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心奪われる
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『なぁ、見ろよ! あの子」
『どれ?』
『ほら、あのロレーヌ家の総帥が抱きしめてる子』
『ああっ! すごっ、めっちゃ可愛いじゃん!』
『なっ? あの美人ヴァイオリニストで有名なミシェルと並んでも遜色ないってすごいよな?』
『ロレーヌ家っていいのばっかり取っていくよな、どうせ金に物言わせてんだろ』
『おい、聞こえるぞ!』
『大丈夫、この距離じゃ聞こえてないって。でもほんと可愛いよな、あの子』
『いやいや、でも、あれ男だろ?』
『何言ってんだよ、今どき性別なんて関係ないだろ!』
『そうだよ、あの子なら全然イケるね、俺は』
『やめとけって! あの総帥がこっち見てるぞ』
『やばっ! 殺されるぞ!』
この短時間でユヅルの可愛さを気づかれ、空港中の視線を釘付けにしてしまっている。
可愛くてすでに有名なミシェルよりも、ユヅルの方に視線が向けられた上に、私と一緒にいることですでにユヅルが私の大事な存在だと情報は回っていることだろう。
私がこのフランスでどれほどの権力を持っているかなど、ユヅルは知る由もないし、そもそも私の権力や財産に興味など一切持っていない。
だからこそ、ユヅルは決して1人にはさせてはいけないのだ。
それがこの空港での時間でよくわかった。
ユヅルは絶対に私が守る。
そう心に誓っていると、突然袖がクイっと引っ張られた。
何かあったのかと慌ててユヅルに目を向ければ、何か訴えかけるような目で私を見つめている。
少し嫉妬めいたようなものが見えるその目が愛おしくて堪らなくなり、私は急いでユヅルを抱きかかえて車へ向かった。
セルジュは私の意図を理解したのか、すぐにミシェルを抱きかかえ同じように私の後を追ってきた。
空港を出るとすぐ目の前につけられたロレーヌ家の車に乗り込むと、
「エヴァンさん、荷物はどこですか?」
とユヅルが尋ねてきた。
「荷物なら専用の車に乗せているから心配しないでいい。もう先に屋敷に向かっているよ」
「あっ、そうなんですね。この車、こんなに広いから、荷物も一緒だと思って……」
「ふふっ。これは私たち専用だからゆっくり寛ぐといい」
ユヅルは広い車に慣れていないようだが、まぁこれも何度か乗れば落ち着くだろう。
セルジュたちはどこかへ寄ってくるようだ。
大方、ミシェルが何か頼み事でもしたのだろう。
久しぶりの恋人との再会なのだから野暮なことは言うまい。
車はゆっくりと屋敷に向けて走り出した。
ユヅルはミシェルが気に入ったようだ。
まぁ、あのアヤシロのパートナーと似たところがあるからな。
だが、ここでしっかりと釘を刺しておかないといけない。
ミシェルと同じように1人で外に出るようなことがあれば、ミシェルとは比べ物にならないほどの大騒動になってしまうのだからな。
私を心配させるような行動はしないように約束してくれと言うと、
「大丈夫です、約束します!」
としっかりと言い切ってくれた。
素直なユヅルだ。
決してその言葉を違えることはしないだろう。
空港から屋敷まで、いつもなら最短ルートで帰る運転手のジャンは、今日は凱旋門やエッフェル塔などが綺麗に見える場所を意図的に通ってくれている。
ジャンの気持ちに感謝しながら、ユヅルに説明してやるとユヅルは目を輝かせて喜んでいた。
ああ、今度ゆっくりパリを観光するのも楽しいかもしれない。
もちろん護衛をしっかりと配備してな。
車は観光名所を過ぎ、セーヌ川に浮かぶ島へと到着した。
ここにわがロレーヌ家の屋敷がある。
さて、ユヅルは気に入ってくれるだろうか。
もし、気に入らなければユヅルの気に入る場所に私たちだけが住む屋敷を建ててもいい。
ああ、それはいい考えだな。
ゆくゆくはそんな別宅を構えるのも楽しいだろう。
ユヅルが思い描くような理想の屋敷を2人で考えるのもいい。
ふふっ。楽しくなってきたな。
屋敷の門に到着し、ユヅルは目を丸くして驚いている。
どうやら大きくて驚いたようだが、なんてことはない。
ただ庭も家も広いだけで、なんの変哲もない屋敷だ。
きっとすぐに慣れるだろうと話している間に、車は門を入り、屋敷の玄関へと到着した。
すでに執事のジュールが待っている。
よほどユヅルが楽しみと見える。
ユヅルをエスコートしながら車を降りるとそれだけでジュールの視線を感じる。
私が義務としてではなく、本意でエスコートしていることに気づいたのだろう。
それだけでジュールに驚かれるほど、普段の私とは違うのだろうな。
日本語を話せないジュールが私に声をかける。
フランス語が話せないユヅルは何も言わず、ただじっと私たちの会話が終わるのを待ってくれているようだ。
本当に空気の読める良い子だ。
ジュールはユヅルに目を向けながら、
「お隣にいらっしゃるのが旦那さまの大切なお方でいらっしゃいますか?」
と尋ねてきたが、わかった上で尋ねているのだ。
アマネの息子を生涯のパートナーとして連れていくことはすでに連絡済みで、ユヅルはアマネにそっくりなのだからな。
ああ、そうだ。
可愛らしい子だろう?
そう返そうとしたところで、突然可愛らしい声が耳に飛び込んできた。
『ぼ、ぼんじゅーる、あんしゃんて!』
ユヅルの口からフランス語が出てきたことにも驚いたが、まるで言葉を覚えたての子どもの話すような可愛らしいフランス語の発音に私は心を奪われてしまったのだ。
いや、私だけでない。
きっとジュールも同じだったろう。
この可愛らしいユヅルをジュールにも見られてしまったことは悔しいが、ユヅルのことは可愛い孫のように見えているジュールだ。
まぁよしとしよう。
『どれ?』
『ほら、あのロレーヌ家の総帥が抱きしめてる子』
『ああっ! すごっ、めっちゃ可愛いじゃん!』
『なっ? あの美人ヴァイオリニストで有名なミシェルと並んでも遜色ないってすごいよな?』
『ロレーヌ家っていいのばっかり取っていくよな、どうせ金に物言わせてんだろ』
『おい、聞こえるぞ!』
『大丈夫、この距離じゃ聞こえてないって。でもほんと可愛いよな、あの子』
『いやいや、でも、あれ男だろ?』
『何言ってんだよ、今どき性別なんて関係ないだろ!』
『そうだよ、あの子なら全然イケるね、俺は』
『やめとけって! あの総帥がこっち見てるぞ』
『やばっ! 殺されるぞ!』
この短時間でユヅルの可愛さを気づかれ、空港中の視線を釘付けにしてしまっている。
可愛くてすでに有名なミシェルよりも、ユヅルの方に視線が向けられた上に、私と一緒にいることですでにユヅルが私の大事な存在だと情報は回っていることだろう。
私がこのフランスでどれほどの権力を持っているかなど、ユヅルは知る由もないし、そもそも私の権力や財産に興味など一切持っていない。
だからこそ、ユヅルは決して1人にはさせてはいけないのだ。
それがこの空港での時間でよくわかった。
ユヅルは絶対に私が守る。
そう心に誓っていると、突然袖がクイっと引っ張られた。
何かあったのかと慌ててユヅルに目を向ければ、何か訴えかけるような目で私を見つめている。
少し嫉妬めいたようなものが見えるその目が愛おしくて堪らなくなり、私は急いでユヅルを抱きかかえて車へ向かった。
セルジュは私の意図を理解したのか、すぐにミシェルを抱きかかえ同じように私の後を追ってきた。
空港を出るとすぐ目の前につけられたロレーヌ家の車に乗り込むと、
「エヴァンさん、荷物はどこですか?」
とユヅルが尋ねてきた。
「荷物なら専用の車に乗せているから心配しないでいい。もう先に屋敷に向かっているよ」
「あっ、そうなんですね。この車、こんなに広いから、荷物も一緒だと思って……」
「ふふっ。これは私たち専用だからゆっくり寛ぐといい」
ユヅルは広い車に慣れていないようだが、まぁこれも何度か乗れば落ち着くだろう。
セルジュたちはどこかへ寄ってくるようだ。
大方、ミシェルが何か頼み事でもしたのだろう。
久しぶりの恋人との再会なのだから野暮なことは言うまい。
車はゆっくりと屋敷に向けて走り出した。
ユヅルはミシェルが気に入ったようだ。
まぁ、あのアヤシロのパートナーと似たところがあるからな。
だが、ここでしっかりと釘を刺しておかないといけない。
ミシェルと同じように1人で外に出るようなことがあれば、ミシェルとは比べ物にならないほどの大騒動になってしまうのだからな。
私を心配させるような行動はしないように約束してくれと言うと、
「大丈夫です、約束します!」
としっかりと言い切ってくれた。
素直なユヅルだ。
決してその言葉を違えることはしないだろう。
空港から屋敷まで、いつもなら最短ルートで帰る運転手のジャンは、今日は凱旋門やエッフェル塔などが綺麗に見える場所を意図的に通ってくれている。
ジャンの気持ちに感謝しながら、ユヅルに説明してやるとユヅルは目を輝かせて喜んでいた。
ああ、今度ゆっくりパリを観光するのも楽しいかもしれない。
もちろん護衛をしっかりと配備してな。
車は観光名所を過ぎ、セーヌ川に浮かぶ島へと到着した。
ここにわがロレーヌ家の屋敷がある。
さて、ユヅルは気に入ってくれるだろうか。
もし、気に入らなければユヅルの気に入る場所に私たちだけが住む屋敷を建ててもいい。
ああ、それはいい考えだな。
ゆくゆくはそんな別宅を構えるのも楽しいだろう。
ユヅルが思い描くような理想の屋敷を2人で考えるのもいい。
ふふっ。楽しくなってきたな。
屋敷の門に到着し、ユヅルは目を丸くして驚いている。
どうやら大きくて驚いたようだが、なんてことはない。
ただ庭も家も広いだけで、なんの変哲もない屋敷だ。
きっとすぐに慣れるだろうと話している間に、車は門を入り、屋敷の玄関へと到着した。
すでに執事のジュールが待っている。
よほどユヅルが楽しみと見える。
ユヅルをエスコートしながら車を降りるとそれだけでジュールの視線を感じる。
私が義務としてではなく、本意でエスコートしていることに気づいたのだろう。
それだけでジュールに驚かれるほど、普段の私とは違うのだろうな。
日本語を話せないジュールが私に声をかける。
フランス語が話せないユヅルは何も言わず、ただじっと私たちの会話が終わるのを待ってくれているようだ。
本当に空気の読める良い子だ。
ジュールはユヅルに目を向けながら、
「お隣にいらっしゃるのが旦那さまの大切なお方でいらっしゃいますか?」
と尋ねてきたが、わかった上で尋ねているのだ。
アマネの息子を生涯のパートナーとして連れていくことはすでに連絡済みで、ユヅルはアマネにそっくりなのだからな。
ああ、そうだ。
可愛らしい子だろう?
そう返そうとしたところで、突然可愛らしい声が耳に飛び込んできた。
『ぼ、ぼんじゅーる、あんしゃんて!』
ユヅルの口からフランス語が出てきたことにも驚いたが、まるで言葉を覚えたての子どもの話すような可愛らしいフランス語の発音に私は心を奪われてしまったのだ。
いや、私だけでない。
きっとジュールも同じだったろう。
この可愛らしいユヅルをジュールにも見られてしまったことは悔しいが、ユヅルのことは可愛い孫のように見えているジュールだ。
まぁよしとしよう。
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