大富豪ロレーヌ総帥の初恋

波木真帆

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日本旅行編

不思議な飲み物

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「さぁ、それじゃあお参りにいきましょうか」

ミヅキの母上の言葉で身が引き締まる。
奴はもうすでにここに到着しているかもしれない。
私は決してユヅルに奴の姿を見せないようにしなければな。

だが奴にはユヅルの姿が見えるようにしなければいけない。
これはかなり気を遣う作業だが、これからユヅルが安心して日本での滞在を過ごすためだと思えばなんてことはない。

そっとスオウに視線を送れば、頼もしい笑みを見せてくれる。
ジョルジュに視線を送っても同様だ。
今回はスオウの実力を知れるいい機会でもある。

二人がバディとしてどんな動きをしてくれるか、それを楽しむ余裕もあるだろう。

私はユヅルに決して私から離れないようにと言い聞かせて駐車場からオマイリに行く道に進んで行った。

タコヤキ、ヤキソバ、リンゴアメなどの出店が両側に立ち並ぶ道を全員で歩いていると、夥しいほどの視線を感じる。
我々全員が注目を浴びる人間であることはわかっているが、それにしてもフランス観光をしていた時とは桁違いだ。

おそらくそれはユヅルをはじめ、美しい花たちが私たちのエスコートで歩いているからだろう。
これほどの美しい花たちが揃う場に居合わせれば見入ってしまうのも無理はない。

だがその中に奴が紛れ込んでいるのならそれはしっかりと炙り出さなければいけない。

オマイリするというジンジャは一本道を突き進んだ先にある。
できれば手前のほうで奴を確保しておきたいところだが、さて、奴はどこにいるのだろう。

周りにも注意を向けていると、寄り添って歩いていたユヅルが止まった。

「エヴァン、僕……どこか変かな?」

不安げな表情で私を見上げる。
いつもは視線を気にすることもないユヅルが感じるほど、視線を向けられて心配になってしまったのだろうがこんなにも美しい花が変なわけがない。

「違うよ、ユヅルが綺麗だから見惚れているだけさ。ほら、リオやソラたちもみんなの視線を浴びているよ」

優しく教えてあげると、私の影からそっと周りに目をやる。
私の言ったことが正しいとわかったのか、ホッとした表情を見せるユヅルが可愛い。

だから絶対に離れてはいけない。再度伝えてギュッと抱き寄せると、ユヅルは嬉しそうに頷いた。

「弓弦くん、草履は大丈夫?」

優しい声かけに振り向けば美しい日本人形。
シューゴだ。

ユヅルはもちろん美しいが、日本人形そのものといったシューゴはまた違った美しさを見せてくれる。

お互いに美しさを讃えあっている二人を見ると微笑ましく思えるが、シューゴがユヅルをフランス人形が着物を着ているみたいだと褒める。

ユヅルはフランス人形を知らないようでキョトンとしていたが、私がスマホでフランス人形の画像を見せると、可愛いと喜んでいる。

確かにユヅルの髪色はまさしくフランス人形。
私にとっては天使だ。

嬉しそうなユヅルとシューゴのやり取りを楽しんでいると、スオウがそっとシューゴに寄り添って、

「なぁ、秀吾。いつもの飲まなくていいのか?」

と声をかけてきた。

「いつものってなんですか?」

「甘酒だよ。あったまるし、ここの出店のすごく美味しいんだ」

「わぁー、甘酒! 僕も飲みたいです! エヴァン、だめ?」

シューゴの誘いにいとも容易くユヅルはのり、私に飲みたいとせがんでくる。
ふとみればミヅキの母上が同じものをリオに勧めているのが見える。
ユウキの母上やアヤシロの母上までソラとケイトに勧めているが、成人を過ぎているケイトはともかくまだ未成年、しかもベラベッカで酔ってしまうほど酒が弱いリオにアマザケとやらを勧めるなんてどうかしている。
さすがの私もユヅルの願いを聞くことはできない。
そう思ったが、

「あのね、エヴァン。甘酒はさけってついているけど、お酒じゃないんだよ。子どもでも飲めるものなんだ」

と不可解な言葉が返ってくる。

「サケじゃない? それじゃあなんで……?」

サケと名前がついてるのだ?
私が混乱しているのがわかったのだろう。

「エヴァン、一緒に飲もう。そうしたらわかるよ」

「ロレーヌさん、ぜひ!」

ユヅルとシューゴ、二人から誘われて私は頷いた。

私たちが近づいた時には、ミヅキの父上がアマザケを頼んでくれていたが、店主はその数の多さに驚きつつも手慣れた様子で小さな紙コップに注いでいく。

「これは弓弦くんとロレーヌさんのね」

「観月パパ、ありがとうございます。あったかいー。ホッとするー」

嬉しそうな表情を見せている。
紙コップから立ち上る湯気からほんのり甘い匂いがする。

サケなのに、甘いのか?

コメのようなものがたくさん浮かんでいるし、なんとも不思議な飲み物だ。
そっとセルジュやジョルジュ、最後に受け取ったリオから受け取ったジュールの表情を見ると彼らも困惑の表情をしているのが見える。
だが、初めてのものに挑戦するのも海外生活の楽しみの一つだ。

「エヴァンから飲んでみる?」

「あ、ああ。そうだな」

セルジュたちとも顔を見合わせて一緒に口をつけた。

味わった瞬間、すぐにわかったのはこれはサケではないということだ。
かなり甘いが人工的な甘さは感じない。

初めての味わいだが、これはこれでクセになるかもしれない。
正直な感想を伝えるとユヅルは笑顔でこれに砂糖が何も入っていないと教えてくれる。
なんとも不思議な飲み物だ。

私の反応が良くて嬉しかったのか、ユヅルも口をつける。
ユヅルが懐かしい味に幸せそうな表情を向けた時、ユヅルには見えないようにこっそりつけていた私のイヤホンにスオウの言葉が入ってきた。

『後方五時の方向に対象者と思わしき者発見。確認してください』

その言葉に一瞬緊張感に包まれた。
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みんなの感想(91件)

四葩(よひら)
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2025.08.10 波木真帆

四葩さま。コメントありがとうございます!
酒とついてるのに酒が入ってない、エヴァンにとっては摩訶不思議な飲み物ですよね。
でもほんとあったまるんですよねぇ。冬は最高!
冷やしも美味しいんですよね。
四葩さまは酒粕派なんですよね、大人です✨
私はお子様舌なので米麹しか飲めないんですよねぇ💦

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四葩(よひら)
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2025.07.27 波木真帆

四葩さま。コメントありがとうございます!
ちみっこちゃんたちの拙いフランス語が可愛いですよね。
パピーに言う前に一生懸命練習していたであろう理央も可愛くて、パピーも大喜び。
いつももてなしてばかりですが、もちろんそれが天職だと思っているパピーですがやっぱり可愛い孫のように思っている子からの贈り物は嬉しいものです。
ああ、そうですね。未婚でずっと仕えているはずです。
孫の存在は諦めていたはずが、可愛い孫がいっぱい増えて、しかもこれからもどんどん増えるし本当長生きしますね💕

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いぬぞ~
2025.07.13 いぬぞ~
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2025.07.18 波木真帆

いぬぞ〜さま。コメントありがとうございます!
ふふ🤭そうですね。一緒に泊まってなかったら悠木家が一番最後になりそうな予感(笑)
パピーがいる綾城家は確実に一番ですよね。
榊&周防家も遅刻するイメージは全くないですし、悠木家、特に寛人は観月家に泊まっておいて正解でしたね(笑)

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