大富豪ロレーヌ総帥の初恋

波木真帆

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日本旅行編

エヴァンと呼ばれたい

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美味しい食事に食べ過ぎてしまったらしいユヅルとソファーに座っているとミヅキの父上が薬を持って現れた。
ユヅルにはあまり市販薬の類は飲ませたくないが、ミヅキの父上は医師。
その彼が消化を助ける薬を持ってきてくれたのなら飲まない手はない。
しかもリオも飲んでいるものだからと聞けばこれほど安心なものはない。
安心した気持ちでユヅルに薬を飲ませた。

「なんだか効いてきたみたいです。理央くんのお父さんって本当にすごいお医者さんなんですね」

そこまで即効性があるとは思えないが、ミヅキの父上に対するユヅルの信頼の表れなのだろう。
これくらいユヅルが安心できるかかりつけ医がフランスにもいればいいのだが、今のところは我がロレーヌ家の専属医師しかない。彼はもちろん代々我がロレーヌ家の者たちを診てくれている家系だから信頼はしているが、日本語が理解できない。そうなるとユヅルの言いたい言葉のニュアンスがフランス語では微妙に変わってしまうことがある。
それが心配といえば心配だ。ミヅキたちがフランスに移住したらミヅキの両親もゆくゆくは移住するつもりだと言っていたから、その時はミヅキの父にユヅルのかかりつけ医になってもらうのもいい。
ユウキも移住してくれる予定だからユウキにかかりつけ医になってもらうのも悪くないが、ユヅルの全てを知られることになると思うとなんとなく二の足を踏んでしまうのは、彼が私とほぼ同じ年齢の凛々しい男性だからだろう。全ては私の嫉妬だ。まぁ、ユヅルのかかりつけ医はじっくりと考えることにしよう。

そんなことを考えていると、ミヅキの父上がユヅルにお願いがあると言い出した。
はて、なんのお願いだろう?

「私のことを呼ぶときに、理央くんのお父さんじゃ長くて呼びづらいだろう? だから、そうだな……名前だといろいろ支障がありそうだから……観月パパと呼んでほしいんだ」

なるほど。呼び方のお願いか。
母上がユヅルにレイカママと呼ばれるようになって羨ましくなったと見える。
ミヅキの父も可愛いところがある。

ユヅルは喜んでそれを承諾し、ミヅキの父上以外にも同じ呼び方をすると宣言した。
ユウキの父上も、シュウゴの父上も、スオウの父上も、アヤシロの父上もきっと喜ぶことだろう。

「ねぇ、エヴァンさん。みんなが呼び方を教えてくれると助かりますね。理央くんのお父さんとか理央くんのお母さんとか長いなーって思ってたんです」

ユヅルがそんなふうに思ってくれたのなら、ここで私もねだってみようか。
せっかくの機会だ。これを逃す手はない。

「フランスなら、名前で呼ぶからそういう言い方は絶対にしないな。両親であっても一人の人間だから誰々のお母さんだなんて呼び方はしないよ」

ユヅルがフランス語の練習を始めた時、私のことをムッシュをつけて呼ぼうとしたことがあった。
その時に敬称はいらないと教えたことでフランス語の時は私をエヴァンと呼び捨てで呼んでくれるようになったが、いまだに日本語ではエヴァンさんのままだ。

私はいつだってユヅルにエヴァンと呼ばれたい。
もう正式な夫夫になったのなら尚更だ。

「私はいつだって呼び捨てにしてくれていいんだよ。ユヅル」

「本当はそう呼ばれたい?」

「ユヅルの呼びたいようにして構わないが、もう夫夫なのだからそろそろ呼び捨てでもいいんじゃないかとは思ってる」

素直に胸の内を打ち明けると、ユヅルは少し考え込んだ表情を見せた。
ユヅルなりにいろいろな思いがあって私をエヴァンさんと呼んでいたのだろう。

「え、エヴァン……」

しばらく考え込んでいたユヅルの口から私の名前が呼び捨てで呼ばれて幸せが一気に込み上げる。
それがフランス語の発音ではなく日本語の発音のエヴァンだったから余計に嬉しい。

あまりの嬉しさにユヅルを強く抱きしめた。
こうして私たちは夫夫として大きな一歩を踏み出したのだ。

そこにミヅキの母上がやってきた。

「そろそろお着替え始めましょうか。ロレーヌさんは久嗣さんが着付けをしますから久嗣さんについて行ってくださいね」

抱き合っていることに気づかれたが特に何も言わない。笑顔なだけだ。
まぁ私たちが抱き合っていても特に気にすることはないだろう。

ユヅルはそのままミヅキの母上に奥の和室へ連れて行かれた。

「ロレーヌ、私たちはこっちの部屋で着替えましょう」

ミヅキに声をかけられて、私はそちらに向かった。
ミヅキの実家も一般家庭にしてはかなりの広さがある。
しかもこの東京でこの広さだと考えればかなりのものだろう。

案内された部屋には、いくつかのキモノが綺麗にかけられていた。
昨日母上方が着ていた美しい色合いのキモノとは全く違う暗い色ばかりだが、武士の威厳というようなものを感じさせてくれる。

これを私が着るのか……。
ユヅルと出会わなければこんな機会も得られなかったかもしれない。
そう思うと、なんとなく気分が高揚する自分がいた。
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