息子の幸せを見届けたら、大人な恋が始まりました

波木真帆

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家族だから……

一慶と、一緒に食事……
しかも、お互いが作った料理を……

真宙が生まれて二十五年。
手料理持ち寄りのパーティーなどにも参加したことはない。
だから、自分が作ったものを真宙以外に食べさせたことはない。
同じように、外食以外で誰かの手料理を食べたこともなかった。

おそらく一慶は残してしまったらもったいないだろうと誘ってくれたのだろう。
おかずならまだしも、味噌汁は冷凍保存はできないし、数日食べ続けるしかない。

――家族ですから……

そう言ってくれた言葉が、頭をよぎる。

家族として距離を縮めれば、きっと真宙も大我も安心する。
そんな理由を頭の中で並べ、無理やりに納得させた。

<いいですね。よかったら、うちに来ますか?>

汁物を車で運ぶのは大変だ。ご飯のほうが遥かにハードルは低い。
先日、家まで送ってくれたから住所もわかっているだろうし、何より一慶がきてくれるなら、料理を整える時間もできる。

<ぜひ。伺わせてください。それじゃあ今から向かいますね>

メッセージに、犬が敬礼している可愛いスタンプが添えられ、ふっと心が軽くなる。
何もする気になれなかった心にふっと明かりが灯った気がした。

こうしてはいられない。
急いでキッチンに向かい、食材を確認する。

真宙との食事なら、肉系が自然と多くなるが、私も一慶も、もう五十歳。
魚料理のほうが胃に優しいだろう。

「確か、返礼品の中に……ああ、あった!」

先日、地方から送られてきていたカレイがあったことを思い出し、煮付けを作る。
甘辛い醤油の匂いが食欲を刺激する中、玄関のチャイムが鳴った。

来た!

一慶だとわかっていても、念の為インターフォンで確認する。

「水無瀬です」

その低く落ち着いた声に、胸が少し跳ねる。

「は、はい。今、開けますね」

久しぶりに、真宙のいない家に誰かを招き入れる感覚。
少しだけ深呼吸をして、ドアを開けた。

白のインナーにブラウンのジャケットを羽織った一慶が、柔らかく微笑みながら立っている。
その手には、紙袋がいくつか抱えられていた。

「突然お伺いしてすみません」

「いえ。どうぞ、お入りください」

「ありがとうございます。お邪魔します」

一慶が靴を脱ぎ、静かにリビングに入ってくる。

持ってきた紙袋をテーブルに置き、中身を取り出していく。

「ご飯をおにぎりにして持ってきたんです。せっかくなので、他にもいろいろ持ってきてみました」

タッパーには、サラダや果物なども入っている。

「冷蔵庫に入れっぱなしになっていても、もったいないですからね」

「すごい、豪華な食卓になりそうですね」

「もしかして、真人さんも何か作ってくれてますか?」

部屋に漂う醤油の香りに、一慶も気づいたようだ。

「煮付けを作ってみたんです。温めてきますね。一慶さんは寛いでいていいですよ」

「いえ。私も一緒に準備します」

その言葉に、家でもいつも動いているんだろうということが伝わってくる。
やはり私たちはよく似ている。

「じゃあ、お願いします。食器やお箸はそこの食器棚にあるので自由に使ってください」

一慶が準備をしてくれている間に、煮付けと味噌汁を温め直し、よそっていく。

それをトレイに載せてキッチンから運ぼうとしていると、一慶がスッと現れた。

「私が運びますよ」

そういうが早いが、二人分の料理が載ったトレイを運んでいく。
軽々と運ぶその姿に、思わず見入ってしまう自分がいた。

たくさんの料理が並ぶテーブルは、真宙がいた時よりも豪華かもしれない。
向かい合わせに座り、箸をてにとった。

「それでは、いただきます」

いつもの習慣で声をかけると、一慶も「いただきます」と言ってくれた。

綺麗な所作で汁椀を持つと、静かに口をつけた。

一慶の口に合うのか、どうか。それだけが気になる。
つい、彼の反応を見つめていると、一慶は優しい笑みを浮かべた。

「美味しいですね。これ、ちゃんと出汁を取ってるんでしょう?」

子どもの頃、真宙が顆粒出汁が苦手だったこともあって、いつも昆布と鰹節で作るのが日常になっていた。
それを一慶が気づいてくれた。それがたまらなく嬉しかった。
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