大富豪ロレーヌ総帥の初恋

波木真帆

文字の大きさ
28 / 177

楽しい日々のはじまり

しおりを挟む
長いと思っていた空の旅もユヅルが一緒だと驚くほど早く感じた。
普段なら見ようとも思わない映画も、ただの栄養補給だった食事も、見慣れすぎた景色も、ユヅルと一緒なら全てが輝いて見えた。

ユヅルが隣にいてくれるだけで、私の変哲もない日常が幸せに変わるのだ。
もうユヅルのいない時間をどうやって過ごしていたのかさえ、思い出せない。
だが、思い出せなくてもいい。
どうせこれからひとりで過ごすことなどなくなるのだから……。

飛行機が着陸態勢に入り、ユヅルは嬉しそうに窓の外の景色に目を向けている。
フランスでの生活が待ちきれないと喜びを表すユヅルの姿に私もまた嬉しくなる。

ああ、これから楽しい日々の始まりだ!

無事に空港へと到着し、シートベルトを外そうとしたところで、突然

Ça alors なんてことだ!」

とセルジュの尋常ではない大声が機内に響き渡った。

いつも冷静でどんなことにも動じないセルジュがこんなにも大声をあげるなんて、何かとんでもないことが起こったに違いない。

慌ててセルジュの元に駆け寄り、話を聞けばどうやらミシェルが空港へ向かうと連絡してきたようだ。
すでに到着ゲートで待っているらしいと話すセルジュの表情は苦悶に満ちていた。

運転手付きの車で空港まで来たとはいえ、到着ゲートでは一人で待っているはずだ。
あのミシェルが一人で空港で立っていれば、邪な思いを持った奴らが近づいてくるのは容易に想像できる。

ユヅルと出会う前の私でも、ミシェルが一人で空港まで来たと聞けば心配はしただろうが、おそらく今のセルジュの心配する気持ちの半分も理解できていなかったかもしれない。
だが、今の私は愛しい恋人を持つ身。

もし、これがユヅルなら……。

私は発狂してしまうかもしれない。
セルジュの今の姿でさえ、まだ理性的だと感心するだろう。

だからこそ、セルジュは早くミシェルの元に行けるようにしてやらなければ!

荷物や私たちのことは気にせず、すぐに到着ゲートに向え!
そう送り出してやると、申し訳なさそうにしながらも扉が開くと同時に駆け出していった。

それでいい。
恋人の方を何よりも優先して当然なのだからな。

セルジュのただならぬ様子を心配していたユヅルにことのあらましを告げると、ユヅルもまたミシェルの行動力に驚いているようだった。

荷物はスタッフに任せて、私たちも急いで到着ゲートへと向かうことにした。

向かっている最中にセルジュから無事にミシェルと合流したと連絡があってホッとした。
こんなことがもう2度と起こってはならないが、もしものために早くアヤシロが紹介してくれたGPSアプリをミシェルのスマホに入れておく必要があるな。

本当にいいアプリを教えてもらったものだ。

あのあと、こっそりとユヅルのスマホに早速GPSアプリを入れておいたのだが、あの高性能さに驚いた。
大体の場所までしかわからないGPSアプリと違って、どの部屋のどこにスマホがあるのかまでもわかる。
しかも、スマホの電源を切っていたとして、そのスマホがある場所はわかると言うのだから本当に優れものだ。

ユヅルには必ずスマホは持ち歩かせるようにして、スマホを忘れて出かけた時のためのGPSを別に身につけさせておくことにしよう。
ピアスか、指輪か、ネックレスか……ああ、アンクレットという手もあるな。
お守りだから絶対に外すなといえば、真面目なユヅルのことだ
決して外しはしないだろう。

ミシェルと待っているというゲートに向かうと、二人の姿が見えない。
ユヅルと二人で辺りを見渡していると、

「ユヅルーーっ!!!」

と大きな声を張り上げ、手を大きく振っているミシェルの姿と隣で必死に止めようとしているセルジュの姿が見えた。

ミシェルのその声に、空港にいるものたちからの視線がユヅルに一斉に注がれるのを感じ、私は思いっきり威圧感を漂わせながら、ユヅルの手を繋ぎ、できるだけ寄り添ってセルジュたちの元へ急いだ。

威圧感たっぷりの私の様子を見て、恐れをなしたのか深々と頭を下げるセルジュの隣で、ミシェルもまた、少し辿々しい日本語で謝罪の言葉を述べる。
別に威圧感はセルジュたちに浴びせているわけではないのだが……。

「あの、謝ることないですよ。僕、ミシェルさんにこんなに早く会えてとっても嬉しいです」

ユヅルは申し訳なさそうに謝るミシェルに向かって、こんなに可愛らしい言葉をかけた。

こんなに優しい言葉をかけてくるとは思っていなかったのだろう。
ミシェルは驚いて、ユヅルを見つめているとユヅルはさっきの言葉をミシェルが理解できなかったのかと勘違いして、必死にミシェルに伝えようと言葉を探す。

その姿に、ミシェルは感動したようで突然ユヅルに

「ユヅルっ! 可愛いっ!!」

と言いながらギュッと抱きついたので、慌ててミシェルからユヅルを引き離した。

本当に油断も隙もあったものじゃない。
言っておくがユヅルは私のものだ。
触れていいのも抱きついていいのも私だけだ!
 
それだけはしっかりと理解してもらわないとな。
しおりを挟む
感想 91

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

届かない「ただいま」

AzureHaru
BL
いつも通りの変わらない日常のはずだった。 「行ってきます。」と言って出て行った貴方。1日が終わる頃に「ただいま。」と「おかえり。」を笑顔で交わすはずだった。でも、その言葉はもう貴方には届かない。 これは「優しさが奪った日常」の物語。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

処理中です...