大富豪ロレーヌ総帥の初恋

波木真帆

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Beraweckaに酔う

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ユヅルたちはケーキを食べながら何やら楽しそうな話に夢中になっているようだ。
私の隣にいる時よりも楽しそうな表情をしていると少しばかり嫉妬してしまいそうになるが、ユヅルが友人たちと語り合っている姿を見るのも悪くない。

一緒にいる者たちが皆、伴侶が居る身だからというのも私の心に寛大さを与えているのかもしれないな。

んっ? リオの顔が少し赤い気がするが……気のせいだろうか?

そう感じてなんとなく注視していると、リオが皿をもって立ち上がった。
どうやらデザートのおかわりをしにいくようだ。

なら大丈夫か……と思っていると、

「あっ、理央くん! 危ないっ!」

というユヅルの声が響くよりも前に私の隣に座っていたミヅキがあっという間にリオの元に駆けて行って、床に倒れ込む前にリオを抱き止めた。

その衝撃にリオは持っていた皿を落としてしまったようで、皿はリオからほんの少し離れた場所で割れてしまっていた。

破片が飛び散って怪我をしていないかということもだが、ふらついて倒れたリオの身に何かあったのかとミヅキは心配そうな声を駆けていたが、リオは真っ青な顔で割れた皿の心配ばかりしている。

ミヅキが何度、皿のことは気にしないでいい、それよりも怪我はないかと尋ねるもリオはごめんなさいと謝罪を繰り返すだけ。

身体を震わせ必死に謝り続ける様子にただならぬものを感じてしまう。

これはその施設とやらで相当虐げられていたに違いない。
ミヅキがあれほどまでに過保護に溺愛するのもこれが原因なのか。

日本にいれば、いつなん時昔の知り合いに会うとも限らない。
その度にリオが辛い思いをしてしまうなら、本気でこちらに移住させることを説得してもいいかもしれないな。

ミヅキは優しくリオを包み込みながら、耳元でずっと何かを囁いている。
リオを落ち着かせるための呪文だろうか。
恋人ならではの対処法だな。

「エヴァンさん、理央くんを怒ったりしないよね?」

ユヅルもリオの様子が心配でたまらないのか、不安そうに私に尋ねてくるが私はこのロレーヌ家の当主。
皿の一枚や二枚のことで怒るような器の小さい男ではない。

それよりも大事な客人、そしてユヅルの大事な友人に怪我がなければそれでいい。

私はすぐにジュールに指示をだし、割れた皿を片付けさせ、新しいケーキを用意させた。

ジュールにケーキ皿を差し出され、リオは

『め、るしぃ……ぱ、ぴぃ……』

と涙を潤ませてお礼を言っていた。

ああ、本当に赤子のような心の綺麗な子なのだな。

そんな穏やかな気持ちになっていると、ミヅキが皿に乗ったケーキを見て怪訝そうな表情になった。
ケーキについてリオに何かを尋ねるとリオの答えに納得したように頷き、その理由を教えてくれた。

どうやらリオはフランスのクリスマス定番のスイーツである『Beraweckaベラベッカ』を食べて酔ってしまったらしい。
確かにベラベッカにはブランデー漬けにしたドライフルーツがふんだんに入っていて大人のスイーツと言われてはいるが子どもが食べられないわけではない。
ましてやそれで酔っ払うものなど見たことがないのだが……リオは相当酒に弱いと見える。

まさかクリスマススイーツでこんなことがあろうとは思いもしなかった。

ミヅキにこちらの落ち度だと詫びを入れ、リオの無事を喜ぶとリオはようやく落ち着いたようだ。
本当によかった。

ホッとしたのも束の間、大広間に突然、

「うふふーっ。りおくん、ちゅーしないと!」

というソラの可愛い声が響き渡った。

皆が驚く中、

「うれしいときはちゅーするんだよね? だって、ここふらんすだもん。うふふーっ、ちゅーだよ、ちゅー!」

となおも嬉しそうに話を続けるソラに今度はユウキが駆け寄った。

どうやらソラもリオと同じようにベラベッカを食べて酔っていたようだ。

日本人はこんなにも酒に弱い人種なのか?
それともこの二人だけが異様に弱いのか?

あまりの出来事に私もジュールも驚きを隠せない。

そういえば、ユヅルもあのベラベッカを食べたはず。
そう思ってユヅルを見たが、いつもと様子は全く変わっていない。

ユヅル自身も特におかしなところはないようだ。

まぁユヅルの場合、アマネだけでなく、あのニコラの血も受け継いでいる。
わがロレーヌ家は酒にはめっぽう強く、ニコラはその中でも群を抜いて強かったようだ。
そんなニコラの息子なのだから、あんなベラベッカの一片で酔うはずがないな。

リオやソラのように酔っ払った可愛い姿が見られないのはほんの少し残念に思うところもあるが、二人で酒が楽しめるのは喜びの方が多い。

ユヅルの20歳の誕生日にはどんなふうに祝ってやろうか。
そう考えるだけで楽しくなってくる。

そんなことを考えながら、ミヅキたちに目をやるとリオがほんのりと頬を染めながらミヅキの唇にキスをしている姿が飛び込んできた。

突然の出来事にミヅキは驚き半分嬉しさ半分と言ったところか、すくっと立ち上がるとリオを抱き抱えたまま我々から離れたソファー席に移動した。

ああ、ミヅキの気持ちは痛いほどわかる。
私だってユヅルからのキスはとてつもなく興奮するのだから。

しばらくの間、二人っきりにさせてあげよう。
私が思ったのと同じように二人の邪魔をするものはどこにもいなかった。
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