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人生初の恋人 <side楓智祐>
<side楓 智祐>
母を早くに亡くし、物心がついた頃には父と二人暮らしだった。
でも辛い思いをしたことはない。
近くに父方の祖父母がいて、学校帰りにはいつもそこに行っておやつと夕食を食べさせてもらっていたし、高校の数学の教師だった祖父と英語教師だった祖母から勉強を教わって毎日が充実していた。
けれど中三の半ばに祖父母が立て続けに亡くなり、その寂しさが癒え始めた頃、父に海外赴任の辞令が下りた。
任期は五年。場所はスペイン。
父は一緒に来て欲しそうだったけれど、英語が多少通じるとはいえ、慣れない外国で五年過ごすのは勇気が出なかった。
父は僕の気持ちをわかってくれて、僕を隣県にある親戚の家に預けてくれた。
そこは祖父の弟夫婦の家で子どもはおらず、盆、正月に会うたびに僕を実の孫のように可愛がってくれていた。
一緒に住むことなってからは「おじいちゃん、おばあちゃん」と呼ばせてくれて嬉しかった。
しっかりと勉強をさせてくれる環境が整ったその家で、安心して勉強をさせてもらったおかげで、僕はその地域の一番偏差値の高い高校を受験することができた。
受験を終えて帰宅途中、誰も寄せ付けないオーラを漂わせて歩くかっこいい男子生徒を見た。
身長が高くて芸能人みたいなイケメンが受験してるって、僕がいたクラスで女子たちが騒いでいたけどあれはきっとこの彼のことだろう。確かにすごくかっこいい。
長い足でスタスタと歩いて行く彼を、目で追うけれどあまりの速さにすぐに視界から消えてしまいそうになる。
もう少し見ていたい。そんな衝動に駆られて、つい後を追いかけてしまった。
すると、彼が白杖をもって横断歩道で困っていた三十代くらいの男性に声をかけているのが見えた。
「何かお困りですか? お手伝いしましょうか?」
驚かせないように優しく声をかけているのが聞こえて、なんだかすごく胸が温かい気持ちになった。
さっきまで人を寄せ付けないオーラを纏っていたのに、なんだろうこのギャップ。
もしかしたら学校では無理してた?
あまりにも違う姿に驚きつつも、どちらの彼も微笑ましく思えた。
白杖の男性と別れて駅に入っていく彼を追いかけて声をかけようと思ったけれど、運命が繋がっているならきっと高校で出会えるはず。そう信じて、僕は声をかけなかった。
そうして合格発表の日を迎え、僕は無事に高校に合格した。
思いの外、入試の時の成績が良かったみたいで入学式での挨拶をすることになってしまった。
入学式前日に自分の考えた挨拶を持って、高校に向かう。
高校の先生に挨拶がこれでいいかを確認してもらうためだ。
けれど、僕は学校に到着する前に交通事故に遭い、病院に運ばれていた。
「おじいちゃん、心配かけてごめんなさい」
「そんなこと智祐が気にすることじゃないよ。今はゆっくりと怪我を治すことを考えよう。一ヶ月で退院できるそうだから安心しなさい」
「でも、勉強が……」
「それは気にしないでいい。あの高校で友人の息子が教師をしているんだ。彼から授業に必要なプリントをもらって私が毎日届けてあげるよ」
おじいちゃんはその言葉通り、毎日僕の病室に来てプリントを渡してくれて、ついでに勉強も教えてくれた。
そうして退院まであと一週間に迫ったある日、おじいちゃんがプリントとは別に封筒を持ってきてくれた。
「智祐。これは入学式の時に撮ったクラス写真だよ」
「クラス写真? どうして?」
「前もってどの生徒が同じクラスか知っておいたほうが安心だろうと担任の先生が言っていてね。渡してくれたんだよ」
本当だったら僕も載るはずだったクラス写真。
それはすごく残念だけど、確かにどんな人が一緒か気になる。
封筒から取り出して写真に目をやると、会いたかった人の顔が写っていることに気づいた。
「この人……」
「知っている人がいたか?」
おじいちゃんに尋ねられて指差して教えると、おじいちゃんは少し驚いていた。
「この子、桐生のところの孫だよ。今、一緒に住んでいると聞いたが智祐と同じ高校を選んでたんだな」
「えっ、そうなの?」
「ああ。中学時代にいろいろあったらしくてね」
「いろいろ?」
「いや、そういう悪い意味じゃないぞ。ほら、この顔だろう? 常に誰かが近づいてきて人間関係に疲れたらしい。だから自分のことを誰も知らないところで高校生活を始めたかったようだよ」
あの時の、人を寄せ付けないオーラはそのせいか……
でも困っている人を見過ごせない優しい人なんだよな。
うん、やっぱり僕……彼が好きかも。
それなら、真正面から彼と向き合ってアタックしてみようかな。
そう思ったら、なんだかすごく楽しみになった。
そうして迎えた学校初日。
ドキドキしながら、担任の先生と一緒に教室に行くと、教室の後ろの窓際の席に彼を見つけた。
先生が僕のことを紹介してくれるけれど、僕は彼しか見えなかった。
その思いが通じたのか、僕の席は彼の隣。
その場で飛び跳ねそうになるほど嬉しかった。
そっと近づいて、彼の名前を聞いた。
桐生将生……
差し出された手を握ると、そのあったかさと大きさに驚く。
席に座り、教科書を見せてと頼んだら優しい桐生は喜んで見せてくれた。
机をくっつけて肩が触れ合うほど近づいたけど、もっと近づきたくて、目が悪いふりをした。
近づいてそっと桐生の太ももに手を置くと、身体がピクッと震えた。
それがなんだかすごく可愛くて思わず笑ってしまった。
桐生とくっつきたかっただけ……
あんまり最初から揶揄いすぎるのも悪いかなと正直に伝えると茫然とした表情で僕を見た。
それがすごく可愛く見えて、桐生にだけわかるように唇だけを動かした。
「き、りゅ、う、す、き、だ、よ」
その意味を理解してくれた途端、桐生は顔を真っ赤にしていた。
それから桐生は人を寄せ付けないオーラを出すことは全くなくなった。
その代わり……
「楓が可愛すぎる!」
「楓、俺以外見ないで」
「楓、手を繋ごう」
「楓、楓……」
と終始、僕のことばかり騒いでいるせいで、桐生をかっこいいと騒いでいた女子生徒もみんな寄り付かなくなった。
でも……
「楓と出会えて俺は幸せだ」
そう言ってくれるから、まぁ良かったのかな。
母を早くに亡くし、物心がついた頃には父と二人暮らしだった。
でも辛い思いをしたことはない。
近くに父方の祖父母がいて、学校帰りにはいつもそこに行っておやつと夕食を食べさせてもらっていたし、高校の数学の教師だった祖父と英語教師だった祖母から勉強を教わって毎日が充実していた。
けれど中三の半ばに祖父母が立て続けに亡くなり、その寂しさが癒え始めた頃、父に海外赴任の辞令が下りた。
任期は五年。場所はスペイン。
父は一緒に来て欲しそうだったけれど、英語が多少通じるとはいえ、慣れない外国で五年過ごすのは勇気が出なかった。
父は僕の気持ちをわかってくれて、僕を隣県にある親戚の家に預けてくれた。
そこは祖父の弟夫婦の家で子どもはおらず、盆、正月に会うたびに僕を実の孫のように可愛がってくれていた。
一緒に住むことなってからは「おじいちゃん、おばあちゃん」と呼ばせてくれて嬉しかった。
しっかりと勉強をさせてくれる環境が整ったその家で、安心して勉強をさせてもらったおかげで、僕はその地域の一番偏差値の高い高校を受験することができた。
受験を終えて帰宅途中、誰も寄せ付けないオーラを漂わせて歩くかっこいい男子生徒を見た。
身長が高くて芸能人みたいなイケメンが受験してるって、僕がいたクラスで女子たちが騒いでいたけどあれはきっとこの彼のことだろう。確かにすごくかっこいい。
長い足でスタスタと歩いて行く彼を、目で追うけれどあまりの速さにすぐに視界から消えてしまいそうになる。
もう少し見ていたい。そんな衝動に駆られて、つい後を追いかけてしまった。
すると、彼が白杖をもって横断歩道で困っていた三十代くらいの男性に声をかけているのが見えた。
「何かお困りですか? お手伝いしましょうか?」
驚かせないように優しく声をかけているのが聞こえて、なんだかすごく胸が温かい気持ちになった。
さっきまで人を寄せ付けないオーラを纏っていたのに、なんだろうこのギャップ。
もしかしたら学校では無理してた?
あまりにも違う姿に驚きつつも、どちらの彼も微笑ましく思えた。
白杖の男性と別れて駅に入っていく彼を追いかけて声をかけようと思ったけれど、運命が繋がっているならきっと高校で出会えるはず。そう信じて、僕は声をかけなかった。
そうして合格発表の日を迎え、僕は無事に高校に合格した。
思いの外、入試の時の成績が良かったみたいで入学式での挨拶をすることになってしまった。
入学式前日に自分の考えた挨拶を持って、高校に向かう。
高校の先生に挨拶がこれでいいかを確認してもらうためだ。
けれど、僕は学校に到着する前に交通事故に遭い、病院に運ばれていた。
「おじいちゃん、心配かけてごめんなさい」
「そんなこと智祐が気にすることじゃないよ。今はゆっくりと怪我を治すことを考えよう。一ヶ月で退院できるそうだから安心しなさい」
「でも、勉強が……」
「それは気にしないでいい。あの高校で友人の息子が教師をしているんだ。彼から授業に必要なプリントをもらって私が毎日届けてあげるよ」
おじいちゃんはその言葉通り、毎日僕の病室に来てプリントを渡してくれて、ついでに勉強も教えてくれた。
そうして退院まであと一週間に迫ったある日、おじいちゃんがプリントとは別に封筒を持ってきてくれた。
「智祐。これは入学式の時に撮ったクラス写真だよ」
「クラス写真? どうして?」
「前もってどの生徒が同じクラスか知っておいたほうが安心だろうと担任の先生が言っていてね。渡してくれたんだよ」
本当だったら僕も載るはずだったクラス写真。
それはすごく残念だけど、確かにどんな人が一緒か気になる。
封筒から取り出して写真に目をやると、会いたかった人の顔が写っていることに気づいた。
「この人……」
「知っている人がいたか?」
おじいちゃんに尋ねられて指差して教えると、おじいちゃんは少し驚いていた。
「この子、桐生のところの孫だよ。今、一緒に住んでいると聞いたが智祐と同じ高校を選んでたんだな」
「えっ、そうなの?」
「ああ。中学時代にいろいろあったらしくてね」
「いろいろ?」
「いや、そういう悪い意味じゃないぞ。ほら、この顔だろう? 常に誰かが近づいてきて人間関係に疲れたらしい。だから自分のことを誰も知らないところで高校生活を始めたかったようだよ」
あの時の、人を寄せ付けないオーラはそのせいか……
でも困っている人を見過ごせない優しい人なんだよな。
うん、やっぱり僕……彼が好きかも。
それなら、真正面から彼と向き合ってアタックしてみようかな。
そう思ったら、なんだかすごく楽しみになった。
そうして迎えた学校初日。
ドキドキしながら、担任の先生と一緒に教室に行くと、教室の後ろの窓際の席に彼を見つけた。
先生が僕のことを紹介してくれるけれど、僕は彼しか見えなかった。
その思いが通じたのか、僕の席は彼の隣。
その場で飛び跳ねそうになるほど嬉しかった。
そっと近づいて、彼の名前を聞いた。
桐生将生……
差し出された手を握ると、そのあったかさと大きさに驚く。
席に座り、教科書を見せてと頼んだら優しい桐生は喜んで見せてくれた。
机をくっつけて肩が触れ合うほど近づいたけど、もっと近づきたくて、目が悪いふりをした。
近づいてそっと桐生の太ももに手を置くと、身体がピクッと震えた。
それがなんだかすごく可愛くて思わず笑ってしまった。
桐生とくっつきたかっただけ……
あんまり最初から揶揄いすぎるのも悪いかなと正直に伝えると茫然とした表情で僕を見た。
それがすごく可愛く見えて、桐生にだけわかるように唇だけを動かした。
「き、りゅ、う、す、き、だ、よ」
その意味を理解してくれた途端、桐生は顔を真っ赤にしていた。
それから桐生は人を寄せ付けないオーラを出すことは全くなくなった。
その代わり……
「楓が可愛すぎる!」
「楓、俺以外見ないで」
「楓、手を繋ごう」
「楓、楓……」
と終始、僕のことばかり騒いでいるせいで、桐生をかっこいいと騒いでいた女子生徒もみんな寄り付かなくなった。
でも……
「楓と出会えて俺は幸せだ」
そう言ってくれるから、まぁ良かったのかな。
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みんなの感想(19件)
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松井くん、かなり巻き込まれる確率高いですね、すっかり楓くんの護衛と化しています。他の会社なのに🤣
奥さんは応援してるので、ある意味夫婦で推し活しているようなwww
四葩さま。コメントありがとうございます!
この子とダリルはハンターにゃんこの名前がぴったりですね💕
硬派な一匹狼はどこいったんだっていうくらい真っ赤になってる桐生。
もうすっかり楓に落ちちゃったので、これからは執着しまくりですね🤗
いぬぞ〜さま。コメントありがとうございます!
ああ!本当だ!
もう随分前に名付けてたのですっかり忘れてました💦
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おじいちゃんが足繁く通ってくれてお勉強も教えてもらえたんで学年トップのまま💕
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