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その後
特別な存在
<side拓哉>
仕事が終わり、白衣を脱ぎながらスマートフォンを手に取る。
ひかりからの着信がないかを確認するが、通知は何もない。
明日は両親が来る。
今夜は二人でのんびり過ごせる最後の時間だ。ひかりの好きなスイーツでも買って帰ろうか。
何かリクエストはないか、聞いてみよう。
発信ボタンを押す。コール音が鳴る。
だが……でない。
小さく眉を顰める。
珍しいな。私からの電話に出ないなんて……
もう一度かけてみたが、結果は同じ。
胸の奥に、じわりと嫌な感覚が広がる。
ひかりは、電話に気づかないような無頓着な性格ではない。
むしろ、すぐに応答しようとする子だ。
だからこそ、出ない理由が頭をよぎる。
何かあったのか?
いやいや、ひかりを苦しめていた者たちは全て捕まっているはずだ。
仮に、彼らが逃亡したとしても今のひかりの所在を調べる伝手はない。
「落ち着け……」
自分に言い聞かせるように低く呟き、スマートフォンの画面を操作する。
ひかりには、安全のためにGPSを付けている。
それでひかりの居場所を確認すればいい。
このGPSは優秀で、ひかりの居場所をピンポイントで示してくれる。
「は?」
表示された位置情報を見て、息が止まった。
「よこ、はま……?」
思わず声が漏れる。
ここは東京。
そして、ひかりが暮らしていたのは、横浜とは全く方向が違う。
一人では電車に乗ることもおぼつかない。
それなのに、ひかりの居場所は横浜を示している。
なぜ? どうして? 誰と?
疑問が次々に浮かぶが、今は考えている時間も惜しい。
私はすぐにロッカーから荷物を掴み、そのまま足早に病院を後にした。
車に乗り込み、ひかりの位置情報をモニターに映し出す。
先ほどから、場所はあまり変わっていない。
頭の中にこの場所までの最短距離を浮かべ、すぐに車を走らせる。
ここからなら三十分ほどかかる場所だ。
こんなにも距離がもどかしいと感じたことはない。
ひかりは無事なのか。
怖い思いをしていないか。
一人で泣いていないか。
そもそも、どうして外に出たのか……
自分が出さなかったことは理解している。
だが、それはあの子の安全を最優先に考えた結果だ。
何も知らされずにいなくなることが、これほどまでに心をかき乱すとは思わなかった。
モニターに表示された、ひかりの位置が少しずつ近づいてくる。
頼むから、無事でいてくれ……
ただそれだけを願いながら、車を走らせる。
ようやくその近くに到着。近くの駐車場に車を止め、スマートフォンを手に駆け出した。
人気のあるエリア。
観光客も多い。
一瞬だけ安堵しかけて、すぐにきを引き締める。
人が多い場所ほど、何が起きるかわからない。
画面を見ると、この三つ先の店にひかりがいる。
私は、その店に飛び込んだ。
「ひかり!」
その呼びかけに、店内にいたひかりが振り返る。
いつもの柔らかな笑顔。
その表情を見た瞬間、胸を締め付けていたものが一気に解けた。
無事でよかった……
ひかりの元に駆け出そうとしたが、その隣にいる人物を認識した途端、足が止まった。
「は?」
思わず、間の抜けた声が漏れる。
ひかりの胸に可愛らしい洋服を当てている母と、その様子を満足そうに見ている父。
一瞬、状況が理解できない。
「な、なんで、父さんたちがここに? 来るのは、明日じゃなかったのか……」
茫然としながら、三人に歩み寄る。すると、母は全く悪びれる様子もなく笑顔を見せた。
「ひかりちゃんに会いたくて、一日早く来ちゃった」
そのあっけらかんとした物言いに、力が抜ける。
「勝手なことを……」
思わず漏れ出た言葉に、ひかりが慌てたように口を開いた。
「あ、あの……! ぼ、僕が、行きたいって言ったんです。お母さんたち、すごく優しくて……それで、その……」
必死にフォローするその姿に、言葉が止まる。
母はくすくすと笑いながら、ひかりの肩を軽く抱いた。
「ね、いい子でしょう?」
「それは、知ってる、でもそれ以上に、ひかりは俺の恋人だ。あまり気安く触れないでくれ」
母の手から、ひかりを取り返し腕の中に抱きしめる。
「あの、ごめんなさい。驚かせてしまって……」
「いや、無事ならそれでいい」
そう答えながら、髪を優しく撫でる。
両親はくすりと笑い、ひかりは私の腕の中で顔を真っ赤にして頷いた。
「あらあら、拓哉のそんな姿見られるなんて。ねぇ、秀明さん」
「ああ、来た甲斐があったな」
揶揄うような声に、小さくため息をつく。
「もうこんなことは無しにしてくれ」
呆れたようにいうと、父はすぐにスマートフォンを取り出した。
「せっかくここまで来たんだ。近くで食事でもしていこう。個室が空いている店を押さえた」
相変わらずの手際の良さに、苦笑が漏れる。
腕の中のひかりが、そっとこちらを見上げてきた。
その穏やかな表情に、ようやく実感する。
何事もなくてよかった。
その事実に安堵しながら、私はそっとひかりの唇にキスを落とした。
仕事が終わり、白衣を脱ぎながらスマートフォンを手に取る。
ひかりからの着信がないかを確認するが、通知は何もない。
明日は両親が来る。
今夜は二人でのんびり過ごせる最後の時間だ。ひかりの好きなスイーツでも買って帰ろうか。
何かリクエストはないか、聞いてみよう。
発信ボタンを押す。コール音が鳴る。
だが……でない。
小さく眉を顰める。
珍しいな。私からの電話に出ないなんて……
もう一度かけてみたが、結果は同じ。
胸の奥に、じわりと嫌な感覚が広がる。
ひかりは、電話に気づかないような無頓着な性格ではない。
むしろ、すぐに応答しようとする子だ。
だからこそ、出ない理由が頭をよぎる。
何かあったのか?
いやいや、ひかりを苦しめていた者たちは全て捕まっているはずだ。
仮に、彼らが逃亡したとしても今のひかりの所在を調べる伝手はない。
「落ち着け……」
自分に言い聞かせるように低く呟き、スマートフォンの画面を操作する。
ひかりには、安全のためにGPSを付けている。
それでひかりの居場所を確認すればいい。
このGPSは優秀で、ひかりの居場所をピンポイントで示してくれる。
「は?」
表示された位置情報を見て、息が止まった。
「よこ、はま……?」
思わず声が漏れる。
ここは東京。
そして、ひかりが暮らしていたのは、横浜とは全く方向が違う。
一人では電車に乗ることもおぼつかない。
それなのに、ひかりの居場所は横浜を示している。
なぜ? どうして? 誰と?
疑問が次々に浮かぶが、今は考えている時間も惜しい。
私はすぐにロッカーから荷物を掴み、そのまま足早に病院を後にした。
車に乗り込み、ひかりの位置情報をモニターに映し出す。
先ほどから、場所はあまり変わっていない。
頭の中にこの場所までの最短距離を浮かべ、すぐに車を走らせる。
ここからなら三十分ほどかかる場所だ。
こんなにも距離がもどかしいと感じたことはない。
ひかりは無事なのか。
怖い思いをしていないか。
一人で泣いていないか。
そもそも、どうして外に出たのか……
自分が出さなかったことは理解している。
だが、それはあの子の安全を最優先に考えた結果だ。
何も知らされずにいなくなることが、これほどまでに心をかき乱すとは思わなかった。
モニターに表示された、ひかりの位置が少しずつ近づいてくる。
頼むから、無事でいてくれ……
ただそれだけを願いながら、車を走らせる。
ようやくその近くに到着。近くの駐車場に車を止め、スマートフォンを手に駆け出した。
人気のあるエリア。
観光客も多い。
一瞬だけ安堵しかけて、すぐにきを引き締める。
人が多い場所ほど、何が起きるかわからない。
画面を見ると、この三つ先の店にひかりがいる。
私は、その店に飛び込んだ。
「ひかり!」
その呼びかけに、店内にいたひかりが振り返る。
いつもの柔らかな笑顔。
その表情を見た瞬間、胸を締め付けていたものが一気に解けた。
無事でよかった……
ひかりの元に駆け出そうとしたが、その隣にいる人物を認識した途端、足が止まった。
「は?」
思わず、間の抜けた声が漏れる。
ひかりの胸に可愛らしい洋服を当てている母と、その様子を満足そうに見ている父。
一瞬、状況が理解できない。
「な、なんで、父さんたちがここに? 来るのは、明日じゃなかったのか……」
茫然としながら、三人に歩み寄る。すると、母は全く悪びれる様子もなく笑顔を見せた。
「ひかりちゃんに会いたくて、一日早く来ちゃった」
そのあっけらかんとした物言いに、力が抜ける。
「勝手なことを……」
思わず漏れ出た言葉に、ひかりが慌てたように口を開いた。
「あ、あの……! ぼ、僕が、行きたいって言ったんです。お母さんたち、すごく優しくて……それで、その……」
必死にフォローするその姿に、言葉が止まる。
母はくすくすと笑いながら、ひかりの肩を軽く抱いた。
「ね、いい子でしょう?」
「それは、知ってる、でもそれ以上に、ひかりは俺の恋人だ。あまり気安く触れないでくれ」
母の手から、ひかりを取り返し腕の中に抱きしめる。
「あの、ごめんなさい。驚かせてしまって……」
「いや、無事ならそれでいい」
そう答えながら、髪を優しく撫でる。
両親はくすりと笑い、ひかりは私の腕の中で顔を真っ赤にして頷いた。
「あらあら、拓哉のそんな姿見られるなんて。ねぇ、秀明さん」
「ああ、来た甲斐があったな」
揶揄うような声に、小さくため息をつく。
「もうこんなことは無しにしてくれ」
呆れたようにいうと、父はすぐにスマートフォンを取り出した。
「せっかくここまで来たんだ。近くで食事でもしていこう。個室が空いている店を押さえた」
相変わらずの手際の良さに、苦笑が漏れる。
腕の中のひかりが、そっとこちらを見上げてきた。
その穏やかな表情に、ようやく実感する。
何事もなくてよかった。
その事実に安堵しながら、私はそっとひかりの唇にキスを落とした。
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いぬぞ〜さま。コメントありがとうございます!
>「な〜んてね。拓哉、ひかりちゃんあなたの帰りを待ち侘びてるわよ」
これ、めちゃくちゃ楽しいじゃないですか!
というわけで約束より早くきちゃってタクヤにドッキリ仕掛けちゃうパパママひかりの様子をお届けします(笑)
拓哉、かわいそうにwww
でも本当、相手が同性なんて瑣末なことですよね。
可愛い子が欲しかったママには男の子でも女の子でも関係ないのです。
周りにもいっぱいいますしね。
今更ですよね。
これから愛情たっぷりなパパママと最愛の旦那さまに囲まれて幸せになる道しかないです。
パパママたちはギリシャ行きをちょっと後悔してるかも(笑)
でも休みのたびに呼んじゃうかなwww
四葩さま。コメントありがとうございます!
可愛い子ができたのならすぐに会いに行かないと!ですよね。
ギリシャからだってどこだって飛んできちゃいます。
可愛いひかりを見たら間違いなく気に入っちゃいますね。
だからこそまだ言いたくなかったんでしょうし(笑)
ひかり的には紹介してもらえたら嬉しいかもですが、拓哉はもう少し二人でラブラブしたかったですよね。
でも日本に帰っている間は多分いろいろ連れ回されちゃいそうです。
仕方ないかな〜。どこでもママは最強なんで(笑)
ひかりは優しいパパママができて大喜びしそうですね♡
いぬぞ〜さま。コメントありがとうございます!
チキンライスもパスタも量が増えると重くなりますからね。
結構大変なんですよね。
いいですね、電気調理器。こういうのを駆使している間に常備菜を作って……っていうのを教えてもらえると楽ですね。
一度会ってお友達になってからでもいいですが、ビデオ通話で初めて会ってもコミュ力高い郁未と悠真が笑顔で教えてくれそうですね。この材料でできるおかず教えて欲しいと聞いたら、いくつも教えてくれそうだし(笑)
こういうお友達ができるとひかりも楽しいでしょうね。
桜守大学に行っても仲良いお友達ができそう。もちろん旦那もちの(笑)
優秀なので編入試験パスで編入できちゃう。
密かに狙ってた職員とかいそうですが、まぁゆーちーが出て行ったら引き止めたりはしないでしょうね。
実は理想の相手だったと言われたら最高に幸せですよね💕
ゆーちーたちに自慢したりして(笑)