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生きる気力
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<side智己>
「智己、何があったんだ? クリスさんはどこに行ったんだ?」
そんなこと……僕が一番知りたい……。
僕だって……何もわからないんだ。
クリスさんの名前を聞くだけで、涙が溢れてくる。
声も出せなくて頭を横に振ると、マスターが息を呑んだ。
「もしかして……本当に、あちらの世界に帰ってしまったのか?」
「ううっ……っふぅ……うっ、ぐすっ……っ」
僕は何も言葉を出せずに、頷きながらただ泣きじゃくるだけ。
醜い泣き顔を見られるのが嫌で必死に両手で顔を隠すものの、涙がとめどなく溢れて流れていく。
「なんてことだ……っ」
マスターは頭を抱えながらも、綺麗にアイロンされたハンカチを渡してくれてただ黙って僕のそばにいてくれた。
いつまでも泣いてちゃダメだ!
マスターにこれ以上心配をかけられない。
貸してもらったハンカチで涙を拭い、
「し、んぱい、かけて……ごめん、なさい……も、うだい、じょうぶ、です……」
必死に笑顔を作って言ったけれど、マスターは苦しげな顔を見せるだけ。
「智己、無理して笑顔なんか見せるな。悲しい時は泣いていいんだ」
「ま、すたー……」
「お前にとってクリスさんがどれだけ大事な存在だったかはよくわかってる。だから、俺はあの家をお前たちに貸したんだ」
マスターの優しさが胸に沁みる。
それと同時に僕の中でクリスさんの存在がどんどん強くなっていく。
いなくなって初めてこんなにもクリスさんを好きだったことに気づくなんて……。
「智己……悲しんでいるときに悪いが、クリスさんがいなくなった……その時の、状況を教えてくれないか?」
どうして、そんなことを聞くんだろう……。
僕には、マスターの質問の意図が掴めなかった。
<side龍臣>
智己が入院して3日。
献身的な治療のおかげで、肺炎を起こしかけていた智己がようやく目を覚ました。
智己が目を覚ますまで気が気ではなかった。
なんと言っても命の灯火はもう尽きかけていたのだから。
――あと少し病院への搬送が遅れていたら、命はなかったでしょう。
医師の言葉に血の気がひいた。
あの時警備会社から連絡がなければ、智己はもうこの世にいなかったのかもしれない。
あの時すぐに様子を見に行って本当によかった。
たった1人で床に倒れていた智己。
そして、忽然と姿を消したクリスさん。
マンションの監視カメラの映像を隈なく見せてもらったが、2人が部屋の中に入ってから、私が彼らの部屋に入るまで誰も部屋から出た形跡がなかった。
クリスさんがあんなにも溺愛していた智己をおいて、いなくなるとは思えない。
とすれば、今回の失踪はクリスさんにとっても予想外の出来事だったのではないか。
何かの理由で一時的に帰ったのなら、もしかしたらもう一度ここにくることもあるかもしれない。
だが、もし、智己に別れを告げ、納得の上で帰ったのなら……もう二度と帰ってくることはないだろう。
私はそれを確認したかった。
だが、死の淵を彷徨い、3日ぶりに目を覚ました智己にどうやって聞くべきか……。
あの時、かなりの時間泣いていたんだろう。
床に倒れていた智己は顔中を涙で濡らし、目を腫らしていた。
これ以上泣かせたくはないが、真実を知らないと対処のしようがない。
クリスさんがいなくなったのかどうかを尋ねただけで、やはり智己は泣いてしまった。
この涙を見る限り、智己が納得の上で帰ったのではないということはわかった。
少し泣き止んだのを確認して、俺はもう一度智己に問いかけた。
――クリスさんがいなくなった……その時の、状況を教えてくれないか?
そう尋ねると、智己はなぜそんなことを聞くのだろうと言わんばかりの表情を向けたが、ゆっくりと口を開いた。
「2人で一緒にお風呂に入ってたんです……」
ああ、やはり2人はそこまで愛し合っていたのだな……。
「そうしたら突然目を開けていられないほどの光に包まれて……」
「光?」
「はい。クリスさんが現れた時も同じような光があったんです。それで……もしかしたらクリスさんを連れて行っちゃうんじゃないかと思って、クリスさんに抱きついたんです。クリスさんも僕を絶対に離さないって言ってくれたのに……突然、クリスさんの感触がなくなって……光が消えた時には、もう……」
「クリスさんはいなくなってたわけだな?」
その問いに智己は小さく頷いた。
なるほど……。
クリスさんは自分から望んで帰ったわけではないということか……。
ならば、まだ可能性がないわけではない。
きっと今頃、クリスさんもここに置いてきてしまった智己のことを心配しているはずだ。
もう一度ここに戻って来れるように何か策を講じているのかもしれない。
今の智己には生きる気力も何もない。
クリスさんが帰ってくるかもしれないという可能性に賭けないと、智己は元気になろうとすらしないだろう。
「智己……今回の転移はきっとクリスさんにとっても予想外だったはずだ。きっとクリスさんは智己のために帰ってくる」
「ほ、んと……?」
「ああ。クリスさんだって智己をここに残して苦しんでいるはずだ。絶対に何か考えているだろう。だから、智己。その日のために早く体調を整えよう。なっ。いざという時、身体が動かないと何もできないぞ」
「……わかりました。僕、頑張ります……」
その言葉通り、智己の中にようやく生きる気力が生まれた。
「智己、何があったんだ? クリスさんはどこに行ったんだ?」
そんなこと……僕が一番知りたい……。
僕だって……何もわからないんだ。
クリスさんの名前を聞くだけで、涙が溢れてくる。
声も出せなくて頭を横に振ると、マスターが息を呑んだ。
「もしかして……本当に、あちらの世界に帰ってしまったのか?」
「ううっ……っふぅ……うっ、ぐすっ……っ」
僕は何も言葉を出せずに、頷きながらただ泣きじゃくるだけ。
醜い泣き顔を見られるのが嫌で必死に両手で顔を隠すものの、涙がとめどなく溢れて流れていく。
「なんてことだ……っ」
マスターは頭を抱えながらも、綺麗にアイロンされたハンカチを渡してくれてただ黙って僕のそばにいてくれた。
いつまでも泣いてちゃダメだ!
マスターにこれ以上心配をかけられない。
貸してもらったハンカチで涙を拭い、
「し、んぱい、かけて……ごめん、なさい……も、うだい、じょうぶ、です……」
必死に笑顔を作って言ったけれど、マスターは苦しげな顔を見せるだけ。
「智己、無理して笑顔なんか見せるな。悲しい時は泣いていいんだ」
「ま、すたー……」
「お前にとってクリスさんがどれだけ大事な存在だったかはよくわかってる。だから、俺はあの家をお前たちに貸したんだ」
マスターの優しさが胸に沁みる。
それと同時に僕の中でクリスさんの存在がどんどん強くなっていく。
いなくなって初めてこんなにもクリスさんを好きだったことに気づくなんて……。
「智己……悲しんでいるときに悪いが、クリスさんがいなくなった……その時の、状況を教えてくれないか?」
どうして、そんなことを聞くんだろう……。
僕には、マスターの質問の意図が掴めなかった。
<side龍臣>
智己が入院して3日。
献身的な治療のおかげで、肺炎を起こしかけていた智己がようやく目を覚ました。
智己が目を覚ますまで気が気ではなかった。
なんと言っても命の灯火はもう尽きかけていたのだから。
――あと少し病院への搬送が遅れていたら、命はなかったでしょう。
医師の言葉に血の気がひいた。
あの時警備会社から連絡がなければ、智己はもうこの世にいなかったのかもしれない。
あの時すぐに様子を見に行って本当によかった。
たった1人で床に倒れていた智己。
そして、忽然と姿を消したクリスさん。
マンションの監視カメラの映像を隈なく見せてもらったが、2人が部屋の中に入ってから、私が彼らの部屋に入るまで誰も部屋から出た形跡がなかった。
クリスさんがあんなにも溺愛していた智己をおいて、いなくなるとは思えない。
とすれば、今回の失踪はクリスさんにとっても予想外の出来事だったのではないか。
何かの理由で一時的に帰ったのなら、もしかしたらもう一度ここにくることもあるかもしれない。
だが、もし、智己に別れを告げ、納得の上で帰ったのなら……もう二度と帰ってくることはないだろう。
私はそれを確認したかった。
だが、死の淵を彷徨い、3日ぶりに目を覚ました智己にどうやって聞くべきか……。
あの時、かなりの時間泣いていたんだろう。
床に倒れていた智己は顔中を涙で濡らし、目を腫らしていた。
これ以上泣かせたくはないが、真実を知らないと対処のしようがない。
クリスさんがいなくなったのかどうかを尋ねただけで、やはり智己は泣いてしまった。
この涙を見る限り、智己が納得の上で帰ったのではないということはわかった。
少し泣き止んだのを確認して、俺はもう一度智己に問いかけた。
――クリスさんがいなくなった……その時の、状況を教えてくれないか?
そう尋ねると、智己はなぜそんなことを聞くのだろうと言わんばかりの表情を向けたが、ゆっくりと口を開いた。
「2人で一緒にお風呂に入ってたんです……」
ああ、やはり2人はそこまで愛し合っていたのだな……。
「そうしたら突然目を開けていられないほどの光に包まれて……」
「光?」
「はい。クリスさんが現れた時も同じような光があったんです。それで……もしかしたらクリスさんを連れて行っちゃうんじゃないかと思って、クリスさんに抱きついたんです。クリスさんも僕を絶対に離さないって言ってくれたのに……突然、クリスさんの感触がなくなって……光が消えた時には、もう……」
「クリスさんはいなくなってたわけだな?」
その問いに智己は小さく頷いた。
なるほど……。
クリスさんは自分から望んで帰ったわけではないということか……。
ならば、まだ可能性がないわけではない。
きっと今頃、クリスさんもここに置いてきてしまった智己のことを心配しているはずだ。
もう一度ここに戻って来れるように何か策を講じているのかもしれない。
今の智己には生きる気力も何もない。
クリスさんが帰ってくるかもしれないという可能性に賭けないと、智己は元気になろうとすらしないだろう。
「智己……今回の転移はきっとクリスさんにとっても予想外だったはずだ。きっとクリスさんは智己のために帰ってくる」
「ほ、んと……?」
「ああ。クリスさんだって智己をここに残して苦しんでいるはずだ。絶対に何か考えているだろう。だから、智己。その日のために早く体調を整えよう。なっ。いざという時、身体が動かないと何もできないぞ」
「……わかりました。僕、頑張ります……」
その言葉通り、智己の中にようやく生きる気力が生まれた。
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