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空良に似合うもの
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初めての散歩の翌日、朝から我が家に大きな荷物を持って現れたのは昔から懇意にしている呉服屋の音葉屋さん。
この週末に空良のお宮参りをする予定で、その日に着る私の着物をお仕立てしておいたのができたみたい。
無理を言って急がせてしまったけれど無事に間に合ってよかった。
だって、空良の初めてのお祝いだもの。
寛人と同じ着物で写真に映るなんてできないわ。
「この度は、お子さまのご成長誠におめでとうございます」
「ありがとう。うちの可愛い空良を紹介するわ」
顔馴染みの店主さんに可愛い空良を見せようと抱き上げる。
するとたった今まで空良と寝転んで遊んでいた寛人がくるりと寝返りをしたと思ったら、さっとお座りをして空良を見つめる。
まるで空良をどこに連れて行くんだ! とでも言いたげな様子。
「ほら、寛人。少しの時間くらい待ってなさい」
「あぶーっ! だぁー!」
もう、本当に空良が好きすぎて困っちゃうわ。
そんな寛人と私のやりとりりを興味深そうに店主さんは見ていた。
「ごめんなさいね。寛人がうるさくって」
「いえいえ、御兄弟の仲がよろしいのは素晴らしいことです」
そう言って、店主さんは私の腕の中で可愛らしい笑顔を見せる空良に視線を向けた。
「えっ……」
てっきり可愛いと言ってくれるかと思ったけれど、店主さんは空良を見て驚きの表情を浮かべたまま固まっている。
「あら? どうしかしたのかしら?」
「えっ、あっ! あの、申し訳ございません。私……お持ちしたお着物を間違えてしまったようで……」
店主さんは畳間に座ると、持ってきた荷物の中からたとう紙に包まれた着物をいくつか取り出した。
「今回のお着物がお宮参り用の訪問着のお仕立ててでございましたので、一緒に御子さまの祝着もお持ちしたんです。お電話では御子息だと伺った記憶がありましたので、男の御子さま用の祝着をお持ちしたのですが……」
「まぁ、嬉しいわ。ありがとう」
「えっ、でも御子さまは御息女でいらっしゃいますよね? こんなに可愛らしい……」
「あら、まぁ」
空良を一目見て女の子のように可愛いと思ったのね。
ふふ、間違えるのもわかるわ。
だって、ここにきて一ヶ月。
私のおっぱいをたっぷり飲んで寛海さんと寛人にいつも可愛い可愛いと可愛がられて育っている子だもの。
朝、見るたびに毎日可愛いを更新していっているのは、親の贔屓目だけじゃない。
本当に天使のように可愛い。
寛人は同じ時期には逞しいが先に出ていたから、空良との違いは本当によくわかる。
「褒めていただいて嬉しいわ。うちの空良は可愛いけれど男の子なの。びっくりでしょう」
私の言葉に目を丸くして言葉も出ない様子。
それが彼女の本心だとわかる。
「寛人が着た祝着を空良にも着せようと思っていたのだけど、せっかく音葉屋さんが持ってきてくださったから見てみようかしら」
「は、はい。こちらでございます」
まだ驚いたままの彼女はゆっくりとたとう紙を開いていく。
次々と現れる男の子用の祝着は龍や鷹、兜など強そうなものをモチーフにした色味の強いものばかり。
祝着の男の子用といえば、こういうものばかりだから当然といえば当然なのだけど、空良に当ててみると可愛らしい顔立ちの空良には強すぎてしっくりこない。
私の訪問着の仕立てを頼んだ時に、空良の祝着も仕立てておけばよかった……
そんな後悔が募る。
これらの中から選ぶよりは、寛人が着た祝着をお揃いとして着せたほうが喜ぶかもしれない。
そんな考えが頭に浮かんだ時、サークルの柵を握って座っている寛人が大きな声を上げた。
「あだーっ! あぶ、あぶ!!」
まだ七ヶ月とは思えない力で柵を揺らす姿に驚いて、サークルに駆け寄った。
「どうしたの、寛人。いきなり大きな声を出したら、空良が驚くわ」
空良の名前を出すと急におとなしくなる。
それはよかったけれど、何か伝えたいことがあるのかもしれない。
空良をサークルの中に寝かせて今度は寛人を抱き上げる。
「何かあるの?」
優しく尋ねると、寛人は音葉屋さんが持ってきた大きな荷物を指差した。
「あぶ、あうー!」
寛人があまりにも訴えるものだから、音葉屋さんに尋ねてみた。
「そこに残っているお着物は何かしら?」
「こちらは兜の祝着と対でお作りしましたご息女の祝着でございます」
そう言って開いて見せてくれたのは、淡い水色と白地のグラデーションが美しい柔らかな印象の祝着だった。柄も綺麗な折り鶴。
「これ、素敵だわ。空良の名前にもピッタリだし、何より寛人が選んだものだもの」
女の子用と言われたけれど、これをみたらこの祝着以外考えられなくなってしまった。
男の子用だとか女の子用だとか関係ないわ。
空良が似合うものが一番よ
「音葉屋さん。これをいただくわ」
そう告げると、音葉屋さんも笑顔を見せてくれた。
「このお召し物は御子息にとてもよくお似合いです。さすがお兄さまはよくご存知ですね」
寛人のことを褒めてくれる。
そんな様子をサークルの中にいる空良はご機嫌で見つめていた。
この週末に空良のお宮参りをする予定で、その日に着る私の着物をお仕立てしておいたのができたみたい。
無理を言って急がせてしまったけれど無事に間に合ってよかった。
だって、空良の初めてのお祝いだもの。
寛人と同じ着物で写真に映るなんてできないわ。
「この度は、お子さまのご成長誠におめでとうございます」
「ありがとう。うちの可愛い空良を紹介するわ」
顔馴染みの店主さんに可愛い空良を見せようと抱き上げる。
するとたった今まで空良と寝転んで遊んでいた寛人がくるりと寝返りをしたと思ったら、さっとお座りをして空良を見つめる。
まるで空良をどこに連れて行くんだ! とでも言いたげな様子。
「ほら、寛人。少しの時間くらい待ってなさい」
「あぶーっ! だぁー!」
もう、本当に空良が好きすぎて困っちゃうわ。
そんな寛人と私のやりとりりを興味深そうに店主さんは見ていた。
「ごめんなさいね。寛人がうるさくって」
「いえいえ、御兄弟の仲がよろしいのは素晴らしいことです」
そう言って、店主さんは私の腕の中で可愛らしい笑顔を見せる空良に視線を向けた。
「えっ……」
てっきり可愛いと言ってくれるかと思ったけれど、店主さんは空良を見て驚きの表情を浮かべたまま固まっている。
「あら? どうしかしたのかしら?」
「えっ、あっ! あの、申し訳ございません。私……お持ちしたお着物を間違えてしまったようで……」
店主さんは畳間に座ると、持ってきた荷物の中からたとう紙に包まれた着物をいくつか取り出した。
「今回のお着物がお宮参り用の訪問着のお仕立ててでございましたので、一緒に御子さまの祝着もお持ちしたんです。お電話では御子息だと伺った記憶がありましたので、男の御子さま用の祝着をお持ちしたのですが……」
「まぁ、嬉しいわ。ありがとう」
「えっ、でも御子さまは御息女でいらっしゃいますよね? こんなに可愛らしい……」
「あら、まぁ」
空良を一目見て女の子のように可愛いと思ったのね。
ふふ、間違えるのもわかるわ。
だって、ここにきて一ヶ月。
私のおっぱいをたっぷり飲んで寛海さんと寛人にいつも可愛い可愛いと可愛がられて育っている子だもの。
朝、見るたびに毎日可愛いを更新していっているのは、親の贔屓目だけじゃない。
本当に天使のように可愛い。
寛人は同じ時期には逞しいが先に出ていたから、空良との違いは本当によくわかる。
「褒めていただいて嬉しいわ。うちの空良は可愛いけれど男の子なの。びっくりでしょう」
私の言葉に目を丸くして言葉も出ない様子。
それが彼女の本心だとわかる。
「寛人が着た祝着を空良にも着せようと思っていたのだけど、せっかく音葉屋さんが持ってきてくださったから見てみようかしら」
「は、はい。こちらでございます」
まだ驚いたままの彼女はゆっくりとたとう紙を開いていく。
次々と現れる男の子用の祝着は龍や鷹、兜など強そうなものをモチーフにした色味の強いものばかり。
祝着の男の子用といえば、こういうものばかりだから当然といえば当然なのだけど、空良に当ててみると可愛らしい顔立ちの空良には強すぎてしっくりこない。
私の訪問着の仕立てを頼んだ時に、空良の祝着も仕立てておけばよかった……
そんな後悔が募る。
これらの中から選ぶよりは、寛人が着た祝着をお揃いとして着せたほうが喜ぶかもしれない。
そんな考えが頭に浮かんだ時、サークルの柵を握って座っている寛人が大きな声を上げた。
「あだーっ! あぶ、あぶ!!」
まだ七ヶ月とは思えない力で柵を揺らす姿に驚いて、サークルに駆け寄った。
「どうしたの、寛人。いきなり大きな声を出したら、空良が驚くわ」
空良の名前を出すと急におとなしくなる。
それはよかったけれど、何か伝えたいことがあるのかもしれない。
空良をサークルの中に寝かせて今度は寛人を抱き上げる。
「何かあるの?」
優しく尋ねると、寛人は音葉屋さんが持ってきた大きな荷物を指差した。
「あぶ、あうー!」
寛人があまりにも訴えるものだから、音葉屋さんに尋ねてみた。
「そこに残っているお着物は何かしら?」
「こちらは兜の祝着と対でお作りしましたご息女の祝着でございます」
そう言って開いて見せてくれたのは、淡い水色と白地のグラデーションが美しい柔らかな印象の祝着だった。柄も綺麗な折り鶴。
「これ、素敵だわ。空良の名前にもピッタリだし、何より寛人が選んだものだもの」
女の子用と言われたけれど、これをみたらこの祝着以外考えられなくなってしまった。
男の子用だとか女の子用だとか関係ないわ。
空良が似合うものが一番よ
「音葉屋さん。これをいただくわ」
そう告げると、音葉屋さんも笑顔を見せてくれた。
「このお召し物は御子息にとてもよくお似合いです。さすがお兄さまはよくご存知ですね」
寛人のことを褒めてくれる。
そんな様子をサークルの中にいる空良はご機嫌で見つめていた。
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