イケメンスパダリシリーズ オメガバース <寛人&空良編>

波木真帆

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俺の可愛いつがい 2

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「でも、なかなか難しいよなー」

贈り物を探しに街に出たはいいが、おいそれと見つかるものじゃない。
正確に言えば、物は溢れているがいろいろと条件を考えるとそれに見合うものはどこにもない。

というか、世界中を探し回っても観月が納得しそうなものは出て来ないんじゃないか。

ペアのものをプレゼントするにしても同じ希少αの俺からもらったものなんてつがいにはつけさせたくないだろうし、家具家電も然り。そもそもあいつが持っていないものなんてなさそうだしな。

もし、自分なら何がほしいか考えても、つがいがいるという状況が全然思い当たらないから困る。

うーん、どうするかなー。

とりあえず、ちょっと休憩でもするか。

近くのコーヒー専門店で休みながら考えようと踵を返すと、その店に入ろうとしている見知った顔を見つけた。

「おい、綾城」

「なんだ、お前も入るのか? 一人なら一緒にどうだ?」

当然のように誘われて、一緒に店に入った。
カウンターで注文するシステムのこの店は、ところどころに空席があり混んでいる印象はないが、綾城を席に座らせて俺が注文をしに行った。

綾城が座るとすぐに辺りが色めきたつ。
俺たち希少αは運命のつがい以外のΩフェロモンに惑わされないように常に抑制剤を服用しているが、それを知らないΩたちが俺たちを誘惑しようとΩフェロモンを放ってくることがある。
その匂いが逆に嫌悪感しか感じないのだから飲食店では本当にやめてほしい。

さっさと飲んで、外に出た方がいいな。

二人分のアイスコーヒーを注文して綾城の元に行くと、さらに俺たちへの視線が増える。
近寄らせない程度の威嚇フェロモンを出して座ると、ようやく落ち着いたようだ。

「サンキュー」

綾城は一気に三分の一ほど飲み干すと、俺に笑顔を見せながら口を開いた。

「それで、結婚祝いは見つかったか?」

「俺が探しに出てたってよくわかったな?」

「ははっ。わかるよ。なんだかんだ言いながら観月につがいができたことを喜んでるのは俺も同じだからな」

こういうところが俺たちが親友になれた所以だろう。

「でもお前は少し余裕そうだな。贈り物は決まったのか?」

「七海にアドバイスをもらったんだ」

なるほど、七海ちゃんか。
七海ちゃんは綾城の妹でΩだ。
それならΩの気持ちも理解できるだろう。

「それでなんだって?」

「俺たちにはまだつがいがいないから、形に残るプレゼントはやめた方がいいってさ。俺たちにつがいがいればその子に選んでもらったものを贈り物にすれば観月も受け入れるだろうし、つがいのΩも安心して使えるけど、それ以外のαからの贈り物はなんとなく怖く感じるそうだ」

それは友人だとわかっていてもΩの本能がそうさせるらしい。

「なるほど。そういうものか。形の残るものがダメってことは消え物か。なら食べ物だな。スイーツはつがいの子は喜びそうだが、観月はな……」

「いや、そうとも言えないぞ。あいつ、毎日お菓子をプレゼントしに行ってたって言っただろう? 同じものを自分にも買って食べてたらしいぞ」

「えっ? 観月が?」

甘いものを見るだけで嫌な顔をしていたのに、自分で買って食べていた?
そんなの信じられないどころの騒ぎじゃない。

「驚いただろう? でも本当なんだよ。今もつがいと食べさせあったりしているらしいぞ。うちの母さんが観月の母さんから聞いた話だから間違いないよ」

「そう、なのか……」

俺も甘いものはそこまで得意ではないが、俺もつがいができたらそういうのもかわるんだろうか?
全然想像がつかない。

「な、すごいよな。観月をそこまで変えるつがいの存在ってさ」

「本当だな」

――可愛いつがいと毎日幸せに過ごしているよ

聞いたことがないような柔らかい口調でそんなことを言っていたが、あの時の表情はこの上ない笑顔だったんだろうな。
ちょっと、いやかなり羨ましく感じる。

「それじゃどっちかがスイーツで、どっちかが肉にするか」

「いいな。まずはスイーツを探しにイリゼホテルにでも行ってみようぜ」

話がまとまったところで、アイスコーヒーを飲み干し店を出た。

ここからイリゼホテルはそこまで離れていない。
気候もいいし歩いていこうということで二人で並んで歩いていると、遠くから

「誰か、助けてーーっ!」

という叫び声が微かに聞こえてきた。

「綾城、聞こえたか?」

「あっちからだな」

余計な関わり合いになりたくはないが、医師として「助けて」という言葉に反応しないわけにはいかない。

「行くぞ!」

急いで声のする方に駆けつけていると、こちらに向かってフラフラしながらも駆けてくる子が見える。

「さっきの助けを呼んだ声、あの子じゃないか?」

その子の存在に気づいた途端、なんだか無性に汗をかいてくる。
なんだ? どうなってるんだ?

「きっとそうだろう。んっ? なんだか苦しそうだな。ヒートを起こしているんじゃないか? 救急車を呼んだ方がいいな」

綾城はスマホを取り出し、すぐにΩ専用救急車を手配しながらその子の元に駆け寄っていく。
しかし、俺はあまりの暑さにもはや動けない。いや、必死に理性で動きを止めていると言った方が正しいか。
この状態に俺はもうわかってしまった。

あの子が俺のつがいなのだと。

だが、ここであの子に触れるわけにはいかない。
触れたが最後、このままここで襲ってしまうのは目に見えている。

ほんのわずかな距離につがいがいるのに触れられない。
そのもどかしさはあれど、つがいを大切にしたいという理性は残っている。

「綾城! 悪い! 俺もその子も父さんの病院に運んでくれ!! 後のことは頼む!」

最後の力を振り絞って綾城に声をかけ、持っていた荷物から一番強い抑制剤を適量より多めに投与した。

「悠木っ!」

綾城が俺を呼ぶ声を聞きながら、俺はその場に倒れた。
こうするしかなかった。
つがいを守るためには、こうするしか……。

薄れゆく意識の中で、つがいの甘い匂いだけは俺の本能を刺激し続けていた。
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