7 / 15
俺の可愛いつがい 6
しおりを挟む
<side寛人>
「んっ……」
目を覚ました俺は天井を見て、ここが病院だとすぐにわかった。
「俺のつがい!」
一瞬にして記憶が戻った途端、俺は叫びながら起き上がった。
「目が覚めたか?」
「あ、父さん…‥」
目の前にグラスを差し出されて素直にそれを受け取った。
「あの、俺のつがいは……」
「大丈夫だ。今、Ω病棟で診察を受けて茜音がついてくれている。ついさっきまで秀吾くんもついててくれたんだが、将臣くんが警察から連絡が来て一緒に出て行ったよ」
「どうして彼らが?」
あの場にはいなかったはずだが、綾城が呼んだのか?
「そうか、お前は知らないんだったな。偶然現場に居合わせて、お前のつがいを追いかけていた奴らを逮捕してくれたんだよ。秀吾くんは救急車に同乗してお前のつがいに付き添ってくれていたんだ。あとでお礼をしておかないとな」
現場に偶然居合わせただけでそれほどの動きができるとは……。
俺は早々に足手纏いになっていたから、綾城にとっては心強い援軍だったに違いない。
「それで、お前のつがいだが……しばらくは会えないと思ってくれ」
「そ、そうか……」
やっぱりなというのが俺の印象だった。
あの時、遠くから駆けてくるその姿がひどく痩せていたのを覚えている。
「どういう状態なんだ?」
「さっき茜音がお前のつがいの血液検査の結果を持ってきた。見るか?」
「もちろん!」
父はうかない顔をしつつも、テーブルの上に置いてあった資料を取り、俺に差し出した。
「心してみるんだな」
その言葉が重く感じられて、俺はゴクリと息を呑んだ。
結果から言えば、血液検査の結果はどれも最悪のものだった。
つがいを診察した医師から、抑制剤の多量摂取による中毒症状と薬の副作用による摂食障害のため重度の栄養失調という文言に身体が震える。
「中毒症状を引き起こすほど抑制剤を飲むなんて、自殺行為だ。どうして俺のつがいはこんなこと……」
「その理由は多分これだろう」
渡されたのはボロボロのスマホ。
これが誰のかと聞く前に父が説明を始めた。
「これはお前のつがいのスマホだ。ロックがかかっていなかったから身元確認のために少し中を確認させてもらったが、そこには今日のスケジュールが書かれていた。彼は面接のために奴らの元を訪れたようだ。Ωの就職はどうしても難しいところがある。だから、彼はβになりすますために抑制剤を摂取し、ヒートを起こさないようにしていたんだろう」
まだ未成年にしか見えない俺のつがいが……どうしても就職をしなければいけない理由があったということか。
「両親には連絡したのか?」
「いや、⚪︎月×日のスケジュールを見てみろ」
言われるがままにスケジュールをチェックしてみると、<両親の葬儀>との記載があった。
おそらく俺のつがいはこのスケジュール帳を日記がわりにずっとつけていたんだろう。
そこには突然一人になったことに対する悲しみと不安な気持ちが書かれていた。
お金もなく働かなければいけないけれど、高校中退になってしまったΩの働き先が見つからないことや、ようやく見つけた日雇いの仕事をクビにならないために貰った給料の大半が抑制剤の購入に消えていくこと、食欲もなく一人の恐怖に怯えてあまり眠れないこともなど、読んでいるだけで胸が痛くなる内容だ。
<笹原 空良>
スマホに登録された名前でようやくつがいの名前を知ることができたが、本当なら空良の口から聞きたかった。
「俺のつがい……空良に会うのは、一ヶ月は見たほうがいいか?」
「そうだな……。それくらいは静養させたほうがいいだろうな」
一ヶ月……耐えられるとは到底思えないが、空良のためだ。
やるしかない。
「凌也くんもつがいのために耐えたそうだからお前にもできるだろう。可愛いつがいのためだ。頑張れ!」
自分が同じ状態になってわかる。
つがいの匂いを知った上で我慢するのがどれほど辛いかが。
でも、やるしかない。それだけだ。
「昼食だけ、毎日俺に用意させてくれないか?」
「そうだな。お前の匂いを少しずつ摂らせて耐性をつけておくのはいいことだからな」
「あと、もう一つ頼みがある。空良を……実家で預かってほしい。母さんには迷惑かけるだろうけど、両親を亡くしている空良には母さんの看病のほうが効きそうだ」
「ははっ。寛人がそう言ってくれて助かったよ。久嗣のところで可愛いつがいを世話をしていたから、茜音もすっかりやる気になってたんだよ」
どうやら俺が頼むよりも先に空良の実家での療養は決まっていたみたいだ。
「直己くんには自宅療養に必要な医療機器をすぐに搬入してもらうことになっているからその準備が整い次第、自宅に連れ帰ることにするよ」
なるほど。綾城が観月のことについて詳しかったのはこのせいか。
「じゃあ綾城は帰ったのか?」
「ああ、目が覚めたら連絡が欲しいと言っていた。あとで連絡してやりなさい」
俺も観月も綾城に助けられる運命にあったんだろう。
あいつがつがいに出会ったら全力で協力してあげたいものだな。
「んっ……」
目を覚ました俺は天井を見て、ここが病院だとすぐにわかった。
「俺のつがい!」
一瞬にして記憶が戻った途端、俺は叫びながら起き上がった。
「目が覚めたか?」
「あ、父さん…‥」
目の前にグラスを差し出されて素直にそれを受け取った。
「あの、俺のつがいは……」
「大丈夫だ。今、Ω病棟で診察を受けて茜音がついてくれている。ついさっきまで秀吾くんもついててくれたんだが、将臣くんが警察から連絡が来て一緒に出て行ったよ」
「どうして彼らが?」
あの場にはいなかったはずだが、綾城が呼んだのか?
「そうか、お前は知らないんだったな。偶然現場に居合わせて、お前のつがいを追いかけていた奴らを逮捕してくれたんだよ。秀吾くんは救急車に同乗してお前のつがいに付き添ってくれていたんだ。あとでお礼をしておかないとな」
現場に偶然居合わせただけでそれほどの動きができるとは……。
俺は早々に足手纏いになっていたから、綾城にとっては心強い援軍だったに違いない。
「それで、お前のつがいだが……しばらくは会えないと思ってくれ」
「そ、そうか……」
やっぱりなというのが俺の印象だった。
あの時、遠くから駆けてくるその姿がひどく痩せていたのを覚えている。
「どういう状態なんだ?」
「さっき茜音がお前のつがいの血液検査の結果を持ってきた。見るか?」
「もちろん!」
父はうかない顔をしつつも、テーブルの上に置いてあった資料を取り、俺に差し出した。
「心してみるんだな」
その言葉が重く感じられて、俺はゴクリと息を呑んだ。
結果から言えば、血液検査の結果はどれも最悪のものだった。
つがいを診察した医師から、抑制剤の多量摂取による中毒症状と薬の副作用による摂食障害のため重度の栄養失調という文言に身体が震える。
「中毒症状を引き起こすほど抑制剤を飲むなんて、自殺行為だ。どうして俺のつがいはこんなこと……」
「その理由は多分これだろう」
渡されたのはボロボロのスマホ。
これが誰のかと聞く前に父が説明を始めた。
「これはお前のつがいのスマホだ。ロックがかかっていなかったから身元確認のために少し中を確認させてもらったが、そこには今日のスケジュールが書かれていた。彼は面接のために奴らの元を訪れたようだ。Ωの就職はどうしても難しいところがある。だから、彼はβになりすますために抑制剤を摂取し、ヒートを起こさないようにしていたんだろう」
まだ未成年にしか見えない俺のつがいが……どうしても就職をしなければいけない理由があったということか。
「両親には連絡したのか?」
「いや、⚪︎月×日のスケジュールを見てみろ」
言われるがままにスケジュールをチェックしてみると、<両親の葬儀>との記載があった。
おそらく俺のつがいはこのスケジュール帳を日記がわりにずっとつけていたんだろう。
そこには突然一人になったことに対する悲しみと不安な気持ちが書かれていた。
お金もなく働かなければいけないけれど、高校中退になってしまったΩの働き先が見つからないことや、ようやく見つけた日雇いの仕事をクビにならないために貰った給料の大半が抑制剤の購入に消えていくこと、食欲もなく一人の恐怖に怯えてあまり眠れないこともなど、読んでいるだけで胸が痛くなる内容だ。
<笹原 空良>
スマホに登録された名前でようやくつがいの名前を知ることができたが、本当なら空良の口から聞きたかった。
「俺のつがい……空良に会うのは、一ヶ月は見たほうがいいか?」
「そうだな……。それくらいは静養させたほうがいいだろうな」
一ヶ月……耐えられるとは到底思えないが、空良のためだ。
やるしかない。
「凌也くんもつがいのために耐えたそうだからお前にもできるだろう。可愛いつがいのためだ。頑張れ!」
自分が同じ状態になってわかる。
つがいの匂いを知った上で我慢するのがどれほど辛いかが。
でも、やるしかない。それだけだ。
「昼食だけ、毎日俺に用意させてくれないか?」
「そうだな。お前の匂いを少しずつ摂らせて耐性をつけておくのはいいことだからな」
「あと、もう一つ頼みがある。空良を……実家で預かってほしい。母さんには迷惑かけるだろうけど、両親を亡くしている空良には母さんの看病のほうが効きそうだ」
「ははっ。寛人がそう言ってくれて助かったよ。久嗣のところで可愛いつがいを世話をしていたから、茜音もすっかりやる気になってたんだよ」
どうやら俺が頼むよりも先に空良の実家での療養は決まっていたみたいだ。
「直己くんには自宅療養に必要な医療機器をすぐに搬入してもらうことになっているからその準備が整い次第、自宅に連れ帰ることにするよ」
なるほど。綾城が観月のことについて詳しかったのはこのせいか。
「じゃあ綾城は帰ったのか?」
「ああ、目が覚めたら連絡が欲しいと言っていた。あとで連絡してやりなさい」
俺も観月も綾城に助けられる運命にあったんだろう。
あいつがつがいに出会ったら全力で協力してあげたいものだな。
420
あなたにおすすめの小説
【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話
日向汐
BL
「好きです」
「…手離せよ」
「いやだ、」
じっと見つめてくる眼力に気圧される。
ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26)
閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、
一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨
短期でサクッと読める完結作です♡
ぜひぜひ
ゆるりとお楽しみください☻*
・───────────・
🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧
❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21
・───────────・
応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪)
なにとぞ、よしなに♡
・───────────・
聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています
八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。
そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。
猫カフェの溺愛契約〜獣人の甘い約束〜
なの
BL
人見知りの悠月――ゆづきにとって、叔父が営む保護猫カフェ「ニャンコの隠れ家」だけが心の居場所だった。
そんな悠月には昔から猫の言葉がわかる――という特殊な能力があった。
しかし経営難で閉店の危機に……
愛する猫たちとの別れが迫る中、運命を変える男が現れた。
猫のような美しい瞳を持つ謎の客・玲音――れお。
彼が差し出したのは「店を救う代わりに、お前と契約したい」という甘い誘惑。
契約のはずが、いつしか年の差を超えた溺愛に包まれて――
甘々すぎる生活に、だんだんと心が溶けていく悠月。
だけど玲音には秘密があった。
満月の夜に現れる獣の姿。猫たちだけが知る彼の正体、そして命をかけた契約の真実
「君を守るためなら、俺は何でもする」
これは愛なのか契約だけなのか……
すべてを賭けた禁断の恋の行方は?
猫たちが見守る小さなカフェで紡がれる、奇跡のハッピーエンド。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
若頭の溺愛は、今日も平常運転です
なの
BL
『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』続編!
過保護すぎる若頭・鷹臣との同棲生活にツッコミが追いつかない毎日を送る幼なじみの相良悠真。
ホットミルクに外出禁止、舎弟たちのニヤニヤ見守り付き(?)ラブコメ生活はいつだって騒がしく、でもどこかあったかい。
だけどそんな日常の中で、鷹臣の覚悟に触れ、悠真は気づく。
……俺も、ちゃんと応えたい。
笑って泣けて、めいっぱい甘い!
騒がしくて幸せすぎる、ヤクザとツッコミ男子の結婚一直線ラブストーリー!
※前作『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』を読んでからの方が、より深く楽しめます。
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる