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いつか必ず……
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<side寛人>
「ねぇ、今日はうちでお祝いをしたいの。寛人の病院の近くのケーキを頼んだから受け取ってうちに届けてくれないかしら?」
最後の患者の診察を終えて、ようやくほっと一息ついたところにかかってきた母からの電話。
いつも突拍子もない提案をしてくるが、今日はいつも以上に面倒臭いことを言ってきた。
「なんのお祝いだよ。今日は別に誕生日でも結婚記念日でもないだろう?」
「今はまだ内緒。でもとってもいいことよ。寛人もきっと喜ぶわ。だからお願いね」
母はそれだけ告げるとさっさと電話を切ってしまった。
こうなったら取りに行かないわけにはいかない。
母の頼みを適当にあしらったりしたら、父の雷が落ちる。
それくらい我が家での母の立場は強い。
俺も父も世界に数%の希少αで、αの中でも強い力を持っているが母には敵わない。
俺の中で母よりも強い力を持つとしたら、俺のつがいだろうか。
今のところ見つかる気はさらさらしない。
実際に存在するのかもわからないけれど、諦めたくはないとは思っている。
それにしても俺が喜ぶいいことってなんだ?
まさか弟か妹ができたとか言ってくるんじゃないだろうな?
流石に三十歳差の弟妹は冗談だと思いたいが、あれほど愛されているなら百%ないとは言い切れないところが怖い。五十歳はとうに過ぎているが、希少αのつがいなら生まれる可能性は十分にある。
先月もヒートで二人して部屋に篭っていたようだし、あの時のヒートでの妊娠だと考えれば辻褄があう。
俺の時の悪阻が重過ぎて十キロ以上も痩せて命の危険もあったことから、二人目を授かるのを諦めたと聞いていたが、最後のチャンスだと思って産むことにしたんだろうか?
もしそうなら、ゆくゆくは俺の子どもとして引き取ることも考えておかないとな。
いずれにしても新しい命が宿ったのなら、それは喜ばしいことだ。
医師としても家族としても祝う以外に選択はない。
俺はケーキ屋に寄って母が頼んだケーキを受け取り、実家に戻る途中で花屋に寄り、母への花束を買って行った。
玄関チャイムを鳴らして出てきたのは父だ。
いつもなら母が駆け出してくるから、やっぱり身重の身体を気遣っているんだろうか。
「んっ? その紙袋はなんだ?」
「これは母さんに。お祝いだからな」
小さな花束が入った紙袋を掲げて見せれば、父が不思議そうな表情をしている。
「お祝いだって聞いたけど違うのか?」
「お前……茜音になんて聞いたんだ?」
「いや、特に何も聞いてないけど……」
母が妊娠したんじゃないかと思ったのは内緒にしておいた。
もしかしたら父にはまだサプライズにしていると思ったんだ。
「まぁいい、早く入れ」
リビングに入ると、満面の笑みで母に出迎えられる。
この笑顔を見る限り、やっぱり妊娠だろうな。
「母さん。ケーキ、買ってきたぞ」
「ありがとう。じゃあみんなでお祝いしましょう!」
ケーキを前に嬉しそうな母の言葉を待っていると、母がゆっくりと口を開いた。
「今日は、凌也くんのつがいちゃんが見つかったの! そのお祝いよ!」
「はっ? えっ? なんだって?」
「だから、凌也くんのつがいちゃんが見つかったの! 麗花さんも大喜びでね! 私まで嬉しくなっちゃって、お祝いしたくなっちゃったの!!」
凌也って……観月のこと、だよな?
同じ希少αで俺の親友の観月が、俺と同じく出会いが全くなかったあの観月が……。
つがいが、見つかった?
嘘だろ? 本当に?
「まじ、かよ……」
いつかは出会うかもしれないと思っていたつがいに、観月が一番に出会うのは想像してなかったな……。
「寛人、嬉しくないの?」
「えっ? いや、嬉しいよ。ただ、驚きの方が大き過ぎて……そうか……見つかったのか……」
あいつが単純に羨ましい。
人生を共にして、一生をかけて愛し続ける相手ができたことが……。
「だが、お前にも希望が持てただろう? つがいには必ず会えるんだよ」
父の言葉にハッとする。
「そう、だな……そうだよな。俺にもいつか必ず……」
そう考えた時、ようやく観月への祝いの言葉がスッと出た。
「観月、本当に良かったな……」
心からの言葉を送った俺だったが、その時の俺はまだ観月がこれから一ヶ月も耐え抜くことになることを知らなかった。
「ねぇ、今日はうちでお祝いをしたいの。寛人の病院の近くのケーキを頼んだから受け取ってうちに届けてくれないかしら?」
最後の患者の診察を終えて、ようやくほっと一息ついたところにかかってきた母からの電話。
いつも突拍子もない提案をしてくるが、今日はいつも以上に面倒臭いことを言ってきた。
「なんのお祝いだよ。今日は別に誕生日でも結婚記念日でもないだろう?」
「今はまだ内緒。でもとってもいいことよ。寛人もきっと喜ぶわ。だからお願いね」
母はそれだけ告げるとさっさと電話を切ってしまった。
こうなったら取りに行かないわけにはいかない。
母の頼みを適当にあしらったりしたら、父の雷が落ちる。
それくらい我が家での母の立場は強い。
俺も父も世界に数%の希少αで、αの中でも強い力を持っているが母には敵わない。
俺の中で母よりも強い力を持つとしたら、俺のつがいだろうか。
今のところ見つかる気はさらさらしない。
実際に存在するのかもわからないけれど、諦めたくはないとは思っている。
それにしても俺が喜ぶいいことってなんだ?
まさか弟か妹ができたとか言ってくるんじゃないだろうな?
流石に三十歳差の弟妹は冗談だと思いたいが、あれほど愛されているなら百%ないとは言い切れないところが怖い。五十歳はとうに過ぎているが、希少αのつがいなら生まれる可能性は十分にある。
先月もヒートで二人して部屋に篭っていたようだし、あの時のヒートでの妊娠だと考えれば辻褄があう。
俺の時の悪阻が重過ぎて十キロ以上も痩せて命の危険もあったことから、二人目を授かるのを諦めたと聞いていたが、最後のチャンスだと思って産むことにしたんだろうか?
もしそうなら、ゆくゆくは俺の子どもとして引き取ることも考えておかないとな。
いずれにしても新しい命が宿ったのなら、それは喜ばしいことだ。
医師としても家族としても祝う以外に選択はない。
俺はケーキ屋に寄って母が頼んだケーキを受け取り、実家に戻る途中で花屋に寄り、母への花束を買って行った。
玄関チャイムを鳴らして出てきたのは父だ。
いつもなら母が駆け出してくるから、やっぱり身重の身体を気遣っているんだろうか。
「んっ? その紙袋はなんだ?」
「これは母さんに。お祝いだからな」
小さな花束が入った紙袋を掲げて見せれば、父が不思議そうな表情をしている。
「お祝いだって聞いたけど違うのか?」
「お前……茜音になんて聞いたんだ?」
「いや、特に何も聞いてないけど……」
母が妊娠したんじゃないかと思ったのは内緒にしておいた。
もしかしたら父にはまだサプライズにしていると思ったんだ。
「まぁいい、早く入れ」
リビングに入ると、満面の笑みで母に出迎えられる。
この笑顔を見る限り、やっぱり妊娠だろうな。
「母さん。ケーキ、買ってきたぞ」
「ありがとう。じゃあみんなでお祝いしましょう!」
ケーキを前に嬉しそうな母の言葉を待っていると、母がゆっくりと口を開いた。
「今日は、凌也くんのつがいちゃんが見つかったの! そのお祝いよ!」
「はっ? えっ? なんだって?」
「だから、凌也くんのつがいちゃんが見つかったの! 麗花さんも大喜びでね! 私まで嬉しくなっちゃって、お祝いしたくなっちゃったの!!」
凌也って……観月のこと、だよな?
同じ希少αで俺の親友の観月が、俺と同じく出会いが全くなかったあの観月が……。
つがいが、見つかった?
嘘だろ? 本当に?
「まじ、かよ……」
いつかは出会うかもしれないと思っていたつがいに、観月が一番に出会うのは想像してなかったな……。
「寛人、嬉しくないの?」
「えっ? いや、嬉しいよ。ただ、驚きの方が大き過ぎて……そうか……見つかったのか……」
あいつが単純に羨ましい。
人生を共にして、一生をかけて愛し続ける相手ができたことが……。
「だが、お前にも希望が持てただろう? つがいには必ず会えるんだよ」
父の言葉にハッとする。
「そう、だな……そうだよな。俺にもいつか必ず……」
そう考えた時、ようやく観月への祝いの言葉がスッと出た。
「観月、本当に良かったな……」
心からの言葉を送った俺だったが、その時の俺はまだ観月がこれから一ヶ月も耐え抜くことになることを知らなかった。
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