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誤解から始まる朝
<side真人>
「え、待って……」
頭がうまく働かない。
なんで、私は一慶に抱きしめられて眠ってるんだ……?
昨日、何が……
必死に記憶を辿る。
客間で寝てて、喉が渇いて……
一慶からレモン水を渡された記憶がふっと甦った途端、昨夜の記憶が少しずつ戻ってきた。
アルバムを見ていて、気が抜けて……そこからの、記憶がない。
この状況を見るに、眠ってしまった私を一慶が寝かせてくれたんだろう。
ただどうして抱きしめられているのかは、わからない。
必死に冷静になろうとしても、全く状況が整理できない。
一慶の腕の中で目が覚めるなんて、想像もしてなかった。
でも現実として、私は今こうして一慶と同じ布団にいて、しかも距離が近すぎる。
一慶の呼吸がすぐそこにあって、少し動くだけで触れてしまいそうな位置にいる。
そのことに照れはあっても、不思議と怖さはなかった。
昨夜、あの客間であれだけ眠れなかったのに、一慶の腕の中はやけに安心してしまう。
夢の中まで感じていたあの匂いが、私をさらに安心させる。
「どうして、こんなに……」
そう呟いてみるが、答えはもううっすら気付いてる。
認めたくないような、でも否定できない事実。
生活を変えるのが怖い、なんて言っていたくせに自分でも呆れてしまう。
目の前の一慶の寝顔を見つめる。
普段は落ち着いていて、クールな印象なのに、今は完全に無防備でそのギャップに胸が騒ぐ。
とりあえずこのままでいたら、心臓が持ちそうにない。
一慶を起こさないように、そっと腕から抜け出そうとする
けれど……
少し動いただけで、逆に引き寄せられるように腕の力がわずかに強くなる。
寝てるのに?
それとも無意識?
判断がつかないまま、完全に動けなくなってしまった。
これは……起きるまで待つしかないのか?
ふと、昔のことを思い出す。
仕事に行かないで、と言いながら眠った真宙が、私の腕をしっかり掴んでいて……
動くに動けず、初めて仕事をずる休みした。
翌日仕事に行ったとき、同僚に理由を聞かれて笑われたっけ。
懐かしい。
今日は休日だし、このまま寝るしかないのかな。
でも……抱きしめられているこの状況では、さすがに眠れそうにないんだけど……
どうすればいいのか悩んでいると、静かな空気を破るようにスマホが鳴った。
「えっ、これ、私の……?」
持ってきた記憶もないが、着信音は確実に自分のもの。
その音を頼りに、枕元に手を入れて探す。
まず音を止めて、画面を見る。
表示されている名前を見て、さらに意識が覚醒した。
「ま、ひろ……」
こんな朝から? と思ったが、画面には十一時をすぎた時間。
どうやら本当にぐっすり眠っていたみたいだ。
驚いているうちに、指先が触れてしまっていたようでいつの間にか電話がつながっていた。
電話口から、「もしもし、お父さん?」という声が何度も聞こえてくる。
ーもしもし、どうした?
隣に寝ている一慶を起こさないようにできるだけ小声で話しかける。
ーあれ? まだ寝てた?
ーえっ、あ、うん。いや、起きてたけど……
ーどっちよ。寝ぼけてる?
真宙の笑い声が聞こえて、慌てて話を戻した。
ーそれより、どうした?
ーあ、そうそう。あの温泉の話だけど、今週末に行くことにしたから。
ーえっ? 今週末? そんな急に?
ー早く結婚式の話も聞きたいし、善は急げっていうでしょ?
真宙は結婚式にかなり興味を持っていたからな。
昔から気になることは後回しにできないタイプだったし、無理もない。
ーあ、でも温泉もそんな簡単には……
ー大丈夫、それは大我が一慶お義父さんにお願いしたって言ってたよ。だから、気にしないでいいみたい。ってことで、今週末、予定入れておいてね。
ーわかった。じゃあ、出発の時間とか……
そう話しかけたタイミングで……
「真人さん? 起きてたんですか」
隣から一慶の声が聞こえた。
どう聞いても起き抜けの声。
慌ててスマホを覆ったけれど、全く意味がない。
ーあの、真宙……
ー今の声って、一慶お義父さん? ああ、ごめん。邪魔しちゃったかな。電話切るねー。ごゆっくりー
ーえっ、あ、ちょっ――
「切られた……」
呆然とスマホを見つめる。
なんだか盛大に勘違いさせてしまった気がする。
「どう説明すればいいんだ、これ」
小さくため息をついた瞬間、
「今の電話、真宙くん、ですか?」
すぐ隣から、一慶の声が聞こえた。
「っ!」
びくっと肩が跳ねる。
そうだった。今はそれどころじゃない。
ゆっくりと視線を横に向けると、一慶がこちらを見ていた。
さっきよりも、はっきりと意識してしまう距離。
しかも完全に起きている。
「お、おはようございます」
ぎこちなく挨拶をすると、一慶はわずかに目を細めた。
「おはようございます。よく眠れましたか?」
その問いに言葉が詰まる。
眠れたどころの話じゃない。
ここ最近で、一番……いや、比べ物にならないくらい深く眠っていた。
「はい……びっくりするくらいぐっすり眠れました」
正直にそう答えると、一慶は嬉しそうな表情を見せた。
「え、待って……」
頭がうまく働かない。
なんで、私は一慶に抱きしめられて眠ってるんだ……?
昨日、何が……
必死に記憶を辿る。
客間で寝てて、喉が渇いて……
一慶からレモン水を渡された記憶がふっと甦った途端、昨夜の記憶が少しずつ戻ってきた。
アルバムを見ていて、気が抜けて……そこからの、記憶がない。
この状況を見るに、眠ってしまった私を一慶が寝かせてくれたんだろう。
ただどうして抱きしめられているのかは、わからない。
必死に冷静になろうとしても、全く状況が整理できない。
一慶の腕の中で目が覚めるなんて、想像もしてなかった。
でも現実として、私は今こうして一慶と同じ布団にいて、しかも距離が近すぎる。
一慶の呼吸がすぐそこにあって、少し動くだけで触れてしまいそうな位置にいる。
そのことに照れはあっても、不思議と怖さはなかった。
昨夜、あの客間であれだけ眠れなかったのに、一慶の腕の中はやけに安心してしまう。
夢の中まで感じていたあの匂いが、私をさらに安心させる。
「どうして、こんなに……」
そう呟いてみるが、答えはもううっすら気付いてる。
認めたくないような、でも否定できない事実。
生活を変えるのが怖い、なんて言っていたくせに自分でも呆れてしまう。
目の前の一慶の寝顔を見つめる。
普段は落ち着いていて、クールな印象なのに、今は完全に無防備でそのギャップに胸が騒ぐ。
とりあえずこのままでいたら、心臓が持ちそうにない。
一慶を起こさないように、そっと腕から抜け出そうとする
けれど……
少し動いただけで、逆に引き寄せられるように腕の力がわずかに強くなる。
寝てるのに?
それとも無意識?
判断がつかないまま、完全に動けなくなってしまった。
これは……起きるまで待つしかないのか?
ふと、昔のことを思い出す。
仕事に行かないで、と言いながら眠った真宙が、私の腕をしっかり掴んでいて……
動くに動けず、初めて仕事をずる休みした。
翌日仕事に行ったとき、同僚に理由を聞かれて笑われたっけ。
懐かしい。
今日は休日だし、このまま寝るしかないのかな。
でも……抱きしめられているこの状況では、さすがに眠れそうにないんだけど……
どうすればいいのか悩んでいると、静かな空気を破るようにスマホが鳴った。
「えっ、これ、私の……?」
持ってきた記憶もないが、着信音は確実に自分のもの。
その音を頼りに、枕元に手を入れて探す。
まず音を止めて、画面を見る。
表示されている名前を見て、さらに意識が覚醒した。
「ま、ひろ……」
こんな朝から? と思ったが、画面には十一時をすぎた時間。
どうやら本当にぐっすり眠っていたみたいだ。
驚いているうちに、指先が触れてしまっていたようでいつの間にか電話がつながっていた。
電話口から、「もしもし、お父さん?」という声が何度も聞こえてくる。
ーもしもし、どうした?
隣に寝ている一慶を起こさないようにできるだけ小声で話しかける。
ーあれ? まだ寝てた?
ーえっ、あ、うん。いや、起きてたけど……
ーどっちよ。寝ぼけてる?
真宙の笑い声が聞こえて、慌てて話を戻した。
ーそれより、どうした?
ーあ、そうそう。あの温泉の話だけど、今週末に行くことにしたから。
ーえっ? 今週末? そんな急に?
ー早く結婚式の話も聞きたいし、善は急げっていうでしょ?
真宙は結婚式にかなり興味を持っていたからな。
昔から気になることは後回しにできないタイプだったし、無理もない。
ーあ、でも温泉もそんな簡単には……
ー大丈夫、それは大我が一慶お義父さんにお願いしたって言ってたよ。だから、気にしないでいいみたい。ってことで、今週末、予定入れておいてね。
ーわかった。じゃあ、出発の時間とか……
そう話しかけたタイミングで……
「真人さん? 起きてたんですか」
隣から一慶の声が聞こえた。
どう聞いても起き抜けの声。
慌ててスマホを覆ったけれど、全く意味がない。
ーあの、真宙……
ー今の声って、一慶お義父さん? ああ、ごめん。邪魔しちゃったかな。電話切るねー。ごゆっくりー
ーえっ、あ、ちょっ――
「切られた……」
呆然とスマホを見つめる。
なんだか盛大に勘違いさせてしまった気がする。
「どう説明すればいいんだ、これ」
小さくため息をついた瞬間、
「今の電話、真宙くん、ですか?」
すぐ隣から、一慶の声が聞こえた。
「っ!」
びくっと肩が跳ねる。
そうだった。今はそれどころじゃない。
ゆっくりと視線を横に向けると、一慶がこちらを見ていた。
さっきよりも、はっきりと意識してしまう距離。
しかも完全に起きている。
「お、おはようございます」
ぎこちなく挨拶をすると、一慶はわずかに目を細めた。
「おはようございます。よく眠れましたか?」
その問いに言葉が詰まる。
眠れたどころの話じゃない。
ここ最近で、一番……いや、比べ物にならないくらい深く眠っていた。
「はい……びっくりするくらいぐっすり眠れました」
正直にそう答えると、一慶は嬉しそうな表情を見せた。
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