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第三章
私たちの騎士(ナイト)
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応接室に移動し、アントン医師がゆっくりと口を開いた。
「アズールさまに、ご懐妊の兆候が見られます」
「な――っ、それは、まことか?」
「はい。間違い無いかと存じます」
「おおっ! なんとめでたいことだ!! なぁ、ヴォルフ公爵」
バッサバッサと大きな尻尾を揺らし、喜色満面な陛下の問いかけに、ヴォルフ公爵は頷きはするものの表情が暗い。
飛び上がりそうなほど嬉しそうな陛下とはあまりにも対照的だ。
「どうした? 嬉しく無いのか?」
「それは……嬉しいのですが……」
おそらく、ヴェルナー殿が騎士に渡していた手紙に全てが記されていたのだろう。
ご懐妊の喜ばしい知らせと共に、それを打ち消すほどの不安な内容が……。
だが、ヴォルフ公爵をこれほどまでに暗くさせる理由はなんだろう?
「何かあるのか?」
ヴォルフ公爵の様子に一気に不安な表情を見せた陛下がアントン医師に尋ねた。
「実は……アズールさまが高熱を出しておられるのです。このままだとアズールさまも、お腹のお子さまも命の危険がございます」
「な――っ!!!! 命の、危険だと……?」
「はい。今、アズールさまの全ての栄養がお腹のお子さまの成長に吸い取られているのです。高熱は、身体がその変化に対抗しようと自衛しているものだと思われます。ですが、その高熱により、アズールさまは自ら栄養を摂ることが難しく、このままでは最悪の場合……」
「何か手立てはないのか?! 其方は主治医なのだろう! どうにかしてアズールも腹の子も助けるようにはできないか?」
「ご懐妊の兆候は見られる以上、薬は使えません。今は人工的な栄養剤を投与していますが、アズールさまとお子さま、双方の栄養を補うまでは難しいのです。この危機を救うことができるとするならば、ルーディーさまにお戻りいただくより他はございません」
「あっ、もしや……先ほどヴェルナーが出て行ったのは?」
「はい。北の森にいらっしゃるルーディーさまに自らお伝えに行かれたのです。今は無事にお戻りになることを祈るほかございません」
アントン医師は説明を終えられると、すぐにアズールさまがいらっしゃる部屋に戻られた。
「アズールを助けられるのは、ルーディーしかいないというわけだな……」
「はい。そのようですね」
「ああっ! ルーディー、急いで帰ってきてくれ!!」
陛下のその悲痛な叫びは、きっとルーディーさまにも届いていることだろう。
そう願わずにはいられない。
<sideヴェルナー>
私の声が届いたのか、カイルは驚くほどのスピードで走ってくれている。
流石に途中で休憩を何度か挟みはしたが、それを打ち消すほどの威力で走ってくれている。
カイルもきっとアズールさまのことが心配でたまらないのだろう。
カイルの走りがアズールさまの命を、そしてこの国を救うことになるのかもしれない。
もう少しだ!
なんとか堪えてくれ!!
そんな願いを叶えるように快調な走りを続けるカイルのおかげで、驚くほどの早い時間で北の森までやってきた。
本来ならこの森には野獣がいるから、自分の匂いをコントロールできないカイルは森の入り口で待たせて歩いて進まなくてはいけないが、それだと時間がかかりすぎる。
出会うかどうかわからない野獣を気にするより、今は一分一秒も惜しい。
マクシミリアンがいる場所にルーディーさまもいらっしゃるはず!
「カイル! 野獣が出てきても絶対に私が守るからマクシミリアンのところまで連れて行ってくれ!」
カイルは一瞬、慄きながらも勇敢に森の中へ走り出した。
「ヒヒーン!」
鼻を鳴らし始めたカイルを見て、マクシミリアンの匂いを感じたのかと思ったら、猛スピードで森の中を走り抜ける私たちの周りを数頭の野獣が取り囲むように走っていることに気づいた。
くそっ、流石に数が多すぎる。
普段ならここまでの数で襲ってきたりはしないはずなのに。
なんとかもう少し堪えてくれたら……。
そんな願いとは裏腹に、我慢ができなくなったらしい野獣が私とカイルに襲いかかってきた。
「くそっ!」
腰に刺した剣を抜き、野獣を仕留めるしかないと思った瞬間、野獣たちの途轍もない叫び声が聞こえたと思ったら、私とカイルを取り囲んでいた野獣たちは全て地面に倒れ微動だにしていない。
そのあまりにも一瞬の出来事に、私だけでなくカイルも走るのをやめて驚いていたが、
「ヴェルナーっ!!」
と私を呼ぶ声にハッと我に返った。
「マクシミリアン!」
「ああっ、無事でよかった! 突然、北の森にヴェルナーの匂いを感じたからその匂いを頼りにここまできたんです。そうしたら野獣に襲われていたのでびっくりしましたよ。無事で本当によかった!!」
マクシミリアンに抱きしめられて、一気に安堵する。
「それで、どうしてここに?」
「あっ、そうだ! ルーディーさまは今どちらにいる? アズールさまがかなり危険な状態なんだ!」
私の言葉にマクシミリアンは驚きつつも、急いでルーディーさまの元に連れて行った。
「アズールさまに、ご懐妊の兆候が見られます」
「な――っ、それは、まことか?」
「はい。間違い無いかと存じます」
「おおっ! なんとめでたいことだ!! なぁ、ヴォルフ公爵」
バッサバッサと大きな尻尾を揺らし、喜色満面な陛下の問いかけに、ヴォルフ公爵は頷きはするものの表情が暗い。
飛び上がりそうなほど嬉しそうな陛下とはあまりにも対照的だ。
「どうした? 嬉しく無いのか?」
「それは……嬉しいのですが……」
おそらく、ヴェルナー殿が騎士に渡していた手紙に全てが記されていたのだろう。
ご懐妊の喜ばしい知らせと共に、それを打ち消すほどの不安な内容が……。
だが、ヴォルフ公爵をこれほどまでに暗くさせる理由はなんだろう?
「何かあるのか?」
ヴォルフ公爵の様子に一気に不安な表情を見せた陛下がアントン医師に尋ねた。
「実は……アズールさまが高熱を出しておられるのです。このままだとアズールさまも、お腹のお子さまも命の危険がございます」
「な――っ!!!! 命の、危険だと……?」
「はい。今、アズールさまの全ての栄養がお腹のお子さまの成長に吸い取られているのです。高熱は、身体がその変化に対抗しようと自衛しているものだと思われます。ですが、その高熱により、アズールさまは自ら栄養を摂ることが難しく、このままでは最悪の場合……」
「何か手立てはないのか?! 其方は主治医なのだろう! どうにかしてアズールも腹の子も助けるようにはできないか?」
「ご懐妊の兆候は見られる以上、薬は使えません。今は人工的な栄養剤を投与していますが、アズールさまとお子さま、双方の栄養を補うまでは難しいのです。この危機を救うことができるとするならば、ルーディーさまにお戻りいただくより他はございません」
「あっ、もしや……先ほどヴェルナーが出て行ったのは?」
「はい。北の森にいらっしゃるルーディーさまに自らお伝えに行かれたのです。今は無事にお戻りになることを祈るほかございません」
アントン医師は説明を終えられると、すぐにアズールさまがいらっしゃる部屋に戻られた。
「アズールを助けられるのは、ルーディーしかいないというわけだな……」
「はい。そのようですね」
「ああっ! ルーディー、急いで帰ってきてくれ!!」
陛下のその悲痛な叫びは、きっとルーディーさまにも届いていることだろう。
そう願わずにはいられない。
<sideヴェルナー>
私の声が届いたのか、カイルは驚くほどのスピードで走ってくれている。
流石に途中で休憩を何度か挟みはしたが、それを打ち消すほどの威力で走ってくれている。
カイルもきっとアズールさまのことが心配でたまらないのだろう。
カイルの走りがアズールさまの命を、そしてこの国を救うことになるのかもしれない。
もう少しだ!
なんとか堪えてくれ!!
そんな願いを叶えるように快調な走りを続けるカイルのおかげで、驚くほどの早い時間で北の森までやってきた。
本来ならこの森には野獣がいるから、自分の匂いをコントロールできないカイルは森の入り口で待たせて歩いて進まなくてはいけないが、それだと時間がかかりすぎる。
出会うかどうかわからない野獣を気にするより、今は一分一秒も惜しい。
マクシミリアンがいる場所にルーディーさまもいらっしゃるはず!
「カイル! 野獣が出てきても絶対に私が守るからマクシミリアンのところまで連れて行ってくれ!」
カイルは一瞬、慄きながらも勇敢に森の中へ走り出した。
「ヒヒーン!」
鼻を鳴らし始めたカイルを見て、マクシミリアンの匂いを感じたのかと思ったら、猛スピードで森の中を走り抜ける私たちの周りを数頭の野獣が取り囲むように走っていることに気づいた。
くそっ、流石に数が多すぎる。
普段ならここまでの数で襲ってきたりはしないはずなのに。
なんとかもう少し堪えてくれたら……。
そんな願いとは裏腹に、我慢ができなくなったらしい野獣が私とカイルに襲いかかってきた。
「くそっ!」
腰に刺した剣を抜き、野獣を仕留めるしかないと思った瞬間、野獣たちの途轍もない叫び声が聞こえたと思ったら、私とカイルを取り囲んでいた野獣たちは全て地面に倒れ微動だにしていない。
そのあまりにも一瞬の出来事に、私だけでなくカイルも走るのをやめて驚いていたが、
「ヴェルナーっ!!」
と私を呼ぶ声にハッと我に返った。
「マクシミリアン!」
「ああっ、無事でよかった! 突然、北の森にヴェルナーの匂いを感じたからその匂いを頼りにここまできたんです。そうしたら野獣に襲われていたのでびっくりしましたよ。無事で本当によかった!!」
マクシミリアンに抱きしめられて、一気に安堵する。
「それで、どうしてここに?」
「あっ、そうだ! ルーディーさまは今どちらにいる? アズールさまがかなり危険な状態なんだ!」
私の言葉にマクシミリアンは驚きつつも、急いでルーディーさまの元に連れて行った。
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