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第三章
私の願い
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<sideクローヴィス(ヴンダーシューン王国の国王でルーディーの父)>
「陛下。マクシミリアンとヴェルナー殿が本日の訓練終了後にご挨拶に伺いたいと申しております」
「ああ、ルーディーから聞いている。マクシミリアンを正式に騎士団の団長に任命したというからその話だろう」
「はい。マクシミリアンがこのヴンダーシューン王国騎士団の団長などという大役を仰せつかるとはなんとも喜ばしいことでございますが、陛下からも許可をいただけるのでしょうか?」
「許可も何も団長を担っていたルーディーが決めたことだ。私がとやかくいうこともないだろう。私はルーディーの見る目を信じておるのでな」
「陛下……ありがたき幸せに存じます」
いつも厳しいことを言っているが、フィデリオもやはり孫の活躍は嬉しいのだろうな。
私にももうすぐ孫が誕生する。
ルーディーが生まれた時には、嬉しさ以上にこれでこの国も安泰だと安堵した気持ちの方が優っていた気がする。
だが、そのルーディーが親になると思うと、やはり感慨深いものがある。
私は初めての孫を目にした時に一体何を思うのだろう。
まだ想像もつかない。
訓練を終え、マクシミリアンとヴェルナーが挨拶にやってきた。
ヴェルナーからふわりとマクシミリアンの匂いを感じる。
訓練終わりだというのに、私の元にくるからわざわざマーキングしてきたのか。
マクシミリアンもルーディーとさして変わらぬ狭量さなのだな。
まぁ、それも愛しいパートナーを思えばこそか。
「――――というわけで、ルーディーさまより正式に騎士団団長の命を受けましたことをご報告に参りました」
「ああ。ルーディーが其方を選んだのであれば、私には何もいうことはない。これから我が王国のために頑張ってくれ」
「はい。全力を尽くします。そして、こちらのヴェルナーには引き続き副団長として、私に補佐をしていただくことになりましたので合わせてよろしくお願いいたします」
「ヴェルナー。アズールの専属護衛から騎士団に戻って大変なことも多かろうが、マクシミリアンと共に騎士団を頼むぞ」
「はい。お任せください」
マクシミリアンとヴェルナーならば心配することもない。
ルーディーも特別顧問として騎士団に籍を置くと言っていたし、なんの問題もない。
「ときに、ヴェルナー。アズールの様子はどうだ? 私も少し前にアズールに会ったのだが、ルーディーがあまりアズールに会わせてくれないのだよ。其方は会いに行っているか?」
専属護衛として長い間、アズールのそばについていたヴェルナーならルーディーも会わせているのではないかと思ったのだが、私がアズールの話を出した途端、空気が変わった気がした。
「陛下。そのお話にお答えする前に、アズールさまとお会いになった時のお話を伺っても宜しゅうございますか?」
「アズールと会った時の話? どうした? 何が聞きたいのだ?」
「その時はどんなお話をなさったのでしょう?」
「あの時は、なんだったか……ああ、これから妊娠、出産を頑張って乗り越えてもらうためにこれからルーディーとアズールの子たちがどうなっていくかを話したな。なんせ、二人の子はこの国と、そして、この国の貴族の中でも最も重要なヴォルフ公爵家の跡継ぎとなる子たちだからな。目標があるとアズールも頑張れるだろうと思ったのだ。だから、頑張って跡継ぎとなるべく男の子を産むのだぞと応援してきた」
そう答えると、マクシミリアンとヴェルナーは
「はぁーーーーっ」
と、それはそれは大きな溜息を吐き、フィデリオは驚愕の表情を向けて
「へ、陛下……そのようなことを、アズールさまに仰ったのですか?」
と呆れたように言ってきた。
「ああ、言ったが何か悪かったのか?」
「何か悪かったかではございません! 悪いところだらけでございますぞ!!」
「な――っ!」
突然、フィデリオが声を荒らげて訳がわからない。
「一体何が悪かったのだ?」
そういうと、ヴェルナーは真剣な表情で私を見つめながら、口を開いた。
「陛下。アズールさまのお腹にはもうすでに赤ちゃんがいらっしゃるのですよ」
「? ああ、わかっているが?」
ヴェルナーが言いたいことがちっともわからない。
一体何が言いたいのだ?
「はぁーーっ。陛下はまだお気づきでないようですが、お腹のお子さまがどちらも女のお子さまだった場合、アズールさまは先ほどの陛下のご発言をどう思われるでしょう?」
「どう、とは?」
「男のお子さまを熱望されているのに、自分は女の子しか産めなかったと責任を感じられるのではありませんか?」
「――っ!!! そ、れは……っ」
「確かにアズールさまに、将来の国王、そして将来の公爵家当主をお産みいただく必要はございます。ですが、一生懸命お腹の中で大切な命を育てていらっしゃるアズールさまにお話しする必要はございますか? たとえ女のお子さまであっても、ルーディーさまとアズールさまの大切なお子さまにかわりはないのですよ。それを男のお子さまばかりを熱望されては、アズールさまも不安になられるでしょう」
「アズールが、不安に……私のせいで……」
「今、私たちが望むべきことは性別や跡継ぎ云々ではなく、母子ともにご無事で、元気なお子さまがお生まれになることだけです。そうではございませんか?」
「その通りだ。ヴェルナー。私はなんということを……。すぐにでもアズールに謝罪を!」
「いいえ。お分かりいただければそれでよろしいのです。陛下自らが謝罪に伺われますと、アズールさまもそれはそれでご負担になることでしょう」
「だが私はどうしたら良いのだ? アズールを傷つけて何もしないわけには……」
「今はアズールさまも落ち着いておられます。ですから、ご出産まで見守って差し上げてくださいませ。そして、無事にお生まれになったらその時に、陛下のお気持ちをお伝えください」
ヴェルナーにそう言われて、私は頷くしかなかった。
私の不用意な言葉でアズールを不安にさせていたのだな……。
今は無事に子どもたちが生まれてくることを願うばかりだ。
「陛下。マクシミリアンとヴェルナー殿が本日の訓練終了後にご挨拶に伺いたいと申しております」
「ああ、ルーディーから聞いている。マクシミリアンを正式に騎士団の団長に任命したというからその話だろう」
「はい。マクシミリアンがこのヴンダーシューン王国騎士団の団長などという大役を仰せつかるとはなんとも喜ばしいことでございますが、陛下からも許可をいただけるのでしょうか?」
「許可も何も団長を担っていたルーディーが決めたことだ。私がとやかくいうこともないだろう。私はルーディーの見る目を信じておるのでな」
「陛下……ありがたき幸せに存じます」
いつも厳しいことを言っているが、フィデリオもやはり孫の活躍は嬉しいのだろうな。
私にももうすぐ孫が誕生する。
ルーディーが生まれた時には、嬉しさ以上にこれでこの国も安泰だと安堵した気持ちの方が優っていた気がする。
だが、そのルーディーが親になると思うと、やはり感慨深いものがある。
私は初めての孫を目にした時に一体何を思うのだろう。
まだ想像もつかない。
訓練を終え、マクシミリアンとヴェルナーが挨拶にやってきた。
ヴェルナーからふわりとマクシミリアンの匂いを感じる。
訓練終わりだというのに、私の元にくるからわざわざマーキングしてきたのか。
マクシミリアンもルーディーとさして変わらぬ狭量さなのだな。
まぁ、それも愛しいパートナーを思えばこそか。
「――――というわけで、ルーディーさまより正式に騎士団団長の命を受けましたことをご報告に参りました」
「ああ。ルーディーが其方を選んだのであれば、私には何もいうことはない。これから我が王国のために頑張ってくれ」
「はい。全力を尽くします。そして、こちらのヴェルナーには引き続き副団長として、私に補佐をしていただくことになりましたので合わせてよろしくお願いいたします」
「ヴェルナー。アズールの専属護衛から騎士団に戻って大変なことも多かろうが、マクシミリアンと共に騎士団を頼むぞ」
「はい。お任せください」
マクシミリアンとヴェルナーならば心配することもない。
ルーディーも特別顧問として騎士団に籍を置くと言っていたし、なんの問題もない。
「ときに、ヴェルナー。アズールの様子はどうだ? 私も少し前にアズールに会ったのだが、ルーディーがあまりアズールに会わせてくれないのだよ。其方は会いに行っているか?」
専属護衛として長い間、アズールのそばについていたヴェルナーならルーディーも会わせているのではないかと思ったのだが、私がアズールの話を出した途端、空気が変わった気がした。
「陛下。そのお話にお答えする前に、アズールさまとお会いになった時のお話を伺っても宜しゅうございますか?」
「アズールと会った時の話? どうした? 何が聞きたいのだ?」
「その時はどんなお話をなさったのでしょう?」
「あの時は、なんだったか……ああ、これから妊娠、出産を頑張って乗り越えてもらうためにこれからルーディーとアズールの子たちがどうなっていくかを話したな。なんせ、二人の子はこの国と、そして、この国の貴族の中でも最も重要なヴォルフ公爵家の跡継ぎとなる子たちだからな。目標があるとアズールも頑張れるだろうと思ったのだ。だから、頑張って跡継ぎとなるべく男の子を産むのだぞと応援してきた」
そう答えると、マクシミリアンとヴェルナーは
「はぁーーーーっ」
と、それはそれは大きな溜息を吐き、フィデリオは驚愕の表情を向けて
「へ、陛下……そのようなことを、アズールさまに仰ったのですか?」
と呆れたように言ってきた。
「ああ、言ったが何か悪かったのか?」
「何か悪かったかではございません! 悪いところだらけでございますぞ!!」
「な――っ!」
突然、フィデリオが声を荒らげて訳がわからない。
「一体何が悪かったのだ?」
そういうと、ヴェルナーは真剣な表情で私を見つめながら、口を開いた。
「陛下。アズールさまのお腹にはもうすでに赤ちゃんがいらっしゃるのですよ」
「? ああ、わかっているが?」
ヴェルナーが言いたいことがちっともわからない。
一体何が言いたいのだ?
「はぁーーっ。陛下はまだお気づきでないようですが、お腹のお子さまがどちらも女のお子さまだった場合、アズールさまは先ほどの陛下のご発言をどう思われるでしょう?」
「どう、とは?」
「男のお子さまを熱望されているのに、自分は女の子しか産めなかったと責任を感じられるのではありませんか?」
「――っ!!! そ、れは……っ」
「確かにアズールさまに、将来の国王、そして将来の公爵家当主をお産みいただく必要はございます。ですが、一生懸命お腹の中で大切な命を育てていらっしゃるアズールさまにお話しする必要はございますか? たとえ女のお子さまであっても、ルーディーさまとアズールさまの大切なお子さまにかわりはないのですよ。それを男のお子さまばかりを熱望されては、アズールさまも不安になられるでしょう」
「アズールが、不安に……私のせいで……」
「今、私たちが望むべきことは性別や跡継ぎ云々ではなく、母子ともにご無事で、元気なお子さまがお生まれになることだけです。そうではございませんか?」
「その通りだ。ヴェルナー。私はなんということを……。すぐにでもアズールに謝罪を!」
「いいえ。お分かりいただければそれでよろしいのです。陛下自らが謝罪に伺われますと、アズールさまもそれはそれでご負担になることでしょう」
「だが私はどうしたら良いのだ? アズールを傷つけて何もしないわけには……」
「今はアズールさまも落ち着いておられます。ですから、ご出産まで見守って差し上げてくださいませ。そして、無事にお生まれになったらその時に、陛下のお気持ちをお伝えください」
ヴェルナーにそう言われて、私は頷くしかなかった。
私の不用意な言葉でアズールを不安にさせていたのだな……。
今は無事に子どもたちが生まれてくることを願うばかりだ。
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