息子の幸せを見届けたら、大人な恋が始まりました

波木真帆

文字の大きさ
83 / 85

隣は……

扉を開けた瞬間、

「おはよう、お父さん」

「父さん、おはよう」

真宙と大我の明るい声が飛び込んできた。

「おはよう。やっぱり早かったな」

苦笑まじりにそう返すと、真宙が「えへへ」と悪びれもなく笑う。

「だって、楽しみだったんだもん」

その隣で、大我もどこか浮き足だった顔をしている。

「もしかして、もう出かける準備できてる?」

「ああ。早く来そうな気がしたからな」

「さすが、お父さん! じゃあ、早速出かけよう!」

嬉しそうな真宙の声に、一慶はすぐに荷物を持ってきた。

そのまま四人でガレージに向かう。
地下駐車場には、たくさんの車が並んでいた。

一慶がピッと鍵のボタンを押すと、奥に止められていた車がピカッと光った。

「わ……っ」

思わず声が漏れる。
普段、一慶が乗っている車よりさらに大きい。
旅行用なのだろうか。車内も広そうだ。

「これ、ですか?」

「ええ。今日は人数も多いですし、荷物もありますからね。今日はこっちで行きましょう」

さっと荷物を積み込みながら、笑顔を向けられる。

「でもこんな大きな車、運転できるかどうか……」

四人で交代で運転するつもりだったのに、あまり大きな車で高速に乗るのは少し不安だ。
きっと真宙も同じだろう。

「運転なら心配しないでください。私と大我で十分ですから」

「でも……」

片道三時間もかかる場所で、乗ってるだけなのは正直申し訳ない気がする。
この間も、結局任せっきりだったのに。

「お父さん。大丈夫だよ。大我、運転するの好きなんだよ。僕と出かける時もずっと運転してくれるよ」

さらりと言われて、大我と一慶を見る。

「父さんも俺も運転好きなんで、大丈夫ですよ」

「途中で疲れたら交代しますから、真人さんは気にしないでください」

二人にまでそう言われたら、それ以上強くは言えなくなってしまう。

「それじゃあ、お言葉に甘えて……」

そういうと、大我が「俺、先に運転するよ」と一慶から鍵を受け取っていた。

「じゃあ、乗ろう!」

真っ先に後部座席のドアを開けながら、真宙はこっちを振り返る。

「お父さん、こっち!」

「えっ?」

思わず間の抜けた声が出た。

大我が運転するのなら、真宙はてっきり助手席に乗るものだと思っていた。

「一緒に後ろ座ろうよ」

「助手席に行かないのか?」

「うん! だって、お父さんと乗るの久しぶりだし」

その言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなる。
自然と頬が緩むのを感じながら、後部座席に乗り込んだ。

車内は想像していた以上に広く、座席もゆったりしている。
隣では真宙が嬉しそうに身体を寄せてきた。

「こうやって隣座るの、なんか久しぶりだね」

「ああ……そうだな」

少し照れくさい。
でも、それ以上に嬉しい。

前の席では、大我が自然な動きで運転席に座り、一慶が助手席へ乗り込む。

シートベルトを締めながら、一慶がルームミラー越しにこちらを見た。
その表情に少しドキッとしてしまう。

考えてみれば、車の中で運転している横顔以外の一慶を見たのは初めてだ。

ニコッと笑みを向けられて、頬が熱くなる。

「お父さん? どうかした?」

「え、なっ、何が?」

「なんか、顔赤いけど……」

「ちょ、ちょっと、車の中が暑いのかな。気にしないでいいよ」

「そう? それより、これから行くカフェなんだけど……」

なんとか誤魔化せたようでほっとする。
ちらりと前に視線を向けると、ミラー越しに一慶と目が合った。
楽しそうに笑っている。

「では、出発しましょうか」

「はーい!」

真宙の元気な返事とともに、大我が車をゆっくり発進させた。

休日のまだ早い時間だからか、街はどこか静かだった。
けれど、車内だけは、不思議なくらい賑やかで温かい。

「今から行くカフェ、本当にすごいんだよ」

真宙がスマートフォンを取り出して、楽しそうに画面を見せてくる。

「ほら、これ見て! パンも焼きたてだし、スープも十種類以上あるんだよ」

「うわ、これはすごいな……」

写真には、湯気の立つスープと焼きたてらしいパンがたくさん並んでいる。

「お父さん、絶対気にいると思うんだよね。このブリオッシュシュクレも美味しそうじゃない?」

卵とバターをたっぷりと使った生地にバターと砂糖をたっぷりとつけて焼いたパン。
甘い菓子パンだが、見ているだけで食べたくなる。

「それは、真人さん好きそうですね」

前の席から一慶も覗き込み、話に加わってくる。

「一慶お義父さんも甘いパン、食べますか?」

真宙の質問に、一慶は穏やかに笑った。

「真人さんと一緒なら、なんでも食べるよ」

さらりと言われて、思わず言葉に詰まる。

「父さん、息子の前で口説くなよ」

大我が呆れたように笑う。

「本当のことを言っているだけだろう」

一慶は至って真面目な顔で言い返した。

そのやりとりを見た真宙は「お父さん。愛されてるね」と私の耳元でそっと囁いた。
感想 158

あなたにおすすめの小説

潔癖症の俺が汗と涙にまみれた団長服を着る羽目になった件

灰鷹
BL
攻め:一条颯真 高校一年 女子にモテるが潔癖症で誰とも付き合ったことがない 受け:香坂理一郎 高校二年 応援団部の団長  一条颯真はそこそこモテるが人との接触が苦手で他人の手料理も食べられない。高一のバレンタインデーでもらった手作りケーキを横流しした縁で、二年生で応援団部の団長にして唯一の部員である香坂理一郎と親しくなる。演舞の太鼓を手伝うかわりに潔癖症のリハビリに付き合ってもらうことになったのだが。汗と涙にまみれた団長服を着ることが、リハビリの最終目標らしくて……。 ※ ノベマからの転載です。同サイトにはこれ以外にコンテスト中の期間限定で公開している作品もあるので、気になった方は下記を覗いていただければ幸いです。  https://novema.jp/member/n1359588

悪役令息に転生した俺は推しの為に舞台から退場する

スノウマン(ユッキー)
BL
前世の記憶を思い出したアレクシスは悪役令息に転生したことに気づく。このままでは推しである義弟ノアが世界を救った後も幸せになれない未来を迎えてしまう。それを回避する為に、俺は舞台から退場することを選んだ。全てを燃やし尽くす事で。 そんな俺の行動によってノアが俺に執着することになるとも知らずに。

37才にして遂に「剣神」の称号を得ましたが、20年前に自分を振った勇者のパーティのエルフの女剣士に今更求婚されました。

カタナヅキ
ファンタジー
20年前、異世界「マテラ」に召喚された「レオ」は当時の国王に頼まれて魔王退治の旅に出る。数多くの苦難を乗り越え、頼りになる仲間達と共に魔王を打ち倒す。旅の終わりの際、レオは共に旅をしていた仲間のエルフ族の剣士に告白するが、彼女から振られてしまう。 「すまないレオ……私は剣の道に生きる」 彼女はそれだけを告げると彼の前から立ち去り、この一件からレオは彼女の選んだ道を追うように自分も剣一筋の人生を歩む。英雄として生きるのではなく、只の冒険者として再出発した彼は様々な依頼を引き受け、遂には冒険者の頂点のSランクの階級を与えられる。 勇者としてではなく、冒険者の英雄として信頼や人望も得られた彼は冒険者を引退し、今後は指導者として冒険者ギルドの受付員として就職を果たした時、20年前に別れたはずの勇者のパーティの女性たちが訪れる。 「やっと見つけた!!頼むレオ!!私と結婚してくれ!!」 「レオ君!!私と結婚して!!」 「頼む、娘と結婚してくれ!!」 「はあっ?」 20年の時を迎え、彼は苦難を共に乗り越えた仲間達に今度は苦悩される日々を迎える。 ※本格的に連載するつもりはありませんが、暇なときに投稿します。

『アルファ拒食症』のオメガですが、運命の番に出会いました

小池 月
BL
 大学一年の半田壱兎<はんだ いちと>は男性オメガ。壱兎は生涯ひとりを貫くことを決めた『アルファ拒食症』のバース性診断をうけている。  壱兎は過去に、オメガであるために男子の輪に入れず、女子からは異端として避けられ、孤独を経験している。  加えてベータ男子からの性的からかいを受けて不登校も経験した。そんな経緯から徹底してオメガ性を抑えベータとして生きる『アルファ拒食症』の道を選んだ。  大学に入り壱兎は初めてアルファと出会う。  そのアルファ男性が、壱兎とは違う学部の相川弘夢<あいかわ ひろむ>だった。壱兎と弘夢はすぐに仲良くなるが、弘夢のアルファフェロモンの影響で壱兎に発情期が来てしまう。そこから壱兎のオメガ性との向き合い、弘夢との関係への向き合いが始まるーー。 ☆BLです。全年齢対応作品です☆

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 他サイトにも投稿しております。 ※本作品をAIの学習教材として使用することを禁じます。 ※無断著作物利用禁止

トイレで記憶を失った俺は、優しい笑顔の精神科医に拾われる

逆立ちのウォンバット
BL
気がつくと、俺は駅のトイレで泣いていた。 自分の名前も、どうしてここにいるのかも分からない。 財布の学生証に書かれていた名前は、“藤森双葉”。 何も分からないまま駆け込んだ総合病院で、混乱する俺に声をかけてくれたのは、優しい笑顔の精神科医・松村和樹だった。 「大丈夫ですよ」 そう言って、否定せず、急かさず、怖がる俺を受け止めてくれる先生。 けれど、失った記憶の奥には、思い出したくない“何か”があるようで――。 記憶を失った大学生と、穏やかな精神科医の、静かな救済の話。 ※毎日22時更新予定

どうも。チートαの運命の番、やらせてもらってます。

Q矢(Q.➽)
BL
アラフォーおっさんΩの一人語りで話が進みます。 典型的、屑には天誅話。 突発的な手慰みショートショート。

六番目の眷属は神の台所で愛される

さくなん
BL
神エリオスが治める天界には、十二人の眷属が暮らしている。 その六番目に生まれたシンは、戦いや役目に秀でているわけではなく、ただ台所に立ち、皆のために料理を作る穏やかな存在だった。 シンの作る食事に惹かれて集まる眷属たち。 年少のルカやユウは特に懐き、上位の眷属たちも気づけば彼の周りで過ごす時間を当たり前にしていた。そんな中、主神エリオスだけは誰よりも静かに、けれど確かにシンを見つめ続けていた。みんなに等しく優しい神でありながら、ほんの少しだけシンに甘い。ある日、天界の結界が揺らぐ事件が起きる。 その異変を、シンは無意識に鎮めてしまう。それをきっかけに明かされていくのは、「六番目」にだけ与えられた特別な役割。 シンはただ愛されていたのではなく、天界そのものを穏やかに保つ“境目の存在”だった。眷属たちに囲まれながら、少しずつ自分の力と向き合うシン。 そして、長い時を生きる神エリオスが、なぜ最初からシンだけを少し特別に見つめていたのか。穏やかな日常の中で育つ、静かな恋。 世界を支える力と、ひとつの居場所を巡る、優しいファンタジーBL。