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彼の言葉に救われる
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「よかった、誰にもすれ違わなくて……」
パーカーを羽織らせても、目立つことには変わりない。
けれど、僕の住んでいる小さなアパートはかなり老朽化が進んでいて、あまりの古さに僕と反対側の角部屋の学生しか今は住んでいない。
初めて、ほとんど人と会うこともないこのアパートに住んでいてよかったと思えた。
「ここは?」
「僕の住んでいるアパートです。古くて狭いですけど、外にいるよりはまだ暖かいですよ」
「ここが、其方の、家……」
物珍しそうにキョロキョロと辺りを見回している彼を横目に、悴んで動かなくなった指にはぁーと息を吹きかけて擦り、ポケットから鍵を取り出し急いで扉を開け
「ほら、入ってください!」
と中に引き入れた。
僕ひとりでも狭い玄関に大柄な彼がいるとかなりの圧迫感だ。
バタバタと靴を脱いで中に入り、彼に声をかける。
「狭いですけど、とりあえず中に入ってください。あっ、靴はここで脱いでくださいね」
一応そう声をかけたのは外国人だと思ったからだ。
いくら日本語が堪能でも住んでいる家はもしかしたら土足かもしれない。
ここが古くて汚いアパートとはいえ、流石に靴のまま上がられたら困るもんね。
そう声をかけつつも大事なことを思い出した。
「あっ、そうか。手を怪我してるんだっけ」
雨に降られた時のためにと玄関横の棚にかけておいたタオルをさっと取り、血が滴っている彼の手をそれで巻いた。
「――っ、そんなことしたら血で汚れてしまうだろう」
「いいんです、そんなこと気にしないでください」
僕はすぐに玄関にしゃがみ込んで、
「それよりも早く足を上げてください」
と声をかけた。
「な、何をする気だ?」
「もうっ! いいから、早く!」
「――っ!」
彼は僕の勢いに押されるように足を上げた。
僕はその足を掴むと膝に乗せ、見慣れないブーツのような重い靴の紐を解いて靴を脱がせた。
「ほら、こっちも早く!」
彼はもう何も言わず、言われた通りに僕の膝に乗せ靴を脱がされる様子を茫然と見つめていた。
「よし、脱げた! 入ってください!」
僕は怪我をしていない方の彼の手を引き、部屋の中に案内して畳に座らせ暖房のスイッチを押した。
いつもならこれくらいの寒さで暖房なんて使わないけど、お客様が来た時くらいはちゃんとしておかないと!
電気代が多くかかっても後で節約すればいい。
「準備してくるので、ちょっと待っててくださいね」
急いでお湯を沸かし、その間にお風呂場から洗面器とタオルを持ってきた。
確か救急箱に包帯とガーゼ入れてたはず。
消毒薬もあったよね。
こういう時のために残しておいて良かった。
棚の上に置いていた救急箱を片手に持ち、お湯を張った洗面器とタオルを持って彼の元に戻ると
「わっ!」
いつの間にか渡しておいたパーカを脱いでいたみたいで、目の前になんとも豪華で綺麗な衣装が飛び込んでくる。
「どうした?」
「いや、本当にヨーロッパの騎士みたいだなって……」
見れば見るほどかっこいい衣装だ。
これは撮影衣装なんだろうか?
勲章やらの装飾が施された上着はなんとも豪華で見ているだけで目がチカチカする。
こんなところまで精巧に作られてるなんてすごいな。
「騎士か……こちらにもいるのだな?」
「えっ? それって……」
彼の言葉の意味がわからなくて聞き返そうとしたけれど、それよりも手当が先だ。
「あの、ちょっと上着を脱がせますね。壊したりはしないですから安心してください」
「いや、自分で脱げる」
「いいから大人しくしててください、傷が広がったら大変ですから」
彼の動きを制して上着のボタンを外し、巻いていたタオルを取ってから、そっと上着を脱がせると中のシャツの左手の肘から下が血に染まっている。
「――っ! どこが少しの怪我なんですか! ほったからしてたら病気になることもあるんですよ!! もうっ!! いい大人なんだからしっかりしてください!!」
「あっ、いや……ああ、す、すまない」
僕の声に怯んだのか、彼は申し訳なさそうに謝った。
まだ傷を負ってすぐのようでシャツが怪我に張り付いている様子はない。
それでもできるだけ痛みを与えないようにシャツを脱がすと肘から手首に向かって10cmくらいの切り傷があるのを確認した。
けれど、思ったより深くはないみたいだ。
これからしばらく経てば治りそう。
ホッと胸を撫で下ろしながら、とりあえず血を洗い流し傷口にガーゼを押し当てて止血した。
「――っ!」
「あっ、痛かったですか? すみません、でもとりあえず止血しておかないといけないのでもう少し我慢してくださいね」
可哀想だとは思いつつも、傷口を押して止血していると、彼がゆっくりと口を開いた。
「君は……応急処置の手際が実にいい。わが騎士団の医療部隊にでも欲しい人材だ。どこかで医術でも学んだのか?」
「えっ? ええ、実は少しだけ医学部に通っていたんです。学費が払えなくなって中退しちゃったんですけど……でも、まだ応急処置くらいならお役に立てますよ」
「医学、部……それは医師になるための、訓練を積む場所ということか?」
「あ、はい。そうですね」
医学部を知らないんだろうか?
ああ、もしかしたら海外では違う言い方をするのかもしれないな。
そう納得していると、彼は僕を見つめながら
「そうか……ここで、其方に出会えたことは幸運だったのだな」
と感慨深そうに言ってくれた。
「――っ、そんなこと……」
僕は志半ばで医者への道を諦めた。
けれど、彼にそう言ってもらえて自分が救われたような気がしたんだ。
パーカーを羽織らせても、目立つことには変わりない。
けれど、僕の住んでいる小さなアパートはかなり老朽化が進んでいて、あまりの古さに僕と反対側の角部屋の学生しか今は住んでいない。
初めて、ほとんど人と会うこともないこのアパートに住んでいてよかったと思えた。
「ここは?」
「僕の住んでいるアパートです。古くて狭いですけど、外にいるよりはまだ暖かいですよ」
「ここが、其方の、家……」
物珍しそうにキョロキョロと辺りを見回している彼を横目に、悴んで動かなくなった指にはぁーと息を吹きかけて擦り、ポケットから鍵を取り出し急いで扉を開け
「ほら、入ってください!」
と中に引き入れた。
僕ひとりでも狭い玄関に大柄な彼がいるとかなりの圧迫感だ。
バタバタと靴を脱いで中に入り、彼に声をかける。
「狭いですけど、とりあえず中に入ってください。あっ、靴はここで脱いでくださいね」
一応そう声をかけたのは外国人だと思ったからだ。
いくら日本語が堪能でも住んでいる家はもしかしたら土足かもしれない。
ここが古くて汚いアパートとはいえ、流石に靴のまま上がられたら困るもんね。
そう声をかけつつも大事なことを思い出した。
「あっ、そうか。手を怪我してるんだっけ」
雨に降られた時のためにと玄関横の棚にかけておいたタオルをさっと取り、血が滴っている彼の手をそれで巻いた。
「――っ、そんなことしたら血で汚れてしまうだろう」
「いいんです、そんなこと気にしないでください」
僕はすぐに玄関にしゃがみ込んで、
「それよりも早く足を上げてください」
と声をかけた。
「な、何をする気だ?」
「もうっ! いいから、早く!」
「――っ!」
彼は僕の勢いに押されるように足を上げた。
僕はその足を掴むと膝に乗せ、見慣れないブーツのような重い靴の紐を解いて靴を脱がせた。
「ほら、こっちも早く!」
彼はもう何も言わず、言われた通りに僕の膝に乗せ靴を脱がされる様子を茫然と見つめていた。
「よし、脱げた! 入ってください!」
僕は怪我をしていない方の彼の手を引き、部屋の中に案内して畳に座らせ暖房のスイッチを押した。
いつもならこれくらいの寒さで暖房なんて使わないけど、お客様が来た時くらいはちゃんとしておかないと!
電気代が多くかかっても後で節約すればいい。
「準備してくるので、ちょっと待っててくださいね」
急いでお湯を沸かし、その間にお風呂場から洗面器とタオルを持ってきた。
確か救急箱に包帯とガーゼ入れてたはず。
消毒薬もあったよね。
こういう時のために残しておいて良かった。
棚の上に置いていた救急箱を片手に持ち、お湯を張った洗面器とタオルを持って彼の元に戻ると
「わっ!」
いつの間にか渡しておいたパーカを脱いでいたみたいで、目の前になんとも豪華で綺麗な衣装が飛び込んでくる。
「どうした?」
「いや、本当にヨーロッパの騎士みたいだなって……」
見れば見るほどかっこいい衣装だ。
これは撮影衣装なんだろうか?
勲章やらの装飾が施された上着はなんとも豪華で見ているだけで目がチカチカする。
こんなところまで精巧に作られてるなんてすごいな。
「騎士か……こちらにもいるのだな?」
「えっ? それって……」
彼の言葉の意味がわからなくて聞き返そうとしたけれど、それよりも手当が先だ。
「あの、ちょっと上着を脱がせますね。壊したりはしないですから安心してください」
「いや、自分で脱げる」
「いいから大人しくしててください、傷が広がったら大変ですから」
彼の動きを制して上着のボタンを外し、巻いていたタオルを取ってから、そっと上着を脱がせると中のシャツの左手の肘から下が血に染まっている。
「――っ! どこが少しの怪我なんですか! ほったからしてたら病気になることもあるんですよ!! もうっ!! いい大人なんだからしっかりしてください!!」
「あっ、いや……ああ、す、すまない」
僕の声に怯んだのか、彼は申し訳なさそうに謝った。
まだ傷を負ってすぐのようでシャツが怪我に張り付いている様子はない。
それでもできるだけ痛みを与えないようにシャツを脱がすと肘から手首に向かって10cmくらいの切り傷があるのを確認した。
けれど、思ったより深くはないみたいだ。
これからしばらく経てば治りそう。
ホッと胸を撫で下ろしながら、とりあえず血を洗い流し傷口にガーゼを押し当てて止血した。
「――っ!」
「あっ、痛かったですか? すみません、でもとりあえず止血しておかないといけないのでもう少し我慢してくださいね」
可哀想だとは思いつつも、傷口を押して止血していると、彼がゆっくりと口を開いた。
「君は……応急処置の手際が実にいい。わが騎士団の医療部隊にでも欲しい人材だ。どこかで医術でも学んだのか?」
「えっ? ええ、実は少しだけ医学部に通っていたんです。学費が払えなくなって中退しちゃったんですけど……でも、まだ応急処置くらいならお役に立てますよ」
「医学、部……それは医師になるための、訓練を積む場所ということか?」
「あ、はい。そうですね」
医学部を知らないんだろうか?
ああ、もしかしたら海外では違う言い方をするのかもしれないな。
そう納得していると、彼は僕を見つめながら
「そうか……ここで、其方に出会えたことは幸運だったのだな」
と感慨深そうに言ってくれた。
「――っ、そんなこと……」
僕は志半ばで医者への道を諦めた。
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