからなくて……」

真っ赤な顔をしながらもそんなことを言ってくる。
可愛くてたまらない。

「どっちが普通なんてないよ。ひかりくんが好きなほうを選んで」

「えっと……あの、じゃあシャワーを、浴びたいです」

「オッケー」

抱き寄せるだけで甘い匂いがしていた。
あれはひかりくんの体臭だろう。
それをそのまま味わいたかった気持ちはもちろんある。
だが、怖がらせないし優しくすると約束したんだ。

ひかりくんの望むようにしてあげたい。

それにシャワーを浴びてほんのりピンク色になった肌を味わうのも楽しそうだ。
いずれにしても私の興奮を誘うことは間違いない。

「ここがシャワールームね」

ひかりくんには寝室の奥にあるシャワールームに案内した。
広い浴槽がある風呂場には、たっぷりと愛し合った後で連れていけばいい。

「シャンプーやボディーソープが使いたかったらこれを使ってくれ。肌に優しいものだから」

私と同じ匂いを纏わせるのもいいが、肌に触れる感じからあまり強そうに見えないからな。

「シャワーを浴びたら、これを羽織って出てきてくれたらいいよ。下着は着なくていいから」

「これ……」

「私が使っているバスローブ。大きいだろうけど、どうせ脱ぐから大丈夫だろう?」

そう尋ねると、さらに顔を赤らめる。

「は、はい。あ、ありがとうございます」

こんなにもウブなのに、金を払って差し出そうとしたなんて……
本当にこの子を救えて良かったと心から思う。

シャワームールに入っていく彼を見送り、私は寝室に戻った。
ベッドに腰掛けて、ポケットから取り出したのはスマホ。

何度か震えていたから、何かが来ていたのは知っていた。

見ると、着信とメッセージが一件ずつ。
相手はどちらも真壁からだ。

私はシャワーの音をバックに、メッセージを開いた。

<今日はドタキャンして悪かった。ところで一つ聞きたいことがあって電話をかけたが取らなかったからメッセージに入れておく。今日、沖野が待ち合わせをしていた場所に、旅行バッグのような大きなバッグを斜めがけにしていた大学生くらいの男性はいなかったか? 何か知っていたらなんでもいい情報提供をしてほしい>

そのメッセージの内容的にかなり焦っている様子が窺えた。

旅行バッグのような大きなバッグ……
チラリとソファに目をやるとひかりくんが持っていたバッグが目に入る。

もしかしてこれのことか?

とすると、真壁が情報を聞きたがっているのはひかりくんのことなのか?

まだ確証を得ないまま真壁に連絡するわけにはいかないな。
だが既読になっているし、何も言わないわけにはいかない。

<悪い。後で連絡する>

考えた挙句、それだけ送り通知をオフにした。
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