運命の人は親友の××でした 

波木真帆

文字の大きさ
52 / 57
番外編

制服の魔法  3

彼が私のベッドにいる。
それを目の当たりにして、良からぬ妄想が膨らんでしまう。

だめだ、だめだ!

彼を守るためにここに連れてきたはずなのに。
私がそんなことを思ってしまってはいけない。

一度この場から離れて気持ちを落ち着かせなければいけない。

「コーヒーでいいかな?」

「はい。ありがとうございます」

「ゆっくり寛いでいてくれ」

なんとか冷静を装って言葉を交わし、扉を閉めた。
急いで一階に下り、干してある洗濯物から自分の服を選び取った。
着替えを済ませて、キッチンに向かう。

何か、茶菓子を……

そう考えて、母へのお土産の焼き菓子を買ったのを思い出した。

母には申し訳ないが、また買ってくればいい。

食器棚から、母がうちでお茶会を開くときに使うケーキスタンドを取り出し、焼き菓子を並べた。
私が選んだものを敬介くんが気に入ってくれたら嬉しいが。

トレイに二人分のコーヒーとケーキスタンドを載せて自室に向かう。

自分の部屋を開けるのに、なんだかとても緊張してしまう。

一応ノックして扉を開けると、彼は先ほどと変わらず私のベッドにちょこんと座っていた。
ただ一つ違っていたのは、ジャケットを脱いでいたことだけ。
だが彼の服装が薄手のシャツになったことで私の興奮は高まってしまっていた。

「お待たせ」

それでも必死に興奮を隠して声をかける。

「あっ……」

敬介くんは私をみて、ちょっと残念そうな表情を見せた。
もしかして私が興奮していることに気づいたか?

「あの、どうかした?」

「あ、いえ。制服……着替えちゃったんだなって……」

「制服?」

「はい。すごくカッコ良かったからもう少し見ていたかったんですけど……」

「えっ! わっ!」

まさかそんな言葉が返ってくるとは思わず、危うく持っていたトレイを落としそうになってしまった。

「大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫だ」

私を心配して立ちあがろうとする彼を制して、急いでテーブルにトレイを置いた。

多分さっきのは私の聞き間違いだろう。
彼がそんなことを言うはずがない。
あれは私の願望が聞かせた空耳だ。

心の中で深呼吸をして何事もなかったように声をかけた。

「良かったら、このお菓子も摘んで」

「わぁ、ちょうど甘いもの食べたかったので嬉しいです」

ベッドから立ち上がり、ローテーブルを置いているラグの上にちょこんと座る。

「砂糖とミルクも良かったら使って」

「じゃあミルクだけ。甘いものと一緒の時は砂糖は入れないようにしているんです」

そう言ってミルクをカップに注ぐ。

「いただきます」

口をつけると少し苦そうな表情をするが、小さな焼き菓子を口に入れるとふわりとした可愛らしい笑顔を見せた。

「ん、美味しいです」

「気に入ってもらえて嬉しいよ。まだあるからたくさん食べて」

「はい。これ、もしかしてfascinateファシネイトのですか?」

そう言われて店の名前を思い出す。確かそんな名前だったな。

「よくわかったね」

「俺、ここのクッキーが好きで。だから周平さんが出してくれて嬉しいです。覚えててくれたのかなって」

「えっ?」

言葉の最後が聞き取れなくてなんと言ったのかわからない。

「あ、なんでもないです。美味しいですね、これ」

彼の細い指が小さな焼き菓子を摘んで口に入れる。
それが妙にエロく感じてついじっと見つめてしまった。

「周平さんも食べますか?」

どうやら食べたがっていると勘違いされてしまったようだ。
だが、私は甘いものは一切食べない。

「いや、わた――」
「どうぞ、あーん」

断ろうと思った矢先に、彼がさっき口に入れた指で私に小さな焼き菓子を差し出してくる。
しかも可愛らしい笑顔とともに。

それがあまりにも魅惑的で、私は茫然としながら口を開けた。

「美味しいですよ」

その笑顔に見惚れてしまった私は、優しく食べさせてくれた彼の指ごと口の中に入れてしまった。
感想 66

あなたにおすすめの小説

世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました

由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。 ——皇子を産めるかどうか。 けれど私は、産めない。 ならば—— 「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」 そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。 毒を盛られても、捨てられず。 皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。 「お前は、ここにいろ」 これは、子を産めない女が ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。 そして—— その寵愛は、やがて狂気に変わる。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

皇太子殿下は、幼なじみに触れていないと落ち着かない

由香
ファンタジー
幼い頃から一緒に育った皇子は、なぜか距離が近すぎる。 後ろから抱きしめられ、手を取られ、頬に触れられるのが当たり前の日常。 やがて彼は皇太子となるが――その距離は変わらないどころか、むしろ深まっていき。 「触れていないと、落ち着かない」 公の場でも離してくれない彼の執着に、周囲は騒然。 けれどその腕の中は、どうしようもなく安心してしまう。 これは、幼なじみの距離のまま始まる、逃げ場のない溺愛の物語。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

運命よりも先に、愛してしまった

AzureHaru
BL
幼馴染で番同士の受けと攻め。2人は運命の番ではなかったが、相思相愛だった。そんな時、攻めに運命の番が現れる。それを知った受けは身籠もっていたが、運命の番同士の子供の方が優秀な者が生まれることも知っており、身を引く事を決め姿を消す。 しかし、攻めと運命の番の相手にはそれぞれに別の愛する人がいる事をしり、 2人は運命の番としてではなく、友人として付き合っていけたらと話し合ってわかれた。 その後、攻めは受けが勘違いしていなくなってしまったことを両親達から聞かされるのであった。