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トモキのトラウマ

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<sideクリス>

「トモキ、私の寝室に行こう。少し身体を休めた方がいい」

そういうと腕の中のトモキは嬉しそうに頷いて、私の胸元に顔を擦り寄せた。

まるで私の存在を確認しているようなそんな仕草に胸が熱くなる。

やっとだ。
やっとこの腕にトモキが帰ってきた。

私はもう決してこの手を離さないぞ!


タツオミのことも気にはなるがジョバンニに任せておけば大丈夫だろう。

今は、久しぶりに腕に抱けたトモキのことだけ考えていたい。

それにしても……私の知っているトモキより随分と痩せてしまっている。
元々から栄養状態があまり良さそうではなかったというのに……。

それもこれも私がトモキを置き去りにしてしまったからだろう。
突然一人にして、随分と辛い思いをしたに違いない。

申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、トモキをギュッと抱きしめると

「クリス、さんの匂いがする……」

と嬉しそうな声が聞こえてきた。

「トモキ……寂しがらせてすまなかった」

「ううん……今、会えたから、僕はそれだけで……」

「トモキ……っ」

ずっと泣いて暮らしていたのがわかるほど、目を腫らしているというのに健気にもそんなふうに言ってくれるトモキに胸が痛くなる。

寝室に入り、ベッドに寝かせようとすると

「いやっ! クリスさん、離れないでっ」

と必死にしがみついてくる。

よほどトラウマを与えてしまっているようだ。
これ以上トモキの心を傷つけたくない。

「わかった。離れないからな。安心してくれ」

そう言って私も共にベッドに横たわった。
そしてベッド脇のベルを鳴らし、執事のマイルズを呼びつけた。

寝室からの合図だと気づいたマイルズは寝室の扉の前で一度声をかけてきた。

「マイルズでございます。扉をお開けしてもよろしゅうございますか?」

「マイルズ、父上はいないだろうな?」

「はい。旦那さまはただいま外出をなさっております」

「そうか。よし、中に入れ」

失礼致しますと頭を下げながら、寝室に入ってきたマイルズは顔をあげ、ベッドに横たわるトモキの存在に気づいた。
その瞬間、今まで見たこともないような驚きの表情を浮かべ、そのまま床に崩れ落ちた。

「マイルズ、どうした? 大丈夫か?」

「は、はい。あの……そちらのお方は、もしや……」

「ああ、私の伴侶・トモキだ」

「で、では、クリスティアーノさまがずっとお待ちになっていたお方でございますか?」

「ああ、そうだ。神が私とトモキの願いを叶えてトモキをこちらの世界に連れてきてくださったんだ」

「おおっ! なんということでございましょう!!」

いつも冷静で穏やかなマイルズがこんなにも感情を露わにするとは……驚いたな。

「トモキ、彼はこの家の執事のマイルズだ。何か要望があればなんでも頼むといい」

「はい。マイルズさん、僕……七瀬智己と言います。ご迷惑をおかけしないようにしますのでよろしくお願いします」

「まぁ、まぁ。トモキさま。なんと素晴らしいご挨拶でございましょう。迷惑だなんて仰らずに、このマイルズに何なりとお申し付けください」

「えっ、でも……」

今までずっとなんでも一人でやってきたトモキは、あまり甘えることが得意ではないということはわかっている。
現に今もマイルズの言葉にかなり困っているようだが、私が少しずつ甘えるように変えて見せよう。

「トモキ……無理はせずとも良い。だが、この世界はトモキはまだ不慣れだろう? 私があちらでトモキに甘えたようにトモキも甘えてくれたら私も、そしてマイルズも嬉しいのだぞ」

「あっ……はい。わかりました。あの、マイルズさん。よろしくお願いします」

「はい。お任せくださいませ」

今まで見たことがないような笑みを見せるマイルズを見て、もうすっかりトモキを気に入ったのだなとすぐにわかった。

「マイルズ、まずはトモキに医師の診察を受けさせたい。ニコラスを呼んできてくれないか?」

「承知いたしました」

マイルズもトモキの顔色の悪さには気づいていたのだろう。
私が医師を呼ぶようにというと素直にそれに従ってすぐにニコラス医師を連れてきてくれた。

「クリスティアーノさま。お帰りになっていらっしゃったのですね。行方がわからなくなっていらっしゃると伺っておりましたので、案じていたのですよ」

「ああ、心配かけたな。だが、私はこの通り元気だ。今日診察してもらいたいのは、このトモキだ」

トモキの顔を見せると、すぐにニコラスの顔が曇った。
我々が見てもわかるほどの顔色の悪さだからな。

「トモキ、さまでございますか。お初にお目にかかります。公爵家専属医師を務めさせていただいておりますニコラスと申します。以後、お見知りおきください」

ニコラスが挨拶すると、突然トモキは私に強くしがみついてきた。
可愛いが、一体どうしたのだろう?

そう思っていると、続けて

「は、はい。ニコラス先生。あの、僕……特に悪いところはないと思うんです……」

と言い出した。
トモキらしからぬ発言に驚いていると、ニコラスは子どもをあやすような優しい声で

「ふふっ。ご心配なさらずとも大丈夫ですよ。クリスティアーノさまと離すようなことは致しません」

と笑みを見せた。

それを見て、トモキが少し手の力を弱めた。

ああ、そうか。
トモキは自分に医術の心得がある分、自分の体調が思わしくないことをわかっていて、治療のために私と引き離されるとでも思ったのだろう。

それほどまでに私と離れることに怯えているのだ。
そうさせてしまったのは私のせいだ。

「トモキ……私はずっとトモキと一緒にいるからな」

そう声をかけると、ようやく安心したように笑顔を見せてくれた。
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